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大統領しのぐ米NRCの権限―原発危機管理体制の日米比較

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【現地記者に聞く】大統領しのぐ米NRCの権限―原発危機管理体制の日米比較
2011/7/11 20:23.きょうのWSJ日本版より
 米原子力規制委員会(NRC)――。放射線に対する公衆の安全確保、環境保護を使命とし、強大な権限を持つ。ウォール・ストリート・ジャーナルワシントン支局で原子力行政をカバーし、福島第1原発の事故では東京支局の取材チームにも加わったピーター・ランダース記者にNRCについて聞いた。
 NRCは、原子炉の安全・設置許可、放射性物質の保安、放射性廃棄物の管理について監督を行う。5人の委員は、大統領が上院の同意を経て任命するが、NRCは行政府、立法府から独立した機関であり、委員はいったん任命されれば、大統領の指揮系統から外れる。
 ランダース記者によると、NRCは、「原発敷地内」の事柄について絶対的な権限を持つとみなされている。例えば、福島の事故では、格納容器の圧力を下げるための「ベント」(排気)の実施をめぐる日本政府の混乱ぶりが伝わってきているが、米国の場合、ベントの判断はあくまでNRCが行い、大統領に権限は一切ないという。
 もっとも、権限の大きさは反発も呼びやすい。とりわけ、現NRC委員長のグレッグ・ヤツコ氏に対しては、「独断、他の委員に相談しない、怒りやすい」(ランダース記者)などの評価があり、NRCの内部監査報告でも、ヤツコ委員長が職員の反感を買っている状況が詳細に述べられている。
 NRCは、日本の原発事故を受けて、米国内の原発の特別検査を行い、多くの原発が自然災害に対して脆弱であることを指摘する報告をまとめている。また、ヤツコ委員長自身も、現行規定で義務付けられている非常用電源の持続時間が4時間と短いことに懸念を表明した。
 「フクシマ」の影響は欧州にも広がった。ドイツとスイスが原発の順次閉鎖を決めたほか、イタリアでは、原発建設再開の是非を問う国民投票が行われ、圧倒的多数で原発復活に「ノー」の判断が示された。
 だが、ランダース記者によると、NRCは、米国内の原発について実施した90日間の詳細調査について、近く、包括的な報告書を公表する予定だが、安全対策について一定の強化策が求められる可能性はあるものの、根本的な改革措置が提言されることにはならない見通しだ。
 オバマ政権は今年2月、ジョージア州で建設予定の原発2基について政府の融資保証を認め、米国では30年ぶりに原発建設に道を開いた。その後、福島原発の事故が起きたが、米議会では「予想に反し、安全議論の広がりはなかった」(ランダース記者)という。
 むしろ、現在、NRC関連で米議会の関心が集中しているのは、ネバダ州ユッカ山地の核処分場計画。オバマ政権は、ブッシュ政権時代に承認されたこの計画の凍結を決めているが、最終決定は、核廃棄物についても絶大な権限を持つNRCに委ねられている。
 この問題は、計画を推進する共和党と反対する民主党、という構図で対立が続き、NRC内部でも共和党系と民主党系の委員の意見が分かれた状態だ。ネバダ州は民主党のリード上院院内総務のお膝元であることも、対立に拍車をかける結果になっている。
 日本の原発監視体制については、監視機関の独立性など、問題が指摘されることが多いが、監視機関の独立性が確立している米国においても、NRC委員長に対する個人的な反発や、政治的な対立、選挙絡みの思惑などが制度の足かせになりかねない状況にある。
 米連邦控訴裁判所は今月初め、ユッカの問題に対する最終決定はNRCが行うべき、との判断を改めて示した。NRCは許認可申請の可否を3年以内に示す必要がある。ユッカ計画に関する申請が行われたのは2008年9月だ。強大な権限を与えられたNRCは、政治的な思惑が絡むこの問題でどのような判断を示すことになるのか。期限はすぐそこまで迫っている。


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