ある外交官の予言と鳩山氏の呪縛
産経新聞2013.4.20 12:00[名言か迷言か]
1日違いではあるが、2月23日と24日は日米関係において、いずれも節目になった日だ。第2次安倍内閣発足後初の日米首脳会談が米ワシントンで行われたのは今年の2月24日だった。
「日米同盟の方向性について完全に一致できた。日米同盟の信頼、強い絆は完全に復活した」
安倍晋三首相は会談後の共同記者会見でこう宣言した。首相が「復活」と語ったとき、脳裏にあったのは民主党政権時代の混迷であったに違いない。平成21年9月に政権を奪取した当時の鳩山由紀夫首相は米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県外移設を目指し、迷走し、日米間の信頼を傷つけ、そして周辺諸国からの侮りを招いた。
安倍首相はオバマ米大統領と普天間の早期移設で一致し、1カ月後には名護市辺野古への移設に向けた沖縄県への埋め立て承認申請に踏み切った。とはいえ、普天間問題が決着する見通しが立ったわけではない。沖縄県の仲井真弘多知事は辺野古移設に反対姿勢を崩していない。日米両政府が今月発表した共同文書では、普天間の返還時期を「2022年度またはその後」と記した。普天間の返還時期が先延ばしされたのはこれで2度目だ。普天間移設に道筋を付けるため、首相が歩む道は決して平坦ではない。
もう1つの節目である2月23日も普天間問題が関係する。ただし17年前の話だ。米サンタモニカで当時の首相、橋本龍太郎も初めての日米首脳会談に臨んでいた。前年に発生した米兵による少女暴行事件をきっかけとして、沖縄県では反基地感情が煮えたぎっていた。太田昌秀沖縄県知事の要求は普天間返還だった。宜野湾市の4分の1を占める普天間飛行場の移設は沖縄県の悲願だったが、外務省と防衛庁は日米首脳会談で普天間を取り上げることに反対していた。
「総理の口から具体名を大統領に言われてしまうと、日本国内の期待感を非常に高めることになるでしょう。総理が言われたことが仮に実現しないとまた困ったことになるのではないでしょうか」
外務省北米局長の職にあった折田正樹元駐英大使は『外交証言録 湾岸戦争・普天間問題・イラク戦争』(岩波書店)の中で、橋本にこう進言したことを明かしている。橋本は迷いに迷い、米国に向かう機中でも「いろいろ考えているがやっぱり言わないほうがいいかな」とつぶやいたという。橋本自身も『橋本龍太郎外交回顧録』(同)で「あのときは本当に迷いながら会場に入りました」と振り返っている。
橋本の背中を押したのは、クリントン大統領だった。「橋本、本当にそれだけか。もっとあるんじゃないのか。初めての会談だから、ある問題がもし残っているのなら、遠慮しないで出せよ」と促すと、橋本はついに口火を切った。
「現地から出ている問題、それは普天間基地の返還という問題がある。あなたがそれを聞いてくれたから、私はここでテーブルに載せる」
折田氏はこの直後、米政府高官に「橋本総理が口に出したということは大変な決意の上で、これは返せということだ、だからアメリカはそう思って対応してくれなければ困る」と迫っている。
橋本による一世一代の賭けは吉と出た。日米両政府はこの年の4月、普天間飛行場の全面返還で合意した。返還時期は8年から数えて「5年から7年以内」。つまり、遅くとも15年には返還されるはずだった。しかし、15年からすでに10年が経過している。今のところ、沖縄の理解が得られる見通しは立っていない。
折田氏が橋本に行った進言は、予言として不気味な影を投げかけている。民主党政権が県外移設を唱えたことで「日本国内の期待感を非常に高める」結果となり、「総理が言われたことが仮に実現しないとまた困ったこと」になった。県内移設を容認していた仲井真氏は姿勢を転換し、県外移設を求め続けている。
鳩山氏の軽挙妄動は呪縛となり、普天間問題に重くのしかかっている。仲井真氏にとって、再び県内移設を容認するためには幾重にも立ちふさがる壁を乗り越えなければならないだろう。しかし、住宅街に取り囲まれ、「世界一危険な基地」とも呼ばれる普天間が移設されるかどうかは、仲井真氏の決断にかかっている。そして、安倍首相の熱意にもかかっている。
普天間返還が合意に至った17年前の夜、橋本はモンデール駐日大使と行った記者会見でこう述べた。
「合意を実現させるためには、国と沖縄県が共同で努力をしなければいけない」(杉本康士)
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〈来栖の独白 2013/4/20 Sat. 〉
日米同盟というが、日本のプレゼンスは随分と低い、と佐藤優氏は言う。国際社会における日本の位置、姿、ありようが、為政者にも国民にも見えていない。認識されていない。
北朝鮮が世にも貧しい暮らしを国民に強いながら核開発をし、「核保有国として認めてくれ」と躍起になっている。この様を日本国民は嘲笑するが、核の保有国であるか否かが外交上どれほどの意味を持つのか、日本国民は無関心である。同盟国アメリカは無論のこと、国際社会で日本のプレゼンスが低いのは、核を保有していないからだ。日本国民にはその程度の(最低限の)認識すらない。そして今、原子力発電まで、やめようと云う。
絶対平和幻想にとりつかれ、真っ当な国家観すらなくしてしまった。国民・領土・領海を国が守ろうとすれば(国家として当たり前のことをしようとすれば)、それを「右翼だ」と揶揄する。絶対平和幻想、平和ボケも、ここまで来た。左巻きは、日本が「平和憲法ゆえに世界から尊敬されている」と悦に入っているが、国民を護ろうとせず北朝鮮の拉致するに任せたこの国を、国際社会は嘲笑はしても決して尊敬していない。これが現実であり、正常な国家観だ。
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◆ 「インテリジェンス 闇に消える内調加賀美正人参事官自殺/米国における日本のプレゼンスの低さ」佐藤優 2013-04-17 | 政治
情報界震撼、闇に消える内閣情報調査室幹部自殺
マスコミが報じない米国における日本のプレゼンスの低さ〜佐藤優氏
2013.04.12(金) JBpress 「マット安川のずばり勝負」2013年4月5日放送
マット安川 ゲストに元外務官・佐藤優さんを迎え、北方領土をめぐる対ロシア外交の現状をはじめ、インテリジェンスの問題や日米関係の懸念点などを幅広く解説していただきました。
*北方領土交渉の流れに変化、12年前に戻る
佐藤 今年2月、森(喜朗、元首相)さんがモスクワを訪問したのは、安倍(晋三、首相)さんの訪露を準備するという意味では非常によかったと思います。
プーチン(ロシア大統領)さんは昨年から北方領土問題について「引き分け」などと言っていましたが、それがどういう意味なのかよく分からなかった。それが、日露双方が受け入れ可能な形を考えようということだと分かりました。ロシアとしては、何も条件をつけないで話し合いをするのであれば、何らかの妥協はしましょうと。
ただし具体的なものはありません。ですから、この4月の終わりに安倍さんが訪露を予定していますが、その時は、1年以内くらいを目処に動かしていきましょうというような合意しかできないと思います。
双方の外務省が1年以内に十分な準備を行って何らかの合意ができれば、来年プーチンさんが来日する時に北方領土問題は動きます。逆に、合意できなければ、プーチンさんは来日しない。そういう意味では日本の外務省の責任はこれから非常に重くなります。
北方領土問題は、2001年に当時の森総理大臣とプーチン大統領が署名したイルクーツク声明をベースに交渉すれば、再び動き出す可能性があります。要するに、12年前に鈴木宗男さんが森さんと一緒にやろうとしていた路線に戻るということです。
ただ12年経って、日本はその時よりも弱くなり、ロシアは強くなった。この状況でどういう妥協ができるのか、非常に難しい交渉になると思います。
私としてはちょっと愚痴をこぼしたくなるのは、鈴木さんと私はあの時、国賊だと言われて捕まったわけです。ところが、いま政府がやっているのはあの時の路線です。それならなぜ捕まったのかと。
まあちょっと早すぎたのか、もしくは12年経ってみんなが理解してくれたと思えば、それほど腹も立ちませんが。いずれにしろ、北方領土交渉の流れが変わってきたということです。
*内調幹部の自殺で、日本のインテリジェンス業界に震撼
いま日本のインテリジェンス業界を震えあがらせていることが起きています。この4月1日、東京都内のマンションの1室で、内閣情報調査室の幹部が自殺したんです。
この人は外務省から出向していて、米軍の学校でロシア語を勉強して、そのあとモスクワにも勤務している。さらに外務省の国際情報統括官組織の課長級の幹部でした。
こういう世界の人が自殺するというのはたいへんな話です。精神的にものすごく強い人が配置されるわけですからね。自殺は間違いないようで、何か追い込まれるような状態になったんでしょう。
しかし、この問題が闇に葬り去られようとしています。外務省も内閣情報調査室も、本人の名前すら明らかにしていません。
ただ、鈴木宗男さんのホームページを見ると名前が出ています。実はこの人は、かつて鈴木さんがやっていた北方領土交渉に反対して、やめさせようとしていた外務省の幹部なんです。
*NSCとインテリジェンスとは役割が違う
現在、日本版NSC(国家安全保障会議)創設の議論がなされていますが、NSCとインテリジェンスは別ものであることがあまり理解されていません。NSCをつくって、ここで情報を集めるんだと勘違いしている。
NSCは何をするところかというと、戦争をするかしないかを決めるところです。高度な政治決断を行うところであって、情報を集めてくるのは別の部局がやらなければいけない。このへんのポイントを理解せずにNSCの議論をしている感じがします。
また、総合商社などによるビジネスのインテリジェンスと、国家安全保障のインテリジェンスも違うものです。
国家安全保障では、時には経済的にマイナスになってもやらなければいけないこともある。乱暴なことを言うと、自国の国益に有害な人には死んでもらうこともあるわけです。
ビジネスではそういうところまではやらない。そこまで踏み込まないといけないのが、インテリジェンスの真実の姿なんです。
では、日本はどう対応すればいいのか。インテリジェンスをどうやって育成するのか。それは政府機関でやるしかありません。我われは陸軍中野学校などの伝統を持っていますから、そのへんを復活させればいい。
ただ、現代的な民主的な統制の下でのインテリジェンスをどういうふうにやるかはなかなか難しい課題です。
本当に秘密裡に処理しなければいけないことは、そのためにおカネもつけないといけない。おカネというのは、民主主義国家においては透明にしなければいけませんから、その中で完全な機密費をどうやってつくるかというのはけっこうたいへんな話です。
*安倍首相の訪米で露呈した日本のプレゼンスの低さ
2月の安倍さんの訪米は、日本では成功だと言われています。ところが、東郷和彦(京都産業大学教授)さんという私の前の上司に聞いた話では、まったく違います。
東郷さんは先日アメリカに行ってこられたんですが、アメリカにおける日本のプレゼンスがほとんどないというんです。例えば、安倍さんの訪米について、ワシントン・ポストは8面に掲載していたという。それはアフリカの国のトップが訪米した時のような扱いと同じです。
また、中国軍のレーダー照射事件について、アメリカのエリート層の多くが、日本のでっち上げだと思っているというんです。
中国はものすごくプロパガンダをやりましたから、事情をあまり詳しく知らないアメリカ人は政治家も含めて、日本のでっち上げだと見ていると。そういうことが日本には伝えられていません。
これから日米関係を強化していかなければならないわけですが、いまアメリカで一番注目すべきことは「シェール革命」です。シェール層にある天然ガスや石油を採ることで、アメリカは2030年代くらいにはエネルギーの輸出国になります。
その時にアメリカがどういう戦略を取るのか。再びパックス・アメリカーナということで、アメリカの影響力を世界中に広める方向でいくのか。それとも、世界から嫌われて面倒くさいから、例えば中東などから手を引くのか。
これまではエネルギーが必要だから中東から手を引けなかったけれど、自分のエネルギーを持てば手を引くこともできます。
アジア地域についても、金持ちケンカせずということで、中国と住み分ける可能性が高い。
すると日中の争いは勝手にやってくれ、我われは知らないよということになりかねません。すでにそういう感じに少しなっています。日米関係も、アメリカのエネルギーがどうなるかで大きく変わってくると私は見ています。
*佐藤 優(さとう・まさる)氏
元外交官、文筆家。インテリジェンスの専門家として知られる。第38回大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した『自壊する帝国』の他、『獄中記』『国家の罠−外務省のラスプーチンと呼ばれて』『3.11 クライシス!』『世界インテリジェンス事件史』など著書多数。
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◆ 核武装論のすすめ / 池田勇人首相(=昭和30年代)「やはり日本も、核を持たなくては駄目だね」 2013-03-25 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
核武装論のすすめ
産経新聞2013.3.23 12:00[名言か迷言か]
首相は酔っていたのかもしれない。宴席で口を滑らせるのは誰にでもあることだ。それでも、現役首相のその一言は穏やかでなかった。
「中曽根君、やはり日本も、核を持たなくては駄目だね」
当時首相だった池田勇人は自民党総務会の宴会で、後に首相となる中曽根康弘氏にこうつぶやいた。昭和30年代後半なので、まだ核拡散防止条約(NPT)がなかった時代の話だ。中曽根氏は『中曽根康弘が語る戦後日本外交』(新潮社)の中で「私は驚いたね。岸(信介)の安保に対抗して、経済オンリーを主唱し低姿勢でやってきた池田だったから、腹の中ではそう考えていたとは意外だった」と語っている。
中曽根氏は池田発言を評価した。「日本もある程度、そういう実力を持たないと前途に不安な点がある、いつまでも外国に頼っているのはよくない」と当時の心境を振り返っている。しかし、その後核をめぐる認識は徐々に変化する。佐藤栄作内閣時代に非核三原則を具申したのは中曽根氏だったし、日本のあるべき姿として「非核中級国家」を唱えたのも中曽根氏だった。
ここで留意しなければいけないのは、実際に核武装することと、核武装を検討することは、次元が異なるという点だ。事実、中曽根氏は防衛庁長官時代、日本の核武装の可能性について研究を指示している。
「核を断固持つという強い意思でもなく、逆に核武装の能力もない小国ではない。持てるけれども自ら持たんという姿勢を、国内外に示すのが得策である」
日本が潜在的な核保有国であることにより、拡大核抑止力を提供する米国の意思を確固たるものとし、ソ連や中国などは日本に脅威を与えることを躊躇する−。中曽根氏の言外には、こうした狙いがにじむ。
つい最近、この中曽根氏の教えを忠実に実行したかのような発言をした政治家がいる。とはいっても日本人ではない。韓国の李明博前大統領だ。李氏は退任直前の2月15日、東亜日報のインタビューで韓国の核武装論について、こう語ったという。
「愛国的な考えという点で高く評価し、そうした発言が北朝鮮や中国に対する警告にもなるので間違っているとは思わない。われわれの社会にそう考える者もいなければならない」
もちろん、李氏は自身の考えとして「国際協調を通じた核放棄が最終目的なので政府が核保有を語るのは時期尚早でよくない」と断っている。とはいえ、現職の大統領が核武装論を慫慂した事実は重い。韓国が実際に核武装する能力があるかどうかは別として、李氏が中曽根氏の近いところにいるのは確かだ。
翻って日本はどうか。首相や閣僚はおろか、自民党内からもなかなか核武装論は聞こえてこない。日本維新の会の石原慎太郎共同代表は政界随一の核武装論者といってよいが、2月12日の衆院予算委員会で質問に立ったにもかかわらず、日本の核武装を求めることはなかった。むしろ、非核攻撃ミサイル(CSM)の導入を政府に求め、「核の保有と違って顰蹙をかわない」などと大人げある発言までしている。
日本で核武装に言及することは危険な行為だ。言葉狩りの餌食となり、発言撤回を余儀なくされた政治家は枚挙にいとまがない。国内世論の反核アレルギーを考えれば核武装論に現実味はない。実際に核兵器を保有すれば、日米同盟が危殆に瀕する恐れがあるし、周辺諸国の軍拡を招来することは確実だ。その意味で、現実の政策として核武装は愚かですらある。
だが、「核を廃絶すれば世界が平和になる」式のハッピーな議論がまかり通り、核保有を検討することすら憚られるような雰囲気は、日本の国益に資するのか。中曽根氏の回想は、警句として静かに響いている。(杉本康士)
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核保有と「日本のプレゼンスの低さ」
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