PC遠隔操作事件、裁判官の能力は十分か
WEB RONZA 河合幹雄 2013年04月19日
大きく報道されたパソコン遠隔操作事件は、被疑者が逮捕され、一部の事件は起訴に至っているが、一件落着にはほど遠い。それは、全ての事件が解明されていないという意味ではない。判決が悩ましいと予想されるからである。
誤認逮捕があったため、警察の捜査力と取調べの問題点がクローズアップされた。自白に頼りきりの捜査、裏づけ捜査の不十分さなど、確かに、従来から批判されてきた欠点がさらけ出され、これはこれで大きな問題である。片山被疑者が、無罪を主張していることもあり、引き続き、警察の動きに焦点を当てがちであるが、別のところにより重大な問題があることを指摘しておきたい。
一般論として、冤罪事件が発生すれば、警察と検察が批判されることが多いのだが、他稿で繰り返し指摘してきたように、冤罪の第一の責任者はあくまで裁判官である。裁判官が、有罪に疑念を抱きつつも思い切って無罪判決が出しにくかった状況は、改善の兆しを見せている。しかし、裁判官が精密すぎる事実認定を求めるがゆえに、警察と検察が「無理」をして、最悪、証拠捏造にまで至る、そこまでいかなくても検察側にとって不利な証拠を隠すという悪弊は是正されるのか。この問題解決は悩ましい。無罪を出して冤罪さえ防げばよいとはいかないとすれば、この完璧主義の問題が是正されるということは、ある程度の証拠でもって有罪にするということである。その線引きをしっかりしなければならない。当然のことなのだが、これが、PC遠隔操作に絡むとなると悩ましい問題が発生する。
PC遠隔操作をするためのソフトの能力上、発信者が誰であるか、解明が極めて困難になっている。インターネット上の「自由」と言えば聞こえが良いが、匿名性の高さは、恐ろしいほどに堅持されている。それが、アメリカ政府の方針であり、言論の自由が制限されている国での民主運動を支えるためなのかどうかはともかくとして、この状況は当分変わらないと覚悟すべきであろう。このように遠隔操作された側から辿れず、被疑者のPCが完全に破壊されていれば、証拠はどこにあるのか。新聞報道によれば、遠隔操作されたPCからウイルスは復元できなったが、そのPCが接続した痕跡がある米国内のサーバーに同種のウイルスがあり、それは片山被疑者の勤務先のPCで作られたことを示す情報があるという。これで十分とするのかどうかである。
さらに問題になるのは、FBIが見つけてくれたというサーバー内にあったとされるデジタルの痕跡は、コピーして持ってくるのであろうか。その際に、なんとでも書きかえられはしないのか。デジタル痕跡の証拠をどうやって保全し証拠とできるのか。デジタルフォレンジック(鑑識)の問題も明確に解決されていない。
誤解を生むといけないので一言断って置こう。匿名性を確保できるソフトがあるからといって・・・・・続きを読む
河合幹雄(かわい・みきお)
桐蔭横浜大法学部教授。1960年、奈良県生まれ。京都大大学院法学研究科で法社会学専攻、博士後期課程認定修了。京都大法学部助手をへて桐蔭横浜大へ。法務省矯正局における「矯正処遇に関する政策研究会」委員、警察大学校嘱託教官(特別捜査幹部研修教官)。著書に『安全神話崩壊のパラドックス 治安の法社会学』『日本の殺人』『終身刑の死角』。
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