【産経新聞「国民の憲法」要綱】東アジア情勢・緊急事態に対処 田久保忠衛・起草委員長
産経新聞2013.4.26 09:07
結局、誰かが言わなければならないことを産経新聞が思い切って言ったということだろう。所定の手続きを経たとはいえ、連合国軍総司令部(GHQ)が占領下の日本を制御するためにつくった憲法を何と66年もの長きにわたって続けてきてしまった揚げ句、領土問題をめぐって発火するかもしれない事態に適正に対処できるのか。どこの国でも憲法で規定している緊急事態条項がないから、東日本大震災とこれに伴う原発事故が発生したというのに、最高指導者が東京電力に駆けつけてあたりをどなり散らす大醜態を世界に曝(さら)け出したのではないか。今の憲法が原因といえる綻(ほころ)びは数え上げたらきりがない。
私は肌に粟(あわ)を生じる思いでこの国が置かれた国際環境を見守っている。中国は中国公船を8隻これ見よがしに日本の領海に入れた。今回に限ったことではないが、軍事力を背景に一定の政治的目的を達成しようとする「砲艦外交」がいまの世界で、われわれの目前で展開されているのだ。北朝鮮は核とミサイル実験を繰り返し、日本の国名を挙げて攻撃目標にすると公言しているではないか。
われわれの命綱は日米同盟だ。が、その米国も第2次オバマ政権では米中間に和解への動きが進んでいるように見受けられる。一連の動向は戦後の日本が呑気に暮らしてきた態度に反省を迫る初めての赤信号と思う。
現行憲法の最大の欠陥は、日本がどのような国柄なのか香りすら完全に消してしまったことだ。産経新聞「国民の憲法」要綱の前文にあるように、日本人は天皇を国民統合のよりどころとし、「異文化との協和によって固有の伝統文化を生み出してきた」のである。例外はあるが、皇室を尊び、権威と権力を分けてきた叡智(えいち)は世界に胸を張っていいのではないか。だから憲法で立憲君主国と明言し、国の目標として独立自存の道義国家を掲げた。
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これまで、何回か憲法改正の機会はあったが、手を着ける政治家はいなかった。もう国内だけに通用する「保守かリベラルか」などの次元で判断してはいけない。国家が存在せず、いつ襲ってくるか分からない大規模な自然災害に無防備で、外国からは「一国平和主義」と嗤われてきた憲法を続けるのは戦争を呼び込み、災害対策放棄を意味する。日本の平和を望めば望むほど新憲法が必要となる。新しい日本の時代だ。
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本紙「国民の憲法」要綱 戦後体制との決別を急げ
産経新聞2013.4.26 05:01[主張]
憲法をようやく日本人の手に取り戻せる。自らの力で立ち、国の命運を決し、切り開いていく。この当たり前のことが、本紙の「国民の憲法」要綱の意味である。
まず現行憲法を正視しよう。国家と国民の主権が認められていない連合国軍総司令部(GHQ)の占領期に制定された「占領憲法」であり、日本の無力化も企図されていた。主権回復から61年を迎えるのに、その憲法を不磨の大典のごとくに崇(あが)め、手を加えようとしていない。
制定以来、改正が行われていない憲法としては世界でも最古であり、現実との乖離(かいり)は広がる一方だ。自らの安全と生存を「平和を愛する諸国民」に委ねるとの前文が、それを象徴する。
本紙が「国民の憲法」起草委員会を立ち上げたのも、憲法を根幹から見直さない限り国は衰弱するとの危機感による。要綱作りでは変えてはならないものと、現実に即して変えていくものとを見極めた。
前者の中心は天皇であり、立憲君主国や元首の明記は、日本の本来の国柄を明確にするものだ。国民主権、平和主義、基本的人権の尊重なども踏襲した。
変えねばならないものは、いま目の前で起きている数々の国難を見れば明らかだ。「国家機能の不全」が次々と危機を招いている。その最たるものが尖閣諸島に侵略の歩を公然と進める中国である。
驚くべきは、日本の抑止力がないも同然なことだ。日本領海内で無害でない行為を行う中国公船に対し、国連海洋法条約は取り締まりを認めているにもかかわらず、必要な措置を取ろうとしていない。
「退去要請」しかできない理由は、強制措置が警察権を超え、軍事力の行使になるためだ。
憲法9条は軍の保持を禁じ、政府解釈は自衛権の行使も「必要最小限度の防衛のため」としている。領海内での不法行為を排除する軍事力の行使は国際常識なのだが、日本は憲法上認められないとの立場だ。
周辺国は、この「思考停止」を熟知し、つけ込んでくる。日本固有の領土である竹島と北方領土を、それぞれ不法占拠している韓国とロシアにもあてはまる。
国民の憲法要綱は「軍の保持」と「領土」保全を明記しており、抑止力は強まる。挑発や不法行為の芽も摘むことができよう。
軍はまた、憲法第9条1項の「侵略戦争はしない」との趣旨を引き継ぎ、国際社会の平和と安定に協力する。受け身ではなく、真の「平和の守り手」として、「独立自存の道義国家」を世界に示していく。
戦後の日本は、「経済重視・軽武装」路線を突き進んだ。結果として米国への過度の依存心や甘えが生じた。さらには個人重視の風潮がはびこった。権利を重視するあまり、国家や地域のために尽くす義務を疎(おろそ)かにしてきた戦後民主主義の残滓はなお色濃い。こうした戦後体制との決別を要綱は強く求めている。
国を守る義務を負うとの精神規定も権利偏重を見直す延長線上にあり、国家を「国民の共同体」とみる基盤を広げる意味を持つ。
今夏の参院選では、憲法改正の発議要件を衆参両院の「3分の2」から「2分の1以上」に緩和する憲法96条改正が争点になる。国民投票が実施され、一人一人が判断を求められるときもそう遠くない。
この要綱は、全国民が憲法に向き合い、いかに是正するかを考える羅針盤である。明日以降も要綱の個別課題を取り上げ、憲法論議を深める契機としたい。
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「国民の憲法」考 拓殖大学総長・渡辺利夫
産経新聞2013.4.26 05:01[正論]
*国民共同体の凝集力を蘇らせよ
日本は四方を海で囲まれた「海洋の共同体」である。おおむね、同一の国土の中で同種の人々が、孤立言語である日本語を用いながら生を紡いできた。宗教上の争いが日本に深刻な亀裂を生じさせることもなかった。第二次大戦直後の一時期を別にすれば、他国の占領下におかれたことはない。
《自成的な海洋国の同質社会》
古代律令国家の時代にあっては国家形成のために中国から多くを学んだものの、10世紀初頭に唐王朝が滅亡して以来、大陸からの影響力は急速に失(う)せ、日本独自の国家秩序が形づくられていった。7世紀に、天皇という特有の称号と固有の年号が設定され、国名を改めて「日本」として以来、1300年の連綿たる歴史が営まれてきた。世界史上に類例をもたない「同質社会」が日本である。
中国史は日本史とは際立って対照的である。徳を失った皇帝は新たに天命を授かった支配者によって命を革(あらた)められ(革命)、皇帝の姓もまた易(あらた)められる(易姓)という王朝の反復転変の歴史であった。北方の遊牧民族や騎馬民族による征服王朝がしばしば出現し、多様な民族の混淆(こんこう)する「異質社会」が中国である。人類学用語でいえば同質社会日本の発展が「自成的」である一方、異質社会中国の発展は「他成的」であった。
異民族の征服や反乱、権力内部の大逆や謀反に彩られた中国史に比べれば、日本ははるかに平穏な歴史を織り成してきた。同質的で自成的な日本人の体質がそうさせたのであろう。冒頭、日本を「海洋の共同体」だと言ったのも、そういう歴史感覚のゆえである。
しかし、ものにはすべて両面がある。同質的な日本人社会には、対外的な危機意識が育たず、国家観念を希薄化させたままで打ち過ごしてきた。18世紀、血生臭い抗争を繰り返してきた欧州の各国が、市民革命を経て近代国家を成立させ、産業革命を通じて国力と軍事力を格段に強化し、市場と領土を求めてアジアへと進出してきた。平和を享受する鎖国下の江戸時代の日本は軍事技術の発達に関心を寄せることがなかった。
《王政復古で開国、富国強兵》
英国が圧倒的な軍事力で清国を屈服させて香港島を奪取したアヘン戦争の情報に接し、日本の指導者は強烈な衝撃を受けた。それから10年後に米国の黒船が来航、開港を余儀なくされ、米英仏蘭露との間で関税自主権がもてず治外法権をも許す屈辱的な不平等条約を結ばされるはめになった。
しかし、広大なアジアがほぼすっぽり欧米列強の隷属下におかれる中で、日本が独立を守りえたことは特記されねばならない。同質的で自成的な日本はひとたび急迫の事態に直面するや、これに抗する力を一気に凝集する高い政治的能力をみせつけたのである。開国に対する日本人の反応が尊皇攘夷であったが、この運動は一瞬の花火のごときものであった。長州藩が英米仏蘭連合軍の火力に圧倒され、薩摩藩が薩英戦争で脆(もろ)くも敗北するや瞬く間に攘夷論は開国論へと転じ、富国強兵の緊急性を薩長に悟らせ、これが王政復古の明治維新へとつながっていった。
王政復古は固陋(ころう)なアンシャンレジーム(旧体制)への回帰ではない。江戸開城と同時に新国家建設の大方針を五箇条の御誓文として発布、後の近代的立憲国家創造の礎とした。第5条「智識ヲ世界ニ求メ大(おおい)ニ皇基ヲ振起スベシ」である。鎖国、攘夷からのこの反転こそが日本の真骨頂であろう。
明治は「独立不羈(ふき)」の時代であった。日清・日露戦役勝利、大日本帝国憲法制定、帝国議会召集など近代主権国家としての力量をいかんなく発揮した。これらは同質的な日本人社会のもつ強い政治的凝集力ゆえであったに違いない。大正期に入れば普通選挙法を成立させ、民主主義的法制度の整備を急遽進めた。この輝かしき同質社会の伝統を眺めるにつけ、何とも腑に落ちないのが第二次大戦敗北後の日本人である。
《腑に落ちぬGHQ憲法護持》
憲法とはコンスティチューション、つまりは国家の体質であり国体である。憲法すなわち国体が連合国軍総司令部(GHQ)によって押し付けられたのである。
腑に落ちないといったのは、サンフランシスコ講和条約で日本が独立国家となったにもかかわらず、当の日本人自身が「GHQ憲法」を、後生大事に守護し「不磨の大典」のごときものとしてしまったことである。黒く塗りつぶされた戦前史を受け入れて恬然(てんぜん)たる者が戦後の日本人である。護憲を叫んできた左翼やリベラル派に責めを負わせてすむ話ではない。彼らを生み育てたのも日本人ではないのか。
日本人が忠誠を尽くして守るべき誇らしき文化的伝統をもつ国家が日本であることを憲法に明記せよ。日本がこの大いなる国民共同体としての国家の凝集力を再生させねば、膨張する大陸国家とは対峙(たいじ)することも、共存することさえかなわないのではないか。(わたなべ としお)
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本紙「国民の憲法」要綱を発表 「独立自存の道義国家」
産経新聞2013.4.26 05:00
産経新聞は創刊80周年と「正論」40周年の記念事業として進めてきた「国民の憲法」要綱をまとめ26日、発表した。わが国にふさわしい「新憲法」として国柄を明記、前文で国づくりの目標を「独立自存の道義国家」と掲げた。平和を維持する国防の軍保持や「国を守る義務」、緊急事態条項を新たに設けた。「国難」に対応できない現行憲法の致命的欠陥を踏まえ「国民の憲法」要綱は危機に対処でき「国家の羅針盤」となるよう目指した。
■12章117条、「天皇は元首」「軍を保持」明記
「国民の憲法」要綱は昨年3月からの起草委員会の27回に及ぶ議論を経てまとめた。国家や憲法とは何かなどから議論は始まり、現行憲法の不備を正しつつ堅持すべき事柄も精査した。
「国民の憲法」要綱は、前文のあと、「天皇」「国の構成」「国防」と続き、12章117条で構成する。
まず、わが国が天皇を戴(いただ)く立憲君主国という国柄を第1条で定めた。現在の「国民統合の象徴」に加えて天皇は「国の永続性の象徴」でもあるとした。たびたび議論があった天皇の法的地位も国の代表者である「元首」と明記。皇位も「皇統に属する男系の子孫」が継承するとした。
前文ではわが国の文化、文明の独自性や国際協調を通じて重要な役割を果たす覚悟などを盛り込んだ。連合国軍総司令部(GHQ)の「押しつけ」とされる現行憲法で、特に前文は「翻訳調の悪文」「非現実的な内容」「日本の国柄を反映していない」といった批判があった。憲法は国民に大局的指針を示す格調ある法典でもあるべきだとして、全面的に見直した。
「国民」「領土」「主権」や国旗・国歌について第二章「国の構成」で新たに規定した。国民主権を堅持し、国家に主権があることも明確にした。主権や独立などが脅かされた場合の国の責務も明らかにした。
現行憲法で「戦争の放棄」だった章は第三章「国防」と改めた。国際平和を希求し、紛争の平和的解決に努めつつも、独立や安全確保、国民の保護と国際平和に積極貢献できるよう軍保持を明記。国家の緊急事態条項では、不測の事態下での私権制限が可能とした。
国民の権利、義務の章では、家族の尊重規定や国を守る義務を新設。権利と義務の均衡を図りつつ環境権や人格権など新しい権利を積極的に取り入れた。
国会では参議院を「特色ある良識の府」にすべく諸改革を提言。内閣では首相の指導力を強化するよう条文を見直した。憲法判断が迅速化するよう最高裁判所への専門部署の設置を提言したほか、地方自治の章では、地域に主権があるかのような主張を否定した。
要綱の提言を通じ本紙は国民の憲法改正への論議が豊かで実りあるものとなるよう期待している。
■独立自存 他の力に頼ることなく、自らの力で生存を確保することをいう。哲学者、西田幾多郎も著書「善の研究」で独立自存の重要性を説いている。
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「国民の憲法」要綱全文と解説 -2013年4月26日付産経新聞- [PDF]
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起草委員会の顔ぶれ
委員長
・田久保忠衛(たくぼ・ただえ)杏林大学名誉教授
委員
・佐瀬昌盛(させ・まさもり) 防衛大学校名誉教授
・西修(にし・おさむ) 駒沢大学名誉教授
・大原康男(おおはら・やすお)国学院大学大学院客員教授
・百地章(ももち・あきら) 日本大学教授
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憲法改正の首相答弁要旨(23日)
産経新聞2013.4.23 21:16
【参院選での争点化】
昨年の衆院選のわが党の公約に96条改正が入っている。当然、この7月の参院選でも、われわれは堂々と96条の改正を掲げて戦うべきだ。私は自民党総裁としてそう考えている。
わが国は憲法を制定して以来60数年にわたって全く手をつけていない。諸外国は何回も憲法を改正している。同じ敗戦国でもドイツは50回以上改正しているが、日本はなかなかできなかった。自民党も綱領に掲げながら、チャレンジをずっと見送ってきた。
96条改正が国民の手に憲法を取り戻すことにつながっていく。自民党総裁としてぜひ、96条改正にチャレンジしていきたい。
【憲法改正の意義】
戦後の占領時代に事実上、占領軍の手によって憲法と教育基本法が作り上げられた。日本が真の独立を取り戻す上では、私たち自身でしっかりと自分たちの基本的な枠組みを作り直していく必要がある。
【憲法前文の認識】
『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』とあるが、自分たちの国民の安全や命を他国の善意に委ねてよいか。このこと自体を疑問に思わないほうがおかしい。
【96条への疑問】
衆参両院で3分の2(の賛成)がなければ発議そのものができない。その後の国民投票で過半数を得なければ、憲法改正はできない。たとえば、60%、70%の国民が改正したいと考えていたとしても、3分の1をちょっと超える国会議員が「ダメだよ」と言ったらできない。おかしい。
【国民投票法】
国民投票法が成立した際、「3つの宿題を3年間で解決せよ」と決めた。(1)有権者を18歳とするのであれば、他の選挙権や民法上の権利・義務と整合性をせよ(2)公務員の公益性をどうするか(3)国民投票は何を対象に考えるのか。憲法改正だけに限るのか−だ。
当時、自民党は(宿題を)やろうとしたが民主党が全くやらず、ボイコットしたのが現実だ。国民投票法はできたが、宿題は埋まっていない。しっかりと議論していただきたい。
⇒ : 現行憲法と「国民の憲法」前文の比較/「諸国民の公正と信義に信頼」するだけでは国民を守れなかった事実 2013-04-26 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
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◆ 【欠陥憲法 新しい国づくりへ】(5)平和主義条項 柔軟な改正、世界の潮流 2012-05-07 | 政治
◆【欠陥憲法】(4)家族・教育 「個人」「権利」偏重で荒廃 / 「私には夢があります」 2012-05-07 | 政治/憲法
◆【欠陥憲法】(3)不明確な国籍条項 外国人に参政権を付与できるのか 2012-05-02 |
◆【欠陥憲法】(2)国民の平安祈る存在明記を 天皇をめぐって憲法の規定 2012-05-02
◆【欠陥憲法】(1)戦車にウインカー 「軍隊否定」の象徴 2012-04-30 |
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【国民の憲法】考 ・・・ もう、国内だけに通用する「保守か リベラルか」などの次元で判断してはいけない
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