「オレが何を言ったか、自分で言ってみな」-落合博満 コーチの名言+PLUS—闘う者を磨く「ことば」の力【第31回】
PRESIDENT Online スペシャル 2013年4月26日 松瀬 学
元中日ドラゴンズ監督の落合博満さんは、「オレ流」をひたひたと貫き、独自の哲学をつかんだ。コトバはやわらかく、明快である。
落合さんが日本スポーツ学会大賞を受賞した。先日、その記念講演会が、早稲田大学のキャンパスであった。59歳。やはりコトバは迫力に満ち、含蓄に富んでいた。
このところ、企業の経営者相手の講演会も多い。「新人をどうやって使えばいいのですか」と聞かれることがある。まず、こう言う。「野球界と会社を一緒にしないでくださいよ。(プロ野球は)ダメなやつのユニフォームを脱がすことができる。(企業は)一回会社に入ってしまえば、辞めさせるのは難しい。(プロ野球は)能力があれば生き残れる、なければ淘汰されていくのが契約社会だよ」と。
その上で、落合さんは、人が人を教えることは難しいと言う。
「おれが簡単だと思っている事が、彼らにとってはものすごく難しい。果たして彼らにコトバが届いているかどうかという壁にぶちあたる」
ここで人間だもの、感情的になる。立場の強い人は、ついできなかった人が悪いんだと考えてしまう。
「コトバというのは、教わった側がちゃんと聞いて、理解して、納得して、実行して、結果を残して、初めてカタチとなるのだろう」
オレの言ったことが分かったかどうかを確認する。「おまえ聞いたよな、オレのコトバ。いま、オレが何を言ったか、自分で言ってみな」と聞く。「話を聞いていないととんでもないことになるから、人の話を一所懸命、聞かざるをえなくなる」
話し手と聞き手の話にギャップがあれば、議論になる。議論になって初めて、納得してもらえる。そうじゃないと、彼らは動きようがない。
■「怒られながら、褒められながら、助けてもらいながら」
「こういう作業は面倒くさい。でも遠回りのようだけど、これが一番の早道なのかなって。何を言っても(聞き手が)ダメなんだとなったら、人間関係は崩れていく」
秋田県出身。落合さんはプロ入り前、東洋大学を中退し、東芝府中に就職した。
「みんな、怒られながら、怒鳴られながら、褒められながら、分からない時は人に助けてもらいながら、その経験を積み重ねて今があるんでしょ。学校卒業したばかりの若者に、おれんところの会社の仕事をソツなくやれというのが無理だろう」
話題は仕事から、部活動の体罰問題にとぶ。指導者が感情に走ると体罰につながる。
「将来、こういう指導者になりたい。そこを土台にして、指導者がもっと上に行こうとすると、必ず無理が出てくる」
落合さんは東芝で配電盤をつくっていた際、ハンダ付けや溶接がうまく覚えられなかった。
「そうすると、職場の上司が、こうこうやってみたら、と教えてくれた。こうしろとは言わない。いろんなことを、オレらみたいな素人に教えてくれたんだ。技術を持っている人ってたくさんいるので、その人たちに動いてもらうのが一番いいんだろう」
どの世代かといえば、学校なら、生徒が自分の孫くらいの年齢の指導者が一番いいのではないか。「自分たちの仕事をして、定年退職した人たち。もう青筋立てて怒るようなトシじゃないでしょ」というのだった。
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*まつせ・まなぶ ノンフィクションライター
1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ラグビー部で活躍。卒業後、共同通信にてスポーツ畑を歩む。2002年に退社後ノンフィクションライターとなる。『汚れた金メダル』でミズノスポーツライター賞受賞。『スクラム』『五輪ボイコット 幻のモスクワ、28年目の証言』『ラグビーガールズ』など多数の著書がある。近著は『負げねっすよ、釜石』『東京スカイツリー物語』。
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◆ 「落合博満前監督から学んだこと」谷繁元信・中日ドラゴンズ捕手 2012-01-27 | 野球・・・など
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