安倍政権の原発輸出 原子力外交で復活するムラ
Diamond online2013年5月9日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]
安倍首相はアラブ首長国連邦(UAE)、トルコを訪れ原子力協定を結び、原発輸出を約束した。フクシマの惨事は原因さえ究明されていないのに。放射能汚染水は大量に漏れ収束とほど遠い。安全神話が招いた未曽有の事故はなにひとつ責任が問われないまま、原発推進体制は海外から復活する。
*「パッケージ型輸出」に原発を組み込む
「原発輸出」は6月の成長戦略に盛り込まれる。原発を前面に押し出すかどうかは未定だが、「パッケージ型輸出」という表現になるという。原発の設計・建設から運転・メンテナンスまで一括して受注する。場合によっては原発で起こした電気を使って鉄道を走らせたり、都市開発をパッケージにして途上国に売り込もうという算段だ。
鉄道や道路など海外のインフラ建設は、それが日本が供与する円借款つきでも中国や韓国にさらわれるようになった。困難になった受注を回復すべく、街作りや事業運営など付加価値をつけ、構想段階から日本が関与する「パッケージ型」に活路を求め、そこの原発を組み込もうというのである。
フクシマ第一原発の事故が起こる前、民主党鳩山政権でも原発推進は表舞台に上がっていた。地球温暖化対策としてCO2を大量に発生させる石油火力に代わり、2030年にはエネルギー構成の50%を原発で賄う、という方針が決まった。併せて原子力技術を日本の得意分野に育て、技術を海外に売り込む戦略が練られた。
当時、仙谷由人官房長官を中心に官民一体の輸出体制が組まれた。キーマンが二人いた。一人は経産省事務次官から内閣官房参与になった望月晴文氏、もう一人が仙谷氏が知恵袋として重用した国際協力銀行(JBIC)の執行役員・前田匡史氏だ。望月氏は資源エネルギー庁長官を経て事務次官を3年務めた原発政策の実力者、前田氏は資源外交のプロで、海外に独自のネットワークを持っている。エネルギー政策の門外漢だった仙谷氏はこの二人を頼り、言われるがままに原発大国化へと踏み出した。
3・11が事態を振り出しに戻す。首相の菅直人は原発輸出をご破算にした。一歩間違えば首都圏壊滅という事態に肝を冷やした民主党政権は、もはや他国に原発を売り込むなどという選択の余地はなかった。
自民党政権が復活し、喉元過ぎれば熱さは忘れる、ということか。安全は脇に置き、途上国に原発を売って日本は成長を目指すというのである。
フクシマでは16万人が自宅に戻れない。メルトダウンした核物質はどこにあるのか分からない。地下水や海に放射能が今日も流れ出ている。爆発で屋根が飛んだ4号機の3階に、1533本の核燃料棒がプールに沈んでいる。取り出すことも、十分な補強工事も出来ないまま放置され、燃料棒が崩れ落ちれば東京は首都機能を失う恐れさえある。
*原発を巡る日米連合
危機は隣り合わせにあるのに、何ごとも無かったかのように輸出が再開される。推進役は「原子力複合体」である。電力会社・原発メーカーなどに政治や行政が絡み合った利権システムである。
原発メーカーといえば、米国のゼネラルエレクトロニクス(GE)とウエスティングハウス(WH)が世界の2大勢力だった。GEは沸騰水型、WHは加圧水型の原発を開発し技術で世界をリードしていた。だが米国で製造業が衰退する中で、WHは06年に東芝に買収され、GEは日立、三菱重工と技術提携して日米連合が形成された。
ライバルはフランスのアレバ、ロシアはアトムエネルゴブロム、韓国には斗山重工がある。どこも国営で一国一社。日本は東芝・日立・三菱の三社が米国と緊密な連携で途上国市場をうかがう、という構図だ。限られたメーカーが世界市場を目指す中で、日本は原発の立地拡大、輸出ドライブという政策を打ち出した。
半導体、コンピュータ、家電などで後退が目立つ日本の電機メーカーは重電で生き残りをかけ、米国の肩代わりともいえる原子力分野が期待を持てる、と経産省は考えた。米国との連携で貿易摩擦の心配はなく、むしろ後押しが期待できると見たからだ。
*巨大企業と政府を結ぶ「官民一体体制」
米国副大統領だったゴアが旗を振る「温暖化対策」は、日本政府が原発推進に舵を切る絶好の口実になった。
こうした流れは経産省内部の勢力関係を変えた。電力自由化を主張するグループが排除され、電力独占体制護持・原発推進のグループが力をつけ巨額の予算がかかる六ヶ所村の原子力燃料サイクルが強行された。
地域独占で資金と政治力を持つ電力会社、業界の後押しで自民党内で政策を仕切る族議員、電力会社や原子炉メーカーに天下る官僚機構、そして周辺の御用学者、といった強固な権力構造が原発推進へと動き出したのが2000年代である。
朝日新聞に連載中の「プロメテウスの罠」によると2011年2月、原発関連企業や電力会社のトップによる「原子力ルネッサンス懇談会」が発足した。会長は元東大総長で原子核物理学者の有馬朗人氏、座長が日本原子力産業会長で新日鉄社長や経団連会長を務めた今井敬氏。そして座長代理が経産次官を前年に退いた望月氏だった。原子力に群がる巨大企業と政府を結ぶ「官民一体体制」である。
電力会社など原発業界が頼りにしてきた政治家は甘利明氏である。自民党商工族の重鎮で原子力行政に深く関与してきた。2006年第一次安倍内閣で経産相に就任、エネ庁長官だった望月氏を次官に引き上げたのは甘利氏である。甘利大臣・望月次官の時に新潟県中越沖地震が発生、柏崎刈羽原発で火災が起きた。東京電力は適切な情報開示をしなかったが、経産省は東電の勝俣社長に引責辞任を求めなかった。甘利・望月体制による甘い措置がフクシマへの導火線となったともいわれる。
政官財一体となった原発体制は民主党政権にも引き継がれ、福島第一原発の事故で幕間に隠れたが、自民党の政権復帰で再び舞台に上がった。
甘利氏は経済政策全般をまとめる経済再生担当相になり、望月氏は日立製作所の社外取締役に収まっている。
*米主導の核管理体制の中でビジネス
ゴールデンウイークに大勢の財界人を引き連れて海外歴訪した安倍首相は、トルコでは原発2基を受注、UAEでも受注への下工作を行った。日本は既にヨルダンとも原子力技術協定を結んでいる。
この地域は核開発疑惑が問題になっているイランの周辺国だ。原発建設は表向きは平和利用だが、核開発への転用が可能であることから深謀遠慮が渦巻いている。
日本が原発に力を注ぐのは、いつでも核兵器を製造できる核燃料プルトニウムと原子力技術を持つ「潜在的核保有国」であることに狙いがある、ともいわれている。
かつてシリアが建設中の原発をイスラエルが空爆して破壊したのも、原発技術が核に転用されることを怖れたからだ。緊張が増す中東でUAE、ヨルダン、トルコまでも原発に頼るのは「潜在的核保有」と無縁ではない。
イスラム国家に核技術が流れることを米国は警戒している。放置すればロシアや中国が核技術を提供しかねない。そこで日本に出番が回ってきた。日立・東芝・三菱はGEやWHの現場監督のような役回りである。日本勢は米主導の核管理体制の中でビジネスをしているのが現状だ。
核技術や核物質の監督はIAEA(国際原子力機関)の仕事だが、国家が意図的に隠そうとすれば完璧な調査はままならない。日本勢が建設から運転までを担えば情報管理はやりやすい。
日本が成長戦略として原発輸出に励む背後には、米国が望む核不拡散=世界核支配体制の堅持という大きな絵があるということだ。
*あっけらかんとしたセールスマンぶり
田畑も山も川も海も汚され、作物は売れず、健康まで脅かされ、暮らしは破壊された。原発はもうこりごりと思う人は少なくないが、首相は「日本の原発は世界で一番安全」と売り歩いている。「原発被害なんて早く忘れて」といわんばかりのあっけらかんとしたセールスマンぶりだ。
「原発の電気が一番安い」という幻想が崩れ、「原発を止めると電気が足らなくなる」というプロパガンダも、人々は信じなくなった。今度はアベノミクスの成長戦略にのせて「景気をよくする原発輸出」という宣伝だ。
脱原発への流れを押しとどめようと、まず海外から外堀を埋める。よその国がこんなに頼りにする原発を、なぜ日本の皆さんはダメだというのですか、というキャンペーンである。
原発を早く再稼働したい電力会社。投資を回収するため原発を作り続けたいメーカー、資材や部品を供給する関連企業群、原発事業を職場とする労働組合、原発産業に寄生する政治家や政党、原発を推進し天下り先を頼ってきた官僚組織、核戦略に日本の政府とメーカーを組み込んだ米国……。
どれも半端ではない力を持った勢力が、フクシマを忘却の彼方に押しやろうとしている。
首相は好調な支持率に乗って、ここぞとばかり時計の針を戻そうとしている。参議院選挙までは慎重に、当分は景気回復に邁進、と自らに言い聞かせているらしいが、予想外に好調な滑り出しで、憲法改正ばかりか原発復活まで持ち出してきた。
猪瀬都知事はたったひと言で五輪誘致を失速させた。史上最高得票が自信を与え、慢心を生んだ。434万票をとった人とは思えない浅はかな言葉が、知事の馬脚を露わしてしまった。
政治家・安倍晋三は、フクシマをどう考えているのだろう。忙しい首相の日々で、深く考えるゆとりもないのかもしれない。原子力事故は人類の教訓でもある。復活を急ぐ周囲の振り付けに乗って、無邪気に先を急ぐ政策は被災者の心を逆なでる恐れさえある。油がのっている時こそ滑り易いのが政治家である。
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◆ 日本 NPTの核不使用声明に署名せず/原発保有国の語られざる本音 2013-04-25 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
「核の傘」で守られている 署名見送り
NHK NEWS WEB 4月25日
13時55分菅官房長官は、記者会見で、NPT=核拡散防止条約の会議で提出された、核兵器をいかなる状況でも使用すべきではないなどとする共同声明について、日本がアメリカのいわゆる「核の傘」で守られていることなどから、署名を見送ったことを明らかにしました。
この中で菅官房長官は、スイスで開かれているNPT=核拡散防止条約の会議で提出された、核兵器は非人道的なものだとして、いかなる状況でも使用すべきではないなどとする共同声明について、「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しいので、『いかなる状況でも』という文言を削除してほしいと働きかけをした」と述べました。そのうえで菅官房長官は、「日本の置かれている安全保障の状況を考えたときに、ふさわしい表現かどうかを慎重に検討した結果、賛同することを見送った」と述べ、日本がアメリカのいわゆる「核の傘」で守られていることなどから、共同声明への署名を見送ったことを明らかにしました。
一方で、菅官房長官は「わが国は唯一の被爆国なので、核兵器使用の影響についてはどの国よりも実態を知っている。二度と核兵器が使用されないことが人類の生存にとって利益であるという方向に全世界が進んでいく努力をするのは当然のことだ。今後もこうしたテーマの共同声明に参加できる可能性を真剣に探っていきたい」と述べました。
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〈来栖の独白 2013/4/25 Thu. 〉
不器用すぎる。日本は核保有していないのだから、署名さえすれば余計な抗議も受けずにすんだのではないか。どうせ無い袖は振れないのだから。
核は、抑止のためにある。核兵器は決して使われることのない兵器で、通常兵器とは存在意義が違う。核戦争には勝者はいない。一発の核ミサイルは耐えることのできない被害を及ぼす。お互いに甚大な被害を覚悟しなければならないから、核武装国同士はお互いに手出しができない。核兵器出現以降、核武装国同士の戦争は一度も起きていない。
核兵器は2度と使われることはない。しかし核兵器を持つか持たないかでは大違い。国際政治を動かしているのは核武装国なのである。このことをよくわかっているからこそ、非核武装国は何とか核武装国になれないものかと考え、逆に、既に核武装国になっている国々は、自分たちの価値を下げないために、これ以上、核武装国を増やしたくないと考えるのである。
国連(国際政治)においても、核兵器を所有する大国は、話し合いの末の多数決を拒否するカードを持ち、自国が不利と見るや、すぐさまこのカードを切る。オバマ大統領も本気で核兵器を廃絶させるのなら、アメリカが音頭を取って「せーの」で核廃絶を決議すればいいのだが、そんなことを本気で考えてもいないし、重要な話し合いになればなるほど、どこかの国が国が拒否権カードを切るのがわかっているから、議題にも上らないのが現実だ。
第2次大戦、そして冷戦以後の国際社会がそれまでと変わったのは、腕力の強い者が腕力にものを言わせる、すなわち戦争を仕掛けるのではなく(そういうことも時には起こるが)、大声でものを言い、発言力で相手をねじ伏せるようになったことだろう。それは国連が機能した結果というより、核抑止の効果といえる面が大きい。
もっとも、ただ大声を出しただけでは、誰も聞いてはくれない。世界の国々の耳を傾かせ、従わせるのに必要なものこそが腕力、すなわち軍事力で、そのために大国は核武装をしているのである。
◆ 原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり 2011-05-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
知らないのは日本人だけ? 世界の原発保有国の語られざる本音
JB PRESS 2011.05.10(Tue)川島博之〈東京大学大学院農学生命科学研究科准教授〉
4月の最終週に、ドバイ経由でエチオピアに出張した。出張ではホテルのロビーなどで外国人と何気ない会話を交わすことも多いのだが、今回出会った人々は、私が日本人と分かると、異口同音に「FUKUSHIMA」について聞いてきた。世界の人々が原発事故に関心を寄せているのだ。福島は広島、長崎と共に、広く世界に知られた地名になってしまった。
日本はこれからも原子力発電を続けるべきであろうか。それとも、原発は取り止めるべきなのだろうか。
報道各社による直近の世論調査では、賛否はほぼ拮抗している。多くの人が、地震が多い日本で原子力発電を行うことはリスクが伴うが、便利な生活を送るためには仕方がないと考えているのだろう。
現在は、原発から漏れている放射性物質の封じ込めや津波で破壊された町の復興に関心が集まっているが、一段落つけば、これから原発とどう付き合うか、真剣に議論しなければならなくなる。
その議論を行う前に、世界の原発事情についてよく知っておくべきだ。フランスが原発大国であることを知っている人は多いと思うが、その他の国の事情については、よく知られていないと思う。
筆者の専門はシステム分析だが、システム分析ではデータを揃えて広い視野から先入観を持たずに現実を直視することが第一歩となる。そこで本稿ではIEA(国際エネルギー機関)のデータを基に、世界の原発事情について考えてみたい。そこからは原発の意外な一面が見えてくる。
*原発を所有する国の意外な顔ぶれ
原発は最先端の科学技術を利用したものであるから、先進国にあると思っている人が多いと思う。しかし、調べて見るとどうもそうとは言い切れない。
現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOE)で年に2億1800万トンにもなる(2008年)。
それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。
その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。
旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。
その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。
原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。
ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことが分かろう。
*多くの国は本音で核兵器を持ちたがっている
東欧諸国は旧共産圏時代に建設し、今でもそれを保有している。しかし、台湾やインド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンになぜ原発があるのだろうか。韓国の発電量がなぜドイツよりも多いのであろうか。また、G7の一員でありながら、なぜイタリアには原発がないのか。
原発の有無は、その国の科学技術力や経済力だけでは決められない。
ある国が原発を所有する理由を明確に知ることは難しい。その国の人に聞いても、明確な答えは返ってこないと思う。しかし、原発を持っている国名を列記すると、その理由がおぼろげながら見えてくる。原発は国家の安全保障政策に関係している。
原子力による発電は原子力の平和利用であるが、ウランを燃焼させることにより生じるプルトニウムは原子爆弾の原料になる。また、原発を製造しそれを維持する技術は、原爆を製造する技術につながる。原発を持っている国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができるのである。
北朝鮮が原爆の所有にこだわり、それを手にした結果、米国に対して強い立場で交渉できる。この事実は広く知られている。そのために、イランも原爆を欲しがっている。
米国が主導する世界では、世界の警察官である国連の常任理事国以外は核兵器を所有してはいけないことになっている。それ以外の国が原爆を持つことは、警察官以外が拳銃を持つようなものであり、厳しく制限されている。
しかし、各国の利害が複雑にぶつかり合う世界では、金正日が米国に強気に出ることができるように、核兵器を持っていることは外交上で有利に働くと考えられている。
多くの国は、本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり、原発保有国のリストと発電量を見ていると、その思いの強さが伝わってくる。
*フランスが原発大国でイギリスの原発が小規模な理由
日本では、フランスが原発大国であることはよく報じられるが、その理由が語られることはない。フランスが原発に舵を切ったのは、地球環境問題がやかましく言われるようになった1990年代以前のことである。フランスはCO2を排出しない発電方法として原発を選んだわけではないのである。
それには、西側にいながら米国と一線を画したいと考えるドゴール以来の外交方針が関連していると考えるべきであろう。同様の思いは、国防に関心が深いスウェーデンやスイスにも共通する。また、フィンランドは常にソ連の脅威にさらされてきた。
そう考えると、西側の中でもイギリスの原発発電量がスウェーデンよりも少なく、フランスの約1割に過ぎないことがよく理解できよう。イギリスの外交方針が米国と大きく異なることは多くない。原子力の力を誇示して、ことさらに米国と一線を画す必要はないのである。
韓国に原発が多いことも理解できる。米国が作り出す安全保障体制の中で原爆を持つことは許されないが、北朝鮮が持っている以上、何かの際に原爆を作りたいと考えている。
その思いは台湾も同じである。旧共産圏に属する小国が、多少のリスクに目をつぶって原発を保持し続ける理由もそこにある。東西の谷間に埋もれるなかで、少しでもその存在感を誇示したいと思っているのだ。
*「絶対安全」とは言えない原発の所有を国民にどう説明するか
このような力の外交の一助として原発を位置づけるという考え方は、多くの国で国民にそれなりの理解を得ているようだ。だから、フランスや韓国や台湾、ましてパキスタンで反原発のデモが繰り返されることはない。
しかし、日本、ドイツ、イタリアではそのような考え方は国民のコンセンサスとはなり難い。言うまでもなく、この3国は第2次世界大戦の敗戦国であり、多くの国民は力による外交を毛嫌いしている。そのために、原発の所持を安全保障の観点から国民に説明することが難しくなっている。
この3国では原発所持の理由を、経済性や絶対安全であるとする観点から説明することになる。しかし、それだけでは、使用済み燃料の最終処理に多額の費用を要し、また、福島の事故で明らかになったように、絶対安全とは言えない原発の所有を国民に説明することはできない。
イタリアはチェルノブイリ原発事故の後に国民投票を行い、原発を廃止した。また、ドイツも緑の党などが強く反対するために、福島の事故を受けて、原発の保有が大きな岐路に立たされている。
ここに述べたことを文書などで裏付けることは難しい。しかし、原発の保有国リストや発電量を見ていると、自然な形で、ここに述べたようなことが見えてくる。世界から見れば、日本の原子力政策も潜在核保有力の誇示に見えていることであろう。
これまで、日本における原発に関する議論は、意識的かどうかは分からないが、本稿に述べた視点を無視してきた。
しかし、原発の経済性と安全性の議論だけでは、なぜ、原発を持たなければならないのかを十分に議論することはできない。福島の事故を受けて、今後のエネルギー政策を考える際には、ぜひ、タブーを取り除いて議論すべきであろう。
戦後66年が経過しようとしている。少子高齢化も進行している。そろそろ、老成した議論を始めてもよいのではないであろうか。(背景の着色は来栖)
〈筆者プロフィール〉
川島 博之 Hiroyuki Kawashima
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など
・世界の中の日本 メイド・イン・ジャパンの製品を世界中に売りまくりジャパンバッシング(日本叩き)が沸き起こっていたのは遠い過去の話となった。今では何を求めても反応すらしない国(ジャパンミッシング)として世界から忘れられようとしている世界第2位の経済大国ニッポン。国際社会から孤立しないためには何をすべきなのか。海外に張り巡らされた日本人随一のネットワークを生かして、日本の取るべき針路を考察する。
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◆ 広島原爆ドーム「核保有国でないから、こんな悲惨な被害を受ける」を心に刻むインド国防相 WiLL2013/5月号 2013-04-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
WiLL5月号 2013年4月26日発行
蒟蒻問答 第84回 「中韓は対話の域を超えている」堤堯×久保紘之
(抜粋)
p246〜
*核問題はインドを見習え
編集部 ところで、北朝鮮に対してはどう動いたらいいのでしょう?
堤 日本のメディア、評論家連中は、北朝鮮が実験をくり返すたびに「冷静に構えて話し合いの道を探れ」などと埒もないセリフを言うが、北は親子3代、核ミサイル保有への確固たる意志は変わらない。なのに、いたずらに時間を与えてきた。核に対抗できるのは核しかない。備えあれば憂いなしだ。何でその方向に議論が進展しないのかね。
久保 パワーポリティクスの世界を堂々と生き残るには、核を持たないと土台無理な話なんですよ。アルジェリアの事件について「なぜ守れなかったのか」と質問された際、安倍はこう言いました。
「イギリスなど、武力を持っていて戦争行為をする準備ができている国と、我々のような国と同じように論じられても困る」
これは全くその通りなんだけど、かつて池田勇人は外交交渉の帰りに思わず「ああ、日本にも核があったらなぁ」とため息混じりに呟いた。それから半世紀経っても、この問題は“呟き”の域を出ない。
堤 でも、いきなり世界に向けて「日本も核を持つ」と宣言するわけにいかんよ。手順というものがある。
久保 北朝鮮は核弾頭を作り、ノドン300発の照準を日本に合わせているという。そんななかで、悠長に手順を踏んでいる場合ですかねぇ。
たとえば現在、ロケット開発や原子力発電などを民間に委託しているけど、それこそ国家が前面に立ってやるべきことでしょう。いまの原発が危ないというのなら、国家が科学の粋を結集し、採算抜きで世界一安全堅固で高性能の原発を開発すればいいだけの話です。
山中伸弥教授のiPS細胞の研究は人間の生命科学の進展に大きく貢献したけど、一方では、その生命を守るために生命を犠牲にしなければならない時が、国家にはある。そのためには、まず国家の独立が必要。そして、その国家を有効に維持・防衛するためには核武装が必要になる。これはノーベル賞作家のクロード・シモンが、祖国フランスの核実験を支持するために展開した論理です。
堤 核の問題はインドがいい例となる。かつて佐藤栄作がひそかに核武装を意図し、西ドイツに共同開発を呼びかけたことがある。首相シュミットは拒否したけど、これを利用してアメリカから核のレンタルに成功した。一方、日本には核のレンタルすら認めない。
比べてインドは深く静かに潜行し、秘密裡に核を作ってしまった。当時、それに気付かなかったことでCIA長官がクビになり、CIA無用論まで出た。インドはアメリカから経済制裁を喰らったけど、こう訴えた。「われわれは中印戦争で惨敗した。中国は核を持っている。我々も持たねばまたやられる」とね。
中国の脅威を言い立てて、いまじゃインドの核は公認、アメリカから核の技術を提供されるまでになった。中国の脅威をいうなら、日本も同様だ。おまけに北の脅威も加わった。ドイツやインドにできたことが、なぜ日本にはできない。
加瀬英明さんに聞いた話では、インド国防相の部屋に行くと、広島の原爆ドームのカラー写真が壁に飾ってあるそうだ。聞けば、「核を持たなければ、こういう悲惨な被害を受けることを、毎日、心に刻むために飾ってある」という答えだ。
アメリカは核を持った国とは絶対に戦争をしない。イラクのサダムは核を持たないからやられた。金正日も金正恩もそれを知っているから核に執着する。
北朝鮮が最初の核実験を強行した時、安倍晋三と中川昭一は「日本も核の議論を始める必要がある」と発言した。この二人を朝日新聞はNHKと組んで叩きに叩いた。他の大手メディアも同様だ。かつて安倍の祖父・岸信介は「自衛のために小型の戦術核をもつことは憲法違反ではない」と発言して、これまた物議を醸した。安倍が官房長官の頃、早稲田大学のキャンパスで、祖父の「戦術核合憲論」をどう思うかと問われてこれを是認したときも、朝日以下のメディアは叩いた。核の議論をする者を目の仇に、袋叩きにして議論を封殺する。核だけではない。いまだに日本人は軍備や核という言葉にアレルギーをもっている。
久保 国民が反対しようがしまいが、国家が生き残るためにやらなきゃいけないことは、断固としてやらないといけないんですよ。
p250〜
*ネクロフィリアからの脱却を
久保 「原発も国家も大企業もいらない。小さな共同体をつくり、再生可能エネルギーで十分生きていける」。「3・11以降の反核・反原発運動家らはどんどん“縮志向”になって、そんなユートピア像しか思い描けない。
エーリヒ・フロムは『悪について』(紀伊國屋書店)のなかで、ネクロフィリア(死への希求)とバイオフィリア(生への希求)という2つの概念を提示しました。
フロムによれば、「核戦争は戦争の一切の合理化を成立不能にする」ものであり、核戦争阻止、核実験反対に立ちあがらない人々をネクロフィリア、その逆をバイオフィリアと呼んだ。フロムは原発と原爆を混同したりはしていませんが。
さて、いま反原発デモに参加する大江健三郎や菅直人など、日本の反核平和愛好者たちは「生に向かおうとする気持ち」はあっても「平和を守るために命を犠牲にすることもありうる」という積極的平和主義を生きたことはない。だから彼らをバイオフィリアと言えるわけがない。
僕はかつて戦後知識人の核、“絶対悪”神話の原点はどこなのか、探ってみたことがあります。そうすると、荒正人の「火」(昭和46年6月14日)という論文に辿り着いた。荒はそのなかで、核は壊滅的、否定的な側面と、平和的な積極的な側面があると考えた。前者を取るなら世界はネクロポリス(死都)に、後者を取るならばアクロポリス(世界市)になる、と。そして、いずれの道を選ぶかは、人民の手による「政治」にかかっていると荒は書いています。荒は共産主義者なので、「ソ連の核はいい核」となってしまうわけですが・・・。
問題は荒が、「今日、人類は星のエネルギーを獲得したのである。この無限大のエネルギーもいつかは必ず産業化されるだろう」と書いたユートピア的なイメージが、いつ頃から反核・反原発を同列に扱い、マイナスイメージ一色に塗りつぶされたのか、です。(略)
p251〜
ともあれ、安倍のキャラクターで僕がもっとも評価するのは、バイオフィリア的側面です。ならば、彼がやるべきことは「戦後レジームの脱却」、すなわちネクロフィリア的な核ニヒリズムという戦後精神の改革を断行することでしょう。
堤 それは参院選後にやると思うよ。まずは経済を立て直さないと、国防すら覚束なくなる。軍備も技術革新もカネがかかるんだよ。
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◆ 【脱中国元年】中国・北朝鮮には、防衛戦略の抜本的改変から(5) 2013-02-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
【脱中国元年】中国、北朝鮮には寝技で対抗 新外交は防衛戦略の抜本的改変から★(5)
zakzak2013.02.24
防衛大綱の見直しが決まった。
将来的に日本は、核兵器で恫喝する中国や北朝鮮の脅威に、どう抑止力(対抗能力)を持つことができるのか。あるいは核バランスをどうやって達成できるか?
選択肢として従来いわれたシナリオも多いが、本稿で筆者は「考えられないことを考える」(ハーマン・カーン)。
日本が自主的に核兵器開発を行うには、もはや間に合わない。そもそも、核拡散防止条約は日本に核武装させないための世界の監視体制であり、IAEA(国際原子力機関)の査察は日本の原発の軍事転用を防ぐ目的で設営された。
であるとすれば、短時日裡に日本が核保有するには、常識では「考えられないシナリオ」を検証しておく必要がある。
(1)パキスタンから買う。これまでの累積援助5000億円をチャラにするのが交換条件で軍事専制のパキスタンと秘密交渉を展開する。同時にこれはパキスタンの同盟国=中国に強い猜疑心を生ませるだろう。
(2)インドと安保条約を結び、インドが中国へ向けている核兵器を一時借用するなりの密約を締結する。密約がなくともあるように国際社会の舞台裏で撹乱(かくらん)情報を流す。
(3)日米安保条約の下、在日米軍があり、第7艦隊が横須賀、佐世保に寄港している。在日米軍の施設など総資産はおよそ25兆円程度で、年間維持費は2兆円程度と推計される。
日本が持つ対米債権は1兆2000億ドル、為替差損ですでに40兆円ほど損をしているが、これを政治的に有効に使えばよい。つまり対米債権を担保に、在日米軍と第7艦隊を一時的にでも日本の指揮下におく。在日米軍を核兵器付きで傭兵化するという日米同盟の密約は技術的に可能ではないか
(4)腐敗した中国軍の高官を買収し、中国から核兵器を横流しさせる。あるいは中国の軍の一部を買収し、将来の日本への亡命を条件に、日本向けミサイルの頭脳にあるコンピューターを入れ替えるなどして無効化する。
これらの作戦を実践するには、強固なハッカー部隊と、インテリジェンス部隊が日本に必要とされることは言うまでもない。
うさぎの耳はなぜ長いのか。
戦後日本は自ら謀略を仕掛けることもなく、ひたすら国際社会の「善意」に期待して外交を展開し、国家安全保障を米国に依存してきた。このため、未曾有の危機に遭遇しても自らは何をなすべきかの判定さえできなくなった。
尖閣戦争が近いという危機の到来がこうした幼児性、劣化した安全保障感覚を呼び覚まし、危機管理の中枢とは何かを考えさせてくれる絶好の機会となった。
国家たるべき条件は、インテリジェンス戦略の確立、そのための情報機関設立が喫緊に必要とされている。 (評論家、ジャーナリスト・宮崎正弘)=おわり *強調(着色)は来栖
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◆『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
p161〜
第3部 誰も日本のことなど気にしない
アメリカは莫大な財政赤字を抱えて、日本を守ることができなくなった。もちろんアメリカ政府が正式にそう発言しているわけではない。だが2009年にオバマ政権が成立し、アメリカの財政がうまく立て直せないと分かり始めた頃から、アメリカの指導者が私に「日本が核兵器を持っても構わない」と言い始めた。
これまで「日本に核兵器を持たせない」というのが、アメリカの日米安全保障政策の基本だった。「日本はアメリカが守る。だから核兵器を持つ必要がない」とアメリカは言い続けてきた。だがアメリカは日本を守ることができなくなり、守るつもりもなくなった。
p162〜
2010年、私の新年のテレビ番組のために行った恒例のインタビューでキッシンジャー博士はこう言った。
「日本のような経済的大国が核兵器を持たないのは異例なことだ。歴史的に見れば経済大国は自らを自らの力で守る。日本が核兵器を持っても決しておかしくはない」
p166〜
日本では左翼の学者や政治家たちが、核をことさら特別なものとして扱い、核兵器を投下された場所で祈ることが戦争をなくすことにつながる、と主張している。私は、こういった考え方を持つ進歩派の政治家の発言に驚いたことがある。
福島原発の事故の担当になった民主党政権の若い政治家が、「これからどのような対策をとるのか」という私の質問に、「原子力は神の火で、軽々しくは取り扱えない」と答えた。「神の火」とは恐れ入った表現である。核エネルギーは石油や石炭と同じエネルギーの1つである。核爆弾も破壊兵器の1つに過ぎない。
日本に関するかぎり、核爆弾を特殊扱いする政治的な狙いは的を射た。日本人の多くが、核を「神の火」であると恐れおののき、手を触れてはならないものと思い込み、決して核兵器を持ってはならないという考えにとりつかれている。この状況が続く限り、日本人は核を持たないであろうとアメリカの政治家は考え、日本の指導者に圧力を加え続けてきた。だがその状況は大きく変わり、シュレジンジャー博士のように「持つも持たないも日本の勝手」ということになりつつある。
p168〜
第4部 日本はどこまで軍事力を増強すべきか
日本はいま、歴史的な危機に直面している。ごく近くの隣国である中国は、核兵器を中心に強大な軍事体制をつくりあげ、西欧とは違う独自の倫理に基づく国家体制をつくりあげ、世界に広げようとしている。すでに述べたように、中国は人類の進歩が封建主義や専制主義から民主主義へ向かうという流れを信用していない。中央集権的な共産党一党独裁体制を最上とする国家を維持しながら軍事力を増強している。そのような国の隣に位置している日本が、このまま安全でいられるはずがない。
日本はいまや、同じ民主主義と人道主義、国際主義に基づく資本主義体制を持つアメリカの支援をこれまでのようには、あてにできなくなっている。アメリカは、歴史的な額の財政赤字を抱えて混乱しているだけでなく、アメリカの外のことに全く関心のない大統領が政権に就いている。こうした危機のもとで、日本は第2次大戦に敗れて以来、初めて自らの力で自らを守り、自らの利益を擁護しなければならなくなった。
第2次大戦が終わって以来、日本人が信奉してきた平和主義は、確かに人類の歴史上に存在する理念である。だが、これほど実現の難しい理念もない。
p170〜
国家という異質なもの同士が混在する国際社会には、絶対的な管理システムがない。対立は避けられないのである。人間の習性として、争いを避けることはきわめて難しい。大げさに言えば、人類は発生した時から戦っている。突然変異でもないかぎり、その習性はなくならない。
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