【緊迫北東アジア 列国の軍事力】(1)最も警戒すべき中国の潜水艦戦力 対米核戦略の延長線上にある「尖閣問題」
zakzak2013.07.09
北東アジアが緊迫している。中国は、参院選(21日投開票)に合わせるように、海軍艦艇を長崎県沖の対馬海峡を通過させ、沖縄県・尖閣諸島周辺にも調査船を侵入させた。日本に接する各国の軍事力はどうなっているのか。軍事ジャーナリストの井上和彦氏が迫る。
■井上和彦(いのうえ・かずひこ) 軍事ジャーナリスト。1963年、滋賀県生まれ。法政大学卒。軍事・安全保障・外交問題などをテーマに、テレビ番組のキャスターやコメンテーターを務める。航空自衛隊幹部学校講師、東北大学大学院・非常勤講師。著書に「国防の真実−こんなに強い自衛隊」(双葉社)、「東日本大震災秘録−自衛隊かく闘えり」(同)、「尖閣武力衝突−日中もし戦わば」(飛鳥新社)など。
中国の国防費は毎年2ケタの伸び率−。だが、実際に日本にどれほどの脅威となっているのか。まず、中国の国防費の絶対額をみてみよう。
2013年の国防費7202億元(約11兆7700億円)は、その5年前の08年の約4100億元(約6兆7000億円)の約1・75倍である。しかも過去10年間で約4倍に増えている。世界でこれほど極端な国防費の増額を行っている国は他にない。
もっとも公表額には、兵器購入費や新兵器の研究開発費といった主要支出区分が含まれておらず、実際の国防費は公表額の2、3倍になるとみられている。
莫大な国防費に支えられた人民解放軍の総兵力は約229万人。この数は、第2位の米国(約157万人)、第3位のインド(約133万人)を抑えて断トツである。自衛隊の総兵力が約23万人であるから、10倍の戦力ということになる。
人民解放軍のなかでも、陸軍は約160万人でこれまた世界一。米軍の陸上戦力が約64万人だから、中国は約3倍ということになる。
航空戦力はどうか。
中国空海軍の作戦機は2074機で、世界最強の航空戦力を誇る米国の3497機に次いで第2位。近年、旧式機をスホーイ27やJ10など第4世代戦闘機に急ピッチで更新し、ステルス戦闘機J20まで登場させるなど、航空自衛隊の戦力を凌駕するまでに成長している。
尖閣諸島など、日本の安全保障にとって最大の関心事である海軍力はどうか。
中国海軍の艦艇数は1088隻(135・2万トン)で、海上自衛隊の143隻(45・1万トン)をはるかに上回っている。近代化も急速に進んでおり、海上自衛隊の護衛艦に匹敵するハイテク艦艇も登場している。
とりわけ空母「遼寧」の就役は衝撃的だった。さらに空母2隻も建造中というから、これが戦力化されれば東アジアの軍事バランスは大きく変容することが予想される。
そして、最も警戒すべきは潜水艦戦力だ。
現在、中国海軍は、原子力潜水艦を含む約60隻の潜水艦を保有しており、内訳は、原潜が約10隻と通常型が約50隻である。新型原子力潜水艦を次々と開発しており、戦力の拡大を図っている。
中国は、東シナ海と南シナ海を「内海」にして、海軍艦艇が太平洋に出てゆく回廊にするとともに、北米大陸にも届く「巨浪12」と呼ばれる潜水艦発射型核弾道ミサイル(SLBM)を搭載した晋級戦略原潜を就役させて対米核攻撃能力を飛躍的に向上させようとしている。
尖閣問題の本質は、中国による対米核戦略の延長線上にあるのだ。
北朝鮮の弾道ミサイルの陰に隠れて見落とされがちな中国の核戦力と弾道ミサイルこそ、日本にとって最大の軍事的脅威であることを忘れてはならない。
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【緊迫北東アジア 列国の軍事力】(2)北朝鮮、最大の脅威は「弾道ミサイル」 世界最大規模18万人の「特殊部隊」
zakzak2013.07.10
北朝鮮は、軍事をすべてに優先する「先軍政治」を標榜する独裁国家である。軍国主義という生易しいものではない。
全人口が約2450万人でありながら、総兵力約120万人というから驚きだ。その数は、中国、米国、インドに次いで世界第4位にランキングされている。
総兵力約120万人の北朝鮮は“国民の20人に1人が軍人”という計算になり、国民の約540人に1人が自衛官の日本とは大違いなのだ。まさに北朝鮮は“軍人だらけの国”といえよう。それだけではない。北朝鮮の軍事費はGDPの約15%(日本は約1%)というから、その財政負担はあまりにも大きい。
ところが、北朝鮮の保有する戦車や軍艦、戦闘機などは、他国では博物館に展示されているレベルの旧式装備であり、日本海を隔てた日本にとっては脅威ではない。
日本にとって最大の脅威は何と言っても「弾道ミサイル」だ。
現在、北朝鮮は「スカッドB」「スカッドC」「ノドン」「テポドン1」「テポドン2」「ムスダン」といった数種類の弾道ミサイルを保有している。
その中で「スカッドB」と「スカッドC」は、射程が300−500キロで韓国を狙っている。「ノドン」と「テポドン1」は、射程1300−1500キロで、日本がターゲットである。「テポドン2」は、射程約6000キロという長射程弾道ミサイルで、米本土を狙う。近年お目見えした「ムスダン」は、射程3500キロで、米国の西太平洋の戦略拠点グアムを攻撃する目的で開発されたとみられる。
このように弾道ミサイルは、種類によって攻撃する国が異なるのだ。
一方で、科学技術力に劣る北朝鮮製ミサイルの性能をあなどる声も多く聞かれる。確かに、北朝鮮は弾道ミサイルを実戦で用いた経験はない。ミサイルの命中精度を示す「CEP」(=半数必中界。目標に向けて落下する弾頭の半分が着弾するエリアの半径)は、米国のミサイルのそれには遠く及ばないだろう。だが、北朝鮮にとってそれは問題ではない。
弾道ミサイルは、心理的効果が極めて大きく、どこに着弾するか分からないことが、相手に恐怖をあおるからである。
つまり、相手がビビってくれればそれでよいのだ。核兵器はいうまでもないが、生物・化学兵器を積んだミサイル攻撃でも殺傷力は大きく、被害は甚大だ。“目に見えない脅威”への国民の恐怖は計り知れず、結果、経済活動は停止を余儀なくされるだろう。
そして、忘れてはならないのが、世界最大規模18万人を擁する「特殊部隊」の存在と、国際社会の制止の声を無視して開発を続ける「核兵器」である。これらは日本の安全保障にとって最大の脅威であり、その脅威の度合いは日増しに高まっている。
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【緊迫北東アジア 列国の軍事力】(3)ロシア、ステルス機の極東配備で戦力バランスに影響
zakzak2013.07.11
ロシアは近く、フランスから2隻の強襲揚陸艦「ミストラル」を購入して極東地域に配備する。北方領土には、射程300キロの対艦巡航ミサイル「ヤホント」のほか、新型対空ミサイル「トールM2」などを配備する計画だという。
ここ数年のロシアの軍事費の伸び率は前年度比2ケタ、2009年度は前年度比38%というから驚異的な伸び率である。核弾道ミサイルを搭載する新型原子力潜水艦を開発し、10年にはステルス戦闘機「PAK−FA(パクファ)」を初飛行させるなど、着実に近代化を進めている。
冷戦終結後、消滅したかに思われた“北の脅威”は、いま再び息を吹き返しつつあるのだ。
日本にとって直接脅威となる「極東ロシア軍」の陸軍兵力は約9万人(15個師団・旅団)。北方領土に1個師団、樺太に1個師団、カムチャツカ半島に1個師団、残りは中国と国境を接する極東軍管区に集中配置されている。なかでも北方領土の国後島、択捉島に展開するロシア陸軍「第18機関銃・砲兵師団」の装備は、旧式戦車や榴弾砲を中心とした部隊だが、これらも逐次近代化が行われてゆくだろう。
海軍力だが、日本海に面したウラジオストクやカムチャツカ半島のペトロパブロフスクには、ロシア太平洋艦隊の主要基地があり、駆逐艦など水上艦艇約20隻と潜水艦約20隻(うち約15隻が原子力潜水艦)を主力とする艦艇約240隻が配備されている。さらに、核戦略の一環として原子力潜水艦戦力の拡充を行っている。
空軍力はどうか。ステルス戦闘機「PAK−FA」が近く実戦配備される予定だが、これが極東地域に配備されれば、極東の戦力バランスに大きな影響を与える。
現在、ロシア軍は、1944機の作戦用航空機を保有しており、北方領土を含む極東地域には、スホーイ27やミグ31など210機の戦闘機の他、核攻撃も可能なTu22Mバックファイアを含む50機の爆撃機を配置している。
忘れてはならないのが、ロシアが依然、核超大国であるということだ。もちろん日本に照準を向けられた核弾道ミサイルも存在する。
だが、歴史的遺恨を抱き、にらみ合いを続けてきた日露両国が歴史的歩み寄りを始めた。
今年5月、安倍晋三首相とプーチン大統領による日露首脳会談の成果は、北方領土返還交渉の再開だけではない。最も注目すべきは、日露間で「2プラス2」(外相・防衛相会談)を設置しようという動きである。これは、日本とロシアが“準同盟国”へと移行する素地となるからだ。
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【緊迫北東アジア 列国の軍事力】(4)中国、北朝鮮の陰で軍拡した韓国 厄介な反日アドレナリン
zakzak2013.07.12
中国や北朝鮮の陰に隠れて、着実に軍備増強を続けてきたのが韓国だ。
そもそも韓国は、最大の軍事的脅威である北朝鮮に対抗すべく、陸軍を中心に総兵力約66万人(自衛隊の約3倍)の戦力を維持し続けてきた。韓国軍は現在、陸軍兵力約52万人(陸上自衛隊約14万人)、戦車約2400両(陸自約760両)をはじめ、海兵隊約2万7000人、海軍艦艇約190隻(海上自衛隊143隻)、空軍の作戦機約610機(航空自衛隊主要機450機)を擁し、数の上では自衛隊を凌駕している。
しかも徴兵制を敷く韓国の予備役は450万人。自衛隊の予備兵力は4万人に満たず、韓国の兵力がいかに強大かが分かる。韓国は、軍の近代化と軍事力強化のために国防費を10年以上連続で増額し続けており、10年連続減額され続けた日本とは大違いである。
戦後のすさまじい「反日教育」と「反日報道」で洗脳された韓国人にとって、スポーツであろうが何であろうが“対日戦”は特別なものとして映る。韓国人はいざ日本と戦うとなれば、たちまち“反日アドレナリン”なる韓国人独特の“ホルモン”が分泌され、士気は高揚して猛烈なパワーを発揮する。“反日アドレナリン”などといえば、キツイ冗談かと思うかもしれないが、万が一、日本と韓国が事を構えるときには間違いなく分泌される韓国の“最強兵器”なのである。
これまで陸軍中心だった韓国軍は近年、空軍および海軍の戦力拡充に努めている。
加えて、韓国海軍の艦艇の名称が気にかかる。最新鋭強襲揚陸艦に付けられた名称は極めて挑発的な「独島(島根県・竹島の韓国名)」。韓国初のイージス艦には「世宗大王」。世宗大王とは、15世紀に日本の対馬を侵略した国王だ。こうした韓国海軍の姿勢には、戸惑いと同時に不信感を抱かざるを得ない。さらに、初代内閣総理大臣である伊藤博文公を暗殺したテロリストの「安重根」という艦名を持つ潜水艦もある。
こうした艦名から、日本に対するむき出しの敵意を感じるのは筆者だけではないだろう。
近代化が進む韓国空軍には、航空自衛隊のF15J戦闘機を性能面で上回るF15Kが配備されている。韓国空軍はこのF15Kを60機調達する計画だが、導入時のエピソードが不愉快極まりない。F15Kが配備されるや、当時の韓国空軍参謀総長が自ら乗り込んで、竹島上空を示威飛行している。
韓国軍の兵器で最も警戒しなければならないのが「巡航ミサイル」だ。
韓国は、射程1500キロにも達する巡航ミサイル「玄武IIIC」を開発した。この巡航ミサイルの主たる標的は、北朝鮮の軍事施設や核施設だが、飛ばす方向を変えれば、日本の主要都市や自衛隊基地も攻撃できる。
「反日」で盛り上がる韓国−。実は、日本にとっての軍事的脅威となっていたのである。
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【緊迫北東アジア 列国の軍事力】(5)日本の自衛隊、資質や士気高いが深刻な問題も
zakzak2013.07.14
日本を守る自衛隊の総数は約23万人。これは多いのか、少ないのか−。
同盟国・米国の総兵力は157万人、最大脅威である中国は229万人、北朝鮮は120万人。韓国も66万人の兵力を抱えている。比較すると、自衛隊の戦力がいかに少ないかが分かる。
では、日本の防衛力(=軍事力)を2つの数字を使って解き明かしてみよう。
まず、「GDP(国内総生産)に対する軍事費の割合」だが、日本の防衛予算は、年間約4兆7000億円で、絶対額では世界第7位になる。ところが、これだけでは真の軍事力を推し量ることはできない。軍事費は一般的に、その国の経済力に見合った額が拠出されており、先進諸国ではGDPの約2・5%〜3%が常識となっている。
ところが、日本の防衛費はGDPのわずか1%でしかない。つまり各国の半分以下である。
次に「総人口に対する軍人の比率」だが、先進諸国では、国民約250人に1人が軍人というのが標準だ。つまり1人の軍人が250人の国民を守っている。一方、日本では、自衛官は国民540人に1人であり、これまた各国の半分以下だ。
これを補うのが「在日米軍」の戦力ということになる。圧倒的戦力を誇る在日米軍の存在そのものが、日本の防衛力を補い、日本の抑止力の一部となっていたのである。
もっとも、自衛隊が世界に誇るべきものがある。それは自衛官の資質と士気だ。彼らは、軍隊・軍人を蔑(さげす)んできたこの国で、その尊い命をかけて国民の生命と国土を守らんと志願してきた若者たちである。
日本国憲法第9条には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と明記されている。ところが日本には、ハイテク戦闘機やハイテク戦闘艦艇、それに23万人を擁する自衛隊があるではないか。自衛隊は誰がどう見ても軍隊以外の何ものでもない。
この武力組織が“軍隊”に見えない人がいるならば、その感覚は一般常識から大きくずれている。それでも、「自衛隊は軍隊ではない」と言い張るこの国はどこかおかしい。アンデルセン童話の「裸の王様」を地でゆく話である。
もとより自国民の生命・財産、そして国土を守る軍隊を保有することは世界の常識であり、軍隊の保有そのものが、これまで国際法上禁じられたことなど一度もない。つまり、国民の生命・財産、国土を守るべき軍隊の保有を否定した憲法9条がおかしいと考えるべきなのだ。
ところが、これまでの日本国政府は、憲法9条を不磨の大典のごとく扱い、軍隊を“自衛隊”と言い換えて、合法性のみを追求してきた。だが最終目的は憲法を守ることではなく、国民の生命と国土を守ることである。
そのためにこそ、行動に理不尽な法的制限の課せられた自衛隊を、いかなる脅威にも柔軟に対応し得る、世界標準の「軍隊」に改編すべきなのである。 =おわり
*上記事の著作権は[ZAKZAK]に帰属します
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〈来栖の独白 2013/7/17 Wed. 〉
軍事力において、日本は明らかに諸国に劣っている。しかし、軍事力よりももっと深刻な問題がある。
インテリジェンスにおいて日本は更に劣っている。アメリカは無論であるが、中国も、強大な軍事力に加えインテリジェンス(情報・諜報)戦を華々しく展開している。
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『 防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織 』 福山隆著
第1章 知恵なき国は滅ぶ
P12〜
すべては情報が決する
「情報」を制する者は天下を制す
彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず------。
言わずと知れた、兵法書『孫子』の一節です。これが書かれたのは、中国の春秋時代(紀元前770〜403年)のこと。それまで、戦争の勝敗は運不運に左右されると考える人が大半でした。そういう時代に、戦争には人為的な「勝因」と「敗因」があると考え、それを理性的に分析したのが、『孫子』の画期的なところです。
冒頭に掲げた言葉は、その「謀攻篇」(実際の戦闘によらずに勝利を収める方法)に書かれたものでした。敵と味方の情勢を知り、その優劣や長所・短所を把握していれば、たとえ百回戦ったとしても敗れることはない。これは、戦争における「情報=インテリジェンス」の重要性を指摘した言葉にほかなりません。
ちなみに、「謀攻篇」には、「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という言葉もあります。
(p13〜)戦火を交えることなく敵を屈服させるのが最善だという意味ですから、もし情報戦で勝利を収めることができたとすれば、それにまさるものはないといえるでしょう。
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『 防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織 』 福山隆著 / 《 ヒューミントの重要性 》 2013-07-13 | 読書
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中国の一貫した謀略戦(長期間かけた法律、世論、心理の三戦)に曝されている日本 尖閣諸島 2012-07-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
日本を絶体絶命の危機に陥れつつある中国 長期間かけた法律、世論、心理の三戦を実施中
樋口譲次 JBpress 2012.07.24(火)
石原慎太郎・東京都知事によって、尖閣諸島の購入計画が明らかにされると、国内では大きな反響と支持の輪が広がり、すでに10億円を超える賛助金が集まっているようである。
これに対し、中国は当然のように反発を強めているが、尖閣諸島略取の対日戦略は40年余りにわたり終始一貫して展開され、年を追うごとにエスカレートしてきた。その戦略は、いったいどのような思想の下に押し進められているのか?
■中国の三戦、「世論戦」+「心理戦」+「法律戦」
いつもながら中国に対する控えめな表現が目立つ防衛白書(平成23年版)であるが、中国の「三戦」については、次のように記述している。
「中国は、軍事や戦争に関して、物理的手段のみならず、非物理的手段も重視しているとみられ、「三戦」と呼ばれる「輿(世)論戦」、「心理戦」および「法律戦」を軍の政治工作の項目に加えたほか、『軍事闘争を政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に呼応させる』(2008年中国の国防)との方針を掲げている」と。
1963(昭和38)年に公布された「中国人民解放軍政治工作条例」は、2003(平成15)年に改正され、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」の実施を明確に規定した。
過剰なまでにシビリアン・コントロールを強調する戦後の日本にあっては、軍が行う「政治工作」という概念が理解できないかもしれない。
中国軍の「政治工作」とは、対内的には「共産党の軍隊」であるとの基本原則を堅持するための政治思想教育の徹底であり、対外的には国家目標を達成するため「軍隊の戦闘力を構成する重要な要素」としての軍による政治活動を、前もって相手国(その同盟国を含む)に仕かけることを意味していよう。
軍による対外的政治工作は、軍事を純粋に軍事力という物理的要素からだけではなく、心理的、政治的要素にも重きを置いて考える「孫子」の戦略思想を反映したものである。
時々、中国政権内部における軍の独走が話題になる。しかし、「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」を代表的手段として行われる軍の政治工作は、軍単独ではなく、政治、外交、経済、文化、法律などの分野の闘争と密接に絡ませ、国家のあらゆる機能を駆使して展開される。その策動の目標の1つが、まさに尖閣諸島なのである。
■「孫子」の「戦わずして勝つ」の現代的実践としての三戦
一般的に、戦争は、相手国を軍事力で撃破して目的を達成するものと考えられがちだ。しかし、孫子は、相手国の占領支配を目的とする戦争においては、敵国を保全したまま勝利を獲得するのが最上の策であると主張する。
つまり、「不戦而屈人之兵、善之善者也」(「孫子」第3章謀攻篇)、すなわち「戦わずして勝つ」ことである。
中国では、王朝の交代のたびに繰り返されてきた残虐な戦いで、何千万とも言われる大量の人命と莫大な財産が失われてきたが、この歴史が、上記の考えを補強してきたのは、なるほどとうなずけるところである。
ヘンリー・キッシンジャー博士は、米国の親中派の代表と目される重鎮であるが、回顧録「中国(上)」(岩波書店)の中で、「中国人は、常にぬけ目のないリアルポリティクス(現実的政治)の実行者である」と喝破している。
古来、中国は、権謀術数の国であり、極めて策略的である。そして、中華人民共和国(人民解放軍)を作った毛沢東がそうであったように、中国は「孫子」の忠実な実践者であり、その「戦わずして勝つ」の現代的実践の手段が、中国が三戦として掲げる「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」なのである。
米国防省は、2010年8月の「中華人民共和国の軍事および安全保障の進展に関する年次報告」の中で、中国の三戦について、次のように説明している。
「世論戦」は、中国の軍事行動に対する大衆および国際社会の支持を築くとともに、敵が中国の利益に反するとみられる政策を追求することがないよう、国内および国際世論に影響を及ぼすことを目的とするもの。
「心理戦」は、敵の軍人およびそれを支援する文民に対する抑止・衝撃・士気低下を目的とする心理戦を通じて、敵が戦闘作戦を遂行する能力を低下させようとするもの。
「法律戦」は、国際法および国内法を利用して、国際的な支持を獲得するとともに、中国の軍事行動に対する反発に対処するもの。
いずれにしても、中国の三戦を一言で置き換えれば、「謀略戦」で勝つということである。「謀略戦」は、平・戦両時にわたって展開されるが、特に、平時の戦いにおける主要手段として重視して運用される。
「謀略戦」は、「間諜」(スパイ活動)や「詭道」(相手を偽り欺くこと)などとともに併用され、その狙いは、相手国の意図を測り、油断を誘い、戦備を弱め、そして戦意を挫くことにある。同時に、相手国の同盟関係(日米同盟)を機能不全とし、あるいは解体するにある。
この「謀略戦」は、尖閣諸島などを標的に、すでに我が国に対して広範に仕かけられており、明らかに現在も進行中である。
そして、今後も執拗に続いて行くものと覚悟しなければならない。従って、その狙いと実態を十分に承知し、これに打ち勝つ対中戦略を練り、国を挙げて対応する体制を整備することが必要である。
■謀略戦に乗じられやすい民主国家の弱点
建国以来、米国が、唯一敗北を味わったのはベトナム戦争である。
「孫子」の弟子である北ベトナムのホー・チ・ミン大統領やボー・グエン・ザップ将軍は、その間接的な攻撃と心理戦の原則を自分たちの戦争に適用した。
そして、その巧妙な報道操作によって、南ベトナム国家警察本部長官によるベトコンの銃殺、「ソンミ村事件」に代表されるベトナム住民の虐殺、爆撃で焼き出され裸で泣きながら逃げ惑う少女の姿など、参戦の大義に対する疑念と戦争の残虐さをアピールする映像がテレビなどで繰り返し米国のお茶の間へ持ち込まれた。
米国内では、ベトナム戦争派兵の支持率は急速に低下し、反戦の声は高まり、厭戦思想(気分)が全国規模にまで拡大して米軍の撤退を早めた。ベトナム戦争は、史上初めて、戦場ではなく新聞の紙面やテレビの画面で勝敗が決まった戦争(「テレビ戦争」、「リビングルーム戦争」)だと言われている。
1993年10月、「ブラックホーク・ダウン」で有名になったソマリアの「モガディシュの戦闘」でも同様なことが起こった。米軍の「MH−60ブラックホーク」がソマリア民兵に撃墜された。そして、18人の米兵が殺戮されて市中を引きずり廻されるテレビ映像が公開された。
米国民の間には衝撃が走り、一挙に撤退論が噴出して、ソマリア内戦で発生した難民に食糧援助を行うために参加した平和維持活動(PKO)の目的を果すことなく撤退を余儀なくされた。自由な民主社会における情報の持つ威力である。
一方、中国あるいは北朝鮮のように、共産党(朝鮮労働党)一党独裁で、思想・言論・報道の自由を認めず、強度の統制を行う国家では、このような事態には陥り難い。ちなみに、ソ連邦の崩壊は、「情報公開(グラスノスチ)」が大きなきっかけになったと指摘されている。
このように、強権支配の全体主義国家と自由な民主主義国家との抗争においては、非対称の政治社会体制が戦いの帰趨を左右する大きな要因となり得る。
特に、意見の多様性を認め、情報の自由な発信・交換を認める国家では、政治家、軍隊、国民そしてマスコミまでもが謀略戦の格好の対象となり、敵に乗じられやすい社会環境が存在する。
秘密保護法もスパイ防止法もない我が国は、その不備を深刻に認識し、法制定やマスコミのあり方などを含めて弱点の解消策を真剣に検討する必要がある。
■我が国への「三戦」の仕かけ〜その実態
そこで、現在、日中間で最大の懸案事項となっている尖閣諸島問題を題材に、中国の「謀略戦」の実態について公刊資料を基に概説してみよう。
尖閣諸島は、歴史的にも、国際法的にも我が国の固有の領土であり、我が国が実効支配している。
この尖閣諸島に対して、中国は、自国領土である根拠も、実体も皆無であるにもかかわらず、あたかもそうであるかのように捏造し、略取する「謀略戦」を大胆かつ執拗に仕かけている。誠に不届き千万、厚顔無恥な国家と言わざるを得ないのだが・・・。
そもそも、中国が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは1971年12月である。1968年秋、日・台・韓の専門家が中心となり、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の協力を得て行った学術調査の結果、東シナ海に石油埋蔵の可能性があるとの指摘がなされたのが発端だ。
1972年の日中国交正常化交渉第3回田中・周会談において、周恩来首相は「尖閣諸島問題については、・・・石油が出るから、これが問題になった。石油が出なければ、台湾も米国も問題にしない」(服部隆二著「日中国交正常化」中公新書)とその事実を認めている。
そのうえで中国は、当時、中ソ対立の激化にともない、対ソ戦略上日中講和を急いだため、自ら本問題の一時棚上げを提案した。
しかし、中国の「謀略戦」は、1970年代初頭からすでに始まっていた。その主要な事象を追ってみよう。なお、文末の括弧内は、三戦のうち、どの戦いに該当するかを示している。
1971年、米国サンフランシスコで中国人留学生らが尖閣諸島は中国固有の領土であると主張するデモを行い、これが世界中の中国社会にも拡大されて「保釣運動」へと発展した(世論戦)。
1978年には、約100隻の中国漁船が尖閣諸島に接近し、領海を侵犯して違法操業を行った。この後、中国人活動家などの領海侵犯が繰り返されていく(世論戦、心理戦)。
1992年、中国は「中華人民共和国領海法」を制定し、釣魚列島(尖閣諸島)が自国領であると規定した。(法律戦)なお、翌年(1996年)、国連海洋法条約が発効し、我が国は尖閣諸島周辺における排他的経済水域を設定した。
2003年、厦門市で開催された全世界華人保釣フォーラムにおいて「中国民間保釣連合会」の結成を決定した(世論戦)。
翌年、この連合会などが準備した抗議船2隻は、領海を侵犯し、魚釣島から約3海里地点に20個の石碑を沈めている。尖閣諸島には、かつて中国人が居住していたとの証を作為するためである(法律戦)。
本問題とも関連するが、中国は、2004年4月、我が国の沖ノ鳥島は「島」ではなく「岩」であり、日本の領土とは認めるが、排他的経済水域は設定できないと主張した。
そして、2009年8月の国際連合大陸棚限界委員会において、沖ノ鳥島を「人の居住または経済的生活を維持できない岩」であると認定するよう意見書を提出している。
その主張に反して、南沙諸島西北部の群礁である赤瓜礁には人工建造物を構築しており、自国に有利なように国際法を解釈し、あるいは自国の主張を裏付ける国内法の制定を行うなど、近年積極的な法律戦を展開するようになっている。
2008年には中国国家海洋局所属の海洋調査船2隻が、尖閣諸島付近の領海を約9時間にわたって侵犯した。これ以降、中国は国家機関を表に出して主権を主張するようになり、行動は一段とエスカレートした。
我が国は、翌年、海上保安庁による同諸島周辺の監視態勢を強化するため、PLH型巡視船の常駐化を決めたが、中国外交部は北京の日本大使館に対し「日本が行動をエスカレートさせれば、中国は強硬な反応を示さざるを得ない」と、恫喝まがいの抗議を行った(心理戦、世論戦)。
2010年9月7日、中国漁船が領海を侵犯し、海上保安庁の巡視船の停船勧告を無視して逃走する際、巡視船に衝突を繰り返したため、同船長が公務執行妨害で逮捕・勾留されるという「中国漁船衝突事件」が発生した。
中国政府は、即座に複数の報復措置を繰り出した。
日本との閣僚級の往来停止、航空路線増便の交渉中止、石炭関係会議の延期、日本への中国人観光団の規模縮小、在中国トヨタの販売促進費用を賄賂と断定、日本人大学生の上海万博招致の中止、中国本土にいたフジタ社員4人をスパイ容疑で身柄拘束、レアアースの日本への輸出停止などである。
そして、9月10日には中国の漁業監視船「漁政201」と「漁政202」が尖閣諸島付近の日本の接続水域に侵入するとともに、18日、中国国内4都市では数百人規模の反日デモが組織され、21日、ニューヨークを訪れていた温家宝首相は「我々は(日本に対し)必要な強制的措置を取らざるを得ない」と述べた(心理戦、世論戦)。
これに屈したかのように、民主党政権は、25日、中国人船長を処分保留のまま釈放した。しかし中国政府は、中国人船長逮捕に関して日本に謝罪と賠償を要求するとともに、尖閣諸島海域における「漁政」によるパトロールを常態化させることを決定した(心理戦、世論戦、法律戦)。
昨年(2011年)、香港の民間団体「保釣行動委員会」は、世界各国の保釣運動6団体を結集して「世界華人保釣連盟」(会長は台湾人)を設立した。両岸問題を抱える中台であるが、こと尖閣諸島問題に限ってはこの外交的演出を通して共闘関係にあることを見せ付けようと腐心している(世論戦、心理戦)。
この年は、漁業監視船に加え、中国海軍Y8情報収集機とY8哨戒機、国家海洋局のヘリコプターそして海洋警備機関である海監所属の「Y12」プロペラ機など航空機による活動が活発化してきた。
また、中国の海洋調査船「北斗」と「科学3号」が我が国の排他的経済水域内でワイヤー状のものを下し曳航しているのが度々確認されており、海洋調査を本格化させているのは明らかだ。これらの諸活動が、軍の統制下にあることは周知の事実であり、その行動の三次元化(立体化)が顕著となっている(心理戦、世論戦)。
今年(2012年)になって、中国政府および政府系報道機関は、初めて釣魚列島(尖閣諸島)を、チベット・新疆ウイグル自治区および台湾と同じように中国の「核心的利益」と表現するようになった。
3月には、中国国家海洋局所属の「海監50」と「海監60」が我が国の接続水域に侵入し、このうち1隻が25分にわたって領海を侵犯した。本行動について、同海洋局の海監東海総隊責任者は「日本の実効支配打破を目的とした定期巡視」と述べるまでに至っている。
■最後は、心理的な戦いだ
「孫子」は、中国の春秋時代(紀元前8世紀〜)末に呉王闔廬(こうろ)に仕えた兵法家・孫武が書き残した兵法書と伝えられている。その「孫子」以前に成立していたとされる「囲碁」は、中国人の戦略的思考を色濃く投影している。
碁盤上では、同時に数か所で異なった戦いが繰り広げられるが、それらは相互に絡み合って展開され、最後は支配した領域の多寡をもって相対的優位を争う戦略的包囲戦である。
また、日本の「将棋」や西洋の「チェス」を短期決戦とすれば、「囲碁」は長期持久戦である。
「世論戦」、「心理戦」および「法律戦」は、独立した概念のように分類されているが、尖閣諸島問題に関する中国の対日戦略に見られる通り、実際は相互に密接不可分の関係にあって、三位一体として運用される。中国の三戦は、まさに「囲碁」のゲームの理論に沿って展開されるのである。
「世論戦」は「心理戦」と「法律戦」の展開を促進するため国内外における同調意見の高まりを作為して相手の敵対心を弱め、「心理戦」は「世論戦」と「法律戦」の遂行を可能とするよう相手の意識を攪乱・操作し、「法律戦」は「世論戦」と「心理戦」を助長するための法的布石を打つという具合である。
このように、中国の三戦は、戦略的包囲戦ならびに長期持久戦として巧妙にかつ何年もかけて忍耐強く遂行される。そして、「相手国の為政者と国民の目を曇らせ、心を腐らせる」ことを狙いとし、「熟柿(膿み柿)」になって落ちるのを待つ。
すなわち、敵を絶体絶命の窮地に誘いこみ、戦う前にその軍隊や国が無傷のままで降伏するように陥れるのである。その要訣は、大きな軍事力を背景とした心理的な戦いをもって政治目的を達成することにほかならない。
我が国が、中国の一貫した謀略戦に曝されている重大な事実と深刻な実態を、政府はもとより、国民も重々肝に銘じなければならない。
<筆者プロフィール>
樋口 譲次 Johji Higuchi
元・陸上自衛隊幹部学校長、陸将
昭和22(1947)年1月17日生まれ、長崎県(大村高校)出身。防衛大学校第13期生・機械工学専攻卒業、陸上自衛隊幹部学校・第24期指揮幕僚課程修了。米陸軍指揮幕僚大学留学(1985〜1986年)、統合幕僚学校・第9期特別課程修了。
自衛隊における主要職歴:
第2高射特科団長
第7師団副師団長兼東千歳駐屯地司令
第6師団長
陸上自衛隊幹部学校長
現在:
郷友総合研究所・上級研究員、日本安全保障戦略研究所・理事、日本戦略フォーラム 政策提言委員などを務める。
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