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「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国 韓国の識者が語る韓国人の本音(1) 鈴置 高史

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【早読み 深読み 朝鮮半島】 鈴置 高史
「中国傾斜」が怖くなり始めた韓国 韓国の識者が語る韓国人の本音(1)
日経ビジネス2013年7月18日(木)
 韓国の識者からメールが寄せられた。「韓国の中国傾斜には歯止めがかかる」との意見だ。さっそく話を聞いた。以下は、匿名を強く希望する、このA氏との会話である。
 *対中傾斜に「ちょっと待てよ」
A: 鈴置さんの日経ビジネスオンラインの記事を毎回読んでいます。「韓国が中国にどんどん引き寄せられる」との視点で書かれた一連の記事はとても面白い。実際にその通りですし、にもかかわらず、韓国の新聞はこれほどはっきりと書かないからです。
  ただ、ソウルの空気の微妙な変化にも留意すべきと思います。6月末の訪中時に朴槿恵大統領は大歓迎されました。それを見て韓国人は有頂天になりました。
  でも時間がたつにつれ、朴槿恵政権の対中傾斜に「ちょっと待てよ」というムードが生まれたのです。まず、朴槿恵政権と距離を置く東亜日報が、過度の対中接近を警戒する記事をいくつか載せました。
鈴置: 代表的な記事が7月1日付の、北京特派員の書いたコラム「韓中関係は易交難深――交わりを始めるのは簡単だが深めるのは難しい」ですね。
  「韓中首脳会談で我が国は中国の掌の上に乗ってしまったのではないか」との懸念の表明でした。ほかの新聞が「朴槿恵訪中で韓中関係は蜜月時代に入った。北朝鮮を封じ込めた」と“提灯行列状態”なのに比べ、冷静な書きっぷりが印象に残りました。
 *東亜日報が代弁した不安
  この記事が問題にしたのは、両首脳の共同記者会見で朴槿恵大統領が語った「朝鮮半島の非核化」です。韓国政府はこの文言を「韓中両国が北朝鮮に対する核兵器の放棄要求で合意した」との意味と説明し、誇りました。
  しかし、この記事は「これにより、米国の核の傘からの離脱を韓国が約束したことにもなりかねない」と鋭く指摘したのです。参考になりました。
  ムードに流されずちゃんと書いているな、と思ったのが「我々が信頼を語っている時に、中国は冷静に利己的に国益を計算しているかもしれない」と激しく警鐘を鳴らした部分です。
A: この記事は多くの韓国人の不安を代弁しています。東亜日報は前の李明博大統領と極めて近かった反動もあり、現政権に批判的です。
鈴置: 韓国メディアは5月の米韓首脳会談と合わせ「朴槿恵外交は大成功だ。米中双方といい関係を築きくことで状況をコントロールできるようになった」というノリで書いています。
  ミサイル防衛(MD)などを巡り米国との間にも相当な齟齬をきたしました。韓国の米中天秤外交に関しては当然、米国も苦々しく見ていると思うのですが……(「日本との関係を悪くしたい韓国、良くしたい北朝鮮」参照)。
 *反米、反日はあっても反中デモはない
A: 米国も、韓国の中国傾斜には懸念を深めています。本当にさりげなくですが、東亜日報はコラムでそれを指摘しています。まだ、ほかの保守系紙は政権に遠慮して、中国傾斜への批判や米国の懸念を明確には書きませんが。
鈴置: 政権に対する遠慮だけでしょうか。
A: もちろん中国に対する遠慮もあります。鈴置さんも、ご著書『中国に立ち向かう日本、付き従う韓国』の中で指摘しておられますが、韓国に反日や反米はあっても反中デモはありません。
  日本に対してはあれほどしつこく謝罪を要求するというのに、中国には朝鮮戦争参戦への謝罪を一切求めません。ここにも韓国人の中国に対する事大主義が現れています。
鈴置: 韓国になり代わって弁解しますと(笑い)、韓国は一度だけ要求しています。政府ではなくメディアですが。中韓国交正常化に伴い、初代の駐韓中国大使がソウルに赴任した1992年です。
  初の会見で韓国メディアの記者が「参戦責任」を問うたことがありました。この時、中国大使に「この戦争でまず米軍を引き込んだのは、お前らの方だろうが」と一喝されてしまい、以降、こうした要求はタブーになったようです。
A: 韓国人は中国が怖いのです。だから、最近の急速な対中傾斜にも不安を抱くのです。
 *「中国人でよかった」は本音
  7月上旬のサンフランシスコでのアシアナ航空の事故を報じた韓国のテレビのキャスターが「死亡したのは中国人2人でした。私たちとしては幸いでした」と述べ、問題になりました。
  あれは失言というよりも本音だったと思います。背景には中国人への反感があり、その奥底には対中恐怖感があるのです。
鈴置: 私も「恐中」が韓国を突き動かしていると思います。だからこそ韓国は「怖い中国の懐に飛び込んでしまえばいじめられることはない」と考え「離米従中」に付き進んでいるのではないでしょうか。
A: 鈴置さんの指摘は理屈として正しい。実際、「恐中」が対中傾斜の原動力の1つです。でも、人間には感情というものがある。「怖い人」に近づくのはやはり怖いのです。だから「ちょっと待てよ」という声が出てきたのです。
鈴置: でも、韓国人は帰らざる河を渡ってしまった。軍事的、経済的にこれほどに中国依存を強めてしまった以上、もう、後戻りできないのではないでしょうか。
  6月末の中韓首脳会談を契機に韓国は、北朝鮮のテロや核威嚇への抑止を中国に期待するようになりました(「朴槿恵訪中で韓国は中国の引力圏に入った」参照)。 
 *面従腹背の韓国人
  その後、韓中軍事協力を協議するため訪中した韓国海軍の参謀総長が、中国海軍の最新鋭潜水艦に乗せてもらったのですが、韓国メディアは「両国の軍事面での成熟を示す」(中央日報オンライン7月14日付)などと大喜びしました。
  首脳会談の少し前に韓国海軍を訪ねた日本の安全保障関係者も驚いていました。大佐クラスの軍人が異口同音に「これからは中国の時代だ。米国ではない」と語ったそうです。
 北朝鮮に苛められるたびに、米海軍に「空母や艦隊を送って北を脅して欲しい」と懇願してきたのが韓国海軍なのですが……。
  韓国人は「いざとなれば、中国が北を後ろから羽交い締めにしてくれる」と信じ始めたのです。今さら「中国による抑止力」を手放す気になれるでしょうか、韓国人は。
A: 韓国軍人の中国礼賛。いかにもありそうな話です。ただ、トップへの過剰忠誠の部分も相当にあると思います。韓国では誰でも「朴槿恵大統領は中国寄りだ」と見ていますから、あえてそう言った可能性が大です。
  それに韓国人は面従腹背です。中国人を立てているようで、内心はそうでもないのです。
鈴置: ナントカまじめに忠誠を尽くす日本人の発想で韓国人を見てはいけない、ということですね。でも、経済面からも今回の首脳会談で韓国は中国に「NO!」を言えなくなりました。通貨スワップで生殺与奪の権を握られてしまったからです。
 *いざとなれば世銀総裁が助けてくれる
A: 鈴置さんの見方はスワップに関し、重きを置きすぎていると思います。「我が国は3000億ドル以上の巨額の外貨準備を誇る。だから通貨攻撃はもう受けないし、仮に受けても反撃可能だ。他人の世話にならなくていい」と韓国人は考えているのです。
鈴置: なるほど。主観的にはそうなのですね。でも、韓国の外の世界では「3000億ドル超の外準と言っても、相当部分がすぐに現金化できない怪しい債券に化けていて、韓国は自力では防衛できない」と見切っています(「日韓スワップ打ち切りで韓国に報復できるか」参照)。
  “外”の市場関係者の間では「ホットマネーが韓国から引き始めており、いずれ通貨攻撃を受ける可能性が大きい。その時、韓国は中国のいいなりになる」と見る向きが多いのです。
  これまで頼りにしていた日本とのスワップ枠は、日韓関係の悪化によりほとんど残っていません(『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』第2章4節参照)。一方、中国とは今回の首脳会談で「スワップ枠を延長、拡大する約束を取り付けた」ことになっています。
  でもそれは、韓国高官が匿名で語っているだけ。共同声明では「国際金融危機に共同で対処する」と記されたに過ぎません。
  外貨不足という弱点を持つ韓国は今後、中国を不快にするような行動は一切、慎む必要があります。それは経済面に限らないと思います(「朴槿恵訪中で韓国は中国の引力圏に入った」参照)。
A: 韓国では、いざというときはアジア通貨基金の性格を持つチェンマイ・イニシアティブ(CMI)からドルを引き出せばよい、と信じられています。
  それに世界銀行のトップは韓国系米国人。最後はIMF(国際通貨基金)など国際金融機関が助けてくれる、とも韓国人は楽観しています。
 *「オバマ、習近平の次は安倍だ」
鈴置: CMIはIMFのひも付きです。IMFの承認なしに借り出せるのは総枠の2割。1997年のIMF危機のトラウマから、韓国人は何があってもIMFに頭は下げないでしょうから、CMIは絵に描いた餅と思います。
  CMIの実効性に関しては、米国の金融専門家も「韓国人は分かっているのかな」と首をかしげています。
A: 現実は鈴置さんのおっしゃる通りかもしれません。でも、普通の韓国人は「対中傾斜はしたが、引き返せないほど深入りはしていない」という認識です。
  ですから今後、中国経済が落ち込むとか、米中対立が厳しくなった際には韓国は米国側に戻ろうとします。「過度の対中傾斜」を懸念する声が出始めたのもそのためでしょう。中国経済に不調の兆しが見え始めましたしね。 (明日に続く)
 <筆者プロフィール>
鈴置 高史(すずおき たかぶみ)
 日本経済新聞社編集委員 1977年、日本経済新聞社に入社。ソウル特派員(87〜92年)、香港特派員(99〜2003年と06〜08年)などを経て、04年から05年まで経済解説部長。02年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。
 *上記事の著作権は[日経ビジネス]に帰属します
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