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日本の強い指導者はプラスであって、マイナスではない(Financial Times)

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日本の強い指導者はプラスであって、マイナスではない
JBpress2013.07.19(金) Financial Times(2013年7月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
 日本が何よりも強い指導者を必要としているということは、何年もの間、共通認識だった。好むと好まざるとにかかわらず、日本は今、強い指導者を得ようとしている。
  安倍晋三首相率いる自民党はこの日曜日、参院選で有権者と向き合う。自民党が予想通りに健闘すると仮定すると、安倍氏の連立政権は衆参両院で3分の2の多数を獲得し、既にかなり大きな力を一層強固なものにするだろう。
 これによって、60%台半ばというバブルめいた高さの支持率を誇る安倍氏は、最近の前任者の誰よりもはるかに容易に法律を制定できるようになる。
  同じように重要なことは、決定的勝利が実現した場合、果てしなく続くように見えた日本の首相交代に終止符が打たれることだ。日本の首相は、通り過ぎる台風よりも早く現れては消えていったが、頻繁な首相交代は台風よりはるかに小さな影響しか及ぼさなかった。実際、日本には過去7年間で7人、過去20年間で14人の指導者がいた。
  今週末に大勝すれば、恐らく安倍氏の地位は2016年に予定されている次の選挙まで揺るぎないものになるだろう。そうなれば、安倍氏は、2001年からほぼ6年間の在任期間中に日本を熱狂させ、外国人投資家の興味を引き付けた一匹狼の小泉純一郎氏以来、ずば抜けた強さを持つ首相になる。
 小泉元首相よりも強い力を持つかもしれない理由
  実際、安倍氏は2つの理由から、小泉氏以上に強い力を持つようになるかもしれない。第1に、自民党は派閥や思想上の内輪揉めがないわけではないものの、慣れない野党を3年間経験した後で、しっかりと自党の指導者の味方に付いている。
  第2に、安倍氏は、良かれ悪しかれ、郵政民営化のような争点を巡るパフォーマンスで実際より急進的であると多くの人に信じ込ませた小泉氏よりも、むしろ信念を持った政治家だ。
  安倍氏は、旧態依然とした国家主義と言う人もいる保守主義の深い井戸からモチベーションを得ている。これは、日本に経済的活力を取り戻し、それとともに「偉大さ」を取り戻すことを目指した金融(と恐らくサプライサイド)政策における過激な試みであるアベノミクスの源泉だ。
 これらはすべて、安倍氏に、生まれ変わった改宗者の気迫のようなものを与えている。我々は怖がるべきなのだろうか? 日本が探し求めてきた力強い指導者をようやく得た今、安倍氏は日本を率いて経済的な崖から突き落としたり、危険なほど国家主義的な海洋にくちばしを突っ込んだりするのだろうか? 
 経済に関しては、答えはノーだ。確かに、アベノミクスにリスクがないわけではない。インフレに向かって猛スピードで進むことは、手に負えない物価急騰を招いたり、バランスシートが債券でいっぱいの銀行で問題を招いたりするなど、意図せぬ結果をもたらす可能性がある。それでも、それは取る価値のあるリスクだ。
 日本は何としてでも、所得を維持する助けにはなったが、経済からアニマルスピリッツを奪い取り、国家財政を蝕んだ15年に及ぶデフレ不況を払拭しなければならない。
 経済の領域では、安倍氏のやっていることがすべて正しいわけではないが、大胆な政策を推進する効果的な指導者を持つことは全体として見れば良いことだ。
 社会政策と近隣諸国に対する日本の姿勢という問題に関しては、もう少し心配な面がある。
 日本を「正常化」したいという安倍氏の衝動は理解できるかもしれない。何しろ、日本は、国歌を斉唱したり、兵隊を擁したり、戦没者を追悼するという考えが国内外で議論を呼ぶ事実上唯一の国だ。
■社会政策と外交面では少々心配もあるが・・・
 だが、この問題に対処する安倍氏のやり方は嫌な色合いを帯びており、歴史を塗り替え、そもそも日本をトラブルに巻き込んだ帝国主義的イデオロギーのいくつかの要素を復活させたいという衝動が含まれている。しかし、この点でも、市民社会が危険な右傾化を防ぐ信頼できる安全装置であると信じる理由がある。
 2つの例を挙げてみよう。安倍氏は、1945年の敗戦の後に日本に押し付けられた憲法を書き換えたいという野心を明らかにしている。安倍氏は、軍隊を保持するという――平和主義の憲法9条で禁止されている――国権を回復させたいと願っている。
 安倍氏はまた、天皇を脇に追いやったり、人権の尊厳を国益より上に置いたりしている憲法の「異質な」部分を一部縮小したいとも思っている。だが、安倍氏が成功する可能性は小さい。
 大半の日本人は、たとえそれが単に長い間自分たちを守ってくれたという理由にすぎないとしても、依然として憲法9条に愛着を持っている。憲法の進歩主義的要素を薄める試みにも彼らは懐疑的だ。安倍氏は、憲法改正を容易にするために、自らが提案した計画を後退させざるを得なくなっている。
 安倍氏が切望しているもう1つのことは、第2次世界大戦中に性的奴隷を強要された若い女性たち――朝鮮半島の人も多い――に対して行われた謝罪に手直しを加えることだ。安倍氏の立場は、戦争中にはひどいことが起きるし、日本だけが非難の的になるべきではないというものだ。
 だが、これも成功する可能性は非常に小さい。国民全般より保守的な自民党でさえ、このような動きに出れば、アジアの近隣諸国だけでなく同盟国の米国とも大きな外交問題を生むことを知っている。安倍氏が本当に取り乱さない限り、このような修正主義に公式に足を踏み入れることはないだろう。
■長期政権には多大な価値
 外交的には、強い首相を持つことには1つの大きな利点がある。
 安倍氏のことを大好きであろうと大嫌いであろうと、他国の指導者は、安倍氏が取引のできる相手であることを知っている。近年の指導者の中では唯一、安倍氏は様々な協定を最後まで見届けるだけ長く政権の座にとどまりそうだ。これは非常に価値のあることだ。
 By David Pilling
 *上記事の著作権は[JBpress]に帰属します *リンクは来栖
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