連続殺人−集落住民が見た聞いた容疑者
日刊スポーツ2013年8月8日9時25分
8世帯14人が暮らす中国山地の小さな集落で、一晩のうちに男女5人が次々と殺された。山口県周南市金峰(みたけ)郷で先月21日夜に起きた連続殺人放火事件。集落に住む無職保見光成(ほみ・こうせい)容疑者(63)が殺人、非現住建造物放火の容疑で逮捕され、5人の殺害を認めた。事件発生から2週間が過ぎたが、詳しい動機は解明されていない。8月に入っても、規制線が張られたままの現場を歩いた。集落で孤立していた容疑者の思いと、残された住民たちの癒えない思いが、垣間見えた。
真っ暗な山に囲まれ、薄明るい夜空が狭く見える。
「3年くらい前、犬の散歩をしていた保見さんに『自分はうつ病じゃから、いつ何人殺しても罪は軽いんじゃ』って言われたことがある。でも、4〜5年前までは、うちの犬を見に来て『いい犬だね』なんて言う人じゃったんよ」。近くに住む60代の女性は子どもの時から知っている保見容疑者について、そう話した。
瀬戸内海に近いJR徳山駅から、中国山地へ延びる国道を北に車で約30分登り、さらに山奥に続く県道を東へ20分。峠を越えると、軽自動車もすれ違えない細さになり、携帯電話は通じなくなる。雑木が覆いかぶさった山道を下ると、谷川沿いに水田や木造の民家が見えてくる。事件現場となった金峰の集落だ。
集落の一角にある水色のタイル張りの平屋が、保見容疑者の自宅だ。南隣の山本ミヤ子さん(79)宅は、柱と屋根を残して全焼。100メートルほど離れた貞森誠さん(71)喜代子さん(72)夫妻宅は柱も焼け落ちていた。石村文人さん(80)宅、河村聡子さん(73)宅までも、歩いて10分ほど。現場には、8月になっても「立ち入り禁止」の黄色いテープが張られ、警察官が24時間態勢で立っていた。
保見容疑者宅の玄関には、奇妙な置物が並んでいた。おもちゃの顔が乗った裁縫用マネキン、色のはげたピエロ、民俗衣装を着たヒゲの男性像、招き猫、地蔵、天使…。監視カメラのような物も複数あった。中学の同級生だった男性は「あいつが、タイルの家を建てたころは、あんなものなかった」と話す。
保見容疑者はこの集落の出身で、中学卒業後に上京。川崎市で左官の仕事に就いていたが、約20年前に郷里に戻った。身につけた技術を生かして家を建て直し、両親の介護をしていた。当時は「殺害された山本さんの家のお風呂にタイルを貼ったり、集落でも仕事をしていた」(隣の集落の女性)という。しかし、約10年前に母親、約3年前に父親が死去。次第に、集落の住民とのトラブルを抱え、孤立感を深めていった。
保見容疑者宅の南側を流れる谷川を挟んだ対岸には草むらがある。数年前までは被害者の1人が所有する田んぼだった。しかし、年数回の農薬散布をめぐり「保見さんが『農薬がうちの犬の飲み水に入る』と持ち主に怒鳴り込んだ」(近くの住民)。犬たちのにおいをめぐり、別の住民と口論になることもあった。
夜は、虫の鳴き声と県警の照明の発電機の音しか聞こえない。午後9時ごろには、多くの家が寝静まる。しかし、1年ほど前からは、夕方になると家庭用のカラオケで懐メロを大声で歌う保見容疑者の声が、集落に響くようになった。顔を合わせてもあいさつはかわさない。住民との溝は埋まらないまま時間は過ぎ、7月21日、事件が起きた。
いまだ全容は解明されていない。近くに住む女性は「もうね、火事の跡を見たくない。でも狭い村じゃけ、目に入る。だからもう、ここを出ようかと思ってるの」と話した。事件は、今も住民の心に重くのしかかったままだ。【清水優】
*山口県周南(しゅうなん)市 山口県の東南部に位置。北は中国山地、南は瀬戸内海に接する。03年に徳山市、新南陽市、熊毛町、鹿野町が合併して誕生。山陽新幹線も停車する徳山駅周辺が中心市街地。主な産業は石油コンビナート。下関と並びフグも有名。面積656・32平方キロ。先月末現在の人口は15万182人。
<事件の経過>
▼7月21日午後9時ごろ 山口県周南市金峰の集落で、貞森誠さん宅と山本ミヤ子さん宅の2軒からほぼ同時に出火し全焼。貞森さんと妻喜代子さん、山本さんの遺体が見つかる
▼同9時台 県警が保見光成容疑者の自宅を訪れるが不在
▼同11時ごろ 火災現場近くに河村聡子さんら8人がいるのを県警が確認
▼22日午前8時半ごろ 県警が、放火と殺人容疑で家宅捜索令状を請求
▼同11時半ごろ 火災現場から数百メートル離れた住宅で河村さんの遺体、約30分後に別の住宅で石村文人さんの遺体が見つかる。頭部を木の棒で殴られていた
▼午後0時55分ごろ 保見容疑者宅を捜索
▼26日午前9時5分ごろ 捜査本部が、山中で保見容疑者を発見
▼午後1時35分 殺人と非現住建造物等放火の疑いで逮捕
*上記事の著作権は[日刊スポーツ]に帰属します
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「殺されるかも」被害者夫 山口連続殺人
日刊スポーツ2013年7月27日10時13分
山口県周南市の連続殺人放火事件で、殺害された河村聡子さん(73)の夫が事件前、殺人容疑などで逮捕された保見光成容疑者(63)から「殺されるかもしれない」と周囲に不安を漏らしていたことが27日、住民らへの取材で分かった。
周南署捜査本部も、保見容疑者が以前から、周辺の住民とトラブルを抱えていたことを把握。事件の背景になった可能性があるとみて、詳しい動機を捜査している。
近くに住む女性(62)によると、河村さんの夫は数年前、保見容疑者の自宅近くで稲作をしていた際、水田の管理をめぐり口論になった。夫はその後、周囲に「怖い。殺されるかもしれない」と話し、稲作をやめた。
河村さんの夫は事件発生時には旅行中で、被害に遭うことはなかった。
別の女性(73)によれば、河村さんも、保見容疑者が飼っていた犬について「寄ってきたのでよけたら、『たたき殺す気か』と言われて怖かった」と話していた。
また保見容疑者は町おこしを提案したところ反対されたり、草刈りをして苦情を言われたりしたことなどで、周囲とあつれきを生じていたことを知人らが証言した。
2011年の正月には、保見容疑者が周南署を訪れ「悪口を言われて孤立している」と相談していたことも既に判明。周辺とのトラブルは、自宅で介護していた父親が数年前に死亡してから多くなったと住民らは話す。
周南署捜査本部は27日、殺人と非現住建造物等放火などの疑いで、保見容疑者を送検した。(共同)
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山口連続殺人 平成の「八つ墓村」
日刊スポーツ2013年7月27日9時15分
山口県周南市の連続殺人放火事件で、県警周南署捜査本部が26日、事件後に行方が分からなくなっていた無職保見(ほみ)光成容疑者(63)を、殺人と非現住建造物等放火の疑いで逮捕した。
<碓井真史教授分析>
「八つ墓村」のモデルとなった津山事件に代表される日本の大量殺人事件の典型的なパターンだ。大都会ではなく、のどかな田舎でなぜこんな事件が、と思うかもしれない。しかし、殺人事件の件数は都会が多いが、人口1万人あたりの発生比率は郊外が多い。
農村では、濃厚な人間関係が助け合いの社会を生む。だが、1度関係がこじれ、そこから逃れられないと、やっかいだ。人間の心は嫌なことがあると、そのことを考えないようにする働きがある。だが、嫌なことのあった相手と、毎日顔を合わせなければならない環境では「考えない」ことができない。恨みは考えれば考えるほど深まる。田舎に限らず、人数の少ない学校、会社、都市部でも濃厚な人間関係がある地域なら起こり得る。
大量殺人犯は恐ろしい加害者だが、本人は「自分は不当に虐げられた被害者だ」と思っている。感情が積もり積もった時、最後の最後に「すべて終わりにしてやる」「孤独な被害者がついに立ち上がり、正義の鉄ついを下す」という発想で事件を起こす。津山事件の犯人は自殺し、池田小事件の犯人は死刑を望んだ。日常生活に戻ろうと思っていないのが特徴。保見容疑者は6日目に発見されたが、山で靴すらはいておらず、あっさり自供した。山に死に場所を求めただけだろう。
窓に「つけびして煙喜ぶ田舎者」という張り紙を張り、近所の人に怒鳴り、マネキンや監視カメラを設置した。表面的には「オレは怒っている」と見えるが、裏を返せば「傷ついている」というSOSだ。しかし、表現が不器用で理解されず、さらに孤立が深まる。2年前の正月に、集落での孤立を警察に相談したというが、正月に悩みを話せる相手が警察しかいないところまで、孤立が進んでしまっていたということだ。(社会心理学専門、新潟青陵大大学院教授)
*津山事件 1938年(昭13)5月21日、岡山県苫田郡西加茂村(現津山市加茂町)の集落で起こった大量殺人事件。肺結核から神経衰弱に陥った犯人の都井睦雄(当時22)が、育て親だった祖母や近隣住民を猟銃や日本刀で襲撃。2時間足らずで30人を殺害、3人に重軽傷を負わせ逃走。自らも猟銃自殺した。当時の集落は全戸数22戸で人口111人。のどかな山村集落の惨劇として衝撃を与えた。日本犯罪史上、最多の殺人事件として、今でも語り継がれている。横溝正史の小説「八つ墓村」のモデルとなり、同名映画(1977年公開)でも話題を呼んだ。
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「山口 周南 連続殺人・放火事件」 集落住民が見た聞いた保見光成容疑者/平成の「八つ墓村」
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