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事故乗り越え愛犬「クロ」を介護

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事故乗り越え愛犬を介護
2013年8月9日  読売新聞

     

クロの様子を気遣いながらリヤカーで散歩する柏倉さん
 秋田県横手市の板金業柏倉勇一さん(58)は5年前の夏、愛犬「クロ」(雌10歳)の散歩中に交通事故に遭った。空き地にいて、飲酒運転の車が突っ込んできたのだ。避ける間もなかった。柏倉さんとクロは重体となった。
 柏倉さんは命の危険にさらされ、生きていたとしても車椅子の生活になるだろうと医師から言われた。クロは胸から下の機能を失い、排尿や排便も自分の力ではできなくなった。前足の力だけで体を支えるのがやっとだ。大好きだった散歩も、自宅裏の果樹畑を思いっきり駆け回ることも、二度と出来ない。
 あの日、倒れたままの柏倉さんは「クロ! クロ!」と夢中で叫んだ。車が飛び込んで来ても逃げようともしなかったクロが心配でたまらなかった。遠くに横たわる姿を見つけたとき、もう一度「クロ!」と叫んだ。すると「ここにいるよ、お父さん!」と合図するかのように前足を上げ、無事を知らせてくれたのだった。
 柏倉さんは言う。「クロちゃんは私の前に立ったまま離れようとしなかったのです。今こうして生きていられるのはクロちゃんのお陰です」と。
 あれから5年。懸命にリハビリを続けて歩けるようにまでなった柏倉さんは、クロの介護に全力を尽くしている。
 自宅の一室で寝起きをともにし、1日の大半を一緒に過ごす。介護を始めて2年ほどは、痛みのあるところに触れてしまい、噛(か)みつかれることも少なくなかったという。それでもあきらめずに続けることで、クロに思いが通じたのか、今では世話をしやすいような姿勢を自らとってくれるのだ。
 朝晩の薬を飲ませるのにも一苦労だった。「絶対に飲まないぞ!」と言っているかのように歯を食いしばり抵抗し続けた。それが今では、手のひらに薬をのせてそっと差し出すだけで飲んでくれる。
 クロは今、1日に3回、柏倉さんの押すリヤカーに乗って外の景色を眺めるのが日課だ。元気だった頃を懐かしむように風の匂いをかぐクロはとても幸せそうだ。
 「クロちゃんはどこまでも生きるつもりで頑張っています。私はその日がくるまで一生見守っていきます」。柏倉さんの深い愛情は、しっかりとクロに伝わっている。(佐藤栄子)
 *上記事の著作権は[讀賣新聞]に帰属します


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