【産経抄】8月10日
産経新聞2013.8.10 03:36
真夏のミステリーである。流暢(りゅうちょう)な日本語を操り、ひところはテレビや雑誌などにひっぱりだこだった中国人の朱建栄・東洋学園大教授が、上海で忽然(こつぜん)と姿を消した。先月下旬の話である。▼事件や事故に巻き込まれたのなら、何らかの連絡があるはずだが、まったくないという。現時点では「中国当局に拘束された」との説が最有力だが、彼は中国当局が忌み嫌う「人権活動家」では、さらさらない。▼朱さんは、メディアで「中国は軍事大国ではない」と嘘八百を言い、尖閣問題でも天安門事件でも常に中国共産党の立場を擁護し続けた。日本人だけでなく、在京中国人の一部からも「当局の代弁者」とみなされてきたからこそナゾなのである。▼ただ、テレビなどでの発言が、本心からのものであったかどうかは本人しか分からない。昭和61年に来日した彼は、中国人研究者の顔役的存在で、日中両国に幅広い人脈を持っていた。それがゆえに「二重スパイ」の疑いがかけられたとすれば、両国関係は抜き差しならぬ段階にきている。▼中国公船による尖閣諸島周辺の領海侵犯は、日増しにエスカレートし、先日は冒険家と称する男のヨットまで挑発行為に加わった。あさってから北京で予定されていた民間主導の「東京−北京フォーラム」も中国側の都合で延期になった。▼8月15日を前に、中国がゆさぶりをかけているのは明白である。靖国神社に首相が参拝しなければ、日中首脳会談が実現し、尖閣への挑発もなくなる、との甘いささやきは、いつもの罠(わな)である。靖国に参拝し続けた小泉純一郎首相の時代には、日中首脳会談などしなくても何の支障もなかった。ある日突然、人間が消えてしまう国を、これ以上つけあがらせてはならない。
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ある日突然、人間が消えてしまう国/中国当局の代弁者・朱建栄=「二重スパイ」の疑いがかけられたとすれば
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