【月刊正論】亡国の「失言」バッシング狂騒曲
産経新聞2013.8.7 03:00
そして保守政治は何も言えなくなる…(産経新聞政治部編集委員・阿比留瑠比 月刊正論9月号)
政治家の武器は何といっても「言葉」である。政治家は言葉を駆使して国民に自らの政策や政治信条を訴え、理解と支持を広げなくてはならない。したがって、地位や影響力のある政治家が、自らの発言に十分気を配る必要があるのは言うまでもない。
まして、インターネットがこれだけ普及した現在、政治家の一挙手一投足は注目・監視され、また記録されている。
ついうっかりと口にした不注意な言葉は、たちまちメディアで大々的に取り上げられ、独り歩きを始める。そうなると、いくら本人が真意を説明して誤解だと主張しても、もう耳を貸してはもらえない。
国民は、政治家の金銭問題や下半身スキャンダルより、むしろ「失言」に厳しい。メディアにとっても、調査が面倒で取り上げ方が難しい前者より、後者を報じる方が楽だ。
問題の複雑な背景や事情を考慮することなく、「誰々がこんな発言をした」とただ垂れ流せばいいのだから、ほとんど頭を使う必要もない。それでいて反響は大きいものだから、味をしめてしまうのである。
自身もメディアの片隅に身を置く筆者が言うのは勝手すぎるかもしれないが、残念ながら今後も「言葉狩り」はなくなりそうにない。政治家にはそのことを常に頭に置き、なるべく「言わずもがな」のことは述べずにメッセージを発してほしいと思う。
ここまでを前置きとし、これを前提に本題に入りたい。結論から述べれば、メディアの多くは「左派・リベラル」の政治家の失言には優しく忘れっぽい一方、「保守系」の政治家のそれはとことん追及する傾向がある。
これは甚だ不公平であるが不思議でも何でもない。戦後ずっとメディアの主流が「左派・リベラル」で占められてきたのだから、むしろ当然のことである。
そして、ずっとそんな偏向した「言論空間」の中に閉じ込められてきた国民の側にも、なんとなくリベラル系の失言を容認してしまう癖がついている気がする。
最近でこそ、この偏りはほんの少しだけ是正されてきた。ただ、それでもやはり、大きな方向性は変わらない。
*リベラル派の場合…
リベラル派で親中・親韓の政治家である鳩山由紀夫元首相は6月、北京市内で開かれたフォーラムでこんな発言をした。
「(日本が降伏に当たって受諾した)ポツダム宣言の中で日本が守ることを約束したカイロ宣言は『盗んだものは返さなければならない』としており、中国側が(返還されるべき領土の中に尖閣諸島が)入ると考えるのも当然だ」
元首相ともあろう者が、日本の領土・領海を狙う中国の侵略意図に同調したまさに超弩級の失言、いや暴言である。
そもそも条約でもないカイロ宣言は「法的効果を持ち得ない」(外務省)というのが我が国の立場であり、鳩山氏の主張は全く筋が通らず、中国を利するだけだ。
「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」
刑法81条「外患誘致」はこう定めている。その初の適用例が鳩山氏となってもおかしくないぐらいの無責任発言だったが、メディアの扱いは小さなものだった。
あるいは百歩譲ってメディアにとっては、この万人が認める不世出の愚か者の言葉を大きく取り上げないことこそが良識の発露だったのかもしれない。
だが、当時はまだ民主党籍のあった鳩山氏に対する民主党執行部の対応も生ぬるかった。海江田万里代表は記者団にこう述べた。
「民主党の主張とは大きく異なる。首相を経験した立場もある。その立場をよくわきまえた発言をお願いしたい」
また、細野豪志幹事長は談話を発表して「看過できない」「無責任な発言」などと批判し、「今後こうした国益を損なう発言がないよう厳重に申し入れる」と述べたが、2人とも鳩山氏の処分には一切言及しなかった。
さらにメディアの側にも、こうした微温的な民主党の対応を厳しく指摘する姿勢はみられなかった。本来は「党籍剥奪」ぐらい求めてしかるべきだったろう。
リベラル派で親中・親北朝鮮の政治家である野中広務元官房長官が、尖閣諸島をめぐって「領有権問題棚上げの日中合意があった」と発言した際も同様だ。これも国益に反した「妄言」と言えよう。
野中氏によると、昭和47年9月の日中国交正常化から間もないころ、箱根で開かれた自民党田中派の研修会で、田中角栄首相(当時)がそう講演したそうである。
だが、不特定多数の人が聞いた講演の中身が、今まで外部に一切出なかったという時点で不自然であり、眉唾ものだ。
当時、「棚上げ合意」などなかったことは日中交渉や首脳会談に立ち会った外務省幹部らが証言しており、野中氏の発言は中国側の言い分を代弁したものにすぎない。
この野中氏の発言を唯一の根拠にして、鳩山氏はその後、「棚上げ合意は歴史的事実だ」と言い出すに至る。親中派が中国に操られ、協力して日本の国益を損壊しているようにしか見えないが、やはりメディアは野中氏に優しかった。野中氏を積極的にテレビ番組に招き、言いたい放題語らせるテレビ局もあった。
*保守系の場合…
それでは、保守系の政治家の「失言」はどう扱われるだろうか。自民党の高市早苗政調会長が6月に党兵庫県連の会合で、東電福島第1原発事故に関して次のように述べた際のことを思い起こしてほしい。
「事故を起こした福島第1原発を含めて、事故によって死亡者が出ている状況ではない」
この発言に対し、与野党とメディアから一斉に批判が集中した。続きは月刊正論9月号でお読みください
*上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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