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「スノーデン氏よ、ロシア亡命の呪いに気を付けよ」 ROBERT STONE

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【オピニオン】スノーデン氏よ、ロシア亡命の呪いに気を付けよ
WSJ Japan Real Time 2013年 8月 09日 19:37 JST. By ROBERT STONE
 エドワード・スノーデン氏へ
 モスクワのシェレメチェボ国際空港の乗り継ぎターミナルEからようやく解放され、素晴らしい贈り物とも思えるようなロシアへの亡命許可を手に入れることができて、おめでとう。
 しかし、ウオツカで祝杯をあげる前に、私が昔知っていたもう1人の米国人についての訓話を披露したい。この男性も米国の情報機関と対立し、スパイ行為の罪に問われ、当時はソ連だったロシアに亡命した。そして、彼はロシアにとってもはや価値がなくなると、謎の死を遂げた。
 この人物、エドワード・リー・ハワード氏はモスクワに亡命した唯一の米中央情報局(CIA)元職員だった。彼の亡命から10年ほどたった1993年に私は彼に会った。その後、私は彼の1995年の回顧録「Safe House」のために出版社を見つけた。
 かつてはCIA作戦本部ソビエト担当部門の期待の星だったエドは、米大使館のモスクワ本部での内密潜入捜査のためにCIAで訓練された。しかし、1983年の任務の1カ月ほど前に、日常的なポリグラフ(うそ発見器)でごまかしが表示され、CIAは彼に辞職を要求した。1日にして彼の人生は崩壊した。
 その2年後、出身地のニューメキシコ州で、エドはソ連国家保安委員会(KGB)に情報を売り渡しているという嫌疑を受けた。連邦捜査局(FBI)が四六時中、彼の家に張り込んだ。エドは包囲網が狭まっていることを感知し、CIA訓練中には監視をくぐり抜けることに卓越していた。妻やよちよち歩きの息子を残して静かに立ち去り、何人かのFBI特別捜査官に非常に恥をかかせることとなった。
 TWAゲートウェイのクレジットカードで支払ってビジネスクラスを利用し、エドは米国を離れてフィンランドに向かった。そして、ヘルシンキのソ連大使館に足を踏み入れた。CIAが彼を寒空に追い出したのか、KGBが長年の経験のある工作員を寒空から導き入れたのかは永遠に分からないかもしれない。私の理論は、精神的に不安定で大酒のみの将来のスパイの恨みは地獄よりも恐ろしい、というものだ。いずれにしても、エドは、当時のソ連政府が彼に亡命許可を与えたと発表するまで1年間ほど公式には行方不明となっていた。
 エドはその後15年間、家族と再会を果たそうと、FBIの追跡者から逃げながら、キューバやハンガリー、スウェーデンなどさまざまな共産圏諸国に行った。エドは常にモスクワに戻ってきた。そこではKGB(1991年以降は元KGB)の職員たちが米国の捜査当局から彼を保護すると約束していた。
 FBIは追跡を緩めることはなかった。ソ連の崩壊後、米議会がこの一件を取り上げ、エドワード・リー・ハワード氏が米国で裁きにかけられない限りは米国はロシア向け援助を減らすと脅した。しかし、ロシアは決して彼を引き渡さず、最後まで彼を援助した。
 果たしてそうだろうか。
 ロシアの通信社TASSは2002年、エドがモスクワ郊外の森林の中にあるKGB所有の別荘で酔っぱらって転んで死んだと報じた。首を折って死んだという別の情報筋もいた。同年7月23日、ニューヨーク・タイムズ紙は、米国務省報道官のリチャード・A・バウチャーが「米大使館はエドワード・リー・ハワードが7月12日に死亡したという報告を受けていると述べ、彼の死亡を確認した。別の当局者は、国務省がハワード氏の親近者に死亡を確認したと述べた。ハワード氏の死は彼の人生と同じくらい謎のままだ」と報じた。
 私は最初、その同じ別荘にエドを訪問した。家の間取りを知っているので、私は致命的な不慮の転倒につながるような状況は多くないと報告できる。この話は筋が通らなかった。
 しかし、それは筋が通らないはずだった。私は想像する。2人のKGBの大物が森を目隠しにして家の北側から接近した、と。彼らは静かに階段を上り、裏口のドアから侵入したかもしれない。あるいは、おそらく、単に表のドアをノックし、エドはドアを開けて、ウオツカのボトルを手に予告なしにやって来た2人の友人に会った。
 いずれにしても、窓から押し出すにしても銃弾を使うにしても、ロシア式の処刑は知らせずに背後から行われる。そして、この時も同じだっただろう。その直前にエドは何か聞いただろうか。短い乱闘はあったのか。いずれにしても、この最後の瞬間にエドは何が起こるか分かっていたと私は想像する。頭蓋底への2つの銃弾のかわりに、殺人者たちはおそらく彼の首を折り、仕事を完了してウオツカで乾杯したことだろう。
 いずれにしても、告別式はなかった。
 エド・ハワードはやっとのことで温まりつつあった冷戦の犠牲者だった公算が大きい。ロシアは、ワシントンにできた新たな友人たちをいら立たせる亡命米国人というとげとげしい問題を望んでいなかった。両国がそれぞれ満足するよう、エドの死によって、この問題は解決された。
 スノーデン氏よ、そこで君の出番だ──君のことをエドと呼んでもいいだろうか。確かに米国とロシアはここ数年間、反目している。実際、オバマ米大統領が計画されていたモスクワでのプーチン大統領との会談を中止したことから、現在、状況は特に厄介だ。ホワイトハウスは君に亡命許可を与えたことを、その判断の1要因として挙げた。ロシア政府は、米国側がそれほど怒っていることは愉快かもしれないが、いつの日か両国の関係は再び和らぐだろう。その時こそ、ロシア政府は「より良い関係」あるいは「リセット」という名の下で、対処すべき未解決事項について検討するかもしれない。
 エド・スノーデン氏よ、私の助言は、亡命というギフトを持ったロシアに気を付けるようにということだ。
 (筆者のロバート・ストーン氏は、ロバート・レッドフォード監督映画「The Conspirator」(声をかくす人、2011年)の製作者で、連続殺人犯アンドレイ・チカチーロのロシアでの追跡に基づくHBOシリーズの「Citizen X」(1995年)の共同製作者。)
 *上記事の著作権は[WSJ Japan Real Time]に帰属します
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