残された息子(広島親族間殺人)が語る「母を殺した死刑囚の父へ」
現代ビジネス2013年08月20日(火) フライデー
「この刺青は、死刑判決が下った父と面会してから入れました。過去を背負って生きていくという僕なりの覚悟です。殺された母の無念と、いずれ死刑になる父を忘れないためでもあります」
そう言って背中いっぱいに広がる刺青を見せる大山寛人さん(25)は、'98年と'00年に起きた広島連続保険金殺人事件の犯人で、'11年6月に死刑が確定した大山清隆死刑囚の息子だ。大山死刑囚は'98年に養父の勉さんを鉄アレイで殴ったあと、車の助手席に乗せてブロック壁に激突して死亡させ、交通事故に見せかけて保険金約7000万円をだまし取った。'00年には寛人さんの母親である妻の博美さんに睡眠導入剤を飲ませ、顔を浴槽の湯につけて殺害。車で運んだ妻の遺体を海に落とし、転落事故に見せかけて保険金約300万円を受け取った。
母が父に殺された夜のことを、寛人さんは詳細に覚えている。夜釣りに行こうと父に誘われた当時12歳の寛人さんは、母と3人で広島・宇品港へと向かった。すでに助手席に乗り込んでいた母はぐっすり眠っているように見えたという。父と釣りを終え車に戻ると、母が助手席から消えていた。父は警察に通報し、駆けつけた海難救助隊が照らした海面には、母が無残な姿で浮かんでいた。
「いまでもあのときの場面を夢に見ます。母の着ていたトレーナーのプリントまではっきりと憶えています。いつも自分の叫び声で夢から醒めるんです」
事故死だと信じ切っていた寛人少年は父と二人での生活をスタートさせた。だが、翌'01年に父が経営する会社が倒産。家賃を滞納し、電気もガスも止められ、父に黙って食べ物を万引きしては空腹をしのぐ日が続いたという。
「'02年1月のある日に、父が帰宅するなり『最近、寛人に親らしいことをしてやれてないから、ゲームを買ってあげよう』と声をかけてきました。昔に戻ったようでうれしかったのを覚えています。でも、ゲームショップから出た瞬間、僕の目の前で父は警察に逮捕されました」
引き取られた親戚の家のテレビで見たニュースで、寛人さんは父が犯した罪を知ることになった。
寛人さんが部屋に飾っている母・博美さん(享年38)の写真。いつもおしゃれで、自慢の母だったという
「ブラウン管に映る殺人犯が父だとは信じられませんでした。次第に、養父や母の葬式で見せた涙はウソだったのか、次は僕が殺されたんじゃないか、と怒りや憎しみ、恨みが湧き上がってきました。周囲には『お母さんを亡くしてかわいそうに』と慰められることもありましたが、『人殺しの息子』とバカにされることのほうが多かったですね。非行に走って、補導されて、また白い目で見られる。そんな毎日がイヤで、手首を切りつけたり、睡眠薬を大量に飲んだりもしました」
荒れた生活を続けていた17歳のとき、新聞記事で父の一審死刑判決を知る。「なんでお母さんを殺したんや」と問い詰めるつもりで広島拘置所に向かった寛人さんだが、3年半ぶりに会ったアクリル板越しの父は、「ごめんな……」と涙を流しながらただ謝るだけだった。自分の手で殺してやりたいと思うほどに憎んだ父のやつれきった姿に、寛人さんは何も言うことができなかった。
「3年半分の反省と後悔が、ひと目で伝わってきました。父が死刑になったからといって母は帰ってきません。週に一度の面会を重ねるうち、死んで終わらせるのではなく、生きて反省し続けてほしい、それが母と僕に対する償いになるのではないかと思うようになりました」
その後、寛人さんは証人として出廷し、減刑を訴えたが、重罪を犯した父の判決が覆ることはなかった。
警察庁が発表した「平成24年の犯罪情勢」によると、殺人事件数における親族間殺人の割合は、'03年は42・1%だったのが、'12年は53・5%と、上昇傾向にある。寛人さんは同じ境遇の人に対し、「僕にしかできないことがある」と語る。
「一生独身を貫き、家族を作らないと決めました。だからこうして顔を出して本(『僕の父は母を殺した』朝日新聞出版)を書き、講演をしています。加害者の家族、被害者の遺族、その両方の気持ちがわかる僕にだからこそ、自分の体験を打ち明けられるという人もいる。その声を伝えていくことで、僕が受けたような、加害者の家族に対する差別や偏見をなくしたい。そして、死刑を望まない被害者の遺族もいるということを、世間に伝えていきたいですね」
「フライデー」2013年8月16日号より
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広島2人殺害、死刑確定へ
REUTERS 2011年06月7日 17:19 JST
広島市で養父と妻を殺害し、事故を装って保険金計約7300万円を詐取したとして、殺人や詐欺などの罪に問われ、一、二審判決で死刑とされた元会社社長大山清隆被告(49)の上告審判決で、最高裁第3小法廷は7日、被告側の上告を棄却した。死刑が確定する。大谷剛彦裁判長は「事故死に見せ掛けて計画性も高く、犯行態様も冷酷、非道だ。2人の生命を奪った結果は重大で、死刑はやむを得ない」と指摘した。
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◇ 「死刑囚の息子は仕事に就けない」殺人犯の息子が背負う罪と罰とは? 大山寛人さん 2013-07-01 | 死刑/重刑/生命犯 問題 ◇
NNNドキュメント(日テレ)『死刑囚の子 殺された母と、殺した父へ』 . . .
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大山清隆死刑囚 広島拘置所在監
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◇ 「生きて償いを」=母殺した死刑囚の父へ 大山寛人さん 2012-11-10 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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