軋む世界 米中 新たな火種 【?】南スーダン/資源・安保で覇権争い(激しさを増す情報戦)2011-07-27 | 国際/中国
軋む世界 米中 新たな火種【?】欧州 中国、国債購入 武器に
中日新聞2011/07/27Wed.
ベルリンの首相府で6月28日、ドイツのメルケル首相と中国の温家宝首相が共同記者会見に臨んだ。その場へ次々に登場した両国の閣僚や企業トップが延々30分も、2項目に及ぶ協定書類に署名し、固い握手を交わした。大型商談成立を報道陣にアピールする晴れ舞台だった。
中国から楊潔ち外相ら過去最多の13閣僚が参加した初の独中合同閣僚会合。経済協力の合意は幅広く、主要企業の大型ビジネスも並んだ。
中国が欧州航空機大手エアバスの旅客機A32062機を購入▽独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は中国に新工場を建設し、電気自動車でも協力を推進▽独総合電機大手シーメンスと中国国家発展改革委員会は中国での環境対策の技術開発で提携ーなど、総額百6億ユーロ(約1兆2千億円)にも上る商談となった。
欧州諸国には、中国の巨大市場への期待感とともに、人権問題への懸念も根強い。しかし、中国が、温首相歴訪直前の6月22日、拘束していた芸術家、艾未未(がい みみ)氏を保釈するなど、懸念に配慮するポーズを見せると、ドイツは「法治国家としてのあるべき姿に意見の相違がある」(メルケル首相)と認めつつ、実利優先でビジネスを進める姿勢を前面に出した。
温首相も「今後5年間で両国間の貿易額を倍増させ2千億ユーロにする」と意気込んだ。
中国資本のドイツ進出は著しい。
今年に入ってパソコンメーカーなど7社を買収。独大衆紙ビルトは「中国の侵略」の見出しで報じ、国内の不安を伝えた。「中国は産業スパイから企業買収へと戦術転換した」とする識者の意見を紹介した上で、大型商談成立にも「笑顔の裏に何があるか」と警戒心を隠さない。
実際、中国は目に見えないものをも買おうとしている。温首相は記者会見で、ギリシャに端を発したユーロ圏諸国の国債買い入れを表明。危機にもかかわらずユーロの対ドル相場は1月の1・28?から直近の1・44?へ値上がり。要因の1つが、ユーロ諸国の国債などの中国による購入だ。
中国はこれまで、自国の輸出が有利になるように人民元を売り、ドルを買う為替介入を続け、対米輸出の価格競争力を保ってきた。手元にたまったドルで米国債を大量に買っているが、財政問題抱える米国と道連れになる危険も膨らんだ。
ドルに代わる唯一の投資先が現状ではユーロ。欧州からは感謝もされる。中国がドルからユーロへ振り向ける資金の割合を増やせば、米国の金利やドル相場が悪影響を受ける恐れがあり、中国にとって米国を揺さぶる手段ともなる。
ユーロ危機の下、欧州と米国の足元を見透かしたような中国のしたたかな経済戦術が、欧州への接近をいっそう加速させている。(ベルリン・弓削雅人、ロンドン・松井学)