世界の危機回避へ米債務問題の決着を
日本経済新聞 社説2011/7/29付
米連邦債務の上限引き上げを巡る協議が暗礁に乗り上げている。このままでは米国債の債務不履行(デフォルト)に発展し、世界経済や金融市場が危機的状況に陥りかねない。与野党は党派の対立を乗り越え、債務問題の決着を急ぐべきだ。
米連邦債務は5月中旬に法定上限の14.3兆ドル(約1110兆円)に到達した。8月2日の期限までに上限を引き上げないと、国債を増発できない。高齢者の年金や公務員の給与を支給できず、発行済みの国債の利払いにも支障が生じる。
この問題を放置してきた与野党の罪は重い。市場ではデフォルトへの懸念が強まり、米国発のドル安・株安が世界中に波及した。そのあおりで円相場は1ドル=77円台まで上昇し、東日本大震災後につけた最高値の76円25銭も視野に入りつつある。国内景気の持ち直しを妨げる急激な円高は看過できない。
だが、期限まで1週間を切っても着地点は見えない。与党の民主党は10年間で2.7兆ドルの財政赤字を削減する代わりに、これと同程度の法定上限引き上げを一括して実施したい考えだ。野党の共和党は0.9兆ドル程度の赤字削減と上限引き上げを認め、本格的な追加措置を半年後に検討するよう求める。
来年秋の大統領選を乗り切れるだけの引き上げ幅を確保しておきたい民主党と、2段階の引き上げで歳出カットの上積みを迫る共和党の対立は根深い。昨年秋の中間選挙で旋風を巻き起こした保守系の草の根運動「茶会党」が共和党の若手議員らに圧力をかけ、民主党との妥協を阻んでいるのも問題である。
もはや党利党略に明け暮れている場合ではない。米国債のデフォルトが現実になれば、ドルの急落や長期金利の高騰を招く恐れがある。与野党は危機の回避を最優先し、法定上限を直ちに引き上げるべきだ。
2011会計年度(10年10月〜11年9月)の米財政赤字は過去最大の1.6兆ドルに膨らむ。赤字削減の道筋を示さず、法定上限だけを引き上げれば、米国債のデフォルトを避けられても格下げのリスクは残る。こうした不安にも応えられる合意点を探るのが望ましい。
日本も手をこまぬいてはいられない。主要国とも緊密に連携し、危機管理に万全を期す必要がある。民間企業は電力不足だけでなく、円高加速にも悲鳴を上げている。円高に歯止めがかからないようなら、円売り介入をためらうべきではない。当局がその備えを怠り「状況を注視する」と繰り返すだけでは困る。
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新S 編集局から
日本経済新聞2011/07/29
米連邦債務の上限引き上げをめぐる米議会の与野党攻防が大詰めを迎えています。野党が下院の多数を握る議会のねじれ。その多数党も指導部の思惑通りに動かない分裂状態。日本と変わらないパワーゲームが繰り広げられていますが、世界経済に与える影響は比較になりません。大震災と原発処理に揺れる日本経済には極めて深刻な事態です。首相の進退に最大の関心が集まっている日本の政界に、その危機感が感じられないのは、不思議というほかありません。(M)
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新連載【米混迷大統領選と日本】米国デフォルトめぐる民主党と共和党の死闘
ZAKZAK2011.07.29
来年の大統領選挙を控え、米国は現在、未曽有の混乱状況に陥っている。デフォルト(債務不履行)がカウントダウンに入っているのだ。8月2日までに、米連邦政府の債務上限の引き上げが実現しなければ、米国債はデフォルトとなり、世界経済は大混乱する。当然、日本経済もモロにその悪影響を受ける。
世界経済は2008年9月のリーマン・ショックを上回る大きな衝撃に襲われる。米国債はもちろん、米株式市場は急落し、1ドル=60円台となり、日本経済は円高不況に陥る。
ヨーロッパは金融危機にあるので、ドルの対ユーロ・レートが対円レートほど、急落することはないが、金価格は一挙に1オンス=2000ドル台に急騰するだろう。(ただし、円高のため、金の円建て価格は僅かしか上昇しないだろう)
こういった緊急事態に備え、あのジョージ・ソロス氏は自らが運営するファンドの75%を現金化している、という。未曽有の危機がアメリカ経済のみならず、世界経済を襲おうとしている。
実は、債務上限引き上げに関する第1のデッドラインは、すでに突破されてしまっている。通常の立法化手続きに必要な時間を考慮すれば、7月22日夕刻までに妥協が成立していなければならなかったのである。第2の真のデッドラインが8月2日である。
しかし、オバマ大統領と下院の多数派を占める共和党は、お互いの主張を譲らず、妥協の兆しは一向に見えていない。
オバマ大統領は、ブッシュ前政権時代に行われた富裕層減税の取り消しを主張している。共和党は、社会福祉支出の大幅削減を訴えている。共和党内では、特に、草の根保守派であるティーパーティー派が債務上限の引き上げに原理原則的な反対をしており、後には引かない構えである。
債務上限を引き上げさえすれば、米国債に対する需要はあるので、アメリカは国債をまだまだ増発する余裕はある。しかし、民主、共和両党とも、来年の大統領選挙を念頭に置いており、妥協できないのだ。
オバマ大統領は、たとえ連邦政府がデフォルトをしても、それを共和党の責任にすれば、大統領選挙を有利に展開できると考えている。共和党サイドは全く逆で、デフォルトの原因をオバマ政権に押し付けて、2012年の大統領選挙での政権奪回をもくろんでいる。
ティーパーティー派の代表的論客であり、大統領候補でもあるロン・ポール下院議員は「連邦政府はすでに財政破綻しており、デフォルトを宣言した方が財政赤字を拡大しないためにむしろ望ましい。8月2日以降、高齢者への年金給付がストップするというのは、大統領の戦術的脅迫である!」とまで主張している。
共和党内では、大企業支持派と草の根保守派が鋭く対立しており、来年の大統領選挙では、共和党は分裂することになるかもしれない。(国際政治学者・藤井厳喜)
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米債務問題/円高に歯止めがかからないようなら、円売り介入をためらうべきではない
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