かくも怪しき検察の冒頭陳述
永田町異聞2011年02月08日(火)
石川議員ら小沢一郎氏の元秘書3人に対する初公判で、検察側は起訴事実である政治資金収支報告書の「記載時期ズレ」よりも、起訴事実にない推測的内容である「裏金」ストーリーに重点をおいた冒頭陳述を繰り広げた。
これは、立件した「期ズレ」などは些細な解釈の問題であって、立件できなかった内容のほうが検察にとって重要だということを自ら認めたようなものだ。
どうでもいい軽微な案件で人を捕まえ、それを正当化するために起訴事実にできなかった中身を法廷で持ち出すというのは、いかにも昨今の検察の倒錯的な特質だ。
裏金の授受について、「あった」とする検察の言い分に合理性がなければ、この裁判はすぐにでも決着をつけるべきである。
では、検察側の冒頭陳述における次の部分を見てみよう。もちろんこれは起訴事実には含まれていない内容だ。
「水谷建設の元社長は平成16年10月15日午後、東京都港区赤坂のホテルで石川被告に現金5千万円入りの茶色封筒を手渡した。18日には陸山会の銀行口座に5千万円の入金があった」
つまり、検察は、石川氏が水谷建設から受け取った裏金5千万円を16年10月18日に陸山会の口座に入金したと主張している。
これに対する被告側の冒頭陳述はこうだ。
「16年10月12日、石川被告が小沢元代表から4億円を借り入れた。土地売買契約の手付金などとして支払った1508万円を除き、石川被告によって13日に1億8千万円、18日に5千万円、21日に5千万円、25日に5千万円、27日に5492万円が陸山会の口座に入金され、その合計額が4億円に達している」
16年10月18日に石川氏が陸山会の口座に入金した5千万円は、水谷建設の裏金ではなく、小沢氏から借りた4億円の一部であるというのが被告弁護団の反論である。
4億円−1508万円−1億8千万円−5千万円−5千万円−5千万円−5492万円=0
ぴったり帳尻が合っている。そこで弁護団はこう主張する。
「この客観事実だけで、検察が18日の5千万円を水谷建設からの資金であるとする推論が働く余地はまったくない。資金提供の存否を法廷で争うまでもなく、本件となんら関連性も有しないことは明白で、立証自体許されない」
さらに、10月15日午後、赤坂のホテルで石川氏に現金5千万円を手渡したと検察がいう水谷建設元社長の、その日の行動については次のように指摘した。
「水谷建設の社用車の運転手は自らの手帳に社用車の利用者の氏名、行き先を記載していた。16年10月15日欄には『12:10 東京駅迎え 社長』と記されているのみで、検察が資金提供したと主張する元社長を授受現場とされるホテルに送り届けていなかった」
運転手に問いただせば、元社長をホテルに送ったかどうかはすぐにわかるはずで、検察がそれを聞いていないはずはない。特捜検事が聞いた内容を無視するクセがあるのは村木冤罪事件で周知のとおりだ。
筆者は昨年5月17日の当ブログで「これでいいのか石川議員手帳メモ誤報の後始末」という記事を書いた。検察が主張する16年10月15日の5千万円授受に関する重大な誤報をとりあげたものだ。
これを読んでいただければ、検察のリークと、それを無批判に垂れ流して誤報を量産する大手メディアの不公正がよくわかるはずである。
◇◇◇
石川議員に関する重大な誤報、そしてそれを小さな訂正記事で済ませようとするに新聞社に対し、一市民Tと名乗る方が、孤独な闘いを続けておられる。
ご本人からのメールで知り、当ブログとしても、この問題を取り上げることにした。誤報と判明したさい、新聞はどう責任をとるべきか。読者とともに考えたい。
問題の記事は、ことし1月25日、日経と読売の夕刊に大きく掲載された。読売が四段見出し、日経が五段見出しなので、おそらく一面トップの扱いだったと思われる。どちらも概ね、次のような内容だった。
東京地検特捜部が押収した石川議員の手帳に、水谷建設の元幹部らが5000万円を全日空ホテル(東京都港区)の喫茶室で渡したという2004年(平成16年)10月15日の欄に、「全日空」と書かれていた。
特捜部はこの10月15日に水谷建設の関係者が同ホテルに宿泊していたことを確認。授受の3日後の18日に、陸山会の口座に5000万円が振り込まれていたことも判明している。
以上のように、いかにも授受を一貫して否定している石川議員の供述が偽りであるかのような印象を与える記事になっている。
ところが、翌26日の朝刊で、両紙とも紙面のスミに小さく訂正記事を掲載した。Tさんが購読している日経の訂正記事(全文)は以下の通りだ。
25日付夕刊「手帳にホテル名メモ」の記事で、石川知裕衆院議員の手帳でホテル名の記述がある欄は「2004年10月15日」ではなく、水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期と供述しているとされる「05年4月」の誤りでした。記事、見出しの一部を削除します。
1月25日夕刊の記事は、手帳の「2004年10月15日」欄に、「全日空」と書いてあることを根拠に書かれたものだ。派手に扱った記事を全否定する訂正内容にもかかわらず、目立たぬよう、無機質な短文で済ましている。
また、全日空はホテル名ではなく飛行機その他かもしれず、本来ならこれだけで記事にすることも良識があればできることではない。
それを無理に「飛ばし記事」に仕立てたうえ、次の日には「記事、見出しの一部を削除します」では通らない。ちなみに日経の見出しは「手帳にホテル名メモ」「『現金授受』供述と同じ日」。これが全てである。
一部ではなく、見出しも記事も全てを削除せねばならないはずだ。
さらに、罪深いことがある。訂正記事の「水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期と供述しているとされる『05年4月』の誤りでした」とはどういう意味だろうか。
05年4月の30日間のいずれかの日に、「全日空」と書かれているということなら、なぜそれが「水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期」と関係があるのだろうか。全く書く必要のないことである。
明らかにこれは、自らの大誤報を取り繕うため、「ちょっとしたミス」のような印象を与えるよう姑息な細工を施したものといえる。これでは恥の上塗りだ。(以下省略)
◇◇◇
この記事の中身からも、検察の冒頭陳述における、5000万円授受という話の怪しさが伝わってくる。
新 恭(ツイッターアカウント:aratakyo)
永田町異聞2011年02月08日(火)
石川議員ら小沢一郎氏の元秘書3人に対する初公判で、検察側は起訴事実である政治資金収支報告書の「記載時期ズレ」よりも、起訴事実にない推測的内容である「裏金」ストーリーに重点をおいた冒頭陳述を繰り広げた。
これは、立件した「期ズレ」などは些細な解釈の問題であって、立件できなかった内容のほうが検察にとって重要だということを自ら認めたようなものだ。
どうでもいい軽微な案件で人を捕まえ、それを正当化するために起訴事実にできなかった中身を法廷で持ち出すというのは、いかにも昨今の検察の倒錯的な特質だ。
裏金の授受について、「あった」とする検察の言い分に合理性がなければ、この裁判はすぐにでも決着をつけるべきである。
では、検察側の冒頭陳述における次の部分を見てみよう。もちろんこれは起訴事実には含まれていない内容だ。
「水谷建設の元社長は平成16年10月15日午後、東京都港区赤坂のホテルで石川被告に現金5千万円入りの茶色封筒を手渡した。18日には陸山会の銀行口座に5千万円の入金があった」
つまり、検察は、石川氏が水谷建設から受け取った裏金5千万円を16年10月18日に陸山会の口座に入金したと主張している。
これに対する被告側の冒頭陳述はこうだ。
「16年10月12日、石川被告が小沢元代表から4億円を借り入れた。土地売買契約の手付金などとして支払った1508万円を除き、石川被告によって13日に1億8千万円、18日に5千万円、21日に5千万円、25日に5千万円、27日に5492万円が陸山会の口座に入金され、その合計額が4億円に達している」
16年10月18日に石川氏が陸山会の口座に入金した5千万円は、水谷建設の裏金ではなく、小沢氏から借りた4億円の一部であるというのが被告弁護団の反論である。
4億円−1508万円−1億8千万円−5千万円−5千万円−5千万円−5492万円=0
ぴったり帳尻が合っている。そこで弁護団はこう主張する。
「この客観事実だけで、検察が18日の5千万円を水谷建設からの資金であるとする推論が働く余地はまったくない。資金提供の存否を法廷で争うまでもなく、本件となんら関連性も有しないことは明白で、立証自体許されない」
さらに、10月15日午後、赤坂のホテルで石川氏に現金5千万円を手渡したと検察がいう水谷建設元社長の、その日の行動については次のように指摘した。
「水谷建設の社用車の運転手は自らの手帳に社用車の利用者の氏名、行き先を記載していた。16年10月15日欄には『12:10 東京駅迎え 社長』と記されているのみで、検察が資金提供したと主張する元社長を授受現場とされるホテルに送り届けていなかった」
運転手に問いただせば、元社長をホテルに送ったかどうかはすぐにわかるはずで、検察がそれを聞いていないはずはない。特捜検事が聞いた内容を無視するクセがあるのは村木冤罪事件で周知のとおりだ。
筆者は昨年5月17日の当ブログで「これでいいのか石川議員手帳メモ誤報の後始末」という記事を書いた。検察が主張する16年10月15日の5千万円授受に関する重大な誤報をとりあげたものだ。
これを読んでいただければ、検察のリークと、それを無批判に垂れ流して誤報を量産する大手メディアの不公正がよくわかるはずである。
◇◇◇
石川議員に関する重大な誤報、そしてそれを小さな訂正記事で済ませようとするに新聞社に対し、一市民Tと名乗る方が、孤独な闘いを続けておられる。
ご本人からのメールで知り、当ブログとしても、この問題を取り上げることにした。誤報と判明したさい、新聞はどう責任をとるべきか。読者とともに考えたい。
問題の記事は、ことし1月25日、日経と読売の夕刊に大きく掲載された。読売が四段見出し、日経が五段見出しなので、おそらく一面トップの扱いだったと思われる。どちらも概ね、次のような内容だった。
東京地検特捜部が押収した石川議員の手帳に、水谷建設の元幹部らが5000万円を全日空ホテル(東京都港区)の喫茶室で渡したという2004年(平成16年)10月15日の欄に、「全日空」と書かれていた。
特捜部はこの10月15日に水谷建設の関係者が同ホテルに宿泊していたことを確認。授受の3日後の18日に、陸山会の口座に5000万円が振り込まれていたことも判明している。
以上のように、いかにも授受を一貫して否定している石川議員の供述が偽りであるかのような印象を与える記事になっている。
ところが、翌26日の朝刊で、両紙とも紙面のスミに小さく訂正記事を掲載した。Tさんが購読している日経の訂正記事(全文)は以下の通りだ。
25日付夕刊「手帳にホテル名メモ」の記事で、石川知裕衆院議員の手帳でホテル名の記述がある欄は「2004年10月15日」ではなく、水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期と供述しているとされる「05年4月」の誤りでした。記事、見出しの一部を削除します。
1月25日夕刊の記事は、手帳の「2004年10月15日」欄に、「全日空」と書いてあることを根拠に書かれたものだ。派手に扱った記事を全否定する訂正内容にもかかわらず、目立たぬよう、無機質な短文で済ましている。
また、全日空はホテル名ではなく飛行機その他かもしれず、本来ならこれだけで記事にすることも良識があればできることではない。
それを無理に「飛ばし記事」に仕立てたうえ、次の日には「記事、見出しの一部を削除します」では通らない。ちなみに日経の見出しは「手帳にホテル名メモ」「『現金授受』供述と同じ日」。これが全てである。
一部ではなく、見出しも記事も全てを削除せねばならないはずだ。
さらに、罪深いことがある。訂正記事の「水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期と供述しているとされる『05年4月』の誤りでした」とはどういう意味だろうか。
05年4月の30日間のいずれかの日に、「全日空」と書かれているということなら、なぜそれが「水谷建設の元幹部が小沢一郎氏側への2回目の現金提供の時期」と関係があるのだろうか。全く書く必要のないことである。
明らかにこれは、自らの大誤報を取り繕うため、「ちょっとしたミス」のような印象を与えるよう姑息な細工を施したものといえる。これでは恥の上塗りだ。(以下省略)
◇◇◇
この記事の中身からも、検察の冒頭陳述における、5000万円授受という話の怪しさが伝わってくる。
新 恭(ツイッターアカウント:aratakyo)