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「山口 周南 連続殺人・放火事件」 連続放火殺人の集落で見たものは…山口・八つ墓村あれから起きたこと

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「賢者の知恵」特別ルポ 「連続放火殺人」の集落で見たものは…山口・八つ墓村あれから起きたこと
 現代ビジネス 2013年09月02日(月) 週刊現代
 山口県周南市の限界集落で起きた5人殺人事件には、いまだに多くの謎が残されている。事件が起きてから1ヵ月が過ぎたいま、あらためて真相を探ってみると、驚くべき事実が浮かび上がってきた。
*そこに入ってはいけない
「保見の家の中を見たことはないだろ。居酒屋風になっとるんだ。サロンみたいになっていて、いつでもお客が来られるようにしていたんだよ。言ってみれば彼は?泣いた赤鬼?なんだ。保見という心の弱い赤鬼が、人に認めてもらえない寂しさを爆発させ殺人を犯してしまったんだよ」(保見光成容疑者をよく知る知人)
 7月21~22日にかけて山口県周南市で起きた5人連続殺人事件から1ヵ月が過ぎた。5人全員を木の棒で撲殺、うち山本ミヤ子さん、貞森誠さん・喜代子さん夫妻に至っては殺害後、住宅に放火までされるという凄惨な事件だった。
 過疎が進む地方の集落で起きたこの事件は、多くの人々に横溝正史の小説『八つ墓村』を思い起こさせた。保見光成という得体の知れない男が起こした凶行の裏には、いまだ多くの謎が残されている。事件から1ヵ月が経ったいま、?八つ墓村?はどうなっているのか—。
●事件が起きた集落はいまどうなっている?
 事件が起こった周南市金峰地区郷集落は、全部で8世帯のみ。集落は道路を挟んで2つに分かれており、片方の地区には保見と山本ミヤ子さん、貞森さん夫妻が住んでいた3軒がある。ここは隣の集落・菅蔵につながる道路が通っているため、保見が逮捕された翌日から規制が解かれている。しかし、保見の自宅と、山本、貞森宅の前はいまだ立ち入り禁止のままなのだ。
 道の反対側には残りの5家族が暮らしているが、事件から1ヵ月経った今でも規制は解かれていない。地区の真ん中を走る道路の端から端まで規制線で遮られていて、地域住民と警察関係者、親戚、知人しか中に入ることができない。
 周南署の副署長によると、9月いっぱいは規制を続けるという。
●事件をくぐり抜けた集落の住民はどうしている?
 今回の事件では、郷集落の8世帯12人のうち5人が殺害された。そんな状況の中、集落の生き残りとなった人々は何を思い、どう暮らしているのか。集落の近隣に住む男性が言う。
「いまあの村に残っている人たちは、外に出る用事もないし、家の周辺で農作業や草刈りをしとるぐらいやな。彼らもこの事件をどう受け止めればいいのか、まだわからんのだと思う」
 事件後も郷集落の住民と会っているという人物は、彼らの心境についてこう話した。
「事件から1ヵ月経って、少しずつ住民たちも落ち着いてきているよ。いつまでも怖がってばかりもいられないしね。事件のことも、特に話題にしたりしない。それでも、これから自分たちがどうしていくのか、どうやってこの地域を守っていくのか、みんな心配しているみたいだ」
*遺骨は帰宅できず
●犯人の家は今どうなっている?
 保見の自宅は立ち入り禁止の規制が敷かれ、ガレージにビニールシートがかけられているため、中をうかがうことはできない。が、多くのメディアが取り上げたように、保見の家は集落の中で一風変わったムードを漂わせている。
 敷地内には2棟が並んで立っており、片方は木造、もう一方はタイル張り。奇抜なのはタイル張りの方だ。保見は中学卒業後に上京し、神奈川県川崎市で左官の仕事をして暮らしていた。'94年に帰郷し、実家で両親の介護にあたる一方、左官の技術を生かし、集落の家の修繕を引き受けるなどしていたという。タイル張りの建物も自分で建てた。
 玄関前にはオブジェや陶器の人形が置かれ、屋根からはCDが連なるような形でぶら下がっている。玄関横には上半身だけのマネキンが立っており、胸の部分には乳房をかたどるようにCDがつけられている。
 とにかく人とは違う方法で自分を表現しようとする保見。この自宅も、そんな保見の自己主張が表れたものなのだろう。
●被害者たちの葬儀は行われたのか?
 5人もの住民が殺害された今回の事件。被害者たちの葬儀は行われたのだろうか。近隣に住む住民が言う。
「被害者たちの葬式はもう全部終わったよ。親族を集めた密葬みたいな感じでやったと聞いちょる。そのなかでも、石村文人さんの葬式が一番先に行われた。その後に山本ミヤ子さんがやって、貞森さん夫妻は一番最後にやった。実は、犯人が逮捕された頃までにはもうみんな終わらせたんや」
●遺族たちはお盆をどう過ごしたのか?
 前出の近隣住民は続ける。
「河村聡子さんと石村さんの遺族は、まだ警察の検分なんかで家に入れんから、お寺に骨を預けていると言っとったな。河村さんの旦那さんはいま自分の娘のところにおるんや。9月にならないと親族も自宅に入れないようだ。盆の前に石村さんと山本さんの親戚の家に寄ったけど、遺族の人たちは犯人に対しては何も言うとらんかったな」
●いじめはあったのか?
 保見と郷集落の住民との間には深い溝があり、軋轢が生まれていた。そのなかで注目を集めたのが、郷集落の住民が保見に嫌がらせをしていたという?いじめ情報?だ。
 一部では、草刈りの際、保見の農機具が草と一緒に燃やされてしまったとか、飼っている犬が臭いと文句を言われ農薬をかけられたなどといったトラブルも報道されている。また保見は2011年に「集落の中で孤立している」「近所の人に悪口を言われて困っている」と周南署に相談した事実もある。そのため、保見が閉鎖的な集落で疎外され、いじめに対する不満が爆発したのではないかという?同情論?も起こった。
*犯人が出していたサイン
 では、実際にいじめの事実はあったのだろうか。郷集落で暮らす住民の一人が重い口を開いた。
「メディアは、よってたかって彼をいじめたと報道していますが、誰もいじめていませんよ。溶け込まなかった彼の弱さもありますし、被害妄想だと思う」
 他にも、住民の側からは保見に対して「家の周囲に勝手に除草剤を撒かれた」「殺してやると怒鳴られた」などの訴えが出ている。先の住民が続ける。
「こういう小さな地区では和が大切なんです。それを彼に教えてくれる人がいなかったんだと思う。彼は両親が亡くなってから集落の人たちとの関係がおかしくなった。みんな、そこまで彼が切羽詰まっていたことがわからなかった」
 保見としては、村八分にされた心境だったのだろうか。実際にいじめがあったのか、それとも妄想の産物だったのか。犯行動機に関わる重要な点であるだけに、早急な事実の解明が求められる。
●「つけびして」の貼り紙の真意は?
 今回の事件で、その不気味さの象徴として扱われてきたのが、保見の自宅窓に貼り付けられていた『つけびして 煙り喜ぶ 田舎者』と俳句もどきの一文が書き殴られた一枚の紙だ。
 事件発生当初からこの貼り紙は様々な憶測を呼んだ。例えば?つけび?という言葉が放火を連想させるため、貼り紙自体が保見の「犯行声明」だとする説。しかし一方では、集落の人たちが農作業後に燃やす田畑の煙が、保見の家の方向に流れ、迷惑をこうむっていることに対する「抗議」ではないかという解釈もされ、貼り紙の真意は謎に包まれたままだった。
 逮捕後、保見はこの貼り紙について、担当弁護人に「?つけびして?は、集落内で自分の悪い噂を流すこと。?田舎者?は集落の人を指す。(紙を貼りだしたのは)周囲の人たちの反応を知りたかった。自分の中に抱え込んだ気持ちを知ってほしかった」と語った。
 貼り紙は、村人たちに自分の寂しさに気づいて欲しいという、保見なりのサインだったというのだ。しかし、一般的に考えればこの貼り紙は住民にとっては不気味であり、真意を図りかねるものだったろう。人に何かを伝えたいのに、屈折した方法でその感情を表に出してしまう。このエピソードからも、保見の複雑で人に誤解を与えやすい性格が浮かび上がってくる。
●犯人は今どこにいる?
 事件発生から5日後の7月26日、自宅から約1kmの山中で身柄を拘束された保見。県警は同日、任意同行先の周南署で山本さんに対する殺人及び非現住建造物等放火容疑で逮捕し、翌日、山口地検に送検した。
 その後、保見は周南署に戻り勾留されていたが、8月5日に地検は10日間の勾留延長を山口簡易裁判所に申請。続いて15日には貞森さん夫妻に対する殺人等の容疑で再逮捕。17日に送検された後、再び周南署に戻り、現在も取り調べが続いている。河村さん、石村さんの殺人容疑についても、近々逮捕、送検されるとみられる。
 通常、刑事事件が起きた際には容疑者逮捕から最大で23日以内に起訴・不起訴が決定する。しかし本件で保見は複数の殺人を起こしており再逮捕が繰り返されるため、起訴が決定するのはまだ先となる。
●犯人はいま何を語っているのか?
 逮捕された直後の周南署副署長の話によると、保見は事情聴取に対して暴れるような様子もなく、大人しく捜査官の話を聞いていたという。ただ、自分が殺害した被害者たちとの関係などに言及できる状態ではなかったようだ。
 逮捕から日が経つにつれ、「被害者や遺族に対して申し訳ない気持ちがある」と弁護人に話すなど、少しずつ事件についての思いを語り出している状況だ。しかし、遺族に対する謝罪の弁を述べた直後に「過去にいろんなことがあった」という言葉も漏らしたという。5名もの人間を殺しながら、被害者たちに対する恨み辛みはなくならないようだ。
 また、保見は事件当日に大量の睡眠薬を摂取し、当時の記憶が曖昧だと語っているという。犯行当時の責任能力に関わるこの問題は、今後大きくクローズアップされる可能性がある。
*愛犬とは永遠の別れ
●弁護人はどんな人がついているのか?
 事件の担当弁護人は、山田貴之弁護士と沖本浩弁護士の2名。両氏とも山口県弁護士会所属で、国選弁護人として選任された。山田弁護士は、山口地検と山口県警に対して、取り調べの全過程を録音、録画する全面可視化を申し入れ、また保見との接見を毎日行うなど、意欲的な弁護活動を行っている。
 今後、保見の代弁者である両氏の役割は極めて重要となってくる。
●犯人の親族はどうしている?
 郷集落からおよそ10km離れた場所に住んでいた姉は、保見が逮捕された直後に事件の混乱を避け、身を隠した。現在でも姉の家には人が戻ってきた様子はなく、もぬけの殻のまま。事件が落ち着くまでは、家に戻ることはおそらくないだろう。
●愛犬はどうなった?
 保見は自宅でゴールデンレトリバーを飼っていた。オリーブという名前で雄の8歳(推定)。事件後家に置き去りにされていたが、事件発生から4日後、動物愛護団体によって保護された。ところが翌日、保見が身柄を拘束された1分後に急死してしまう。
 ことの経緯が、愛護団体のブログに詳しく書かれている。それによると、愛護団体は事件発生後、市から相談を受け犬を預かることになった。市の職員が犬をケージに入れて運んできたが、同団体にはシェルターがないことや、飼い主が殺人事件の容疑者であるため犬の安全を考慮して、近県の団体に受け入れを依頼。動物病院で受診後、その団体に託した。
 スタッフによると、食欲もあり落ち着いた様子だったというが、7月26日朝、状態が急変。動物病院へ緊急搬送されたがそのまま死亡した。死因は心臓発作だという。愛犬は、自分の主人と二度と会うことはできないことを悟っていたのだろうか—。
 事件から1ヵ月が経った?八つ墓村?には、いまだに深い傷跡が残されている。住民の傷が癒える日はいつ訪れるのだろうか。 「週刊現代」2013年9月7日号より
 *上記事の著作権は[現代ビジネス]に帰属します
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