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認知症の親が加害者になってしまったら、賠償をどのように負わなければならないのか

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自動車事故を起こす 近所の畑から野菜を取る 火事を延焼させる 器物破損…認知症の親が加害者になった時、子どもの責任は…
 (週刊朝日 2013年11月29日号配信掲載) 2013年11月20日(水)配信

認知症の親が事故や事件に遭って被害者になる。そんな心配をする人は多いだろう。だが、認知症の親が被害者ではなく、加害者になってしまったら……。子どもはその責任、賠償をどのように負わなければならないのか。認知症が急増する超高齢化時代、切実になってきた様々な問題を徹底検証した。

 都内に住む51歳の中村洋美さんは、認知症の父が起こしたトラブルで、総額800万円近くの賠償金を背負った経験がある。
 12年前に64歳で亡くなった父は、50代で認知症を発症した。発症直後は、まだ若く、体力もあったため、徘徊に悩まされた。母が入浴しているなどのすきを見ては、家を出てしまう。近所の畑から大根を掘ってきたり、栗を大量に拾ってきてしまう。そのたびに農家の方にお金を支払った。
 あるときなどは、工事現場に入って建設車両を動かし、建設中のブロック塀を壊してしまった。
 父は建設業で働いていたため、運転できたのだ。その建設会社からは、80万円近く請求された。もちろん支払った。父が事故を起こすのが怖くて自家用車は廃車にした。
「父が損害を与えてしまった方に、お詫びしては私と母で賠償金を支払う日々でした。結局、病状が進行して入院するまで、それが続きました」(中村さん) 
 今年8月、認知症の親を持つ子どもにとって、不安と危惧を抱かせる一つの判決があった。
 2007年、愛知県の91歳の男性が列車にひかれて亡くなった。男性は以前から認知症を患っており、当時85歳の妻が介護していた。神奈川に住む長男の妻も、介護のため近所に引っ越してきていた。だが、二人がふと目を離したすきに男性は家を出て、徘徊、線路に入ってしまったのだ。
 裁判所は、注意義務を怠ったとして、妻と長男に約720万円を鉄道会社に支払うよう命じたのだ。
「あの判決を見て、昔の自分と重なりましたね」(前出の中村さん)
 いまや300万人を超える認知症の高齢者。20年には、410万人に達するといわれる(厚生労働省2012年調査)。
 介護ジャーナリストの小山朝子さんは、認知症の介護の大変さをこう語る。
「ほかの介護に比べ認知症介護が大変なのは、脳の働きに異常が生じても体は元気という状態がありえることです。私は、自分では動けない祖母を介護しました。医療処置も必要で、定期的にたんの吸引や排泄介助をしなければならず大変でしたが、多少は目を離せます。ですが、体が元気な認知症患者は、徘徊などの問題行動をとってしまいます。家族や介護者はつねに注意を払っていなければいけないのがつらいところです」
 こうした認知症患者が、「期せずして“加害者”になるケースは、ありえる」と語るのは、『よくわかる認知症の教科書』(朝日新書)などの著作があり、認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長の長谷川和夫医師だ。
「認知症とひと口にいってもいろいろあります。そのなかで警察沙汰になってしまいやすいのが前頭側頭型認知症(ピック病)です。脳の前頭葉や側頭葉に萎縮が起こる病気です。周囲を無視して本能のおもむくままの行動をとってしまうという症状があります。具体例としては、店の商品をおなかがすいたからといって食べてしまう、進みたければ赤信号でも平気で渡ってしまう、などの社会性を欠いた行動です」(長谷川医師)
 認知症は、現在、70種類ほどあると考えられている。4大認知症といわれるのは、「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」だ。なかでも、前頭側頭型認知症は、独特の症状のひとつに、反社会的で、ゴーイングマイウエイ型の行動があり、必然的に、結果として犯罪行為とみられる行動をとってしまう。
 認知症の家族から多くの相談を受けてきた認知症の人と家族の会三重県支部の下野和子さんもこう話す。
「万引きと捉えられてしまう行動をとる認知症の高齢者はいますね。ある認知症の女性は、スーパーで商品を持ったまま店を出ようとしました。警備員に見つかり、警察を呼ばれてしまいました。家族は遠くに住んでいたため、ケアマネジャーが駆けつけ、認知症の症状のひとつだと説明したものの受け入れてもらえません。結果、翌日に家族が迎えにくるまで警察に勾留されたケースもありました」
 おりしも15日に公表された「犯罪白書」(法務省)によると、高齢女性の万引きが急増しているという。
*免許更新の検査 75歳以上に義務
 では、事件や事故を起こしてしまったら、どうなるのだろう。ベリーベスト法律事務所の今成文紀弁護士はこう解説する。
「たとえ認知症の方でも、事件や事故の加害者になってしまった場合は、たいていは認知症ではない方と同じように罪に問われたり、賠償責任を負います。賠償金も、請求される金額は変わりません。“認知症である”というだけで、当然に賠償額が減るわけではないのです。とはいえ、認知症の程度によっては、賠償額の算定にあたり考慮されることはあります」
 近年、高齢者の交通事故も目立つ。政府広報オンラインでも「高齢者が交通事故の『加害者』となるケースも増えています」と警鐘を鳴らす。
 09年からは、75歳以上の高齢者の免許更新には、講習予備検査(認知機能検査)や高齢者講習が義務付けられるようになった。検査の結果、認知症の疑いがある場合は、さらに臨時適性検査(専門医の診断)を受ける。それでも認知症と診断されれば、免許停止もしくは取り消しとなる。
 とりわけ地方では、高齢者の運転は社会問題といえる。買い物に行くにも病院に行くにも車は不可欠だ。認知症の疑いがあっても、つい日常の不便さに負けて、運転してしまうケースもある。認知症と自動車運転についての研究を行う高知大学病院精神科の上村直人医師はこう注意を促す。
「なんらかの認知機能の低下をきたしている認知症ドライバーは約30万人いると考えられています。認知症の中程度から重度の場合は、運転はやめたほうがいいでしょう。前頭側頭型認知症は軽度から中止すべきです。私たちの行った調査では、前頭側頭型認知症の交通事故率は、63・6%。認知症患者の平均40・9%よりはるかに高い数字です」
 免許更新の検査に引っかかり、上村医師のところへ受診にきた88歳の男性は、以前から信号無視などの違反もあった。上村医師は前頭側頭型認知症と診断した。そう告げると、「車がないと困る」と言い張った。同居の息子も「なんとかならないか」と言う。だが、男性は免許停止となった。
 免許停止になる前に、親に運転をやめさせたい場合はどうしたらいいか。上村医師は次のようにアドバイスする。
「親に対して、『認知症だから運転はやめて』という言い方では反発が強くなります。『運転しなくても、周囲が生活を支えるので、リタイアを考えてください』というような言葉で親を尊重しつつ話すことが大切です」
 だが、説得が功を奏さず、自動車事故を起こしてしまった場合は、どうなるか。
「自動車を運転できるほどなら、認知症でも罪を問われる可能性が高い」と断言するのは、東京弁護士会高齢者・障害者の権利に関する特別委員会副委員長を務める元橋一郎弁護士だ。
「交通事故の場合は、保険に入っていれば、保険金がおり、子どもがお金を払う可能性は低いでしょう。ただ、事故を起こした高齢者の認知症のレベルや状況によっては、保険金が減額、あるいは全額出ないことはありえます。たとえば、飲酒運転で事故を起こした場合は、加入している保険の約款にある『免責事項』により、おりないのと同様です。認知症の症状や状態によって免責事項に引っかかるかどうかはケース・バイ・ケース。保険約款を確認しておくといいでしょう」(元橋弁護士)
 親の加入している保険約款を確認しておくことはもちろん、保険が切れていないかどうかも気をつけておきたい。
 これからの時代、ますます認知症の親が起こした事故や事件の責任を問われるケースは増えるだろう。だが、加害者にしたくないからと、縛りつけたり、家に閉じ込めるわけにはいかない。かといって、国の財源不足、高齢者人口の急増で、介護施設は不足気味、施設介護もハードルが高い。おりしも国は、特別養護老人ホームの入所を要介護3以上にかぎると法改正する方針を示している。介護は“施設から家庭へ”の流れがあきらかだ。
*加害者リスクを減らす防衛術
 どうすれば、加害者になるのを防げるのか。
 ひとつには、認知症の症状を抑えることだ。
「認知症は、適切な治療を受ければ、症状を抑えたり、進行をゆるやかにできます。家族や介護者に正しい知識があり、周囲の理解が進めば、かなりの数の事故を減らせます」
 と前出の長谷川医師は断言する。専門医への早めの受診が望ましい。とはいえ、親に対して、「認知症だから病院へ行こう」と言いづらい人もいるだろう。提案したとしても「私が認知症だなんて!」と怒りだす親もいるかもしれない。
「いきなり病院に連れていくのでは、抵抗感を示す親も多いでしょう。また、医師の前では普段の様子がうかがえないくらいシャキッとする方もいます。まずは認知症の症状が出ているときの様子を動画に撮影しておき、それをもって家族が医師の話を聞きに行くのも一案です」(前出の小山さん)
 事故や事件が起きたときのためには、「保険」も考えたい。損害保険業界の関係者はこう話す。
「現状では、認知症の方を対象とうたう保険はありません。ただ、基本的に“認知症だから”という理由で、加入できない損害保険があるわけではありません。入っておくのも一つの方策です。ですが、ひと口に認知症といっても症状やレベルも人それぞれです。保険金をお支払いできるかどうかは一概にはいえません」
 重度の認知症であれば、保険の免責事項の心神喪失状態にあたり、保険金が出ないこともあるという。
 前出の今成弁護士は保険利用をすすめる。
「どんなに対策しても事件や事故の加害者になる可能性はありえます。ただ、保険に入っておけば、賠償金を支払うリスクは減らせる可能性があります。認知症の人の保険ができれば一番ですが、それがない現状では、既存の保険に加入するのがリスクを軽減する手段といえるのではないでしょうか」
 親が認知症かなと思ったら、早めに専門医を受診、適切な治療を受ける態勢をとりつつ、保険をかけておく。これも親孝行のひとつといえるかもしれない。 本誌・大田原恵美
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