特別レポート 暴走する隣国のドン 習近平、この男大丈夫!? 「戦争の準備をせよ」「逆らうものはタイホせよ!」「尊敬するのは毛沢東」
現代ビジネス 経済の死角 2013年11月26日(火) 週刊現代
中国共産党の重要会議「3中全会」を終え、革命に明け暮れた毛沢東路線をひた走る習近平主席。だが恐怖政治に不満が渦巻き、その影響は日本にも飛び火してくる。中国でいま何が起こっているのか。
*カリスマ歌手が突然消えた
習近平政権の中長期の政策を決める「3中全会」(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)が、11月9日から12日まで北京で開かれた。
その最終日に採択されたコミュニケ(声明)に、「国家安全委員会」なる新組織の設立が盛り込まれたことが、内外の話題を呼んだ。コミュニケには、〈国家の安全体制と安全戦略を完全なものにするため、健全な公共安全システムを新設する〉と書かれている。
取材にあたった産経新聞中国総局の矢板明夫特派員が解説する。
「国家安全委員会は、習近平主席が、公安部や国家安全部など国内の警察・情報機関、及び人民解放軍を完全掌握するために新設する機関です。
周知のように、3中全会直前の10月28日には天安門広場前で、また11月6日には山西省の共産党庁舎前で、2度の爆破テロが起こりました。習近平政権に対する国民の不満は、頂点に達しているということです。また3中全会に合わせて、全国から10万人が陳情のため北京へ押し寄せたという話も聞きました。
そんな中、習近平は今後、弱者を切り捨て、富国強兵の道に突き進もうとしている。そうなると、知識人たちの激しい抵抗が予想されます。そこで国家安全委員会を創設し、逆らう者は迷わず拘束して、一罰百戒にしようという狙いなのです」
実際、この夏以降、習近平政権による容赦ない知識人への弾圧が始まっている。一例を挙げれば、次の通りだ。
・7月22日、若者のカリスマである女性歌手・呉虹飛が、身に覚えのない国家騒乱罪で逮捕された。呉虹飛はそのまま、北京市朝陽区の拘置所に、11日間も勾留された。呉虹飛が突然、失踪したことで、ファンたちが騒ぎ出し、ようやく拘束を解かれた。ゲッソリして帰宅した呉虹飛は、拘置所に自分と同様の逮捕者が約20人もいたことを明かした。
・8月24日、広州一の人気紙『新快報』の劉虎記者が、「馬正其・国家工商総局副局長が重慶市の幹部時代に多額の賄賂を受け取っていた」と書いたことで、社会紊乱罪が適用されて逮捕された。10月19日には、同紙の陳永洲記者が、湖南省の国有企業「中聯重科」の批判記事を書いたとして、「商業名誉毀損罪」で逮捕された。
・8月25日、著名な慈善家の薛蛮子氏が、突然逮捕された。薛蛮子氏は、米シリコンバレーでIT企業「UTスターコム」を立ち上げて大成功を収めた後、帰国。「多発する幼児誘拐事件は中国の恥だ」として、自らのミニブログを使って、誘拐された子供たちの救援活動を行っていた。ミニブログのフォロワーは、逮捕時の段階で1202万2924人に達し、歯に衣を着せない政府批判で知られていた。
・9月13日、やはりミニブログで1000万人以上のフォロワーを持つ投資家の王功権氏が、公共秩序紊乱罪で逮捕された。かつて「北京の不動産王」と言われた王功権氏もまた、政府を恐れない大胆な風刺詩をネット上に発表することで人気を博していた。
*日本を悪者にする
前出の矢板特派員が語る。
「3中全会を終えた習近平は、毛沢東と同様の手段で国民を統制するつもりです。つまり、中国国内で意見を主張できるのは自分だけという体制を作ろうとしているのです。だから知識人がモノを言えばすぐに捕まえる。
だが、二世政治家の習近平には、毛沢東のようなカリスマ性はないし、いまはインターネットもあって前世紀とは時代が違う。そのため、国民の反発がエスカレートし、暴動となり手がつけられなくなる可能性があります」
在中国ドイツ大使館の外交官も、次のように嘆く。
「私が得ている情報では、中国はインターネット警察官の採用を増やしていて、いまの2倍の100万人態勢を目指しているようです。一体こんなことをして何になるのでしょう? 中国政府は日本に対して、『ナチス時代の反省を繰り返すドイツに学べ』と喧しいが、ドイツに学ぶべきは中国の方でしょう。旧東ドイツはシュタージ(秘密警察)が10万人以上に膨れ上がり、その重みに耐え切れなくなって崩壊したのですから」
実際、市民の間では、習近平政権に対する失望感が溢れている。
「3中全会のコミュニケは、『改革』という言葉を59回も並べただけの空疎なものでした。国民が期待していた国有企業の独占禁止や民営化、農地売買の自由といった諸政策は、ことごとく骨抜きにされたのです。この絶望的なコミュニケを見た国民は、ガックリです」
11月6日には、北京経済管理職業学院国際貿易学部の王錚副教授が、収賄の罪で無期懲役刑が確定している薄煕来元中央政治局員を終身主席とする「中国至憲党」の結党を宣言。習近平政権に、憲法に定めた結社や表現の自由を守るよう求めた。王副教授は直ちに当局に拘束された模様だ。
このように、習近平の恐怖政治が始まった中国は、不安定な情勢だ。
そうなると、気になるのが日中関係だ。周知のように昨年9月に日本が尖閣諸島を国有化して以降、中国とは険悪な関係が続いている。習近平主席は、中南海の会議などで、「日本が国有化を撤回しない限り、友好関係は築かない」として、強硬姿勢を貫いているという。前出の矢板特派員が続ける。
「習近平は、国内問題がいよいよ対応不能になった場合は、独裁者の常として、近隣諸国を悪者に仕立てようとするでしょう。すなわち、尖閣問題を再燃させるのです。
具体的には、人民解放軍の艦艇を繰り出し、海上保安庁の巡視船に対して、『直ちにわが国の領海から出なければ攻撃する』と威嚇します。すると、中国との衝突を恐れるいまの日本は、引いてしまう可能性が高い。尖閣における日本の支配を崩せば、習近平は国民的ヒーローとなり、政権の求心力は一気に高まるというわけです」
実際、3中全会のコミュニケにも、次のような不気味な記述が見られる。
〈戦争ができ、戦争をすれば勝利する強軍の目標を定め、中国の特色ある現代的な軍事力のシステムを構築する〉
習近平主席は、昨年12月に広東軍区を視察した際、艦艇に乗って、この言葉を強調した。以来、軍関連の視察を行うたびに、必ずこの訓話を述べている。これは、近未来の日本との戦闘に備えよという意味なのか。
折しも、11月13日の中国外交部の定例会見では、日本人記者が、「国家安全委員会は、安倍政権が設立を目指している国家安全保障会議を意識したものなのか」と質問した。すると秦剛報道局長は、次のように答えたのだった。
「国家安全委員会の設置は明らかに、テロ組織や国家の分裂主義者、カルト集団たちを緊張させた。日本も、その部類に入りたいのか?」
*マーケットは失望した
ところで、3中全会のコミュニケは、中国の経済界を大いに失望させた。
上海浦東新区の証券取引所近くに店舗を構える、中国の大手証券会社幹部が、肩を落として語る。
「3中全会を終えた翌13日朝から、株価の下落が止まらず、上海総合株価指数は、あっという間に2100を切ってしまいました。結局、終値で前日より1・82%もの暴落となりました。習近平主席は、正直言って完全に疫病神です」
証券会社幹部の恨み節は続く。
「実はこれで5度目の?習近平暴落?なのです。1回目は、'07年10月の第17回共産党大会で、当時の胡錦濤主席の後継者が、習近平に事実上決定した時でした。それまで6429ポイントという史上最高値をつけていた上海総合株価指数は、『経済オンチがトップに就く』ということで、急降下を始めたのです。
2回目は、昨年11月の第18回共産党大会で習近平が党トップの総書記に就任した時で、ついに上海総合株価指数が2000ポイントを割りました。3回目は今年3月に、習近平が国家主席に選出された時で、一日で3・65%もの大暴落です。
4回目が、習近平が還暦の誕生日を祝った今年6月。そして5回目が、今回の『3中全会』が終わった翌日です。習近平にとっての重要な節目ごとに株価が暴落するのは、彼が中国経済をダメにする疫病神と見られているからに他なりません」
同じく3中全会の取材を行った中国人ジャーナリストの李大音氏によれば、政権内部でも、習近平主席への不満が渦巻いているという。
「習近平主席は中国という国を、尊敬する毛沢東主席のガチガチの社会主義時代に戻したい。一方、ナンバー2の李克強首相は、中国を西側先進国のような資本主義体制に変えたい。この両者が、ガチンコでぶつかったのが、今回の3中全会でした。
李克強首相は、政府のシンクタンクである国務院発展研究センターに、『383方案』と呼ばれる新たな開放政策を出させたり、『市場経済の父』と呼ばれる経済学者の呉敬?に『政治の民主化』を叫ばせたりしました。また、3中全会の初日には、秘密会議の自分の演説を、わざわざテレビで生中継させることまでしたのです」
結局、このナンバー1vs.ナンバー2の権力闘争は、最高権力者の習近平が押し切ってしまった。
「コミュニケでは、『社会主義』という単語が28回も連発されました。また、『社会主義文化強国』という単語が現れました。これは、5000万人もの犠牲者を出した毛沢東時代末期の文化大革命を想起させます。
そんな中で、李克強首相が唱えていた経済改革『リコノミクス』など、どこかへ消し飛んでしまったのです。まさに、改革派の完敗です」(李記者)
*バブルは終わった
だが、こうした「改革派の敗北」は、すでに9月の時点で、その予兆が出ていたという。李記者が続ける。
「李克強首相は、毛沢東亡き後、中国の最高指導者となって改革開放政策を指揮した?小平を尊敬していて、『現代の?小平』になりたい。そこで、かつて?小平が始めた深圳経済特区のマネをして、上海に自由貿易区を作りました。
そして、9月29日に行われた自由貿易区の除幕式に出席すべく、上海へ出張に行きました。しかし習近平主席は、自らが昨年末に定めた贅沢禁止令に違反するとして、李首相の除幕式参加を禁止したのです。
そのため李首相は、北京へトンボ返りせざるを得ませんでした。首相としての面目は丸潰れです。しかも李首相は帰郷するや、9月30日の国慶節の祝賀パーティで、今度は読みたくもない社会主義色あふれる習近平主席の祝賀メッセージを代読させられたのです。明らかに不機嫌顔でした」
このような体たらくなので、李首相自ら音頭を取って、大々的に上海自由貿易区への外資系銀行の誘致を図ったにもかかわらず、これに応じたのは、米シティバンクとシンガポール開発銀行だけだった。上海にそれぞれ1000人以上ものスタッフを置いている大手邦銀各行も、とりあえずは様子見の状態だ。
3中全会の「不本意な結果」を受けて、中国の不動産バブルの崩壊も懸念され始めた。中国初の国策投資会社である中国国際金融有限公司は11月11日、「まもなく不動産バブルが崩壊し、来年は7%成長が不可能になるかもしれない」という緊急声明を発表した。
BTT大学の田代秀敏教授が語る。
「日本はかつて、不動産バブルが崩壊したことによって、『失われた20年』となりました。いま中国経済がクラッシュしたら、中国で稼いでいる『ユニクロ』のファーストリテイリングを始め、中国で稼いでいる数多くの日本企業は甚大な損失が出ます。そうなれば日本の税収も減り、国債や年金など多方面に影響が出てきます」
習近平主席の危険な政権運営は、日本も対岸の火事では済まないのである。
「週刊現代」2013年11月30日号より
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