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猪瀬直樹という悲しく哀れな"傀儡"のダッチロールを歓迎する「石原利権」の構造 伊藤博敏

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猪瀬直樹という悲しく哀れな"傀儡"のダッチロールを歓迎する「石原利権」の構造
 現代ビジネス 2013年11月28日(木) 伊藤 博敏
 傲慢な"上から目線"で官僚を叩き、記者や編集者をなじってきた猪瀬直樹東京都知事が、今、悲しく哀れだ。
 5000万円問題に関する説明は、理屈に合わないどころか、子供にも通用しない陳腐さで、それを自覚しているから、目は泳ぎ、声は小さく、言葉がもつれる。
 ここでは、既に報道されている5000万円問題の法的倫理的責任ではなく、「ダッチロールを始めた猪瀬都知事を、都議会もゼネコンなどの業界も、密かに支えるつもりだ」(都議会関係者)という猪瀬都知事の奇妙な"立ち位置"について考えてみたい。
■石原後継ではあるが利権は継承していない
 そもそも猪瀬都知事は、昨年11月、国政に戻る石原慎太郎前都知事の後継者として出馬を決めた。その時点で、「石原後継」ではあるが、石原利権の継承者ではなかった。
 この事実の確認が、まず必要になる。
 長い政界歴を誇る石原前都知事には、公共工事に関与、行政と業界を"調整"する2人の元秘書がいる。元副知事の浜渦武生と鹿島執行役員の栗原俊記。このコンビが、秋葉原再開発、大手町跡地再開発などで見せた手腕は、広く知られるところだ。
 ただ、剛腕が過ぎて、「都議会のドン」といわれる内田茂自民党都連幹事長と対立、丁々発止のケンカに発展したことがある。
 だが、そこは"大人の解決"を図り、現在、浜渦と内田は良好な関係をキープしている。
 一方、石原前都知事には、日常の陳情を捌き、細々とした利権の調整を行う秘書軍団がいた。兵藤隆前特別秘書、高井英樹前特別秘書らである。
 猪瀬選対は、彼らに元秘書で、石原前知事の長年のスポンサーである安原治富士住建元社長のグループ企業に勤めていた鈴木重雄富士ホームサービス前東京支店長が加わり、鈴木氏が選対事務局長となって戦い、430万票余りを獲得、圧勝した。
 鈴木氏について、私は本コラムで、「『石原後継』の証明? 猪瀬直樹都知事が特別秘書に起用した『石原秘書軍団』の一員とは」(2012年12月27日)と題して記事にした。
 富士ホームサービス東京支店長という職責は"預かり"で、実態は「石原都知事の庁外秘書」だった。
■徳洲会が用意したカネは石原都政後継者のためのもの
 猪瀬都知事は、副知事の経験があるといっても政治は素人である。
 選挙戦をどう戦うかは最初の課題だったが、それ以外にも政治家ゆえの陳情、スポンサーとのつきあい、業者の調整、都議、区議とのつきあい、政治資金の確保など様々な問題がある。
 それには石原都政と石原事務所の双方を知る秘書が必要で、兵藤、高井といった前秘書の横滑りは出来ないから、「庁外秘書」の鈴木氏を特別秘書に起用した。
 従って、石原慎太郎氏の"盟友"でありスポンサーでもある徳洲会との窓口を、鈴木特別秘書が務めるのは当然で、5000万円の返却を鈴木氏が行うのも当然だった。
 徳洲会が用意したカネは、「猪瀬個人」にではなく、「石原都政後継者としての猪瀬直樹」に贈られた。従って、自動的に5000万円は、後継選挙を勝ち抜くための政治資金ということになる。
 また、石原後継の猪瀬都知事に贈られたのが、「猪瀬直樹の会昼食会」である。
 7月26日、昼食券2万円の会を仕切るのは、司会の鈴木氏と「石原慎太郎の会昼食会」を開いていた石原慎太郎の会のスタッフだった。
 私は、この昼食会についても、本コラムで「パーティ券2万円の『昼食会』を石原都知事から継承した猪瀬都知事の政治センス」(13年8月1日)と題して報じた。
 石原支援者をそのまま継承できれば、京王プラザホテルなどで年に3〜4回開き、1回平均800万円から1000万円を集めているから年間3000万円前後の政治資金となる。
 猪瀬都知事にすれば、都知事の歳費に加え、潤沢な政治資金も手に入れられるわけで、至れり尽くせりである。
 だが、これは見方を変えれば、「あなたは、利権には手を突っ込まないで下さい。それなりに政治資金の面倒は見ます」という石原氏周辺からのメッセージと受け取ることもできよう。
■石原支援の業社には猪瀬が利権調整を妨害する懸念があった
 実際、石原都政14年の間に、前述のような利権構図は固まっているし、東北の震災復興を機に復活したゼネコン談合によって、政官業のトライアングルが、公共工事をうまく捌くシステムを確立している。
 東京オリンピック招致は、石原都知事が3期目の目玉にした"公約"で、その時点で、オリンピック特需の配分と、新国立競技場の概略、築地市場跡地の再開発を取り込んだプランが練られていた。
 石原支援の業者からすれば、そうした歴史の継承も猪瀬都知事に期待したところだが、ドンの内田氏と繰り広げた"暗闘"が象徴するように、自ら捌く考えはなくとも、都知事の権力で利権調整を妨害してくる懸念はあった。そのぐらいのことはやりかねない。
 それが「権力の怖さ」である。
 利権癒着を批判し続けた猪瀬都知事が、選挙に出馬することを決めた途端、様々な思惑が秘められた5000万円を躊躇なく受け取ってしまう。
 「石原利権にも、手を出してくるんじゃないか」という疑いが広がるのも無理はない。
 ただ、5000万円問題は、市民団体からの告発を受けた東京地検特捜部が参考人聴取を始めるなど、捜査着手した。
 それに加えて都議会での追及は必至。利権どころではない。まともな返答ができない猪瀬都知事のダッチロールが予想されている。
 石原利権の継承者も、ゼネコンなどの業界も、突っ張りの猪瀬都知事が、多少、弱っているぐらいの方がやりやすい。だからといって、都知事選が始まり、誰が都知事になるかによっては、調整を一からやり直さねばならず、それも面倒だ。
 弱った猪瀬都知事でいい---。
 それが、傀儡度を強めざるを得ない猪瀬都知事を取り巻く状況である。
 ◎上記事の著作権は[現代ビジネス]に帰属します 
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