フィナンシャル・タイムズ、安倍政権の右傾化を指摘
朝日新聞デジタル 2013年12月26日23時32分
【ロンドン=伊東和貴】英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は26日、「日本の首相による靖国参拝は(小泉純一郎氏の参拝から)7年間、非公式に凍結されてきたが、それが破られた」と指摘。反対論の根強い特定秘密保護法が成立したことにも触れ、これまで「アベノミクス」による経済浮揚に軸足を置いてきた安倍首相が「右翼の大義」の実現に焦点を移しつつあるとの見方を示した。
英紙ガーディアン(電子版)は、尖閣諸島や竹島をめぐり中韓との関係が悪化していることに触れ、「安倍氏の靖国参拝は日本と近隣国の関係をさらに損なうだろう」と報道。英BBC(電子版)は、安倍氏が「靖国第2次大戦神社を参拝した」との見出しを掲げた。
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靖国参拝で露呈した、戦略なき安倍外交 なぜ中国の仕掛けた「古いワナ」に、自らはまるのか?
富坂 聰:ジャーナリスト 「東洋経済 ON LINE」2013年12月26日
安倍晋三首相が、政権発足から1年後の12月26日に靖国神社を参拝した。首相による参拝は2006年8月の小泉純一郎首相以来で、安倍首相としては首相就任後、初めての参拝だ。予定通りの行動なのだろうが、今後、さまざまな波紋が予想される。中国問題で屈指のジャーナリストである富坂 聰氏が、安倍首相の今回の参拝や、日中関係の今後などについて、鋭く分析する。
安倍首相が靖国神社を参拝した。「2014年正月の参拝説」などもあったが、首相は第一次安倍政権時代に参拝できなかったことを「痛恨の極み」としていた。7月の参議院選挙での大勝で基盤が固まった首相としては、「政権から1年での参拝」は、政治日程の中に事前に組み込まれていたはずだ。
*脆弱な中国の政権に、世論を押さえられるか
安倍首相は、以前から参拝について「戦略性」を強調していた。問題はそれが「どの程度」のものなのかだ。参拝によって「予想されるリアクション」を全て考慮に入れて、本当に動いているのか。もし、そうでなかったとしたら、あまりに思慮がなく、非常に危険だ。
中国の習近平政権は、ポピュリズムの上に成り立っており、実は非常に脆弱だ。「小康状態」だった靖国の問題に再び火が付き世論が沸騰したら、それを押さえきれない。当然、政権としては、世論が沸騰する前に何らかの措置をとらざるをえなくなる。また当然のことながら、今回の参拝は軍関係者を中心に、「対日強行派」を勢いづかせてしまう根拠を与える。「やはり日本は話ができるような相手ではない」という論理がまかりとおる危険性が増す。
外交では、そもそも100点をとることは無理だ。マニフェストや選挙公約などで国内向けにいろいろな約束をしたとしても、すべて押し通すことは容易なことではない。米国など他の国も、政治家は選挙時こそ、国民に向かってある国に厳しい態度をとることを表明しても、最終的には完全に実行することまではせず、実をとろうとするものだ。
*「日米同盟に楔」の危険性、極めて大きな参拝のコスト
今回、安倍政権が参拝するにあたっては、参拝によって、日本がどんな利益を得られ、一方で何を失うかというコストの議論がなされたはずだが、果たしてどの程度のものだったのか、疑問だ。
実際、参拝のコストは極めて大きいものだ。なぜなら、前述のように、中国の「好戦派」に格好の材料を与えるだけでなく、戦後の日本が築き上げてきた、平和外交などの「戦後史観」をすべて否定してしまうからだ。いくら「不戦の誓い」をしたところで、中国には細かいメッセージは伝わらない。中国にとっては、評価の基準は「行くか」「行かないか」という単純なものだ。
コストは、それだけではない。深刻なのは、この問題で一貫して厳しい態度をとってきた米国の態度を硬化させ、日米同盟にくさびをいれられてしまう危険性が大きくなる。
では一方で「参拝で得られる利益」は何か。実は、ないに等しいのだ。「自らの政治信条や信念を守った」という意味で、安倍首相の利益は大きいかもしれないが、それはただ「言ったことを実行しただけ」であって、国家の利益ではない。
*中国「封じ込め」に、政権がすべきこととは何か
こうした議論に対し、「そんなことはない。今回の参拝によって、安倍首相は、長年『押し込まれてきた』日中関係において、得点をあげることで、不均衡なパワーバランスを『押し戻した』。これは大きな利益だ」という意見があるかもしれない。
だが、それは根本的に間違っている。もし、仮に今回大きなリアクションが起きなくても、見えない形で蓄積され、いずれどこかで大きなうねりになるだろう。
では、日本はどうすればいいのか。現状の中国に対する国際社会の共通認識は「力を蓄えた新興勢力としての中国が、法や慣習を無視するか、軽視しながら現状の世界のパワーバランスを変えようとしている」というものだ。
そうであるなら、「台頭する中国」にストレスをためている日本がすべきこととは何か。それは何も「安倍首相が靖国を参拝する」ことではない。第2次世界大戦後、戦争をせずに世界で屈指の繁栄を築いてきた日本が、その繁栄を現状の中国と比較しながら、国際社会に大きく問えばいいのだ。それが、現状の中国の態度を変えさせる正しい手段だ。
それなのに、なぜ、中国が明確な意図をもって仕掛けた「古い靖国のワナ」にはまってしまい、「過去の日本」という顔をわざわざ自ら見せるような愚行を犯すのか。私には理解できない。
しかも、今回の安倍首相の靖国参拝で、政権の日中関係に対する認識の甘さも完全に露呈した。靖国問題は深刻な問題だが、実は靖国云々でとどまっているうちは、まだ「安心できる」のである。小泉元首相が靖国を参拝した2006年頃はこうした段階だったが、いまは尖閣諸島で一触即発状態という、はるかに深刻な事態になっている。今回の参拝をきっかけに、危機が高まったとき、双方が「危ない。このままでは戦争に発展する」と考え、安全装置としての話し合いの場をもてるのかどうか。現状は、きわめて憂慮すべき状況だ。
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◇ 【首相靖国参拝】 米国大使館 プレスリリース / 首相ぶらさがり取材での発言全文 2013-12-26 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
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