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【2020年の世界と日本】櫻井よしこ氏に聞く

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【2020年の世界と日本】櫻井よしこ氏に聞く(上)「中華思想に凝り固まった中国が動きを活発化」
 産経ニュース2014.1.2 07:00
 東京で五輪が開催される2020(平成32)年には、日本と世界はどうなっているだろうか−。産経新聞の長期連載「2020年」に合わせ、ジャーナリストの櫻井よしこ氏に聞いた。

−−東京五輪が開催される2020年。世界はどうなっていると思いますか
 「世界は様変わりしていると思いますよ。その特徴として戦後の日本の体制を支えてきた価値観がおよそ全て根幹から覆されていると思います。具体的にアメリカが内向きになっているということです。但し、これは必ずしもアメリカの衰退ではありません。よく『アメリカが衰退している』といわれますが、アメリカは十分に力を持っています。2020年のアメリカは、シェールガス革命でエネルギーの需給をほぼ達成できる見通しがついており、世界最大のエネルギー産出国としてエネルギー輸出国になっています。おそらく世界最大の軍事大国でもあり続けているでしょうし、世界最大の教育大国でもあるでしょう。大学にしても、若い世代の知的頭脳人口の流入にしても、技術水準においても、アメリカを凌駕(りょうが)する国はまだ生まれてはいないと思います。彼らが掲げる建国以来の民主主義に取って代わる価値観も生まれてはいないと思います」
 「でも、アメリカの人種構成は、いわゆるホワイト・アングロサクソン・プロテスタントが徐々に少数派になって、ヒスパニック、中国系、韓国系や、アフリカ系の人たちが比率として多数を占めるというふうに変化しています。するとアメリカの価値観も変わっていくことでしょう。プロテスタント、キリスト教の一神教と彼らの価値観、『自主独立』『自由』『民主主義』といったものをアメリカは今まで一生懸命に守ろうとしてきて、外に対してもそうした価値観を広げてきました。そのことが「価値観の押しつけ」とも受けとめられてきましたが、良きにつけ悪しきにつけそのようなことがなくなっていくと思います」
 「今、アフリカ系アメリカ人のオバマ大統領がホワイトハウスの住人で、彼の助言者も多くがアフリカ系アメリカ人であるところから、すでにもう政策の優先順位が明確に変わっています。国内問題を何よりも重視しています。弱者に光を当てて、この人たちを救いたいという政策です。少数グループに対し、それがホモ・セクシュアルであれ、移民であれ、そういった人たちを助けたい。これはみな立派なことですけれども、財政的な余裕がなくなってきている。結果として外に対するコミットメントを削りましょう、ということで、軍事削減が行われているわけです」
 「これから6〜7年の間にアメリカの財政がどのくらい回復するかしないかは別にして、世論が税金をなぜ、外で使うのかと、すでに問い始めている。なぜ、NATO(北大西洋条約機構)やアジアを、アメリカ人の税金で守るのか、ということです。だから、財政的に余裕が再度生まれたと仮定しても、国内のオバマケア(医療保険制度改革)の延長線上でアメリカ国民の皆保険を実現すべきだ、社会福祉の充実を実現すべきだという方向に、世論は向かうでしょう。アメリカは力は失っていないけれども対外コミットメントを大幅に下げていく時代に入っていくのかなあと」
 「アメリカの大きな内向きの潮流が今明確に始まっていて、これから3年間は大統領はオバマ氏ですからその傾向は続きますね。『ポスト・オバマ』が誰であれ、アメリカの人種構成の変化と世論の動向からくる縛りにはあらがえないだろうとも思いますね。そうすると、オバマ大統領の任期が終わって次の大統領が3年間やったところで2020年に入るわけですが、そのときもアメリカの内向き傾向は続いているとみなければいけないですね。オバマ大統領はシリアにコミットせず、サウジアラビア、エジプト、イスラエルのアメリカ離れを加速させているわけです。東南アジアでも昨年10月にインドネシアなどへの歴訪を中止した。今年4月に行くようなことが報じられていますが、信頼を十分に取り戻せるかどうかは分からない」
 「一方で中国は、多方面に手を出しながら、包括的なアプローチでアジア諸国を分断して絡め取ろうとしています。アメリカがこの構図を防ぐことはなかなかできないでしょう。本当は日本が中国の横暴な外交に割って入ってアメリカとともに中国の膨張を防ぐ役割を担うべきなのです。安倍晋三首相はそれを一生懸命やろうとしていると私は思います。全力でそのような安倍外交をサポートしたいと思います。日本がどこまできちんとやれるか、まだ未知数です。安倍首相の任期が続く限り、日本はその方向を目指すと思いますけれどね。そんなこんなで、アメリカのいわゆる実質的な外の世界に対するコミットメントは減少していかざるを得ないと思うのです。これまで日本は、国の安全保障や外交のほぼ全てをアメリカに頼っていたといっても過言ではないわけです。しかも日本の左翼の人たちは、アメリカに頼れば頼るほど、『アメリカの戦争に巻き込まれる』といってきました。けれど今、アメリカの方が『僕たちを巻き込まないで』っていっているわけです。戦後の構造が、正反対になっているんです」
 「そういう意味で2020年の頃には世界はかなり様相が変わっている。中国がどうなっているかはある意味未知数ですけれども、かなり強気で押して行き続けるだろうと思います。突然の防空識別圏設定にしても、また日本はあまり報道しなかったけれども、無人月探査機『嫦娥3号』の月面着陸も、私はすごいことだと思います。というのは中国は独自の、自分たちだけの宇宙ステーションをすでにつくり始めているわけですよ。国際宇宙ステーションに入らないわけですから。『自分たちだけの宇宙ステーションをつくって何するの?』って国際社会はみんな聞くわけです。『あなたこっちに入りなさいよ』と。それでも国際宇宙ステーションには絶対入らない。戦略家の分析によると、まず2020年までに宇宙ステーションを完成させて、その先の2030年までに月の基地を完成させて月面基地と宇宙ステーションをつないで月と地球の間の宇宙空間を支配したいというのが中国の願望であり、戦略なのです」
 「宇宙空間では今、アメリカが圧倒的に有利に展開しています。衛星の数においてもアメリカが圧倒しています。アメリカの技術によって高々度の宇宙からさまざまな情報が地球に届けられる。それが民生・軍事に活用されている。瞬時に位置を割り出せるのも、そのおかげです。北朝鮮でトラック1台が何を積んでいたかまで分かる画像が来たりもしています。中国はそのアメリカに取って代わろうとしているわけです。宇宙を制するものはサイバーを制する。サイバーは21世紀の戦争の主体です。中国は今回、初めての試みで『嫦娥』を月面着陸させた。今度『嫦娥5号』をまた打ち上げるといっています」
 「そういう意味で、中国の軍主導の世界戦略は着々と成果を上げてはいるんですが、ただ軍が中国共産党の軍であり、国民からどれくらい支持されているかは分からない。米紙ウォールストリート・ジャーナルが、中国は、あれほど莫大(ばくだい)なお金がかかる宇宙開発を国内問題を置いた形でやっていけるのかという問いを発しました。中国ではいまだにマンホールの中に何十人も住んでいる。貧しい人は信じ難い程貧しい。けれど長年そういうことを放ってきたわけです。国内の格差なんて共産党は本質的に気にしないわけでしょう。もちろん、国民の不満を暴発させない程度の格差是正への取り組みは一応してみせる。けれど、『こんなに金食い虫のプロジェクトを国民を横に置いてやれるのか』という米国紙が指摘したような常識は通じないですよ」
 「中国共産党が一党体制を保ち、軍をコントロールし、公安警察を持ち、全ての武器を持ち、情報を持っている。このような体制が崩れることはなかなかないですよ。結果として、今のまま中国はずっと膨張し続けていくという前提で考えた方がいい。革命が起きるかもしれない。けれども、そのように望むことは、中国の力が殺がれればいいという希望的観測のひとつの形でしかない。私たちはそんな希望的観測に基づいて考えるよりも、中国は崩れないという前提で、その中国に如何に対処するかを考えるのがよいと思います。だから、2020年は、ますます21世紀の中華思想に凝り固まった強力な軍隊を持った中国が動きを活発化させている、そんな時代ということになるんでしょうね」
 −−膨張する中国と徐々に縮小傾向に入るアメリカの間に挟まれた日本という構図はますます強まっているということですか
 「そうです。ただアメリカが縮小するといっても(彼らは)アメリカを縮小させないように努力をすると思います。ただ各国々がアメリカに頼っていて大丈夫かなあという不安感をすでに明白に持っていますよね。第1次世界大戦の頃から世界の大国への道を歩み始めたアメリカが、簡単に約100年続いたこの覇権国としての地位を譲るとは思いませんけれども、しかし、変化は地殻変動みたいに起き続けています」
 「その中でやはり日本が注目されています。そういう意味では安倍さんは宿命の政治家です。この局面でしっかりと日本の存在感を出すことが日本のためだけではなくて、アジアおよび世界のためになります。今まで戦後日本はアメリカに守ってもらうことを大前提にしていたとさっき申し上げました。大国に守ってもらっているという、心地よい温泉の中にずっと漬かってきた心許ない存在が日本だったわけです。そのような暮らし方はやはりやめなきゃいけないわけです。日本国がまともな普通の国家としての基盤をまず整えること。それは本当は憲法改正からです。憲法改正という人もいるし、自主憲法制定だという人もいるけれども、とにかく今の憲法前文をみれば、『公正と信義の国々に任せる』というような馬鹿なことを言うのはもうやめて日本国自身がまず自分の国の国民と領土・領海を基本的に自力で守るとの気概を示すことです。それによって中国に暴走を抑制させる心理を働かせ、アジアに安心の材料を与える。出来うるならばアジアの国々にさまざまな支援の手を差し伸べる。首相はすでにそのような外交を展開しています。また、自由や人権、法治、民主主義というような価値観を守ることによって同盟国アメリカとさらに協調を深めていく」
 「他の先進諸国、ヨーロッパもオーストラリアもみんなそうですけれども、そうした国々の支援を得て、日本は『海洋国家連合』というような協力関係を作り上げていくべきです。アメリカも海洋国家ですね。アメリカ、出来うるならば朝鮮半島、日本、台湾、東南アジア、オーストラリア、ニュージーランド、インド、中東の国々などと価値観を基準にして連携をしていくことが大事です。連携をするときに日本が大事にしてきた日本なりの人間に対する優しさとか、環境に対する配慮の深さとか、生真面目なまでに法律を守るという順法精神、日本本来のすごく良い価値観をさまざまなところに基軸として置き、その日本の価値観を具現化するような政策を推進することが大事だと思いますよね。日本が体現してきた価値観は、中国と、全ての面において正反対です。だから中国と日本はこれだけ違う、全く違いますよと示していけばいいと思います」
−−他国に「中国と日本のどちらがよいか」と提示ができるくらいまで国力を高めていく必要があるということですね
 「そうです。いろんな国の意見を聞くと、中国は怖い。何かというとわーっとお金を使っていじめるし、軍事を見せつけて恫喝する。中国の前ではみんな物を言えないんですよ。で日本の前では、『あれをしてくれ』『これをしてくれ』と。それ日本にとって、すごくいいことだと思う。どの国も中国を恐れはするけれども尊敬はしない。反発はするけれど愛しはしない。私は日本は愛される国だと思いますから、そのことを大事にしたらいいと思いますよね。日本は確かに諸外国から愛されているし、尊敬されている国なのです」
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します  *リンクは来栖

櫻井よしこ氏に聞く(下)「日本ってすごくいい国。庶民を大御宝とずっと呼んできたんです」
 産経ニュース2014.1.2 12:00
−−2020年も中国は今のペースで経済成長を続けている可能性はあります。対する日本は爆発的に経済成長するのは難しい。海外にODA(政府開発援助)を出すような余力がますますなくなっていて中国との差がつく中で、軍事力を持たない日本はどうやって存在感を示していけばいいと思われますか
 「中国の経済は正直いってどうなるかよく分からないところがありますよね。中国経済は名目的にはどんどん成長しているように見えるけれども、経済成長を続けようと思えば体制を変えて、もっと開いていかなければならない。中国共産党もそのことは頭ではわかっている。たとえば王岐山は今の中国共産党ではもう国民がついてこないということをよく知っている人です。だから2012の12月に全共産党員8200万人に対してフランスの思想家のトクヴィルの『旧体制と革命』という本を読めと指示をした。『全共産党員は必読せよ』ということで、私も急いで読んでみました。ああ、なるほど、王氏はこれを言いたかったのかなと思ったのは、その中にフランスの貴族とイギリスの貴族を比較した章があるんです」
 「フランスの貴族は特権階級として留まって国民に開くことなく、『われわれは特権階級である。税金も払わなくてもよい』というふうにぜいたくざんまいをする。『われわれは特権階級だ』という姿勢で義務も果たすことなく国民からどんどん離れていった。フランスの貴族が軍の大将になったとしても兵隊たちは誰一人尊敬していない。形の上では部下だけれど、だれもこの人のために戦おうとは思わないというので『兵なきリーダー』になるんだと書かれています。だから革命が起きてみんなギロチン台に送られたんだと、書いてあるんですね」
 「ところがイギリスの貴族はノブレス・オブリージュといって、率先して税を払い、戦いがあれば兵よりも前にまず貴族が戦ってみせる。危機に際して自分の命を投げ出して国を守るという気概をみせた。だから広大な領地を持っていても何をしていても国民から信頼されていまだにイギリス貴族というのは健在である、ということを書いてあるんですね。私はそれを読んで、なるほど中国共産党は『赤い貴族』といわれるように特権階級で、人民のことなど何も思っていない。だからフランスのように草の根の国民レベルからの『血の革命』に襲われるのではないかという恐れを抱いているのではないかと。王岐山が『トクヴィルの本を読め』といったのはそのことをみんなが自覚して、自らをまず正せということだと思うのです。でも全くなんの効果もない。一方で軍の力が強まっている」
 「今回の『嫦娥』の人工衛星プログラムも全部、人民解放軍がやっているんですよね。ふつうは科学省、文部省、或いは通産省など、そういったところです。でも中国では全部軍がやっていますよね。尖閣諸島(沖縄県石垣市)に関することもほとんど軍がやっている、防空識別圏も同じ。習近平氏はこうした軍の動きを押えるのではなく、追認し続けている。ということは、ものすごい強硬路線に走る可能性があるということです。強硬路線に習近平氏自身が走っているのか、軍に引っ張られているのか、どっちがリードを取っているのか分からないけれども、とにかくそっち方向にいっていることは確かです。そのような中で、中国の経済が本当にうまくいくんですかねという疑問はあるわけです」
−−2020年時点で、中国が今のような経済成長を続けていられるかは疑問だということですね
 「疑わしいと思いますね。それはね、いろんな制度を改めて本当に経済原理を反映させるような自由さを取り入れるのならいいと思う。王岐山氏らがそれをやろうとした。李克強首相も同じです。でも、王氏の改革から一年がすぎたいま、効果は全く出ていない。逆に経済面でも強硬路線というか、党中心ということになっていくとしたらこれまでのような経済成長は到底達成できない。私は経済の専門家ではないのであまり言えないのですが、中国の経済が2020年になっても今のような勢いを保っているという見方は私は疑っています。それはないだろうと思ってますよね」
−−そうなると、中国はより軍事に偏った国になっている可能性もありますね
 「ですから、本当に日米同盟という絆を確立して、日本が自国の領土・領海は断固として守るというふうに気概を示さなければ、中国に手を出させる隙間を与えます。それをさせないようにしっかりとこっちが守り続ける態勢を取っていれば、中国は用心して手を出さないと思います。こっちがどれだけしっかりするかということと、向こうがどれだけ慎重になるかということは正比例ですよ」
−−2020年の中国はカネによる外交より軍事で押していく形でアジアで存在感を出しているということでしょうか
 「この5〜6年でそんなに急激に中国の経済が傾くとは思いませんけれども、アメリカの力もそんなに急激に傾くとは思いません。けれども、確実にそっち方向にいっているだろうと思いますね。アメリカがもっと内向きになり、中国がもっと膨張してきて日本がしっかりしなければ日本は中国の脅威のもとに屈服するようになっているかもしれないわけですから、それを断固としてさせないために今が日本にとっては踏ん張りどころということですよね」
−−日韓関係はどうなっていると思われますか
 「北朝鮮が今までの父親や祖父らとのやり方とは全く違う感じで、あからさまに世界の前で自分自身の怒りを表明して叔父を殺害してしまったわけです。これは何を意味しているかというと未熟さを意味している以外の何者でもないわけです。経済はもうあんな経済でよく暮らしているなと思うような状況なわけでしょ。だから北朝鮮有事は間近だと思いますよね。そうしたときに韓国がどうするか。韓国は本当はアメリカと日本に協力を求めて、韓国による自由統一を成し遂げて中国の影響力をできるだけ排除しなきゃいけないと思いますが、その逆になっています。半島国家というのはどこの国をみても半島が地続きの大陸の顔色をみざるを得ないんです。それは地政学上から生まれる宿命でもあろうかというふうに思いますね」
 「そう思って日本と朝鮮半島の歴史を振り返ってみると、過去1000年間、あまり良い時期はなかったのです。日韓関係が多少どうにかなるかなという感じだったのは本当に1965年の日韓基本条約を結んで日本からのおカネがいって70〜80年代くらいまで。わずか数十年です。そのほかはいつもいつもぎくしゃくしていて、日本と韓国の歯車がかみ合っていない」
 「日本人は日本人で一生懸命韓国のために努力したという気持ちがどこかにある。韓国にしてみれば『とんでもない。日本人は自分たちから文明を学んだ野蛮な民族であるにもかかわらず、偉そうな顔をしている』というような心理的な壁が向こう側にある。そういう考えの人たちに何をして差し上げても、通じにくいと思います。それが日韓間の今の関係だと思うんです」
 「そう思えば、韓国、朝鮮半島の反日や歴史の捏造(ねつぞう)についてはそのつどきちんと反論することが如何に大事か見えてきます。日本の国益のためには朝鮮半島が中国の支配を受ける反日親中的な国であるよりは自由や民主主義、法の支配を基盤とする国家として、日本に対する受容性を高めてくれることが望ましい。中国のような一党支配の価値観は受け入れられないとして中国と距離を置く国になってくれれば、望外の恩恵だと考えて、韓国人から好かれようというところまでは期待しない方がよいと思います。期待はしないが国益のために韓国を少しばかりこちら側の陣営に引き入れることが出来れば十分だというくらいの心づもりでいればよいと思います」
 「日韓関係は期待をしないでしかし受け入れ可能なほどのよさを保つことを目指せばいいと思います。お互いの意見を一致させるなど、ゆめゆめ思わないで、お互いの国益のためにおおもとの所の政策を一致させることができていればそれで合格点だと思う。ただその意味では、韓国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に入ると言い始めたでしょ。あれはすごく大きいことだと思うんですよ。今までFTA(自由貿易協定)でやろう、しかも日中韓のFTAでは日本とはやりたくないから中国とやるみたいなことでしたけど。TPPに入ることを検討し始めたということは今私が言ったおおもとの所では合意をしようというところに彼らが入ってきたのかなあとも思いますね」
−−2020年に向けて、日本はこれからどういう国造りをしていけばいいと思われますか
 「戦後ずっと日本の歴史を、日本人がないがしろにしてきました。日本が中国と距離を置き始めた聖徳太子の頃の歴史、なぜ聖徳太子が中国と距離を取るような決断を下したかというところから学んで、日本をもっと肯定的に見詰めて国造りをするのがよいと思います。そのためにも、その前の神話の時代からの日本の物語を読んだらいいと思います。日本ってすごくいい国です。庶民を大御宝(オオミタカラ)とずっと呼んできたんです。大いなる宝、オオミタカラ。聖徳太子の時代は6〜7世紀ですよね。あのときに十七条の憲法をつくったわけでしょ。それは統治をする人々、今で言うと政治家や官僚たちに向けた訓話ですけども、和らぎをもって尊しとなす、『和を以て尊しとなす』と。あまりにも有名ですよね。いさかうことをしてはいけませんと。けんか、対立は良くないですよと。上に立つ人ほど庶民より早く起きて働きなさい、庶民が休んでいるときも夜遅くまで働きなさいとか、賄賂はいけませんとかね。それから讒言に耳を傾けてはいけません、一人一人を公平に見てあげなさい、とかね。民のためを思って政治をしてもいさかいというものは常に起きる。大事なのはいさかいの起きたときに公正な裁判をしてあげることだと書いてあります。石が浮いて葉っぱが沈むような不公正な裁きはいけませんと」
 「一人一人の民が、大御宝が生きていてよかったと思うような世の中をつくってあげなさいというようなことを含めて諄々と十七条にわたって書いてあるわけです。昔は税金のひとつの形が労働の提供でした。労役の義務を果たすことが税だったわけです。十七条の憲法では、民は作物をつくって食べているのであるから畑仕事が忙しいときには労役の義務は課してはいけないと。冬になって農作業がないときに働かせなさいと。こういうことまでちゃんと書いてあるわけです。こういうと、『いや、そんなの紙に書いてある文言だけだ』というんです。中国人は特に」
 「中国人は紙に書けばそれが歴史になると思って、実態といかに離れていてもいいという考え方です。で、ちょうど同じ頃の中国ってどういう国だったかというと、中国は隋でした。隋の皇帝は初代の皇帝が非常に賢い人で勢力を広げたけれど、2代目の煬帝は大運河計画を進めました。運河の大建設計画を立て100万単位の民を投入して働かせた。奴隷のように使うわけですからどんどん死ぬわけです。死んだ民の遺体も埋めずにその辺にほったらかして運河を建設させたといわれているんですね」
 「この大工事と同時進行で朝鮮半島と戦争をしていました。この2つが重なって煬帝は倒れ、隋は短命に終わった王朝です。このときに民を100万単位で運河建設に連れて行って死なせた政治のあり方と、民が働いている農繁期のときは苦役を課してはいけない、冬にしなさい、上に立つ者は民より早く起きて働きなさい、民は大御宝なんです、という価値観は全く違いますね」
 「中国とは全く異なる価値観と志を日本はずっと保ってきた。十七条の憲法から千何百年もしたときに明治維新になった。そのときの日本は非力でした。列強諸国に囲まれ、黒船は日本が見たこともないような大砲を積んでいる。軍事力においても経済力においても国際法の知識においても私たちは圧倒的に弱く、弱小国だった。下手をすると、それこそ植民地にされてしまいます」
 「植民地にされたり、国を滅ぼされないためにどうしたらいいかと、明治の先人たちは死ぬほど悩んで考えた。日本人の国を守る力はどこにあるのかと考えてたどり着いたのが五箇条の御誓文でした。五箇条の御誓文は、『広ク会議ヲ興シ 万機公論ニ決スベシ』から始まります。これは広く会議を興してみんなで議論して決めなさいと。そこに庶民も入っています。そういえるのはその次の『上下(しょうか)心ヲ一ニシテ 盛ニ経綸ヲ行ウベシ』で、身分の上の人も下の人も心を一つにして盛んに政治・経済のあり方、国のあり方を議論して決めなさいと書いているからです」
 「第三の『官武一途庶民ニ至ル迄 各々其志ヲ遂ゲ 人心ヲシテウマサラシメンコトヲ要ス』は、官僚も軍人も、つまり政府を司っている人から庶民に至るまで心を一つにしておのおのその志を遂げて、『ああ、こんな人生つまらなかった。生きていてもしようがなかった』と思わせないようにしなさいと書いてある。その次が『旧来ノ陋習ヲ破リ 天地ノ公道ニ基クベシ』。古くなって役に立たなくなった決まり事や制度は捨てなさい、そして天地の公道とは『人類普遍の世界に通用する価値観』と私は解釈していいと思うんですが、それに基づいて政治をしなさいと」
 「そして『智識ヲ世界ニ求メ 大ニ皇基ヲ振起スベシ』というのが一番最後なんですけど、日本だけに凝り固まっていたらだめですよと。世界に知識を求めて、大いに皇基、日本は神話の時代から皇室を中心に国が成り立っていて、この皇室は権力じゃなくて権威であり、国民のために神に祈る存在ですよ。その人たちを支える権力を持っているのは、時代によって武士であり、貴族でした。今は官僚・政治家なわけです。ご皇室が中心でその下に権力構造があってこの2つが一緒になって国民、大御宝を守るというのが皇基だと思うのです。そのような価値観を世界に広げなさいと書いてあるんですよね。この五箇条のご誓文は十七条の憲法と非常に似通ったところがあります。つまり十七条の憲法は千年以上の間脈々と生きてここに受け継がれてきたということなんですね」
 「庶民を大御宝として一人一人が志を遂げることができるような国をつくってあげなさい、一人一人大事なのよと。あなたは身分が低いかもしれないけれども国が危機にあってはあなたの意見もいいなさい、みんなで政治、経済を論じて国をつくりなさいという考え方です。一人一人を大事にする考え方は日本国民だけが対象ではありません。第1次世界大戦が終わった後の世界秩序をどうつくっていくかという1919年のパリ会議で日本の全権代表が人種差別撤廃を国際連盟の基本の価値観に入れましょうと提案したことにつながっています」
 「世界中が驚きました。そして反対も強かった。アメリカのウィルソン大統領が『全会一致でなければこういうことは決められない』といって拒否するのです。日本は激しく抵抗しました。『今までは全て多数決だった。なぜこのことだけ全会一致なんだ』と。人種差別撤廃の提案は多数決では支持されていましたから、日本は粘ったのですが、一方的に却下された。そこで日本は『採決で可決されたということは議事録に残せ』といってそれは残っているんです」
 「日本の歴史上、日本は庶民を大御宝として大事にしました、身分の高い低い、金持ちか貧乏かに関係なくみんなが生きる価値がある社会をつくろうという考えがずっと日本の歴史に流れていた。それが第1次世界大戦の後、国際連盟をつくるときのわが国の人種差別撤廃の提言につながっていた」
 「今の中国のようにウイグルやチベットを弾圧するという考え方とは全然違うんですよ。こうした歴史を日本人が思い出すことによって私たちは『ああ、われわれの祖先ってすごいんだなあ』『日本ってすごいんだなあ』と実感できるわけです。そしてこのようなことをアジアの人々、世界の人々に分かってもらえれば必ず共感を得ることができる。だからこういう日本の歴史を、大きな流れでとらえて、どんなにすごい国なのかということを学べば2020年の活力のもとになると思っています」
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します 
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『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 読書 
 (抜粋)
p28〜
 「オバマはただで人工中絶をしてくれる」
  アメリカの若い女性がこう言っているのを聞いたことがあるが、共和党が若い女性に嫌われたのは、熱心なキリスト教徒の多い共和党の主流があくまで人工中絶に反対しているからである。
p49〜
  オバマ大統領の公の権力に最も明確に反抗しているのは、アメリカの力の源泉といわれる石油業界である。ケネディ大統領が暗殺された時、その黒幕はテキサスの石油業界だといわれた。石油業界はケネディ大統領と対立する共和党と強く結びついている。
p50〜
  オバマ大統領は第1次政権で環境保全政策にとくに力を入れ、太陽光や風力発電に多額の政府資金を投入した。アメリカ西部、西南部、テキサスなどでオバマ大統領は多くの太陽光や風力発電の業者を援助した。のちに倒産してスキャンダルになったソリンドラをはじめサンパワーといった企業には、500億ドルを超す膨大な資金援助を行った。
  オバマ大統領のクリーンエネルギー推進政策は、中小の石油業者と真っ向から対立してきたが、オバマ大統領が人気を失い政治力が下がるとともに、この政策も人々の支持を得られなくなり、力を失ってきた。
  石油産業界の後ろには軍需産業があり、そしてペンタゴンや陸、海、空のエリートがいる。この存在を意識してオバマ大統領が政治的なペトラウス切りを行った疑いが濃厚だが、いずれにせよオバマ大統領のエネルギー政策の変更は外交政策、とくに対中国政策の変更につながる。
p51〜
  オバマ大統領がこれまでのエネルギー政策を変え、国内で増産が始まっている石油や天然ガスに重点を切り替えることは、アメリカの経済の回復に直接つながってくる。
  石油はドルそのもの、といわれるが、アメリカ国内で石油を増産すれば財政不足から中国の借金に頼らざるを得ないという状況から脱却できる。オバマ大統領の人気の低落、アメリカ国内における黒人と白人の対立、そしてエネルギー政策の転換は、アメリカの中国政策の大転換という重大な問題につながっていくのである。
p53〜
第2章 アメリカは尖閣で戦う
p54〜
第1部 オバマ大統領は石原前都知事に敗れた
 石原前都知事がアメリカの新聞に「尖閣列島を守ろう」という大きな広告を出したとき、彼はこう述べた。
 「尖閣列島が中国に占領されれば、船舶の自由航行が阻害される」
p55〜
  これを読んだアメリカ海軍の首脳が私に電話をかけてきて、こう言った。
 「石原知事の行動は、戦略的に見て素晴らしいものだ。新聞広告も強い説得力があった」
  アメリカ海軍の首脳は総じて言えば石原前都知事に同情的である。表立っては言わないものの、心の中で拍手している。(略)
 オバマ政権は、基本的には親中国政権である。(略)『ニューヨーク・タイムズ』などのジャーナリストたち、学者たちは、ビジネス一筋の日本をあまり快くは思っていない。しかも歴史的に日本が侵略国家であったという認識を持っているため、侵略された中国や朝鮮に同情的である。
p57〜
  尖閣列島についてもこれまでオバマ政権は基本的に日本を助けるつもりはなく、事態をうやむやに処理しようと日本側に圧力を加えた。だが2012年の選挙の結果、50%政権になってしまったオバマ政権の政治力は低下している。対中国政策も変わらざるを得なくなるだろう。
p58〜
  尖閣列島とは何か。いまや尖閣列島は日本と中国の争いの象徴である。だがこの争いは、ある意味では国際社会における日常茶飯事とも言うべき、兵器なき戦いに過ぎない。この戦いを演出した石原前都知事は、日本とアメリカ、そして中国の3つの国の関係があまりにも欺瞞に満ちており、当然あるべき姿になっていないことを正すために尖閣列島を持ち出したのだと思う。
  日本では民主党政権が登場して以来、日本とアメリカと中国の3つが協力して世界を動かすという、いわゆる3本柱説が盛んに言われるようになった。この愚かしい説がどこから出てきたかの詮索は別として、民主党政権が成立した当初、民主党の小沢一郎元幹事長が中国と話し合ったあとにワシントンを訪問するなどといったことから推察して、国際情勢に疎い民主党政治家が先走りして3本柱説を言い出したとしてもおかしくはない。
p59〜
  だが、この説を主張する人々が理解していないのは、ワシントンには大きく言って中国に対する3つの違った姿勢をもつグループが存在していることである。
  1つは、民主党の左寄りのリベラルなグループや『ニューヨーク・タイムズ』で、いまの中国と協力して国際社会を動かしていこうというグループである。
  もう1つは、中国が資本主義化を進めて経済的に豊かになれば、やがて民主主義制度に移行し、平和勢力として優れたアメリカの同盟国になるだろうと考える人々である。このグループは、キッシンジャー・グループと重なるが、すでに述べたように、現在のオバマ政権にはキッシンジャー・グループの人々が大勢いる。
  3つ目のグループは、独裁的な中国の共産主義体制を滅ぼさなければならないと考えているブッシュ前大統領のグループである。その中核は、共産主義を悪魔だと主張してソビエトを滅ぼすことに全力を挙げたレーガン大統領を信奉するグループで、「レーガン・リパブリカン」と呼ばれている。
  以上の3つのグループは中国に対する姿勢がそれぞれ違っているが、現実問題としてはっきりしているのは、中国がアジアにおいて帝国主義的な領土への野心を明確にしていることである。南シナ海や東シナ海だけでなく、中国は各地で領土拡大の動きを見せている。
p60〜
  中国はここ数年、資源があると見られる南シナ海のベトナムやフィリピン、マレーシアなどの島々を奪おうとしてきたが、いまや日本の尖閣列島、さらには沖縄も狙っている。2012年12月、中国は国連の大陸棚限界委員会に対して、「中国の大陸棚は沖縄トラフに及ぶ」という申請を提出した。
  広大な中国は、14にのぼる国と国境を接しているが、国境を越えての侵略を恐れている国は多数ある。なかでもベトナムは1979年、北部ベトナムに対して行われた中国軍による攻撃の記憶が生々しく残っているせいか、私がハノイで会ったベトナム政府の首脳たちは、アメリカよりも中国が怖いと訴えていた。(略)
p61〜
  アジア各国は中国の軍事力増強を警戒し、領土的野心に対抗して動き始めているが、アメリカに国の安全を頼りっぱなしにして半世紀以上を過ごしてきた日本は、自国の安全を守るための体制を積極的にとろうとしてこなかった。こういった情勢に火をつけたのが、石原前都知事の尖閣列島買い入れ発言だったのである。
  東シナ海に浮かぶ小さな島々に過ぎない尖閣列島は、アメリカのオバマ政権が触れたくないと思ってきた問題を白日の下にさらしてしまった。いまオバマ政権の閣僚や官僚たちは、尖閣列島問題がこれ以上拡大したり、さらに悪化して火がついたりすることを恐れ、話し合いで問題を収めてしまおうと全力を挙げている。
  しかし、オバマ政権はもはや、この問題をこれまでのようにうやむやのうちに片づけることはできなくなっている。中国の帝国主義的な侵略という事実は、誰の目にも明らかになっているからだ。しかも50%政権として政治力を失ったオバマ政権は、中国に対して厳しい姿勢を取るグループの存在を無視できなくなっている。
  いまわが国がとるべき道は、「尖閣列島の実効支配を行っているのは日本である」という事実を強化することである。
p62〜
  石原前都知事が主張しているように、漁場をつくったり、台風避難施設をつくったりすることも有効な方法だと思われる。
  日本が積極的に動き出せば、中国側は当然のことに、『人民日報』や北京放送を通じて批判攻撃を強め、金にあかせて世界中に訴えるだろうが、それは北京政府の宣伝であるとして日本政府もアメリカ政府も聞き流さねばならない。
  中国が軍事行動に出た場合には、アメリカはいやおうなく軍事的対応を迫られる。いままでのような、うやむやな姿勢は許されない。日本にとって幸運なことは、親中国政策をとるオバマ大統領が再選されたものの、アメリカの主流である白人グループの信頼を大きく失ったことだ。
  尖閣列島の問題は、石原前都知事が予想した通りの方向に動いている。これは国際社会の現実から見れば当たり前のことだが、日本国民のなかには、そうした国際社会の現実と新しい情勢について理解できない人も多い。
p168〜
第5部 アメリカは中東石油を必要としない
 アメリカが中東の石油を必要としなくなる。これはまさに歴史的な出来事と言える。その理由はいくつかあるが、最大の理由は、これからアメリカの石油の産出高が増えること、やがてアメリカがサウジアラビアを超える最大の石油産出国になろうとしていることである。
  第2の理由は、周辺の国々のメキシコ、カナダ、コロンビア、ベネズエラが産出する石油が増え、アメリカ国内の産出高の不足を補えるようになっていることである。
  第3の理由は、すでに述べたように天然ガスと原子力発電によるエネルギーの産出が増え、エネルギーの自給体制が確立しようとしているからだ。
p169〜
  中東の石油にまず手を出したアメリカの政治家は、フランクリン・ルーズベルト大統領だった。ルーズベルトはイギリスのチャーチルに対して、「イランをイギリスに与える代わりにサウジアラビアをアメリカのものにする」と主張し、話し合いをつけた。
  第2次世界大戦後はイランを牛耳るイギリスと、サウジアラビアを手にしたアメリカが中心となって、ソビエトとの冷戦が戦われた。その冷戦が終わったあとは、中東がアルカイダを含むイスラムの反米勢力との戦いの場となった。
p170〜
  ロシアはエジプトに触手を伸ばした。エジプトの人々は、ヨーロッパと並んで近代化を図ろうとした矢先、イギリスに騙され、植民地化されてしまったのに腹を立てていたが、第2次大戦では再びアメリカ、イギリス連合軍の手中に落ちてしまった。
  エジプトの青年将校たちがその後革命を行い、ソビエトとの同盟体制を強化したが、アメリカが入り込み、ソビエトを追っ払った。やがてイランが人民革命に成功し、パキスタンは独自の核兵器をつくり、アメリカによるイラク戦争、アフガニスタン戦争が始まり、現在に至っている。
  そうしたなかでサウジアラビアの石油帝国の位置は揺るがなかったが、油田そのものが古くなっている。日産100万バレルという巨大な油田を有するものの、サウジアラビア全体で1日1300万バレル以上を掘り出すことは不可能になっている。
  世界経済の拡大とともに石油産出国の立場が強くなり、OPECの操作で石油危機が起き、アメリカをはじめ世界が中東の石油カルテルに振り回されてきたが、その状況が終わろうとしている。しかし中国やインド、日本が依然として中東の石油を必要としているため、アメリカの中東離れによって、さらに複雑な国際情勢が描き出されようとしている。
  はっきりしているのは、中東の石油を必要としなくなった結果、世界の軍事的安定の要になっているアメリカが、中東から軍事力を引き揚げようとしていることだ。
p171〜
  アメリカは2014年、アフガニスタンから戦闘部隊をほぼ全て引き揚げることにしている。すでにイラクからは戦闘部隊を引き揚げており、このまま事態が進めば、中東におけるアメリカの軍事的支配が終わってしまう。
p172〜
  アメリカは、優れた衛星システムと長距離攻撃能力、世界規模の通信体制を保持している。アメリカが強大な軍事力を維持する世界的な軍事大国であることに変わりはない。
p173〜
  だが中東からアメリカ軍が全て引き揚げるということは、地政学的な大変化をもたらす。
  アメリカ軍の撤退によって中東に力の真空状態がつくられれば、中国、日本、そしてヨーロッパの国々は独自の軍事力で中東における国家利益を追求しなくてはならなくなる。別の言葉でいえば、中東に混乱が起き、戦争の危険が強まる。
  日本は、中東で石油を獲得し、安全に持ち帰るための能力を持つ必要が出てくる。この能力というのは、アメリカの専門家がよく使う言葉であるが、軍事力と政治力である。簡単に軍事力と政治力というが、軍事力だけを取り上げてみても容易ならざる犠牲と経済力を必要とする。
  中東で石油を自由に買い求め、安全に運んでくるための軍事力を検討する場合、現在の世界では核兵器を除外することはできない。あらゆる先進国は、自国の利益のために軍事力を強化している。核戦争を引き起こさない範囲で自国の利益を守ろうとすれば、軍事力行使の極限として核兵器が必要になる。先進国が核兵器を保有しているのはそのためである。
  韓国や台湾、それにベトナム、シンガポールといった東南アジアの国々が、いわゆる世界の一流のプレーヤーと見なされないのは、軍事力行使の枠組みになる核兵器を保持していないからだ。日本は日米安保条約のもと、アメリカの核兵器に頼っている。
p174〜
  東南アジアの国々と立場は違うが、いまやその立場は不明確になりつつある。
  中国についても同じ原則が当てはまる。中国は軍事力を背景に、アメリカの力がなくなった中東で政治力を行使することが容易になる。いま世界でアメリカを除き、ロシア、インド、パキスタン、イランそしてヨーロッパの国々も中国とは軍事的に太刀打ちできなくなっている。
  中国が中東で好き勝手をやるようになり、石油を独占して日本やインドなどに損害を与えるようになった場合、日本はインド洋からマラッカ海峡、南シナ海から東シナ海を抜けて日本へ至るシーレーンを自らの軍事力で安全にしなければならない。この際、欠かせなくなってくるのが、やはりアメリカの協力であり、アメリカの決意なのである。(略)
 中東には、石油の問題だけでなく、核兵器を持とうとしているイランの問題がある。イランのアフマディネジャド大統領はユダヤ人国家イスラエルの存在を認めておらず、核兵器で壊滅させるという脅しをかけている。宗教的に対立するサウジアラビアに対しても軍事対決を迫る構えを崩していない。
p175〜
  石油大国サウジアラビアとイスラエルは世界経済を大きく動かしている。この両国がイスラム勢力によって消滅させられるようなことがあれば、第2次大戦以来、比較的安定して続いてきた世界は大混乱に陥る。
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情報汚染=国も専門家も世論の反発と不信の前で、科学的に処理すれば汚染水は安全だと説明できない 2013-11-04 | 政治/原発 
  【櫻井よしこ 美しき勁き国へ】原発恐れず議論の時
 産経新聞 2013.11.4 03:18
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石原慎太郎氏と櫻井よしこ氏 7年振り対談 前回は尖閣語った 2012-12-11 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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日米資源同盟で中国と対峙せよ/櫻井よしこ×山田吉彦 『Voice』2013年6月号 2013-06-08 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
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