【佐藤優の地球を斬る】露外相、対日包囲網参加でルビコン川渡る 北方領土交渉に黄信号
産経ニュース2014.1.4 15:30
北方領土交渉が黄信号に変わった。中国の対日包囲網にロシアのラブロフ外相が積極的に加わる姿勢を示したからだ。昨年12月30日、中国の王毅外相がロシアのラブロフ外相に電話をした。両外相は、12月26日の安倍晋三首相の靖国神社参拝を批判した上で、歴史問題で共闘する方針を表明した。(SANKEI EXPRESS)
<王氏はラブロフ氏との会談で「安倍(首相)の行為は、世界の全ての平和を愛する国家と人民の警戒心を高めた」と述べ、参拝を批判。その上で「(中ロ両国は)反ファシスト戦争の勝利国として共に国際正義と戦後の国際秩序を守るべきだ」と述べ、歴史問題で共闘するよう呼び掛けた。
ラブロフ氏は「靖国神社の問題ではロシアの立場は中国と完全に一致する」と応じ、日本に対し「誤った歴史観を正すよう促す」と主張した>(12月31日のMSN産経ニュース)
ロシアは、安倍首相が靖国神社を参拝した当日、ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長名で「遺憾の意」を表明するコメントを出した。<参拝は第二次世界大戦下で日本の「侵略」の犠牲になった人々を苦しめる行為だと指摘した。日本と北方領土問題を抱えるロシアは「第二次大戦の結果の見直しは認められない」との立場を取り、戦時の日本の「軍国主義」を批判している>(12月27日のMSN産経ニュース)
ロシアの対応は理不尽だ。第二次世界大戦末期の1945年8月9日、ソ連は当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して、日本に戦争をしかけた。それだけでなく、ソ連は60万人以上の日本軍人、軍属、民間人をソ連領に連行し、極寒のシベリア、灼熱(しゃくねつ)の中央アジアなどで強制労働につかせた。その結果、6万人以上のわが同胞が、ソ連の地で生涯を終えた。また、ソ連は、日本が国際条約に基づいて正当に取得した南樺太、千島列島(ウルップ島からシュムシュ島までの18島)、さらに帝政時代を含め一度もロシア・ソ連領になったことがない歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島を力によって奪取した。現在のロシア連邦は、ソ連の継承国なので、ソ連の権利義務をすべて引き継ぐ。あの戦争で、ソ連との関係においては、日本は「侵略された側」なのである。
ソ連崩壊後のロシアが、戦勝国と敗戦国の区別にとらわれず、法と正義の原則で北方領土問題を解決する姿勢を示し、1993年10月に訪日したエリツィン大統領がシベリア抑留問題で頭を下げて謝罪したのも、スターリン主義的な過去から決別することで、国際社会におけるロシアの信頼が確保されると考えたからだ。
メドベージェフ前大統領の時期から、日本との関係でロシア外交にスターリン主義的な色彩が強まってきたが、今回の王毅外相との会談で、ラブロフ外相が、「靖国神社の問題ではロシアの立場は中国と完全に一致する」「(日本に対し)誤った歴史観を正すよう促す」と述べたことにより、ロシアはルビコン川を渡った。北方領土交渉を担当するロシア外務省の責任者であるモルグロフ次官は、中国専門家だ。靖国問題で、対日強硬策に転換することを発案したのもモルグロフ次官と筆者は見ている。今後、モルグロフ氏を長とするロシア代表団は、ソ連が対日参戦する前の45年6月26日に署名した国際連合憲章の対敵国条項に基づいて、ソ連による北方領土の領有を正当化するであろう。もっとも国連憲章が発効したのは45年10月24日なので、それ以前のソ連の活動を国連憲章によって正当化することには無理がある。いずれにせよ、日本外務省は、ロシア外務省が今後挑んで来るであろう論戦に対して、十分な備えをして国益を擁護してほしい。(作家、元外務省主任分析官)
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◇ 『動乱のインテリジェンス』著者(対談) 佐藤優×手嶋龍一 新潮新書 2012年11月1日発行 2013-06-27 | 読書
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◇ [ 加賀美正人氏 インテリジェンスオフィサー自殺の闇〜外務省に問題はないのか ] 佐藤優 2013-04-21 | 政治
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