落合GMは逃げたのか…中日が“落合流コストカット”で真に失ったものとは
産経新聞 1月5日(日)14時8分配信
【田所龍一の球界よもやま話】 中日・落合博満ゼネラルマネジャー(GM)と阪神・中村勝広GMの「GM龍虎対決」。オーナーの信頼の下、絶大な権力を掌握した落合GMが就任早々に引き起こした「井端切り捨て事件」の真相はこうだ。
井端弘和内野手、38歳。1997年に亜細亜大学からドラフト5位入団。堅実な守備、勝負強い打撃。昨年の第3回WBCでは2次ラウンドの台湾戦で九回2死から同点打を放つなど東京ラウンドのMVPを獲得した。だが、昨シーズンは右足首や右肘の遊離軟骨(ネズミ)に悩まされ100試合で打率・236、1本塁打、18打点と不本意な成績に終わっていた。
10月には足首と肘の手術を受け、新シーズンに向けてリハビリを続けていた。その井端になんと88%ダウン、年俸1億9000万円から1億6000万円ダウンの年俸3000万円を提示したのである。
もちろん減額制限(年俸1億円以上は40%、以下は25%)を超える提示を受けたのは井端だけではない。山本昌33%、岩田愼司46%、朝倉健太60%。そして吉見一起、浅尾拓也、荒木雅博らほとんどの主力選手が減額制限いっぱいのダウン提示を受けた。一昨年の契約更改の席で交わされた口約束はすべて反故(ほご)。「というより、約束した人がもういないんですから、話にもならない」とみな泣く泣く同意。
昨季5勝6敗、防御率4・15。6月28日のDeNA戦(横浜)で史上77人目のノーヒットノーランを達成した山井大介投手も「今回の査定には関係ないそうです」と25%ダウンをのんだ。
突出した井端のダウン幅。落合GMはその理由をこう語った。「彼には例年それなりのものを払っている。だが、故障がちでメスも入れた。その彼に億以上出して球団がリスクを背負えるか…その判断からの提示額だ」。とはいえ、まさに「辞めろ」と言わんばかりの提示額。当然、地元スポーツ紙は『事実上の戦力外通告』と報じた。すると−。
「これだけははっきりと言っておく。戦力外の選手には金銭提示はしない」と開き直ったという。
それにしてもなぜ、井端なのか。落合GMと井端の間に表立った確執があったわけではない。むしろその逆。落合政権下では『落合の息子』と言われるほど蜜月関係。いったい2人の間に何があったのか…。いろんな噂が飛び、週刊誌を飾った。
(1)落合監督がやった二塁へのコンバートに井端は不満だった。
(2)高木監督に自ら申し出て遊撃に戻った井端に落合氏が腹を立てた。
(3)落合監督が嫌っていたWBCに出場して活躍し、シーズンの不振に拍車をかけた。
(4)落合監督がクビになったとき、井端がフロントに「ありがとうございます」と礼をいった。
「それを知って激怒した落合氏がGMになって意趣返ししたというんですか? どれもこれも憶測で何の確証もなし。いくらなんでも、そこまで落合GMは小さい人じゃないでしょう」とはドラゴンズ担当記者の反応。たしかにその通である。
問題なのはなぜ切ったかではなく、その影響の方である。中日ドラゴンズはプロ野球12球団の中で「最も面倒見のいい球団」といわれている。現役中の待遇はもちろん引退した後の処遇まで。主力選手は母体である中日新聞グループで評論家の仕事が与えられ、監督やコーチとして現場に残る人もいる。そして管理能力を買われてフロントに入る人も。だから中日の選手やOBたちにはドラゴンズへの“忠誠心”があった。
例えば1990年オフ、ダイエーホークスの田淵幸一監督が1軍の投手コーチとして評論家の権藤博氏を招聘(しょうへい)しようとしたとき、権藤氏から「まず中日の了解を取っていただきたい」と言われた。この選手と球団の“絆”の深さ、これがドラゴンズの魅力であり強さだった。
たしかに落合GMの辣腕(らつわん)によって年俸分8億円、出来高額を加えれば実に10億円以上のコストカットが達成された。経営状態が悪化している球団にとって大きな成果であり、落合GMでなければできなかったのも事実。だが、それ以上に大事なものを失ったように思う。
今回のコストカットの中にはルーキーたちも含まれていた。1位から4位まで軒並み減額提示。昨季、中継ぎとして9試合に登板し0勝1敗3ホールドの成績だった1位の福谷浩司投手は減額制限いっぱいの25%ダウン、1500万円から1125万円に落とされた。
「これが落合流なんですかね。ルーキーまで25%ダウンさせる球団なんてありませんよ。プロの厳しさとはいえないでしょう。そんな球団に誰が大事な息子を預けようと思いますか? アマチュア球界の中でもうドラゴンズを敬遠する声があがっている。これは大変なことです」
そして最も重大な事実が明らかになった。なんと、前代未聞の「切り捨て劇」の主役と思われた落合GMが、井端への通告や交渉などすべてを新任の西山和夫球団代表に任せ、巨人への移籍が決まった後も井端との会談は行われていないというのである。
逃げた落合GM? そういわれても仕方がない。
かつて阪神でも同じようなことがあった。1976年、阪神は江夏豊投手の南海ホークスへのトレードを決めた。当時、監督だった吉田義男氏は江夏への通告を自ら行うつもりだった。ところが球団社長から「君は何もしなくていい。私が彼に通告する」と言われ託してしまった。
1月28日、球団事務所で通告された江夏氏は「なぜ、監督が出てこない…」と無念の涙を流し、以来、吉田氏とは一言も口をきかない関係になった。
吉田氏は悔いていた。「私の大失敗です。人任せにしたらアカンことです。どんなに言いづらくても、トレードを決めた監督である私の口からちゃんと説明し話さなアカンこと。それを人に任せてしもた。ずっと自分に腹が立ってるんですわ」
そうして阪神の監督に復帰した1985年、高知・安芸キャンプに評論家の仕事でやってきた江夏氏に吉田監督は「悪かった」と頭を下げた。
自らの言葉で伝える。それが「心」を持った者の対応であり、将来の監督候補とまで言われていた井端に対する礼儀であろう。いまのドラゴンズに求められているのは勝つ野球ではなく「愛される野球」。ここが落合GMの限界かもしれない。
冒頭で球界関係者が指摘したように、落合GMの力は阪神・中村GMとは比べものにならないほど絶大である。だが、いいチームを作るかはまた別。さぁ、読者のみなさんはどちらに軍配を?
最終更新:1月5日(日)16時0分
◎上記事の著作権は[Yahoo!JAPAN ニュース]に帰属します
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 保留者ゼロ。なぜ中日の選手たちは「大幅減俸」を受け入れたのか 石田雄太 2013-12-03 | 野球・・・など
--------------------
◇ 落合GMが選手を「完全掌握」 大減俸飲ませる「交渉術」とは 選手からは、意外なほど納得の声が出ている 2013-11-11 | 野球・・・など
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ バッサバッサと年俸カットされる選手たち 血も涙もない落合博満(中日GM)の大リストラ これでいいのだ 2013-11-26 | 野球・・・など
--------------------
◇ 落合GM オレ流査定でダウンの嵐「このチーム、何位だったの? Bクラス(4位)の責任は選手にもある」 2013-11-06 | 野球・・・など
◇ 落合GM 井端に言及「故障がちでメスも入れたし、その選手に億以上を出して球団がリスクを背負えるか」 2013-11-05 | 野球・・・など
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 他の監督とはここが違う 落合博満だけに見えるものがある 2011-11-03 | 野球・・・など
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇ 井端弘和が語っていた持論「プロは契約社会」・・・球団から『いらない』と言われれば、それまでなんです 2013-11-07 | 野球・・・など
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
◇落合博満氏 「常識」に喧嘩を売る人生 2013-10-23 | 野球・・・など
......................
↧
落合流コスト減が失ったもの オーナーの信頼の下、絶大な権力を掌握した中日・落合博満GM
↧