池田信夫blog 2012年11月14日01:55
核燃料サイクルと核兵器
橋下市長からコメントをいただいたが、非常にデリケートな問題なので整理しておく。彼もいうように、非核三原則を見直すのは大問題である。本書でもアーミテージ元国務副長官は、沖縄返還のとき核持ち込みの密約があったことを否定していないが「過去の問題」だとし、第7艦隊に搭載していた核トマホーク(TLAM-N)は「完全に不要となった」ので、オバマ大統領が退役を決めたと明言している。
したがって「持ち込ませず」は問題ではないが、「持たず、作らず」は重要な問題である。これについては、アーミテージは日本の核武装に強く反対し、「日本が核武装すれば、韓国の日本に対する好感度は一夜にして吹き飛び、彼らもまた核武装計画に走ることでしょう」(p.211)と警告している。日本政府が「核武装したい」といった途端に(核燃料の再処理を平和利用に限定して認める)日米原子力協定は破棄され、日本はNPT違反で制裁を受けるだろう。
これが日本と海外の認識が大きくずれている点である。アメリカにとっては民主党政権が9月に打ち出した「原発ゼロ」政策はプルトニウムの軍事転用=核武装を意味するので、激しく反発した。最初のうち、平和ボケの民主党は何が問題なのかも理解できなかったようだが、1週間もたたないうちに一転して、もんじゅも六ヶ所村も大間のMOX燃料もすべて現状維持という結果になった。
しかし中曽根や正力が原発を日本に導入した目的が将来の核武装だったことは、外交文書でも明らかだ。自民党内には、今でも「将来の核武装のために原子力は必要だ」という声が根強い。これは憲法改正や日米同盟ともからむ大問題なので、今のところ表に出てこないが、自民党政権になったら出てくるだろう。
核武装論には2種類あり、一つは伝統的な「自主防衛論」である。これは憲法を改正して日米同盟を解体し、日本が独自の核武装をしようというもので、現実的な政策とはいえない。しかしアジア情勢の変化やアメリカの国内事情(共和党には孤立主義も根強い)でアメリカのほうから日米同盟を解消する可能性はゼロではない。この場合、日本が単独で中国の核兵器に対抗するには核武装しかないだろう。
いずれにしても遠い将来の話で、いま日本が核武装することは可能でも賢明でもない。しかし核武装の体制を整えるには5年以上かかるし、国民的合意の形成にはもっとかかるだろう。長期の原子力政策を考えるときは、核燃料サイクルと合わせて核兵器の問題も考えておく必要がある。
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良書悪書 核武装というタブー - 『原発と原爆』
アゴラ 2012年10月12日10:49 池田信夫
原発と原爆 「日・米・英」核武装の暗闘 (文春新書) 著者:有馬 哲夫 販売元:文藝春秋 (2012-08-20)
原子力については、エネルギーという「顕教」とは別に、核兵器という「密教」がある。本書もいうように、最初に原子力を導入した中曽根康弘も正力松太郎も、将来の核武装を視野に入れて原子力の「平和利用」を推進したのだ。しかしこれがタブーとされてきたため、JBpressにも書いたように民主党は問題を理解できず、幼稚な「原発ゼロ」政策をとなえて米政府の批判を浴びた。
これについて「原発の本当のねらいは核武装だ」という話がよくあるが、本書はこれを否定する。核武装が原子力推進派の念頭にあったことは間違いないが、被爆国の日本が核武装することは政治的に不可能に近く、それを目的に原発を建設したわけではない。しかし結果的に人類を全滅させることのできる44トンものプルトニウムが蓄積されたことは事実であり、「原発ゼロ」にしたらその用途が核兵器以外にないことも明らかだ。
核武装というと反射的に反対する人が多いが、著者は外交文書の分析から「アメリカや中国やロシアとの外交交渉において、この[核武装という]カードほど効き目のあるものは他にない」(p.225)と指摘し、「使うにせよ、使わないにせよ、カードは持っておく必要がある」という。特に中国の脅威が顕在化してきた今、日本が自力で防衛する兵器として核武装というオプションは残しておく必要があろう。
本書の引用する戦後の公文書から浮かび上がってくるのは、原子力は何よりも核戦略の一部だということだ。当初は日本に対する原子力技術の供与を渋っていたアメリカに対して、正力は1956年に「宣戦布告」し、イギリス製の原子炉でプルトニウムをつくると宣言した。アメリカはこれに譲歩して技術供与を行ない、日米原子力協定で核保有国ではない日本がプルトニウムを製造することを特別に認めた。
しかし核燃料サイクルが行き詰まって、この日米合意はあやしくなってきた。民主党はアメリカの圧力を受けて、高速増殖炉も再処理も継続する方針に変更したが、その成算があるわけではない。かといって日本が核武装することは、政治的には不可能に近い。これはエネルギー政策を超えた安全保障や日米同盟の問題として、真剣に考える必要がある。本書は歴史的なトリビアが多くてやや退屈だが、これまでタブーとされてきた核武装の問題を考える糸口にはなろう。
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◇ 原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり 2011-05-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉
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