【高橋昌之のとっておき】原発問題・各紙社説への反論 オール・オア・ナッシングの議論はもう終わりにしよう
産経ニュース2014.1.19 18:00
今年初のコラムなので、当初は1年間の政界予想を書こうと思っていたのですが、東京都知事選(23日告示、2月9日投開票)に細川護煕元首相が出馬を表明し、「脱原発」が最大の争点になるとして、新聞各紙が社説で真っ向から意見が対立していますので、今回はこの問題をテーマにしようと思います。
原発問題、凝縮すれば現在停止中の原発の再稼働に賛成か、反対かで、新聞各紙の論調は2つに分かれています。具体的に言えば産経、読売両紙が賛成、朝日、毎日両紙が反対です。私は再稼働について必要との立場ですが、新聞各紙の社説、とくに細川氏が出馬表明した翌日の15日付朝刊の各紙社説は、自らの立場を主張するあまり、「ご都合主義」で都知事選を論じていると感じました。
まず、各紙社説は細川氏と支援を表明した小泉純一郎元首相が、都知事選で脱原発を争点にする考えを表明したことについて意見が割れました。朝日は「首都で原発を問う意義」と題して、「たしかに国民全体が考えるべき問題ではある。だが同時に都民が当事者として考えるにふさわしいテーマである」と主張。毎日も「原発も大きな争点だ」との見出しで、「首都の顔を決める都知事選だけに、国政の大きなテーマである原発問題も主要な争点として、むしろ徹底論議すべきだ」としました。
一方、産経は「脱原発主張に利用するな」という見出しで、「原発というエネルギー政策の根幹を決めるのは国の役割である。(細川氏や小泉氏が)どうしても『原発ゼロ』を実現したいなら、今一度国政に打って出て問うべきだ」としました。読売はこの日の社説では取り上げませんでしたが、2面の解説記事で「細川氏 『脱原発』争点化狙う 『世論誤導』の批判も」との見出しで、地方自治法第1条が「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」は国が重点的に担うと定めていると指摘、自民党などからエネルギー政策を知事選の争点とすることに「おかしい」という批判が出ていることを紹介しました。
私はさまざまな問題について、産経、読売の主張が正しい方向を示していると思っていますが、都知事選で脱原発を争点にすることに限っては、どうかと思います。というのは、すべての選挙において候補者が何を主張するかは、候補者の自由であり、その主張がいいのか悪いのかを判断するのはあくまで有権者だからです。
仮に、都知事選で有力な候補者が産経や読売が主張する「憲法改正」を最大の争点に掲げたら、両紙はそれもいけないと主張するでしょうか。逆に「大いに議論すべきだ」と主張するはずです。テーマによって争点化することをいい、悪いというのはダブルスタンダードと言われても仕方ありません。
一方、朝日、毎日が脱原発の争点化に賛成しているのは、両紙が「再稼働反対」を主張しているからでしょう。しかし、それも先ほど指摘したのと同様に、両紙が反対する「憲法改正」を最大の争点に掲げる有力候補が出てきたら、「憲法改正は国政のテーマだ」として争点化に反対するでしょう。これもやはり「ご都合主義」です。
この話は答えが明らかな当たり前の話なのでもうやめます。一番の問題は原発問題、とくに再稼働が是か非かという本質的な問題です。私の見解はもちろん、産経や読売が主張するように原発再稼働に賛成ですが、これも答えは出ています。
再稼働反対の人がまず言うのは、「原発が動いていない今でも日本の電力はもっているではないか」ということです。しかし、この見方はあまりにも表面的、短絡的です。なぜ電力がもっているのかと言えば、火力発電をフル稼働しているからにほかなりません。
ただ、よく考えてみてください。電力の大部分を火力発電に頼るということは、その燃料のほとんどは石油です。それはどこから輸入していますか。もちろん中東です。しかし、中東から今後も常に安定的に石油が供給されるとだれが言い切れるでしょうか。
仮に中東で紛争が起きたら、そしてホルムズ海峡に機雷がばらまかれるなどして封鎖されたら、石油の輸出をストップする国が出てきたら、日本に石油は入ってきません。その場合、火力発電に電力を頼っていたら、電力はすぐに止まってしまいます。期間が長引けば計画停電どころか、国中でいつ解消されるか分からない停電が続くことになります。
日本ではこれまで一時的な停電しか起きていないので、国民全体に危機感が足りないのかもしれませんが、東日本大震災直後に一部地域で行われた計画停電を思い出してください。現代社会のほとんどは電力に頼っています。「電気がない生活をたまに経験してもいいではないか」という人がいますが、そんな悠長な事態ではありません。
電気がなければ、それによって動いている水道も下水道もストップします。水はペットボトルを購入し貯蔵しておけばいいではないかと思うかもしれませんが、そんなのは数日しかもちません。さらにこぞって買い占めに走りますから、ペットボトルの水は店からあっという間になくなります。また、下水道がストップするということは逆流するということで、トイレや台所から汚水があふれ出す事態になるのです。当然、夏や冬の冷暖房も使えなくなります。すべて国民の生命に関わる話です。
そして、現代社会の基本的インフラである交通機関も、情報通信などもストップします。工場での生産、企業活動も停止されることになりますから、日本国内からモノがなくなり、経済は破綻します。したがって日本社会が大パニックになることは明らかなのです。
1970年代の中東戦争によるオイルショックを思い出せば分かると思います。あの際は決定的な事態にまでは陥りませんでしたが、私も幼心に店からトイレットペーパーが消え、狂乱物価になったことを覚えています。高度化した現在の社会の混乱はあんなものではすみません。
その事態になっても国民世論は「原発は動かすな」となるでしょうか。きっと「原発を早く動かせ」ということになるに違いありません。しかし、原発はすぐに動かせるものではありません。停止していた原発はそれこそ、安全性をすべて点検したうえでなければ再稼働できません。
こういう最悪の事態は万が一かもしれませんが、可能性がある以上、平時からそれに備えておくことを「危機管理」「安全保障」と言います。電力について言えば「エネルギー安全保障」です。その観点から言えば原発を再稼働しないということはありえない話なのです。朝日、毎日両紙が原発再稼働に反対だと今後も主張するなら、こうした最悪の事態にどう対処するつもりなのか、ぜひ教えてもらいたいと思います。
ですから、原発再稼働が是か非かという議論は初めから答えは出ているのです。核燃料サイクルについても使用済み核燃料があふれ出す一歩手前まで来ていることを考えれば、必要だということで答えは出ています。朝日、毎日両紙に言いたいと思います。もういい加減、国民を惑わす机上の空論を振りかざしてオール・オア・ナッシングの議論は終わりにしましょう。
ただ、今後も永遠に原発に頼り続けることがいいのかということは、政治だけでなく、国民全体が真剣に考えなくてはなりません。福島第一原発事故で原発の危険性を目の当たりにした以上、いつになるかは分かりませんが、原発に代わるより安全でクリーンな発電技術を、それこそ国家挙げて研究、開発に取り組む必要があります。
原子力だってそうだったように、いつ何時、そうした新しい技術が開発されるか分かりません。これに関しては日本は核融合などで世界トップの知識、技術をもっているのですから、私はきっとできると思いますし、国際社会における日本の責務だと思います。
また、先ほど論じたように、火力発電に多くを頼ることは安全保障上問題がある以上、依存度は下げていかなければなりません。そのためには風力、水力など再生可能エネルギーの比重を飛躍的に増大させる必要がありますが、原発反対論者が軽はずみに言うような中心エネルギーにはなりえないことは踏まえておく必要があります。
私の取材によれば、都知事選に出馬する細川氏や同氏を応援する小泉氏が将来に向けて「原発ゼロ」を主張するのは、そうしたことに今すぐ、全力で取り組もうということです。小泉氏が昨年11月に「原発即時ゼロ」にまで踏み込んで発言した真意は、安倍政権が「将来の原発ゼロ」になかなか動き出さないことに対する「ショック療法」だと聞いています。細川、小泉両氏は首相として政権を運営した経験があるのですから、「エネルギー安全保障」については百も承知のはずですから、両氏の真意はそうなのだと思います。
細川氏はまだ公約を発表していないので、それを待つ必要がありますが、私の取材では、細川氏は「原発即時ゼロ」や「原発再稼働絶対反対」などということは言わないと思います。朝日、毎日両紙は細川氏がそう言うことを期待していると思いますが。
おそらく将来の「原発ゼロ実現」を掲げてそれに向かって今すぐ行動することと、そしてそれが実現するまでの間はその時々のエネルギーのベストミックスでいくことを主張するのではないかと見ています。もし、細川氏が「原発即時ゼロ」や「原発再稼働絶対反対」を掲げたら、その際はたっぷり批判させていただこうと思います。
産経、読売両紙は小泉氏の「原発即時ゼロ発言」で、ややむきになっている感がありますが、両紙のエネルギーに関する主張は正しいのですから、どっしり構えていいと思います。良識ある国民は間違いなく正しい判断をしてくれるはずですから。
今回のコラムで、私は自分の会社の主張にまで注文をつけさせていただきましたが、これで分かるように産経はこういうことを認めてくれる「自由に議論できる新聞社」なのです。現に弊社では週に一度、社論会議を開催していて、現場の記者と経営陣、論説、編集委員が一堂に会して議論し、そのうえで社論を決めています。どこかの新聞社のように、社論と異なる記事を認めなかったり、書き直したり、そういう記者を左遷したりといったことはありません。
いろいろ論じてきましたが、最後に産経が主張するように都知事選は原発だけが争点ではありません。都民のために大いに議論し、答えを出さなければいけない政策はたくさんあります。日本最大の都市であり、財政規模で韓国を上回る、そして2020年には夏季五輪が開催される東京都のトップを決める知事選ですから、国全体の行方を左右する選挙です。
ぜひともマスコミはそれにふさわしい報道をし、都民の方々も自らに与えられた責任を自覚して、候補者の主張をしっかり検討したうえで投票先を決めてほしいと思います。
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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◇ 「脱原発をすれば、日本が亡ぶ」可採埋蔵量=石油は現在の消費量を続けた場合、53年分 2014-01-16 | 政治/原発(核兵器)
◇ 30分でできる「3兆円の緊急経済対策」貿易赤字の短期的最大要因は原発停止による化石燃料の輸入増 2014-01-14 | 政治(経済/社会保障/TPP)
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◇ 『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』日高義樹著 PHP研究所 2013年2月27日第1版第1刷発行 2013-02-28 | 読書
(抜粋)
p112〜
ムロイ海軍予算局長が私にこのことを耳打ちしてくれたのは、2つの帽子をかぶることになるスイフト中将と会うからだったのはもちろんだが、同時に日本が1日に使用するおよそ600万バレルの石油の85%を中東から輸入していることを知っていたからである。
p113〜
日本が輸入している石油のほとんどは、ペルシャ湾からインド洋を経由してマラッカ海峡を通り、東シナ海を経て日本に運ばれてくる。このルートを防衛するための司令部を横須賀に集中することは、当然といえば当然である。
p168〜
第5部 アメリカは中東石油を必要としない
アメリカが中東の石油を必要としなくなる。これはまさに歴史的な出来事と言える。その理由はいくつかあるが、最大の理由は、これからアメリカの石油の産出高が増えること、やがてアメリカがサウジアラビアを超える最大の石油産出国になろうとしていることである。
第2の理由は、周辺の国々のメキシコ、カナダ、コロンビア、ベネズエラが産出する石油が増え、アメリカ国内の産出高の不足を補えるようになっていることである。
第3の理由は、すでに述べたように天然ガスと原子力発電によるエネルギーの産出が増え、エネルギーの自給体制が確立しようとしているからだ。
p169〜
中東の石油にまず手を出したアメリカの政治家は、フランクリン・ルーズベルト大統領だった。ルーズベルトはイギリスのチャーチルに対して、「イランをイギリスに与える代わりにサウジアラビアをアメリカのものにする」と主張し、話し合いをつけた。
第2次世界大戦後はイランを牛耳るイギリスと、サウジアラビアを手にしたアメリカが中心となって、ソビエトとの冷戦が戦われた。その冷戦が終わったあとは、中東がアルカイダを含むイスラムの反米勢力との戦いの場となった。
p170〜
ロシアはエジプトに触手を伸ばした。エジプトの人々は、ヨーロッパと並んで近代化を図ろうとした矢先、イギリスに騙され、植民地化されてしまったのに腹を立てていたが、第2次大戦では再びアメリカ、イギリス連合軍の手中に落ちてしまった。
エジプトの青年将校たちがその後革命を行い、ソビエトとの同盟体制を強化したが、アメリカが入り込み、ソビエトを追っ払った。やがてイランが人民革命に成功し、パキスタンは独自の核兵器をつくり、アメリカによるイラク戦争、アフガニスタン戦争が始まり、現在に至っている。
そうしたなかでサウジアラビアの石油帝国の位置は揺るがなかったが、油田そのものが古くなっている。日産100万バレルという巨大な油田を有するものの、サウジアラビア全体で1日1300万バレル以上を掘り出すことは不可能になっている。
世界経済の拡大とともに石油産出国の立場が強くなり、OPECの操作で石油危機が起き、アメリカをはじめ世界が中東の石油カルテルに振り回されてきたが、その状況が終わろうとしている。しかし中国やインド、日本が依然として中東の石油を必要としているため、アメリカの中東離れによって、さらに複雑な国際情勢が描き出されようとしている。
はっきりしているのは、中東の石油を必要としなくなった結果、世界の軍事的安定の要になっているアメリカが、中東から軍事力を引き揚げようとしていることだ。
p171〜
アメリカは2014年、アフガニスタンから戦闘部隊をほぼ全て引き揚げることにしている。すでにイラクからは戦闘部隊を引き揚げており、このまま事態が進めば、中東におけるアメリカの軍事的支配が終わってしまう。
p172〜
アメリカは、優れた衛星システムと長距離攻撃能力、世界規模の通信体制を保持している。アメリカが強大な軍事力を維持する世界的な軍事大国であることに変わりはない。
p173〜
だが中東からアメリカ軍が全て引き揚げるということは、地政学的な大変化をもたらす。
アメリカ軍の撤退によって中東に力の真空状態がつくられれば、中国、日本、そしてヨーロッパの国々は独自の軍事力で中東における国家利益を追求しなくてはならなくなる。別の言葉でいえば、中東に混乱が起き、戦争の危険が強まる。
日本は、中東で石油を獲得し、安全に持ち帰るための能力を持つ必要が出てくる。この能力というのは、アメリカの専門家がよく使う言葉であるが、軍事力と政治力である。簡単に軍事力と政治力というが、軍事力だけを取り上げてみても容易ならざる犠牲と経済力を必要とする。
中東で石油を自由に買い求め、安全に運んでくるための軍事力を検討する場合、現在の世界では核兵器を除外することはできない。あらゆる先進国は、自国の利益のために軍事力を強化している。核戦争を引き起こさない範囲で自国の利益を守ろうとすれば、軍事力行使の極限として核兵器が必要になる。先進国が核兵器を保有しているのはそのためである。
韓国や台湾、それにベトナム、シンガポールといった東南アジアの国々が、いわゆる世界の一流のプレーヤーと見なされないのは、軍事力行使の枠組みになる核兵器を保持していないからだ。日本は日米安保条約のもと、アメリカの核兵器に頼っている。
p174〜
東南アジアの国々と立場は違うが、いまやその立場は不明確になりつつある。
中国についても同じ原則が当てはまる。中国は軍事力を背景に、アメリカの力がなくなった中東で政治力を行使することが容易になる。いま世界でアメリカを除き、ロシア、インド、パキスタン、イランそしてヨーロッパの国々も中国とは軍事的に太刀打ちできなくなっている。
中国が中東で好き勝手をやるようになり、石油を独占して日本やインドなどに損害を与えるようになった場合、日本はインド洋からマラッカ海峡、南シナ海から東シナ海を抜けて日本へ至るシーレーンを自らの軍事力で安全にしなければならない。この際、欠かせなくなってくるのが、やはりアメリカの協力であり、アメリカの決意なのである。(略)
中東には、石油の問題だけでなく、核兵器を持とうとしているイランの問題がある。イランのアフマディネジャド大統領はユダヤ人国家イスラエルの存在を認めておらず、核兵器で壊滅させるという脅しをかけている。宗教的に対立するサウジアラビアに対しても軍事対決を迫る構えを崩していない。
p175〜
石油大国サウジアラビアとイスラエルは世界経済を大きく動かしている。この両国がイスラム勢力によって消滅させられるようなことがあれば、第2次大戦以来、比較的安定して続いてきた世界は大混乱に陥る。
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