日本の国内法においてA級戦犯は戦争犯罪人ではないという認識は、野田佳彦財務相の個人的見解ではなく、日本政府の公式見解である
佐藤優の眼光紙背:第109回 2011年08月17日08時00分
8月15日の記者会見において、野田佳彦財務相が、「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」と発言したことに対し、韓国政府が反発している。朝日新聞の記事を引用しておく。
韓国「不適切」と批判 A級戦犯めぐる野田氏発言
韓国外交通商省は16日、野田佳彦財務相が15日の記者会見で「A級戦犯は戦争犯罪人ではない」とする立場を示したことについて、「過去の日本帝国主義による侵略の歴史を否定しようとする不適切な言動だ」と批判する論評を発表した。
野田氏は野党時代の2005年10月に政府に提出した質問主意書の中で「すべての『戦犯』の名誉は法的に回復されている。すなわち、『A級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」とする見解を表明。15日の会見で考え方に変わりはないかと問われ、「考え方に基本的に変わりはない」と答えた。
また、首相の靖国神社参拝の是非について「首相になる方の判断だ」と述べたうえ、首相に就任した場合の自らの対応について「それは仮定(の話)だ」と明言を避けた。(8月16日asahi.com)
この記事を読むと、あたかも「『A級戦犯』と呼ばれた人たちは戦争犯罪人ではない」というのが、野田氏独自の見解のように見えてしまうが、それは間違いだ。
2005年10月7日提出の質問主意書で野田氏は、
昭和二十七年五月一日、木村篤太郎法務総裁から戦犯の国内法上の解釈について変更が通達された。これによって戦犯拘禁中の死者はすべて「公務死」として、戦犯逮捕者は「抑留又は逮捕された者」として取り扱われることとなった。さらに「戦傷病者戦没者遺族等援護法」の一部が改正され、戦犯としての拘留逮捕者を「被拘禁者」として扱い、当該拘禁中に死亡した場合はその遺族に扶助料を支給することとなった。これら解釈の変更ならびに法律改正は、国内法上は「戦犯」は存在しないと政府も国会も認識したからであると解釈できるが、現在の政府の見解はどうか。
と尋ねた。
これに対し、2005年10月25日に小泉純一郎内閣総理大臣名の答弁書で、
平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律(昭和二十七年法律第百三号)に基づき、平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者について、その刑の執行が巣鴨刑務所において行われるとともに、当該刑を科せられた者に対する赦免、刑の軽減及び仮出所が行われていた事実はあるが、その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない。
と答えている。この答弁書は閣議了解を得た、日本政府の公式見解である。
A級を含む戦犯に関して、「その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない」というのが、自民党政権時代からの日本政府の公式見解なのである。韓国政府がこの事実を知らないはずがない。なぜ従来からの日本政府の見解を繰り返した野田財務相が、韓国政府から高飛車に批判されなくてはならないのか。理解に苦しむ。(2011年8月17日脱稿)
・佐藤優(さとう まさる)
1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。
2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。
....................
◆竹島問題を注視するロシア/日本政府が腰が引けた態度を取っていると、ロシアに足許を見られる2011-08-16 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
◆尖閣諸島は、我が国の実効支配が及んでいる我が国固有の領土/中国を利する枝野官房長官発言/眼光紙背2011-08-13 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
◆李・韓国大統領:竹島問題念頭に「正しい歴史を」2011-08-15 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
◆藤原正彦著『日本人の誇り』 米国の巧みな洗脳により自国を「恥ずべき国」と言い放つようになった日本人2011-08-15 | 読書
↧
「日本の国内法においてA級戦犯は戦争犯罪人ではない」という認識は、日本政府の公式見解である
↧