親中・張派排除余波…売掛金10億ドル、中国「代理人に払えない」 北の「命綱」対中貿易暗礁
産経ニュース 2013.12.29 11:00
北朝鮮の張成沢(チャン・ソンテク)氏と張派の粛清を受け、中朝の経済関係に深刻な影響が出始めた。粛清の余波で、北朝鮮が中国に輸出した鉱物などの売掛金計約10億ドル(約1050億円)の支払いが停止状態に陥っているともされる。金正恩(キム・ジョンウン)政権は急場しのぎに国民からの徴集を強めるなど、経済悪化を加速しかねない事態を招いているという。(桜井紀雄)
傾いた北朝鮮経済の「命綱」といわれるのが、石炭や鉄鉱石といった鉱物の対中輸出だ。特に対中貿易の権限の大部分を握った張氏の号令で輸出が急増。石炭だけで2000年半ばに200万〜300万トンだった輸出量は11年から1100万トンを超え、昨年の輸出額は約12億ドルに上った。
年末の決済期に入ってこの「ドル箱」の支払いに異変が起きた。正恩政権は張氏処刑で「石炭など貴重な資源をむやみに売り飛ばした」と断罪。貿易に携わってきた張派関係者が一斉に姿を消したからだ。
「契約した担当者のサインがなければ、支払えない」。中朝関係者によると、北朝鮮側企業に対して中国側企業が「担当者不在」を理由に支払いを保留し、未決済額は海産物輸出なども含め、計約10億ドルに上るとみられている。
「担当者」とは、張派が率いてきた朝鮮労働党行政部で石炭取引などに関わる「54部」傘下の貿易企業幹部らを指すようだ。張派は処刑された幹部のほか、本国に召還されたり、身の危険を感じて失踪したりした者も多いとみられ、「行方不明」幹部の実数さえ定かではない。
北朝鮮は軍系機関の職員を現場企業に送って事態収拾を図っているが、中国側は「新参の代理人には契約を履行できない」と拒絶しているという。中国企業側が代金を振り込んだのに、北朝鮮側担当者の不在で納期に商品が届かないケースも伝えられ、中朝貿易にこれまで見られなかった深刻な「停滞」が起きている。
北朝鮮国内では深刻な外貨不足が予想され、軍への配給食糧を確保するため、当局は農民に対して昨年の倍に当たる軍糧米の徴集を始めたという。
正恩政権は農民らの生産意欲を高めるため、収穫量の一部の取り扱いを生産者に任せる経済改善策を示していた。だが、苛烈な取り立てに自分たちが食べる分も確保できない恐れが生じ、来年には、深刻な食糧難が起きると予想する関係者もいる。
張派粛清と統制強化による“恐怖政治”に、生活難をもたらす「悪政」が加わり、民心の離反が急速に進む可能性も否定できない。
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