家庭への憧れと、家族を持ちたくない思いの葛藤 入れ墨に込めた加害者家族として生きる決意とは
Diamond online 2014年1月20日 『漂白される社会』 対談【大山寛人×社会学者・開沼博】
売春島や歌舞伎町といった「見て見ぬふり」をされる現実に踏み込む、社会学者・開沼博。そして、母親を殺害した父親に死刑判決が下されるという衝撃的な体験をもとに、現在は、被害者遺族が望まない加害者の死刑があることを訴える大山寛人。『漂白される社会』(ダイヤモンド社)の出版を記念して、ニュースからはこぼれ落ちる、「漂白」される社会の現状を明らかにする異色対談。
被害者遺族であると同時に、加害者の息子という立場にもある大山氏。第2回では、数えきれない差別を受けるなかで彼に芽生えたある決意、そして、なぜ憎んでいた父親の死刑を望まなくなったのか、その心境の変化にも迫る。大山氏との対談は全4回。
*「人殺しの息子は雇えない」と失職
開沼 それまで会わないできたお父さんとはじめて面会したのは、高校を辞めて働き始めたあとのことですね。どのタイミングですか?
大山 父親の逮捕から3年半後です。逮捕されたのが中学2年生の終わりだから、16歳の終わりか、17歳くらいだったと思います。
開沼 今はおいくつですか?
大山 今年の2月で26歳になります。
開沼 もう仕事を始めてから10年が経つわけですね。その間は、無職になったこともほとんどなかった?
大山 何らかの仕事に就いてはいます。ただ、一時期スランプというか、ひどい状況にはなりました。ちょうど著書を出す前の話です。講演活動をきっかけに取材をしてもらえるようになり、仕事場の人がその記事を見たそうです。すると、「人殺しの息子は雇えないから」とクビになるということが半年くらい続いて、その間はろくに仕事にも就けず、生活にも苦しんだ状態でした。
開沼 かつて、オウム真理教事件のときにも、犯人やオウム真理教信者の家族が就学を拒否されたことがありました。きれいごとを言えば、「犯罪者の子どもも犯罪者だと言うのはおかしい」とは多くの人が合意可能でしょう。ただ、現実にはそうでもないということですね。
大山 現実はそんなに甘くないですね。最近は、そういう問題も伝えるようにしています。加害者家族に対する差別の実態に目を背けず知ってほしいので。
*被害者遺族が望まない加害者の死刑もある
大山 言葉の暴力は日常茶飯事ですが、やっぱり一番困ったのは、職に就けないことですね。僕は独り身で支えてくれる家族もいないので、仕事がないと生活できません。
開沼 もし独身でなかったら、家族にも危害がおよんだ可能性もありますよね。
大山 そうですね。だから、僕はこれからも家庭を持つつもりは一切ありません。
開沼 そういう切実な事情を抱えている、死刑囚や親族間殺人の家族の声を聞く機会は多くはありません。にもかかわらず、大山さんが語った背景には何があったのでしょうか。
大山さんのドキュメンタリーを見ていて気になったのは、社会問題の当事者としての側面ばかりが描かれていて、大山さんご自身の人間性があまり見えてこなかったところです。社会に訴えかけたいという気持ちが芽生えたのはなぜですか?
大山 正直なことを言えば、父親を死刑にしたくなかったというのは大きかったと思います。被害者遺族が望まない加害者の死刑も存在するということを伝えて、父親の判決が覆らないかなという期待を昔は持ちながら、そういう活動をしていました。それは講演をする前の話ですけど。講演を始めたのは父親の死刑判決が確定した後です。それは気持ちが変わったきっかけでもあるのかな。ただ、ホームページは講演を行う前から作っていて、同じように苦しんでいる人からメールが来たこともあります。
そういった経験もあって、自分のように、被害者遺族が望まない加害者の死刑があること、加害者の死刑がさらに被害者遺族を深く傷つけてしまうケースがあることを知ってもらうために、誰かが動かないと何も変わらないのかなと思っていました。僕が先陣を切るといったら格好つけすぎかもしれませんけど、僕は独りだし、失うものも何もないというくらいにも思っていたので、自分から発信するようになりました。
開沼 普段、友だちとそういった話をすることはありますか?
大山 事件の内容をすべて知っている友だちもいますけど、友だちとはまったくこの話はしないですね。まあ、友だちといっても数人いるかいないかのレベルですし、あまり一緒に遊ぶこともしません。
*父親との面会で変わる気持ち、入れ墨に込めた決意
開沼 仕事も長時間拘束のものをこなしていたわけですが、何かに没頭するのが好きなタイプですか?
大山 そうですね。没頭するのは好きですし、働くことも嫌いではありません。任せてもらってできなかった仕事はなく、要領よく何でもこなせると思いますね。ただ、プライベートは本当に薄っぺらいというか、人間味のない生活をしているかもしれません。ウサギやネコの散歩だったり、あとは入れ墨が唯一の趣味ですね。
開沼 入れ墨は少しずつ増やしているところですか?
大山 そうですね、まだ完成してない状態ですから。月に1、2回、それが唯一の楽しみといえば楽しみですね。
開沼 入れ墨は「決意」だと著書でも書かれていましたね。
大山 父親を許すことはできないけど、「生きて罪を償ってほしい」と気持ちが変わり、これからも父親と一緒に先に進んでいこうということがきっかけです。
開沼 なるほど。
大山 僕のことを心配してくれた人はいましたが、僕の側が聞く耳を持ちませんでした。自殺未遂をしたときも親戚は心配してくれましたし。でも、僕が荒れに荒れていたので、家に置けないから施設に預けたい、家から追い出したいという気持ちはいまならわかります。ただ、当時は捨てられたと思っていたし、人の愛情を感じられなかったというか、「どうせ、うわべだけ」「心配なんかしてないんだろ」と思っていました。
それが、父親と面会するようになってから、自分のことを本当に心配してくれているという愛情を感じることができました。そのときはじめて心配かけたらいけないなと思えて、真面目に働くようにもなりました。同時に、父親が死刑にならないように、僕も最善の努力を尽くして一緒に前へ進んでいこうと、その決意が固まったときに何らかの形を自分の中で残したかったというのがあったと思います。
若気の至りといえばそうかもしれません。龍の絵のように和風な絵が好きだったこともありますが、入れ墨には当然痛みも伴います、かなりの激痛が。また、一生消えないものでもあるからこそ決意の表れにもなるかなと。何があっても絶対に、自分が死ぬときまで消えないものといったら、僕の中では入れ墨という発想だったので、背中に大きく入れたという感じですかね。
開沼 なるほど。実際に入れ墨を入れてみたとき、最初はどんな気持ちでしたか?
大山 ただ「痛い」という気持ちしかなかったです。入れ墨がなければ決意が揺らぐのかといえばそうではないけど……うまく言葉では言えませんが、彫る痛みも乗り越えながら完成したものを見たときは、今までいろいろ乗り越えてきた証が背中にバーンとできたようでうれしく思いました。
開沼 大山さんが何を背負っているのか、まだ理解しきれていないところがあります。それは、言葉にしにくい何かでしょうか?
大山 背負うというか決意ですね。
開沼 何の決意ですか?
大山 変わらない、過去の自分に戻らないことですかね。父親に対する憎しみの気持ちは、心の中には絶対まだありますが、それを表に出さない。憎しみだったり、恨みだったり、そういったものを自分の中で終わらせる決意です。内面は変わったけど、外見も変えたかった。ただ体に模様が入ったというだけなんですけどね。入れ墨に対する偏見はものすごく大きいだろうし、たぶん理解されない、理解されるほうが難しいかなと思っています。趣味の話題から話がこじれちゃいましたね。
開沼 いやいや、そういうところを知りたかったんです。入れ墨に興味がない人からすれば、入れ墨をしている人の気持ちはわからない。痛いだろうし、不便もあるだろうし、一生縛られるものでもある。もっと卑近な例で言えば、もとからタバコを吸っていない人がタバコを吸っている人を見たら、なに不健康なことをやって勝手にやめようと苦しんだり、喫煙の権利を強弁したりしているんだろう、と思うところもあるわけですが。大山さんにとっての入れ墨には、一生変わらないものを身体にまとうことで、いつか変わるかもしれない気持ちを支えるという意味があると。それはわかりやすい。
*家庭への憧れはあるが、家族は一生持たない
大山 あとは、先ほども言いましたが、大げさに言ってしまえば家族を持ちたくないという思いがすごく強かったです。講演のような活動をする前から、偏見や差別を受けてきたので。そんな状態でもし家庭をつくったとしたら、家族に差別の牙が向けられることを懸念せざるを得ない、という思いは今も強くあります。
家族を早くに、ましてやこういう形で失っている分、家庭に対する憧れというのは人一倍強いんです。けど、だからこそ、もし結婚して子どもが生まれたときに、「あの子のおじいちゃんは人を殺してるんだよ」と言われる可能性もある。「いい一族ではない」と差別を受けるかもしれません。
家族を持って、子どもが生まれて、子どもが悲しい思いをしてからではもう遅い。そうなるなら、結婚や家庭を持つことを諦めて、自分が悲しい思いをするほうがよっぽど幸せだなとも思っていました。入れ墨への偏見はすごく大きいし、子どもをプールにも、お風呂にも連れて行ってあげられない。入れ墨をいれたことによって、家族への諦めもついたというのも正直大きかったと思います。自分の欲にブレーキをかけることにもなりました。
開沼 何度も同じようなことを聞いてしまいますが、普通の人は親族の殺人を隠し通して、家族も持とうとするわけですよね。そうならなかったのは、何が違ったと思いますか?
大山 心配だっただけです。隠し通せる保証はないじゃないですか。本当に、最後の最後まで隠し通せるんだったら、もしかしたら結婚してるかもしれない。でも、家族がそういう目で見られて悲しい思いをするのは絶対後悔するんで、自分が。
開沼 ただ、都会で暮らすとなると、人が多いし、人間関係の流れや移り変わりも激しいので、バレたりしないんじゃないかとも思います。そうは思いませんでしたか?
大山 たまたまと言えばたまたまですけど、同じ職場で働いていた人が広島県の呉市の出身の方だったことがあります。僕は広島でかなりやんちゃをしとったんで、顔がけっこう知られていてバレてしまいました。そうした不安の要素が1%でもあれば結婚はできないなと、僕はそのとき思いました。
表現がおかしいかもしれませんが、将来ピアニストになりたい子が、指を落としてしまえばできませんよね。まったく一緒ではないけどそんな感じですね。純粋に入れ墨が好きという気持ちもありましたけど、入れ墨を入れることで、一種の諦めをつけさせるという意味もありました。
最愛の母親を殺害した父親を激しく憎みつづけていた大山氏。しかし、父親との面会をきっかけにある気持ちの変化が生じる。やつれて、震えながら目の前に座る父親と対面した大山氏は、いったい何を思ったのか。次回更新は、1月27日(月)を予定。
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