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『知の武装 救国のインテリジェンス』手嶋龍一×佐藤優 

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『知の武装 救国のインテリジェンス』手嶋龍一×佐藤優 新潮新書 2013年12月20日初版発行
 (抜粋)
p14
第1章 アジア安保としてのオリンピック
 東京支援に動いたロシア
p15〜
手嶋 それではインテリジェンスの視点から、今回の2020年東京オリンピックの決定劇を佐藤さんと読み解いてみたいと思います。
 オリンピックは「スポーツの祭典」ということになっていますが、その時々の国際情勢を見事に映しだしてきました。ヒトラーがレニ・リーフェンシュタール『民族の祭典』として映像で記録させたベルリン・オリンピック(1936年)、パレスチナの過激派による史上最悪のテロに見舞われたミュンヘン・オリンピック(1972年)、ソ連のアフガニスタン侵攻によって西側諸国の多くがボイコットしたロサンゼルス・オリンピック(1984年)と、まさしく激動の現代史がそのまま刻まれています。
佐藤 1940年に開催されるはずだった幻の東京オリンピックも忘れるわけにはいきません。1937年から始めた日中戦争国際社会から非難が浴びせられ日本は開催を中止。代わりにヘルシンキで開催されることになったものの、1939年に第二次世界大戦が始まったことで、開催を断念しなければならなかった。オリンピックとは、国際政治そのものと言っていいんですよ。
p16〜
手嶋 今回の2020年東京オリンピックの開催地を決める最終局面では、プーチン大統領率いるロシアは、東京開催に好意的だったと言われます。その最大の理由は、安倍晋三総理が率いる日本が、アメリカと微妙に距離を置いていることを評価したからだと、オリンピックのオブザーバーは揃って指摘しています。
佐藤 東京、イスタンブール、マドリードが三つ巴で、最後の多数派工作を繰り広げていた2013年8月19日に、モスクワで行われた杉山晋輔外務審議官とロシアのモルグロフ外務次官による次官級協議から、重要な流れを読み取ることができます。この席で「9月5日を軸に日ロ首脳会談を行う」と決定したのですが、ロシア側はこれを日本側の極めて大胆な政治決断だと受け止めたんです。
 その背景には、同年6月に起きた「スノーデン事件」があります。米ロ関係を冷やし、米中関係にも影響を与えたこの事件は、後に詳しく説明しますが、スノーデンCIA元職員の送還をめぐって、アメリカと亡命先のロシアとの関係がにわかに悪くなっていたのです。その後、アメリカのオバマ政権が米ロ首脳会談をキャンセルしたことを、プーチン政権は「難癖」だと受け止めた。そもそもアメリカのインテリジェンスがスノーデン捕択・拘束作戦に失敗したのがこのトラブルの原因なのに、その失敗のツケをロシアに回し、挙句の果てに早く送還しろと文句を言ってくる。これはどういうことだ、というわけです。
p17〜
手嶋 そんな状況下で、アメリカの緊密な同盟国である日本は日ロ首脳会談を決断してえらい、安倍総理の決断は勇気がある、とロシア側はこう受け止めたわけですね。実態はともかく、オリンピックの開催でロシア側は側の3票が何としても必要だった日本にとって、そう受け取ってもらえたことは、まことに幸いなことでしたね(笑)。安倍総理は運が強い。
佐藤 もう一つ、日本ではほとんど報道されなかったことですが、ロシア側で「同性愛宣伝禁止法」が議会で成立し、これが西側諸国からは大変な顰蹙を買っていました。このロシア批判の流れが収まっていない中で、安倍総理はプーチン大統領と会う決断をしたことも、好意的に受け止められた一因です。西側世界と価値観を共有している国家のリーダーである安倍総理が、大きな政治的リスクを取って決断してくれたと、ロシア側は高く評価したわけです。
p29〜
手嶋 東京オリンピックの開催は、たとえてみれば、尖閣諸島に国連の環境関連機関が設立されたようなものと言っていいでしょう。もし中国が本気で奪取しようと軍事攻勢でも仕掛けようなものなら、平和の祭典をぶち壊した張本人として国際社会の厳しい批判にさらされることは間違いありません。日本の実効支配は国際的に明らかですから、あまりに分が悪い。つまり、さしもの中国も、うかつに尖閣諸島に手を出せなくなったはずです。
 尖閣問題はもちろん、シリア問題も竹島問題も、いわば「オリンピックの人質」に取られてしまったわけです。ただし、ロシアが北海道の北半分を奪取しようと試みているわけではないし、韓国も対馬を奪い取ろうとはしていない。ここが中国との違いです。その点でも、開催決定を機にロシアや韓国との関係改善に動き、中国を平和の祭典に引きずり込む戦略を推し進めるべきなのです。
 歴史の中の東京オリンピック
手嶋 安倍総理は、日本の政治家には珍しく、スピーチ・ライターを抱えています。ジャーナリストから外務省の外務副報道官に政治任用され、その後、安倍官邸に内閣審議官として迎えられた谷口智彦氏です。
(p30〜)私が教授を務めている慶應義塾大学の大学院では、彼に国際政治・経済システム論を講じてもらっているのですが、その講義はじつに秀逸なんです。
 彼の講義の1コマに、「戦後史の節目としての1964年東京オリンピック」というのがあります。開会式で最終ランナーを務めた坂井義則君が、原爆が落ちた昭和20年8月6日に広島で生まれたというエピソードを紹介しつつ、東京オリンピックとは、先の大戦で徹底的に打ちのめされた日本が、国際社会に雄々しく復権する舞台となったことを、様々な例証をあげて論じているのです。この青年によって聖火が灯され、その上空には航空自衛隊のブルーインパルスが姿を現し、見事な五色の大輪を天空に描く。それは完璧なほどのミリタリズムに彩られており、戦後のニッポンはあのとき初めて真の主権国家として蘇った---と朗々たる講義は続きます。安倍総理は思想信条とぴたりと重なるスピーチ・ライターを見つけたものですね。
 ただ、谷口智彦氏は、あの日のニッポンがあれほどミリタリズムを前面に押し出すことができたのは、アメリカの庇護のもと、日米同盟にまるごと身を寄せていたからだと怜悧に分析しています。この人は保守派にして日米同盟論者なのです。(p31〜)来たるべき2020年の東京オリンピックは、敗戦国の復権の祭典でもなければ、土建国家の祭典でもない。光輝くような民主主義の理念を体現して、東アジアの平和を先導する祭典にしなければなりません。
 超大国の終わりの始まり
手嶋 超大国の終わりの始まり---。しばしばアメリカはこう形容されてきましたが、従来はレトリックの域をでませんでした。ところが、シリアへの力の行使をめぐって、ふらつくオバマ政権を見ていますと、「超大国の終わり」が本当に始まっているのかもしれないと思ってしまいます。
佐藤 オバマ政権の迷走ぶりはシリア情勢を一層、昏迷させてしまいました。乱暴なことを言えば、武力行使の可能性を秘めたこの種の問題は、わかりやすくやらなきゃいけないんです。武力を行使するという行為は、人類が誕生したときから、その本質はさして変わっていない。殺戮の武器を手に相手に立ち向かっていくのですから、究極の本性が露わになります。その限りでは、原始の部族闘争と何ら変わるところがありません。
p32〜
つまり、「殺るか殺られるか」という単純明快な原理で貫かれている。「アサド政権は許せない」と武力行使するのであれば、ミサイルを撃ち込み、地上軍を突っ込ませて、アサド政権の要人を皆殺しにして傀儡政権を打ち立てる。さもなければ、「いや、他国の政治には介入しない」と決めて、完全に放置しておかなくてはいけない。ところがオバマ政権は「化学兵器を使用したかどうか」という中途半端なところにレッドラインを引いちゃった。
p33〜
手嶋 オバマ政権の迷走ぶりは、すなわち、スーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官が率いる国家安全保障会議が十分に機能していないことを物語っています。「アサド大統領がレッドラインを越えたらアメリカには覚悟がある」と警告しておきながら、実際には米議会の顔色を窺ってお墨付きをもらいにいき、どうも同意を得られそうにないとみたら、伝家の宝刀を引っ込めてしまった。
p34〜
手嶋 そもそも安全保障分野の「抑止力」とは、その奥底に「力の行使」の覚悟を秘めていなければ効き目がありません。誤解のないように申し上げておきますが、アメリカにシリアで軍事力を行使しろと唆しているんじゃありません。当然ながら戦争などないほうがいいに決まっています。しかし、究極の場合に武力を行使するという可能性を残しておかなければ、安全保障そのものが機能しなくなります。そもそも、アメリカ大統領の座に座るような人物なら、こんなことは本能的に知っているはずなんです。いまのシリア情勢に真っ向から立ち向かうつもりなら、武力行使から目を逸らしてはいけない。超大国アメリカの歴史を振り返ってみると、ときには「力の行使」に踏み切ることには、リベラル派から保守派まで、知識人から草の根の人々まで、幅広いコンセンサスがありました。冷戦期も冷戦後も、抑止力として「力の行使」を最後のカードとしてその手に握りしめてきたのは、事実としてアメリカだけです。
p36〜
 「ロシアの半沢直樹」が投げ込んだクセ球
佐藤 アメリカが迷走した隙を突いて巧みに動いたのがプーチン大統領です。「ロシアの半沢直樹」として彼は、明らかにアメリカに「倍返し」をやっているんですね。彼の発言を裏返して読んでいけば判ります。
 2013年8月31日、プーチン大統領はオバマ大統領を牽制する「声明」を発表します。彼はアメリカ政府の報告書に対して、次のような問題点を指摘しました。まず1点目は「シリア政府が優勢であるのに化学兵器を使う合理性がない」。一部の地域では、政府側が反政府側をすでに包囲している。そのように優位にある者が化学兵器を使っても、外敵を侵入させるだけで合理性がないと指摘したわけです。2点目は「アメリカは証拠があるなら、きちんと公表すべきである」と注文をつけました。(p37〜)たしかに、アメリカのインテリジェンス当局は、最初の頃は電波傍受の他にがっちりとした証拠を持っていなかったため、現場からの報告もどうしても限定的なものにならざるを得なかったようです。
p37〜
手嶋 しかしオバマ政権は、シリアのアサド政権が化学兵器を使用した事実については、かなりの自信を持っていたのでしょう。ただ、その裏付けを明らかにすることは、シリアでいかにして情報を得ていたかという手の内を明かしてしまうことになりかねません。プーチン大統領は、インテリジェンスのプロフェッショナルですから、アメリカの弱みを衝いてきたのです。
p39〜
 ソチ・オリンピックという人質
手嶋 アメリカのオバマ大統領は、国の内外の批判を向こうに回して、敢然と力の行使」に打って出る覚悟がない---。プーチン大統領はこう読んで、クセ球をワシントンに投げ込んだわけです。オバマ大統領はプーチン提案にやすやすとのり、「国際管理」という罠にかかってしまいました。
(p40〜)かくして、シリアのアサド政権は、化学兵器を国際管理に委ねるという計画を受け入れ、アメリカの軍事攻勢はひとまず回避された。まさしくプーチン大統領の思い描いた通りに事が進んだのです。
佐藤 私がモスクワから得た情報では、プーチン大統領は、今回の出来事を通じて、オバマ大統領を見下すようになったといいます。それに対して、安倍総理はなかなかにしたたかで、見どころのある保守政治家だと、その評価はうなぎ上りだそうです。
手嶋 東京オリンピックの招致で、ロシアのプーチン大統領の協力を取り付けた成果は認めますが、その反動が気がかりですね。
佐藤 私も今後の事態の推移を心配しているんですよ。たしかにロシア側からすると、オバマ大統領より安倍総理のほうがしっかりしているように見えるかもしれない。しかし、いつ日本外交の実態がバレてしまうか、わかりませんからね。
 先ほども申し上げたように、2020年の東京オリンピックが、日本にとっての一種の制約要因になっている。同様に、プーチン大統領も、2014年のソチ・オリンピックという名の人質を取られているんです。ソチという場所は、チェチェン独立運動あるいはイスラム原理主義勢力のテロが起きる恐れがある場所だからです。
p89〜
第3章 サイバー時代のグレート・ゲーム
 スノーデン事件が意味するもの
手嶋 2013年8月1日、ロシアのプーチン政権が、ついにCIA(米中央情報局)エドワード・スノーデン元職員の一時亡命を受け入れました。アメリカを脱出してからすでに2か月以上経過していました。アメリカのバラク・オバマ大統領は、この決定に抗議して9月初旬にサンクトペテルブルグで予定されていた米ロ首脳会談を取りやめ、米ロ関係はにわかに緊張の度を高めました。
 この事件の陰の主役はなんといっても、冷戦期にKGB(ソ連国家保安委員会)のインテリジェンス・オフィサーとしてスゴ腕を振るったウラジミール・プーチン大統領です。彼が吐いた警句は、事件の本質を抉って余すところがありません。
p90〜
佐藤 「元インテリジェンス・オフィサーなど存在しない」というのがプーチンの口癖です。ひとたびインテリジェンス機関に奉職した者は、生涯を通じて諜報の世界の掟に従い、祖国に身を捧げるべきだ。この約束事に背きし者は命を失っても文句は言えない、というのですね。スノーデン問題にも、この哲学で対処していました。
手嶋 米ソ超大国が「核の刃」を互いに突きつけて対峙していた、あの冷たい戦争の時代に、泣く子も黙ると怖れられたKGBのオフィサーとして、情報戦(インテリジェンス・ウォー)の最前線に身を置いていたプーチン大統領から出た警句だけに、その切れ味はひときわ際立っています。
佐藤 スノーデンもアメリカという祖国を捨てて、一時なりともこの寒い国に亡命したのですから、よほど強靭な意志力を持っているんでしょうね。
手嶋 17世紀にヨーロッパでウェストファリア条約が結ばれて、ネイション・ステート(国民国家)ができる遥か昔から、中国には祖国を捨てる意を表す「亡命」という言葉がありました。祖国を去ることとは即ち命を亡ぼすことを意味したのです。スノーデンがどこまで自覚しているのかわかりませんが、彼はいま、亡命の恐ろしさ、その深淵を覗き見ていると言っていい。
p91〜
佐藤 スノーデンは、CIAに勤務して「シギント」(電波傍受)の技術的作業にだけのめり込んでいたため、諜報世界の真の恐ろしさを知らないのかもしれませんね。
p109〜
手嶋 プーチン大統領は、スノーデン個人には終始、冷ややかな反応を示しながらも、最終的に一時亡命を認めました。そしてアメリカ側が、重要な国家機密を漏洩し、アメリカ国民の生命・安全を損なった犯罪者として訴追しているにもかかわらず、スノーデンをジュリアン・アサンジと並べて、「人権活動家」と呼び、アメリカ人の自尊心をいたく傷つけました。その結果、オバマ大統領はロシア主催のG20サミットでの首脳会談を取りやめると発表し、米ロ関係は一時的に冷え込む事態となりました。
佐藤 ただ、プーチン大統領は、スノーデンと戦っている連中のことを指して「全員、子豚の体毛を刈っているいるようなものだ」と揶揄しています。
手嶋 プーチン大統領がこうした場合に使う警句は、それだけで一冊の本に編んでもいいほどに面白いですよね。ロシア社会とロシア人に深く通じていなければ、このニュアンスは十分に楽しめません。さあ、ここは「佐藤ラスプーチン」の出番です。
佐藤 プーチン大統領は、「子豚は毛を刈り取られると、ブヒブヒとたくさん鳴くが、(p110〜)刈り取られる毛は少ない」と言っているんです。子豚はスノーデンを指しているのですから、プーチンという人が、この亡命者をどう思っているか、いまさら説明の必要もないでしょう。
手嶋 その子豚を手に入れて、毛を刈ろうとしても、さして収穫はないとワシントンに警告しているというようにも見えますね。
佐藤 そう、スノーデンの身柄を是が非でも押さえようとしているCIAを、プーチン大統領は痛烈に皮肉っているんです。「アメリカという小屋の外にゴミがでてきたと思ったら、家主がすぐに常軌を逸してしまった」と揶揄しているのです。アメリカのインテリジェンス機関からスノーデンのような「ゴミ」が出てきただけで、アメリカはそうしてそんなにうろたえるんだと、かつてKGB将校として鳴らしたプーチンは冷たく言い放っています。
p113
第4章 東アジアに嵐呼ぶ尖閣問題
p124〜
手嶋 にもかかわらず、日本にはいまだに新たな国家戦略がありません。新たに創設される日本版NSC(国家安全保障会議)の最大の責務は、新たな対中戦略を策定し、究極の有事に備えることにあるはずです。
佐藤 これも、中国を標的にした戦争計画を一刻も早く策定すべしと煽っているのではありません。中国がいまや真の脅威であるからこそ、表面的には中国との安定した友好関係をと呼びかけるべきでしょう。歴史認識や戦没者の追悼などで、中国側に日本攻撃の口実を与えてはなりません。民主主義陣営の要である日本の側に、国際世論をぐんと引きつけておくべきなのです。
 東アジアの球面争奪戦
手嶋 いまやアジア半球が世界を動かしていると言われます。たしかに、全ての経済指標は、東アジアこそ世界経済の推進エンジンであることを示しています。同時に、この地域は各国の国益がぶつかりあう「動乱の半球」でもあります。急速な経済発展を背景に軍拡を続ける中国の攻勢を牽制するためにも、日本は国際世論を自らの側に引きつけて、外交の主導権を握っておかなければなりません。
p125〜
 安倍内閣は地球規模の外交を展開して、対中包囲網を築こうとしていますが、日本がひとたび外交の舵取りを誤ってしまえば、中国の巧妙な外交キャンペーンによって、逆に「対日包囲網」を張られかねません。プロレスには四の字固めという技がありますが、相手を抑え込んだと思っても、気づくと自分が抑え込まれている恐れがあります。
佐藤 手嶋さんは、地球儀のアジア半球の球面を使ってよく「包囲」と「逆方位」の関係を説き明かしていますが、示唆に富んだ解説です。球面では、どちらが包囲し、包囲されているかが、本質的に定かではありません。中国に脅威を感じている東アジア諸国と共に対中包囲網を張っていると思っていても、ふと周りを眺めると日本が取り囲まれていたという事態も起こりうるんですよ。中国と韓国は、そのための手段として、歴史問題をじつに巧みに使ってきています。
手嶋 事実、半世紀を超える同盟国にして包囲網の中核を担うアメリカから、過去の歴史に対する日本の認識に危惧の声があがっています。
佐藤 歴史認識や靖国問題などをめぐって、日米の間に不協和音が生じれば、中国がそれを逆手に取って対日包囲網を構築しようとするでしょう。いまは国際世論を日本により引き寄せておくべきときで、対日攻撃の口実を与えてはいけないんです。
p126〜
 だからこそ、韓国との関係改善を優先すべきです。韓国とは、自由や基本的人権など民主主義の価値観を共に分かち合うことができ、また政治指導者も国民の選挙によって選ばれるからです。日韓関係に鋭く突き刺さった「トゲ」、竹島問題と慰安婦問題でh、中国の外交攻勢を念頭に置いて、賢明にさばいてみせる外交的知恵がいまこそ必要なんです。安倍政権も韓国に対しては、あえて大胆な譲歩をして見せる覚悟があってもいい。大きな戦略的構図の中では、「一歩後退、二歩前進」も辞さないという懐の深さが欠かせません。

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 WSJ Japan Real Time 2014年2月07日10:15 JST
世界の首脳、ソチ五輪対応でジレンマ―同性愛宣伝禁止法めぐり
 【ソチ(ロシア)】ロシアの同性愛宣伝禁止法をめぐり、世界の多くの首脳がジレンマに陥っており、ソチ冬季五輪への対応で揺れている。開会式などに参加しないことで抗議の意思を表すよう求める国内からの圧力と、自国代表選手たちを応援したいという願いとの間で板挟みになっているためだ。
 同性愛宣伝禁止法は、未成年者にいわゆる同性愛を宣伝することを禁じる法律で、同性愛者の権利を主張するイベントを実施したり、同性愛が異性愛と同等だと主張したりした場合、罰金ないし禁錮刑に処されることがある。昨年制定されて以来、海外からの批判が相次いでいる。
 同禁止法制定は、五輪に出席したいが同法を認めない姿勢を示したいと考えている一部の世界指導者にとって、政治的な地雷と化した。
 例えばイタリアのレッタ首相は今週、ソチ五輪の7日の開会式に出席すると述べたが、同国は「スポーツであれ何であれ、同性愛者を差別するいかなる規範ないし規則にも反対する」と強調することを忘れなかった。イタリアは2024年の夏季五輪開催地に立候補を予定しており、レッタ首相はイタリア五輪委員会と相談した結果ソチを訪問することにしたという。
 それでも同首相は、イタリアの主要同性愛擁護団体であるArcigay(アルチゲイ)や、自身が属する民主党の一部議員からの批判を免れなかった。
 同様の動きはオランダでも展開された。同国のルッテ首相はロシアの同性愛宣伝禁止法を公の場で批判したが、ウィレム・アレクサンダー国王、マキシマ王妃とともにソチ五輪に出席する計画だと述べた。
 ルッテ首相は批判の声に対し、「われわれはロシアの人権状況に懸念を繰り返し表明してきたし、今後もそうするつもりだ」と述べた。その上で、ソチ五輪に行く最大の理由はオランダの代表選手たちを応援することだと強調。「ボイコットで得るものは何もなく、対話したほうがいいと考えている」と述べた。
 一方、英国のキャメロン首相、カナダのハーパー首相、フランスのオランド大統領などはソチ五輪に出席しない。
 オバマ米大統領も出席しない。米国はロシアへの当てつけとして、同性愛者であることを公然と認めている人物を五輪代表団に追加した。女子テニスの世界的プレーヤーだったビリー・ジーン・キング氏と男子フィギュアスケート選手として活躍したブライアン・ボイタノ氏だ。
 しかし、ソチ五輪開会式の行われる7日夜、ロシアのプーチン大統領は、決して孤独だと感じないはずだ。
 プーチン大統領との緊密な関係を求めてきた中国の習近平国家主席は開会式に出席する。新華社通信によれば、同主席はこれに先立ち6日にプーチン大統領と会談した。プーチン氏は08年の北京五輪の開会式に出席している。
 日本の安倍晋三首相も開会式に出席した後、日露関係の重要性を強調するため、8日にプーチン大統領と会談する。東京は20年に夏季五輪を主催する。
 ◎上記事の著作権は[WSJ Japan Real Time]に帰属します
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安倍首相「FB発言」の重大性 阿比留瑠比 / 『動乱のインテリジェンス』 佐藤優 手嶋龍一 2013-06-27 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
 【阿比留瑠比の極言御免】安倍首相「FB発言」の重大性
 産経新聞2013.6.19 08:10
 安倍晋三首相が交流サイト「フェイスブック」への投稿で、小泉政権時代の田中均元外務審議官による対北朝鮮外交を批判し、「彼に外交を語る資格はありません」と記したことが波紋を広げている。これに民主党の細野豪志幹事長や朝日新聞が「個人攻撃だ」と噛み付き、首相に自制を促すという展開になっている。
 18日付朝日社説は田中氏を擁護しこう書いた。
 「この批判は筋違いだ。田中氏は外交官として、政治家が決断するための選択肢を示した…」
 だが、細野氏や朝日は首相の投稿の一番重大な部分を、読み落とすか無視するかしているようだ。首相は「外交を語る資格はない」と書いた直前のセンテンスで、こう指摘している。
 「そもそも彼は交渉記録を一部残していません」
 首相は、田中氏が主導した北朝鮮との秘密交渉の記録の一部が欠落していることを初めて公にし、その前提の上で田中氏の問題点を問うているのである。
 筆者は過去に複数の政府高官から、次のような証言を得ている(平成20年2月9日付産経紙面で既報)。
 田中氏が北京などで北朝鮮側の「ミスターX」らと30回近く非公式折衝を実施したうち、14年8月30日に政府が当時の小泉純一郎首相の初訪朝を発表し、9月17日に金正日総書記と日朝首脳会談を行うまでの間の2回分の交渉記録が外務省内に残されていない−というのがその概要である。
 通例、外交上の重要な会談・交渉はすべて記録に残して幹部や担当者で情報を共有し、一定期間を経て国民に公開される。そうしないと、外交の継続性や積み上げてきた成果は無に帰するし、どんな密約が交わされていても分からない。
 当時、取材に応じた高官の一人は「日朝間で拉致問題や経済協力問題についてどう話し合われたのかが分からない」と困惑し、別の一人は「記録に残すとだれかにとって都合が悪かったということ」と語った。
 田中氏自身は取材に「私は今は外務省にいる人間ではないし、知らない。外務省に聞いてほしい」などと答えた。その後、日朝交渉や拉致問題に関する産経の取材には応じていない。
 産経の報道に対し、当時の高村正彦外相はコメントを避けたが、今回、安倍首相が自ら言及した形だ。
 外交ジャーナリスト、手嶋龍一氏の小説「ウルトラ・ダラー」には、田中氏がモデルとみられる「瀧澤アジア大洋州局長」が登場し、日朝交渉を取り仕切る。作中で瀧澤が交渉記録を作成していないことに気付いた登場人物が、こう憤るシーンが印象的だった。
 「外交官としてもっとも忌むべき背徳を、しかも意図してやっていた者がいた」
 首相の指摘は単なる「個人攻撃」や「筋違い」ではない。(政治部編集委員)
 *上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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