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野田政権「ノーサイド政治」の本質は「霞が関におんぶにだっこ」 「政策」にノーサイドなどありえない

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党内の支持優先で国民を見ていない野田政権「ノーサイド政治」の本質は「霞が関におんぶにだっこ」 「政策」にノーサイドなどありえない
現代ビジネス2011年09月02日(金)長谷川 幸洋
 野田佳彦新総理が誕生した。このコラムを執筆している9月1日午後時点で内閣の顔ぶれは決まっていないが、それでも、これまでの発言などから新しい野田政権の性格がおぼろげに見えている。
 野田は民主党の代表に決まった直後の演説で民主党議員に「ノーサイドにしましょう」と呼びかけた。日本人は対立よりも協調性や調和を好む人が多いから、こういう姿勢は一般に好感をもって受け止められているようだ。
 だが、ラグビーのスポーツ精神でノーサイドが尊いとしても、政治の世界がそれでは困る。国民はまず政策を判断材料にして議員を選んでいるはずだ。代表選が終わった途端にノーサイドでは、自分が選んだ議員を通じて実現してほしい政策まで、なんだかあいまいに妥協されてしまいかねない。
*ノーサイドとは一昔前の自民党政治そのもの
 国民の代表である政治家には、信念をもって最後まで「自分のサイド」を貫いてほしい。また、そうあるべきだと思う。
 野田が両院議員総会で「ノーサイドにしよう」といった視線の先には、400人の民主党国会議員しか見えていない。政権基盤を安定させられるかどうかは、まず民主党議員たちの支持にかかっている。だから野田はノーサイドと言って、できるだけ多くの議員に支持してもらいたかったのだ。
 だが実は、議員たちの後ろに多くの有権者が控えている。有権者はみなそれぞれ実現してもらいたい、あるいは実現してもらいたくない政策がある。ある人は増税を望み、別の人は増税をまったく望まない。ここは、けっしてノーサイドにはならない。
 たとえば、既得権益を得ている層とそうでない層では基本的な利害対立がある。
 国民に意見対立があるなら、国民の意見を反映する政治家の政策も対立しているはずだ。ところが、そういう対立を覆い隠して政治家たちに「みんな和解しましょう」と言っている。ここに野田政治の本質的側面がすでに表れている。
 言い換えると、ノーサイドとは一昔前の自民党政治そのものでもある。
 自民党時代には政策は霞が関が一手に引き受けていた。政策は霞が関がつくっていて基本的にみな同じだったから、永田町の政治家は「決断と実行」とか「忍耐と寛容」とか政策の根幹に関係ない部分でアピールしていた。実行力とか包容力とかを競う以外に言いようがなかったとも言える。
 そういう政治はダメと分かったので、2年前の総選挙で民主党は「脱官僚・政治主導」の旗を掲げたはずだった。政治家が政策を官僚の手から取り戻そうとしたのだ。ところが結局、官僚に絡めとられて脱官僚路線はうまくいかず、民主党三代目の野田政権に至って、結局「ノーサイド」と言う以外になくなってしまった。
*新たな政策決定の仕組みが波乱の種になる
 単に言葉だけではない。小沢一郎元代表に近い輿石東参院議員会長を幹事長に起用したところをみると、野田は党人事の上でも小沢・反小沢の対立を乗り越えて和解しようという姿勢があるようだ。
 では、ノーサイドの政治はうまくいくだろうか。結論を言えば、それは難しい。
 なぜなら「霞が関におんぶにだっこ」という政治はもう機能しないからだ。霞が関は大きくなりすぎた。民間部門の箸の上げ下ろしまで霞が関が差配し、天下りで官僚が税金をかすめとる体制を続けていて、日本経済の復活はない。
 日本経済が停滞している根本原因が霞が関主導体制にあるという認識は、東日本大震災と福島第一原発事故の辛い経験を経て国民全体に広まった。そういう認識が永田町にも敏感に伝わっている。
 多くの民主党議員が霞が関の口移しのような姿勢では「次の総選挙が危ない」と気づいてしまった。たしかに野田は勝ったが「増税はダメ」という勢力は党内に相当数、残っているのだ。
 野田は政策決定の仕組みも変えようとしている。
 政策調査会を完全復活させて、基本的に予算案と法案、条約は前原誠司政調会長の了承なくして閣議決定しない仕組みにした。それが新たな波乱の種になる。
 新代表誕生のユーフォリア(幸福感)でつかの間、ノーサイドが心地よく響いたとしても、たちまち議員たちは現実に戻る。政調の部門会議で増税路線を具体的に決めようとすれば、再び大荒れになるのは必至だろう。
 しかも、それはすぐやってくる。復興財源を手当てする基幹税増税は3次補正予算案の編成と並行して取組む段取りになっている。社会保障財源としての消費税引き上げも来年3月までに法案化する予定だ。すなわち議論は秋からスタートする。
*一番困っているのは自民党
 小沢と自民党についても書いておこう。
 今回の敗北で小沢は鳩山由紀夫グループと連携しても、政権を握れないことがはっきりした。来年9月の代表選で再挑戦するかもしれないが、このままではジリ貧である。
 ここは鳩山と袂を分かっても離党して新党を結成し、国会でキャスティングボートを握るか、それとも党内の少数勢力としてキャスティングボートを握るか。どちらかを選ぶしかなくなってきた。
 野田政権誕生で一番困っているのは、実は自民党である。
 自民党はこれまで「唯一の責任政党として国民に耳の痛いことも言う。それは増税だ」と訴えてきた。増税を武器に支持を訴えたのだが、いまや野田政権が増税を言っている。どちらも「責任政党として増税を目指す」という話になって、違いがなくなってしまった。
 それで大連立するならすっきりするが、自民党は当面、大連立を受け入れない方針のようだ。それで出口がなくなってしまった。いざ解散・総選挙になったとき「私たち自民党は民主党とここが違います」という対立軸がなくなってしまったのだ。
 原発、外交関係をとっても、民主党も自民党も基本的には段階的な脱原発依存と日米関係重視で大差はない。
 自民党が抜本的な霞が関と公務員制度改革を打ち出すなら、公務員労組への依存体質が残る民主党との対立軸になる可能性がある。それもためらうなら、自民党は結局、長期低迷から抜け出せないだろう。(文中敬称略) *強調(太字・着色)は来栖
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