【裁判員5年(下)】凄惨「殺害映像」は再生されず、少年らは「殺人罪」を免れた…「心理的負担」迷う裁判所、量刑に直撃の矛盾
産経ニュース 2014.6.6 07:00[westナビ]
「せっかく動画があるのに、なぜ使わなかったのか」
大阪地裁で2〜3月に開かれた公判に参加した元裁判員は「証拠」の採用をめぐる地裁の判断に、今も疑問が募るという。
平成24年10月、大阪・梅田の高架下で起きたホームレスの男性=当時(67)=の暴行死事件。少年4人が殺人罪などで起訴され、殺意の有無が最大の争点だった。
少年らは凄惨(せいさん)な暴行の様子を携帯電話で撮影。男性を激しく殴打し、支柱の上から飛んで頭を踏みつける場面が動画で残されていた。「死んだんちゃうか」。少年らの笑い声も記録されていたという。
検察側は殺意を裏付ける証拠として動画を提出しようとしたが、地裁は「裁判員の心理的負担」を理由に採用しなかった。結局、提出されたのは字幕を付けた複数の静止画。判決では全員の殺意を認定せず、傷害致死罪を適用した上で実刑を言い渡した。
元裁判員は「静止画では心証形成の上で問題があると思った。実際、静止画に臨場感はなかった」と振り返り、地裁の対応をこう推測した。
「福島の訴訟の影響だろう」
*急性ストレス障害に
福島の影響−。関係者に衝撃を与えた国家賠償請求訴訟が起こされたのは、昨年5月のことだ。
原告の青木日富美(ひふみ)さん(63)は、福島地裁郡山支部で昨年3月、強盗殺人事件の裁判員を務めたことがきっかけで急性ストレス障害になったとして、国に損害賠償を求めている。
公判で目にした証拠は想像を超えていた。床一面に広がる血の写真。被害女性が助けを求めた消防への通報も再生され、「『助けて』という叫びと断末魔のうめき声が頭から離れない」という。
「評議で顔を上げると卓上にある凶器の包丁が目に入り、きつかった…」。食欲を失い、眠れなくなったが「周りに迷惑をかける」と法廷に通った。結論は死刑。包丁は今も握ることができず、調理ばさみで家事をする。 「こんな苦しみは私で最後にしてほしい」と青木さんは訴える。
*「衝撃証拠」予告
裁判員の心理的負担の軽減に向け、裁判所も衝撃的な遺体写真などをイラストに代えたり、モノクロに加工したりする工夫を続けている。ただ、それによって犯行の実態が裁判員に伝わらなくなれば、事実認定や量刑を左右する。工夫にも限界がある。
東京地裁は昨年、遺体写真などを扱う場合、選任手続きの段階で裁判員候補者に予告する運用を始めた。心的外傷(トラウマ)の恐れを感じた場合は柔軟に辞退を認める。
最高裁もこの取り組みを全国の裁判所に紹介し、昨秋以降、各地の裁判所で臨床心理士を招いた研究会を開いている。
研究会に参加する臨床心理士の半沢利一さん(51)は、選任手続きでは家族の死や離職、転居といった喪失体験や変化が最近なかったかなど心理的な安定度を判断することが必要−と指摘。裁判官と地裁職員の役割として「判決まで継続的に裁判員の様子に気を配り、素早く対処できるよう情報を共有することが大切だ」と提言している。
連載は宮本尚明、林佳代子、時吉達也、滝口亜希が担当しました。
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