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国際秩序 『乱』の時代 中国が世界とどのように付き合うかは、21世紀の国際政治の最大のテーマ

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世界を語る 国際秩序 乱の時代
日本経済新聞 特集 2011/09/04Sun. 閻 学通(ヤン・シュエトン)・中国清華大学国際関係研究院長
 中国が世界とどのように付き合うかは、21世紀の国際政治の最大のテーマといえる。中国を代表する外交論客、閻 学通・中国清華大学現代国際関係研究院院長に展望を聞いた。
ーー米国債は格下げされ、欧州は債務危機に陥っています。中国から見て世界はどのように映りますか。
 「1文字で表せば『乱』。先進国だけでなく、中東でも衝突が続く。私に言わせれば至って自然なことだ。世界唯一の超大国だった米国が後退を始め、国際秩序は移行期に入った。移行期に国際政治は不安定になるものだ。
ーー世界は徐々に多様化に向かうのでしょうか。
 「そうは思わない。経済力、軍事力など物質的な力、いわゆる『ハードパワー』で測れば世界は米中の2極体制に向かっている。今後10〜15年で、米国との力の差を縮小する国は中国しかいない。日本もドイツも英国も、米国との差は開いていくだけだ」
 「しかし国力を定義するのはハードパワーだけではない。同盟国との戦略的な友好関係も力の源泉だ。米国は世界の70か国以上と同盟・協力関係を持ち『同盟の力』では断トツな存在だ。中国はパキスタン、北朝鮮とは友好関係にあるが本格的な同盟関係とはいえない。中国が米国に並ぶ超大国になるには、周辺国との戦略的な同盟関係を強化しなければならない」

 

ーー同盟関係はどのように築くものですか。
 「周辺国に安全保障を提供することだ。経済的な結びつきがいくら深くても安全保障の連帯にはかなわない。例えば中国はもう何年も日本の最大の貿易相手国だが、米国に代わる存在にはなれない」
ーー多くの国が米国と同盟関係を結ぶのは、自由や民主主義という価値観を共有するからではありませんか。
 「それは典型的な西洋型の解釈だが正しくない。米国がどこよりも多くの同盟関係を持つのは、どこよりも出費して安全保障を提供しているからだ」
ーーしかし尖閣諸島や南シナ海の領有権を巡る中国の姿勢を見て、同盟関係を結びたい国はないのでは?
 「あなたは米国の友好国にしか注目していない。中国に安全保障を提供してもらってもいいと考えている国は少なくない。パキスタンが典型例だが、最低でも10か国はあげられる。北朝鮮もそうだし中国の西の国境に接するカザフスタン、キルギス、タジキスタン、東南アジアではミャンマー、ラオス、カンボジア、南アジアではネパール、バングラデシュ、スリランカが中国と安全保障関係に違和感を覚えていない。日本や韓国やベトナムだけがアジアではない」
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ーー世界が2極に向かうとすれば、中国はどんな「極」を担いますか。
 「孟子、老子、荀子ら中国古代の賢人らは、それぞれの時代に中国がどんな大国であるべきかを盛んに議論していた。彼らは3つのリーダーシップがあるとみていた。『専制』と『覇権』と『王道』。専制は圧倒的な軍事力で世界の秩序を維持しようとする。覇権は軍事力と同盟関係の拡大で世界に影響力を行使していく。今の米国がこのタイプ。同盟国から信頼されなければならないので行動は自制され、専制よりはましだ。ただ、覇権はダブルスタンダードを招く。中東でも、米国は同盟国バーレーンには決して武力介入しないが、非同盟国のリビアでは為政者を排除するための軍事行動に参加する」
 「古代の賢者が最適な道と考えたのは孟子が唱えた『王道』だ。わかりやすく言えば、『人情のある権威』だ。王道は軍事力と道徳規範の2つで指導力を発揮する。国際的な基準、ノルマを順守する。同盟国と仲良くするだけでなく『徳』によって非同盟国も味方につけていく。中国は王道を目指さなければならない。こうした方向性を世界に発信すべきだが、今の外交方針は永遠に先頭に立たないとの立場だ。これでは世界の疑心が深まるばかりだ」
ーー中国は国際社会でより責任ある行動を取るべきだということですか。
 「そうだ。しかし、それには?小平氏が掲げた『韜光養晦(とうこうようかい)=能力を隠して力を蓄える』を改めなければならない。?小平氏は、まず中国の物質的な力を高めることを優先していた。当時の経済力は世界で8位や9位。世界2位になった今の時代には適さない」
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ーー日本人として中国の外交転換は心配です。
 「日本は世界2位の地位を失ったばかりで心配するのは理解できる。しかし日本の後退は政治指導力の問題だ。『荀子』によれば、国は小さくても政治が強ければ、国は強くなる。10か月に1度、首相を取り換えていては強い指導力が生まれるはずがない」
ーー選挙を経ていない中国の政治は強いといえますか。
 「強い政治とは何か。人々が幸せであることだ。人を幸福にするのはお金ではなく、フェアで公正な社会だ。今の中国では汚職や格差など社会の矛盾を修正し『調和のとれた社会』を目指す政治勢力と経済発展を重視する勢力が激しい闘争を繰り広げている。特に地方の書記や省長は経済発展を重視する。経済さえ成長すれば政治も安定するという見方が強いが、逆だ。?小平氏の改革開放政策が成功したのは毛沢東氏の階級闘争を大胆に切り替える政治力を発揮したからだ。
ーー徐々に西洋のように自由で民主的な国に向かうということではありませんか。
 「違う。西洋型の自由民主主義は自由選挙と表現の自由さえあれば、たとえそれが混乱や貧富の差や民族間の衝突を生んだとしてもかまわないとする。結果よりプロセスの重視だ。私は結果を重視する。民主主義は社会秩序とセットでなければならない。秩序のない民主主義を混乱といい、民主主義のない秩序は全体主義と呼ぶ。インドやフィリピンは民主主義だが腐敗や社会の不公正は深刻だ」
ーー米国はどんな方向に向かうとみていますか。
 「来年の大統領選挙で新しい指導体制が生まれれば衰退を食い止めることができるかもしれない。オバマ大統領は協調主義外交を取り、同盟の力を高める能力はある。しかし米国のハードパワーを高める能力が決定的に欠けている。借り入れに頼っていては復活できない。クリントン元大統領のように財政黒字を拡大し、ハードパワーを高めるレーダーを必要としている」  *強調(太字・着色)は来栖

閻 学通Yan Xuetong(ヤン・シュエトン)
 1952年、天津市生まれ。黒竜江大卒、米カリフォルニア大バークレー校で博士号取得。政府系シンクタンクを経て清華大教授。専門は国際関係。文化大革命で東北部の農村に放され、16歳から9年間過ごした。「苦難を経験していない人は国際関係について楽観的になる傾向がある」と語る。2008年に米誌フォーリン・ポリシーが選ぶ「世界で最も影響力を持つ知識人 100人」に入った。

<インタビューを終えて>
 先月、バイデン米副大統領が訪中した。四川省成都で専用機「エアフォース2」から出てきた副大統領が手にしていたのが閻教授の新著だった。6月に北京市内で開かれた外国特派員協会主催の講演でも、米、仏、スイスなど各国大使館の政務担当者が駆けつけ、立ち見が出るほど盛況だった。中国外交の先行きのヒントを得ようと多くの人が耳を傾ける。
 タカ派のリアリストだ。ブッシュ前米政権で強硬外交を主導したネオコンになぞらえてネオコム(ネオコミュニスト、新共産主義派)と呼ぶ人もいる。主張は大胆で時にゾッとする。それでも不思議と説得力があるのは米欧の収縮と中国の拡大が目に見える現実として存在しているからだろうか。
 言論統制がある中国で自国批判をする識者は少ない。閻教授が古代の賢者を引用するのは彼らに主張を代弁させている側面がある。辛口コメントもよく見ると現指導部への批判はない。
 それでも政治・経済両面で?小平路線を「時代遅れ」と言い切るのは新鮮。共産党と政府の重要機関が集まる「中南海」はベールに包まれているが、そうした議論はあるのだろう。(北京=守安健)


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