安倍首相の活発な「原発セールス」 危険な舞台裏
dot. (更新 2013/6/12 16:00)
ある企業の経営者は、官邸から「一本釣り」されたと喜んでいた。経済産業省を経由して、「安倍晋三首相の外遊に同行しませんか」と、誘われたからだ。経営者仲間に自慢すると、その経営者は、「うちも入れてもらおう。安倍さんは本格的に経済外交を始めてくれて、うれしいね」。そんな盛り上がりがあったという。
この「外遊」とは、安倍首相が4月28日から5月4日にかけてロシア、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、トルコを歴訪したことだ。ロシアには東芝、三菱重工業など50社近くの役員が同行し、中東にも一部が付き添った。
この道中、たしかに安倍首相は「トップセールス」に勤(いそ)しんだ。目立つのが原発だ。トルコでは原発4基の建設について、三菱重工を中心とする企業連合が受注することが確実になった。世界有数の規模の大きさで、事業費は2兆円を超える見通し。原発輸出は三菱重工にとって初めてなら、日本にとっても2011年3月の東日本大震災後初めてだ。
UAEでは原子力協定に署名し、サウジ、そして帰国後にインドと、原子力協定の協議を始める。この協定は、原子力関連部品を輸出するのに必要となる。原発輸出に向けた第一歩だ。
さらに6月7日には来日したフランスのオランド大統領との間で「原子力発電が重要」として、日本での核燃料サイクルや、原発の共同開発・輸出の推進で協力すると確認。日本原燃の社長と仏原子力大手アレバ社の最高経営責任者が協力強化の覚書に署名した。トルコでは、アレバ社と三菱重工の合弁会社が開発した原発が建てられる見通しだ。
ここで「核燃料サイクル」という言葉を記憶にとどめていただきたい。
さて、安倍首相の活発な「原発セールス」には冒頭のような応援の半面、批判もある。大震災当時の首相、菅直人氏は6月4日に米国で、「わたしも3.11前は『原発は安全』と導入をお願いしてきたが、いまはそのことを恥じている」と語り、同じ日に自民党の大先輩、野中広務元官房長官も、「原子力のトップセールスマンのようなことをやるのは、アジアの周辺諸国の平和を保つためにたいへん恐ろしい」と、苦言を呈した。
加えて、原発輸出によって潤うはずの財界からも、「成長戦略で掲げたインフラ輸出の実績をあげて、人気取りをしたいのでしょう。軽いし、無責任ですよ」(財界の長老)という声が漏れるし、安倍首相に近い議員ですら、「原発の再稼働問題が決着せず、東京電力の福島第一原発事故についても、まだまだこれからなのに、輸出までするのはどうかな」と口にするのだ。
なにしろ、福島第一原発の事故は原因の特定どころか、いまだに放射能をまき散らす。事故で避難を指示された約16万人のうち、まだ1万人以上が東京電力に損害賠償の請求をしていない。安全神話が根底から吹っ飛び、「危険」だと思われている原発を輸出していいのか、という思いだろう。
トルコでの原発建設には懸念がある。トルコは、マグニチュード7級の大地震にたびたび襲われてきた。1999年8月の地震では、死者が1万人を超えた。その状況下で、日本側が、設備の維持管理をはじめ原発運転のノウハウを初歩からトルコ側に教え込まなければならない。
「事故が起きたときの責任を負わされる可能性があるのははっきりしています」(環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長)
実際に6月7日、蒸気発生器の配管が破損して昨年から止まっていた米カリフォルニア州の原発を廃炉にすると発表された件では、運営側は製造した三菱重工に損害賠償を請求する。さらに、トルコとの交渉について経産省関係者は、「最終処分場問題についてはあえて触れないと、事前に申し合わせていました」と、「核のごみ」問題を曖昧にしたことを明かす。
こんな「危険」なセールスを進める安倍政権には、成長戦略の実績づくりとは別の狙いがあると言うのは、元経産官僚の古賀茂明氏だ。「原発輸出の裏にはもんじゅを含む核燃料サイクルの推進、そして日本の原発再稼働の切り札にしたいという思惑が隠されています」。
※週刊朝日 2013年6月21日号
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安倍首相 活発な原発セールスの舞台裏 もんじゅを含む核燃料サイクルの推進、原発再稼働の切り札に
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