藤田正美の時事日想:日本に「集団的自衛権」が必要なワケ
[藤田正美,Business Media 誠]» 2014年07月09日 07時00分 更新
集団的自衛権の行使容認を閣議決定された。賛否が分かれるテーマだが、戦争のリスクが高まっている今の時代では必要なことだと藤田氏は述べる。その理由は……?
7月1日、集団的自衛権の行使容認が閣議決定された(参照リンク)。この影響を受けて安倍政権の支持率が急落しているところを見ると、まだ多くの日本人は“平和憲法”を守ろうと思っていることがうかがえる。
とある女性向けWebサイトで、この集団的自衛権について議論をしてみたところ、4人中3人が反対の意思を表明した。「戦争に巻き込まれるのは嫌だ」という意見が多かったように思う。
戦後の日本は、戦争を行わない“平和国家”として再出発した。戦前の軍国主義を反省して――と言えばもっともらしいが、実際のところ、米国によって非武装化されたのだと私は思っている。大きな戦争が終わったばかりだったため、平和憲法のような理想論が支持を得たのだろう。そして、日本は世界に類を見ない“平和国家”になった。
*日本が平和でいられたのは、憲法のおかげではない
問題はここから始まる。そもそも日本が戦後ずっと平和でいられたのは、この平和憲法のおかげなのだろうか。
1990年代後半ごろに、ニューズウィーク日本版で「戦えない国、日本」という特集を組んだことがある。そのときの取材で興味深いことを聞いた。ある社会党系の人が「われわれは平和を守ることを主張してきたが、どうやって平和にするかを考えてこなかった」と語ったのである。
憲法で戦争を“放棄”したから平和だったのではない。日本が平和を享受し、世界第2位の経済大国になれたのは、日本が置かれた地政学的な位置と、世界最強となった米国、その宿敵のソ連による冷戦という構図があったからである。朝鮮戦争やベトナム戦争といったアジアでの戦争はあったが、日本まで波及せずに済んだのだ。日本人は戦争の危機を肌で感じることなく、平和を楽しんだ。
しかし今はどうだろう。日本が戦争を仕掛けるつもりがなくても、戦争になるリスクは戦後では最も高いと言っていい。自衛隊の幹部に聞いた話だと、2014年6月に発生した中国軍戦闘機の自衛隊戦闘機への異常接近(参照リンク)は、組織立った行動ではなく個人単位での行動かもしれないという。元来、スクランブルをかけるにしても何にしても、戦争には国際的なルールがあるのだが、中国軍はそのルールを無視しているという。
*集団的自衛権の“意志表明”こそが重要
こうした国際的なルールの目的は、“事故”によって国が戦争に巻き込まれることをなくすことだ。どの国も偶発的に戦争になるのが最も困る。そういうリスクを避けるために、各国の軍同士はホットラインを設けているが、日中間ではこのホットライン設置も滞っている。
中国軍のパイロットや艦長がこうしたルールを知らないとなると、これは大問題だ。ある意味で、共通言語がないと言っていい。言語が通じなければ、自衛隊が攻撃を仕掛けることはなくても、自衛隊が偶発的に攻撃を受けるリスクは格段に高まる。組織全体として冒険主義を慎む姿勢であっても、現場がそれを無視するかもしれない。攻撃を受ければ反撃の必要が出てくるかもしれないし、攻撃を受けて犠牲者が出れば、日本国内の世論が逆上する可能性だってある。
そういう状況下で最も重要なのは、相手を“その気”にさせないことだ。相手が感情的になるような行動は、もちろん慎まなければならない。それと同時に、十分な備えをすることで「手を出したら火傷する」と思わせることである。
だから米国は中国に対して、尖閣諸島は日米安保第5条の適用対象であると明言しているのだ。実際に米軍が無人島を守るために出動するかどうかが問題ではない。その姿勢、「構え」が大事なのだと思う。その意味では、米国と軍事同盟を結んでいる日本が、集団的自衛権を行使できると意思表明するだけで「抑止」につながると期待できる。
それが“戦争に巻き込まれる”ことにつながるかどうかは別問題だ。これは時の内閣や国会の判断によるだろう。そして、その国会議員を選ぶのはわれわれ国民自身――という意識をわれわれは持っているだろうか。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
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