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「天下の奇観」外交感覚なき集団自衛権論議 … 内輪でなく相手ある議論を 櫻田淳

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【正論】外交感覚なき集団自衛権論議よ 東洋学園大学教授・櫻田淳
 産経ニュース 2014.7.28 03:07
 集団的自衛権行使許容に係る閣議決定から、既に1カ月の時間が経とうとしている。
 そもそも、集団的自衛権は国連憲章上、すべての加盟国に認められた権利なのであれば、この案件が国論を二分するものとして議論された風景は、「天下の奇観」の類であった。
 ≪内輪でなく相手ある議論を≫
 安全保障に絡む議論は、絶えず周囲の国々の動静に目を向けることを要請する意味では、「相手のある議論」であるにもかかわらず、集団的自衛権に絡んで実際に展開された議論は、多くの場合、対外関係への考慮よりも国内の納得を優先させた「内輪の議論」に終始していた感がある。
 閣議決定が済んだ以上、再び問われるべきは、集団的自衛権行使を前提にしたうえで、どのような対外戦略上の「絵」を描くのかということである。どの国々と、どのような関係を紡ぐかという構想が重要となるのである。
 この文脈で興味深いのは、米国調査機関、ピュー・リサーチ・センターが7月14日付で発表した国際世論調査の結果であろう。
 就中(なかんずく)、「アジアは互いをどうみているか」と題された章では、安倍晋三首相に関して、「安倍氏は国際情勢の下で正しい行動をしている」のかという質問が設定され、「信頼できる(confidence)」と「信頼できない(no confidence)」の2つでアジア太平洋関係各国の評価が紹介されている。調査対象は、日米中印韓5カ国に、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、パキスタン、バングラデシュを加えた12カ国である。
 調査結果によれば、12カ国中、「信頼できる」という評価は、65%に達したベトナムを筆頭として、日本、マレーシア、フィリピン、バングラデシュ、タイで5割を超えている。インド、インドネシア、パキスタンでも、「信頼できる」評価は、「信頼できない」評価の倍くらいの数値を示している。
 ≪日本はアジアで孤立のウソ≫
 片や、「信頼できる」評価を「信頼できない」評価が上回っているのは中国と韓国のみであり、この両国での「信頼できる−信頼できない」評価の中身は、それぞれ〈15−70〉、〈5−94〉という極端な数値を示している。
 この調査結果は、「日本がアジアで孤立している」という類の議論が根拠薄弱なものでしかない事実を鮮明に示している。逆にいえば、こうした評価を得るに足る外交上の努力が伴ったゆえにこそ、集団的自衛権案件も対外的なハレーションを然程(さほど)、起こすことなく落着させることができたといえよう。
 その意味では、閣議決定後、安倍首相が大洋州3カ国を訪問し、その政策展開に対して、特に豪州から明確な支持を取り付けることができたのは、佳きことであった。また、来月にはインドから就任早々のナレンドラ・モディ首相が来訪するから、その折にも日印関係の「蜜月」が演出されるであろう。
 因(ちな)みに、共同通信記事(7月22日配信)は、来月のASEAN(東南アジア諸国連合)外相会議の場で、東シナ海で中国に自制を求める趣旨の共同声明が採択される見通しを報じている。記事によれば、声明文案には、「現状変更につながる一方的な行動を控えるよう求める」という文言がみられ、それは従来、日本政府も繰り返し使ってきたものと同じ表現になっている。
 ≪東、南シナ海の垣根消えた≫
 ASEANは、5月にミャンマー・ネピドーで開催された首脳会議の際、その外相会合「共同宣言」において、南シナ海での中国の動きに「深刻な懸念」を表明し、その「深刻な懸念」は、会議全体を総括する「議長声明」でも再び表明されている。
 「東シナ海での対中自制要求」声明が実際に採択されるかどうかはともかくとして、現下のASEANの動きをみると、その対中認識において南シナ海と東シナ海の「垣根」は消えようとしている事情がうかがえる。
 日本とASEANは、安全保障上、同じ「船」に乗る方向に、徐々にであっても確実に進みつつある。これもまた、安倍首相が就任以来、ASEAN10カ国をすべて訪問した事実に象徴的に示されるように、ASEAN諸国との誼(よしみ)を徹底的に深めようとした日本の姿勢が評価された帰結であろう。集団的自衛権論議の落着は、その誼を深める努力の担保になるであろう。
 「外交感覚のない国民は必ず凋落(ちょうらく)する」とは、吉田茂が肝に銘じていたものとして有名な言葉である。
 集団的自衛権に絡む永き議論は、外交・安全保障案件を論ずる際に「内輪の議論」に走る向きが残っている寒々とした事実を曝(さら)け出した。こうした「外交感覚」の貧しい議論は、早々に退場させなければなるまい。それが永き議論の一つの「教訓」である。(さくらだ じゅん)
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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