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「知的障害者への死刑適用は再考が必要 厳罰だけでは何も解決しない」長野宏美

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記者の目:責任能力乏しい知的障害者=長野宏美(外信部)
 毎日新聞 2014年08月20日 東京朝刊

     

 記者に送られてきた藤崎宗司死刑囚の自画像と死刑確定前日に書かれた手紙
*死刑の再考が必要
 現政権下での死刑執行は9人を数える。香川県で3人を殺害したとして、6月に執行された川崎政則死刑囚(当時68歳)は、知的障害などを理由に弁護側が心神耗弱で責任能力が低いと主張していた。国際的には知的障害者は死刑の除外対象とされ、例えば1989年の国連経済社会理事会や2005年の国連人権委員会の決議で加盟国に死刑を適用しないよう求めている。
*厳罰だけでは何も解決しない
 だが、日本では知的障害者の死刑に特別な指針はない。起訴前や公判段階で精神鑑定を行い、責任能力を問えるか判断することもあるが、犯行の態様などを総合的に評価する。知的障害があっても起訴され、結果の重大性から死刑になることもある。川崎死刑囚も1審で「知能の程度が低いため、行動制御能力にある程度の障害を被っていた」と認められたが、完全責任能力があるとして極刑になった。
 私は知的障害者の犯罪を取材した経験から、個人の問題として厳罰を科すだけでは何も解決しないと感じている。障害に目を向けて刑の減軽理由として考慮し、死刑適用も見直すべきだと思っている。
 この問題を考えるきっかけになったのは、05年に茨城県で女性2人を殺害して死刑判決を受けた藤崎宗司死刑囚(52)の事件だった。中程度の知的障害で小2以下の水準とされる。盗みなどで8度服役し、刑事責任が減軽される心神耗弱と認められたこともあった。
 殺人事件の公判でも、兄と弟のどちらがいるのか聞かれ、「妹」と答えるなど、かみ合わないやりとりが続いた。弁護人に被害者の脈が動いていたか問われて「はい」と認めたのに、「勘違いでは」と誘導されると「はい」と迎合する。確定前に複数回面会したが、動機となった借金のことばかり気にして、殺人の重大性を認識しているように思えなかった。刑務所で学んだ文字で私に送ってきた手紙には、ほぼ一文ごとに「本当です」と記され、よほど人から信用されない境遇だったのかと想像した。
 刑務所と社会を行き来した彼の足跡をたどり(東京本社版10年12月30日朝刊)、どこかで福祉につなげられなかったのかと悲しくなった。今も面会を続けるキリスト教のシスター(79)は「死刑確定後も変化はなく、死を正確に理解しているように見えない」と語った。
 先進民主国で死刑制度があり、執行を続けるのは日本と米国だけだ。その米国では02年に知的障害者への死刑は違憲とされた。「有責性が低く応報刑罰に値せず、犯罪抑止にもならない」し、「立証能力が劣り、誤判のリスクもある」という見解だった。
 問題は知的障害の定義だが、州ごとに知能指数(IQ)や専門家の診断などを基にしている。フロリダ州はIQ70を境に決めていたが、連邦最高裁は5月、より慎重に取り扱う判断を下した。IQ71の死刑囚の訴えを認め、数字で単純に分けられないという見方を示した。
 そもそも米国では死刑自体が減っている。死刑維持は32州で、執行数はピークの99年に年間98件だったが、昨年は39件で9州に限られる。米世論調査会社ギャラップ社の昨年10月の調査では、死刑賛成は60%で、過去40年で最低だった。一因として誤判の問題が挙げられる。NPO「死刑情報センター」(本部・ワシントン)によると、73年以降に冤罪(えんざい)で釈放された死刑囚は144人。中でも知的障害者は取調官に迎合しやすいため誤判のリスクが高い。バージニア州の黒人男性は82年に起きた白人女性への性的暴行と殺人で死刑判決を受けた。軽度の知的障害があり、警察の誘導で自白してしまい、刺し傷や被害者の身長と供述内容との矛盾は見過ごされた。00年のDNA鑑定で真犯人が見つかり、ようやく釈放になった。
*福祉につなぐ取り組み進む
 私は犯罪を重ねる知的障害者を取材してきたが、重度でなければ結婚や仕事をしている人も多い。一方、空腹だから万引きをし、疲れたから自転車を盗むなど、欲望を抑えきれない人もいる。「悪いことか」と聞けば「悪い」と答えるが、「なぜ」と問うと「悪いから」と言い、本当に罪を理解しているのか疑問だった。犯罪組織に覚醒剤の運び屋や偽造通帳の名義人にされた人もいた。誇らしげに「成果」を語る姿には、障害を理解していないと憤りが増す。
 軽微な罪を繰り返す知的障害者に対しては、起訴や実刑ではなく福祉施設につなぐことで再犯を防ぐ取り組みも進んでいる。障害に目を向けることで問題の早期発見も期待できる。重大犯罪でももっと障害を考慮して刑罰や処遇に向き合うべきではないか。責任能力や自白の信用性が乏しいと思われる知的障害者への極刑適用は再考が必要だ。
 ◎上記事の著作権は[毎日新聞]に帰属します 


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