あの姉歯物件は東日本大震災でビクともしていなかった。「臭いものには目をつむる」マスコミに蔓延している体質
Spotlight 話題を生み出す発掘メディア 2014.08.18
出典 http://blog.livedoor.jp
こんにちは。フリーアナウンサーの長谷川豊です。
2005年、日本を震撼させたある事件が起こった。
「耐震強度偽装事件」
当時のワイドショーはこぞって取り上げ、数週間にわたってこの一件を特集していった。週刊誌も大きく取り上げ、その年の流行語大賞にもノミネートされるほどだった。
建築会社「ヒューザー」。そのヒューザーの小嶋進社長が国土交通省に規定されている耐震強度をごまかしていたことを知りながら、販売を続けていた、つまり、詐欺だ、という事件だった。
なるほど、地震大国、ニッポンではかなり許せない事件だ。
耐震強度をごまかす?じゃあどうなるのか?地震が来たら、つぶれるのか?マンションが。驚きとともに報じられ、取材陣が殺到する。が、ヒューザーの小嶋社長は平然と言ってのけた。
「姉歯さんという1級建築士とともに作ったマンション。詐欺などをしたつもりはない」
これには取材陣は驚く。普通、謝るんじゃないのか?あまりに堂々と持論を展開する小嶋社長を報道陣は袋叩きにした。
そして、その矛先が向かったのが、後にこの耐震偽装事件の「黒幕」と報じられる、当時の1級建築士、姉歯秀治氏だった。
メディアが殺到する。取材陣が取り囲む。すると姉歯元1級建築士はこちらも平然と言ってのけたのだ。
「計算上、急に倒壊する、とか、そう言った設計にはなっていません。そもそも基準自体がかなりの厳しめのものになっているだけで…」
まただ。報道陣は相当に驚く。そして、当時の情報番組と報道番組のデスクたちは
「徹底的にたたけ!」
と指示を出す。そう、簡単だ。
社会正義の観点において、規則違反をしているのに反省もろくにしないでシャーシャーとテレビに出て話をしているなんて、信じられない!って言うか…その前に…
数字の匂いがする!
そう。言っちゃあなんだが、ヒューザーの小嶋社長、僕の目から見た感想を言うが、けっこう悪人顔だった。
悪人顔の人がテレビで、堂々と持論を展開しているってのはなかなか目が離せない展開だ。
当然とくダネ!でも取り上げたが、確かに、このニュースは数字が良かった。姉歯氏も同じだった。なんだかよく見たら、何かをかぶってらっしゃるようにすら見える。
ひどいもので、これはもちろん冗談の範囲だが、当時のスタッフからは
「絶対に姉歯を送検まで追い込め!」
と号令を出している人間までいた。いや、当然、冗談だとは思うが、一応そんな人間もいた。
意味が分からない?
解説しよう。送検の時というのは基本的に、衣服以外の何も身に着けてはいけない、というルールが存在するのだ。個人的にはそのルール自体がどうかと思うが、要は、腕時計とか、女の人であれば、髪飾りやカチューシャなど、とにかく、衣服以外はダメだというルールだ。
従って、スタッフの言いたいことというのは、
「頭にかぶってるのを外させろ!」
という意味だ。個人的にはそんなものまで取り上げなくてもいいじゃないか、と言いたくなるが、それはルールだ。
ひどい話だが、スタッフたちの中にはその映像を見たがって、送検を楽しみにしている人間もいた。
ちょっと、フォローだけしておくが、これはもちろん、冗談で言っているのであって、心底、その為に報道を捻じ曲げようとしていたり、虚偽報道をしているわけじゃない。
さすがにそこまで腐っていない。
少なくとも、テレビのスタッフたちはみんな、視聴者のために、視聴者の知る権利のために、毎日懸命に頑張っている人間がほとんどだ。朝までかかってVTRをつなぎ、少しでも分かりやすい報道を心掛けているスタッフばかりだ。
ただまぁ、テレビスタッフと言えども、そこは普通の人間であって、毎日聖人君子みたいな会話だけをしてるわけじゃないって話だ。誤解の無いようにそこは押さえていただきたい。
さて、話を進めるが、耐震偽装事件において、小嶋社長と姉歯元1級建築士はテレビにとって、「悪い人間」でなければいけなく、「悪役を叩きのめす」にはやはり理由が必要となる。
なんでテレビがこんなにも数人の人間をボロカスに叩きのめしているのかを視聴者の皆様にも提示しなければいけないのだ。でないとテレビが悪者になってしまう。
その理論武装のために「専門家」なる人物が登場する。そう。良くテレビに登場する「○○に詳しい人」シリーズだ。
たいていはスタッフが適当にインターネットを検索して、その上位に出てくる人に電話をかけてみるってのが通常だが、耐震偽装事件においても、何人かの専門家なる人物たちが登場した。そして言う訳だ。
「これは信じられませんね」「悪質です」「このままじゃ震度5か6で、パターンと倒れますよ、パターンと!」
かなり過激なことを言う専門家もいた。専門家の選び方に関しては、別で記述するが、とにかく、そうしてどんどんメディアリンチは加速していき、週刊誌などでは毎週のように
「姉歯殺人物件!」「ヒューザー耐震偽装マンションの深い闇!」
といった言葉が並ぶこととなった。
事態を重く見た当局は動かざるを得なくなり、2006年4月26日、姉歯元1級建築士、逮捕。同5月17日、ヒューザーの小嶋社長も詐欺容疑での逮捕となる。
もちろんお約束通り、着けるものを着けられなくなった姉歯元1級建築士の送検の映像は繰り返し繰り返しテレビ上でこするだけこすられ、ニュース、情報番組の視聴率稼ぎに多大な貢献をしたことは言うまでもない。
あの送検の映像だが、懐かしい。文句なしに高視聴率だった。
マスコミのメディアリンチは加速し、姉歯氏は諸悪の根源とされ、
「偽造の動機は、経済設計・コストダウンができる優秀な建築士という名誉を維持し信用を得るためだった!」「年収2,000万円を超える年もあり、高級自動車などを買い続けていた!」「金を稼ぐために人命よりも稼ぎを優先した」「大地震が起こってもわれ関せず!」「妻が入院中なのに愛人を作って月15万円近くも小遣いとして与えていた」「妻もブランド品を買いあさり、高級フランス料理店でグルメ三昧だ!」
という途中から何がなんだか良く分からないバッシングが嵐のように巻き起こる。もちろん、しばらくして、飽きられて数字の取れなくなったこの事件は、まったく世間からは忘れられていくのだった。
さて、時計の針を現代に戻す。
特は流れ、日本には未曾有の大災害が襲い掛かった。2011年3月11日。東日本大震災。
東北沖を震源とした1000年に1度の大災害は日本人のあらゆる思考パターンや文化を変えるに至った。東北が震源地ではあったが、当然、関東地方もかなりの揺れを経験することとなる。
しかし、みんなが忘れそうになっていた事実があった。そう。姉歯物件だ。
当時、震度5か6でパターンと倒れると報道された姉歯元1級建築士が設計したマンションは果たしてどうなっているのか?!答えは…
ビクともしていなかった。
当時、姉歯氏はこう語っている。
「耐震に関してはかなりの強度を保っておりますし、震度7や8にも十分耐えられるはずです」
そう、関東地方にある姉歯物件は実はフジテレビ関係者も住んでいた。お台場にあるフジテレビ本社にはかなり交通の便の良い所に姉歯物件が存在するのだ。ちなみに、それらの姉歯物件だが、少なくとも僕の知る限り… 1棟もヒビ一つ入っていない。
要は姉歯氏の言っていた言葉の方が正しかったのだ。
国土交通省省の定める耐震強度がそもそも、あまりにも強すぎる設定になっているだけで、姉歯氏の計算通り、1000年に1度の地震が来ても、彼らの物件やマンションはビクともしなかったのだ。
もちろん、そもそも論として、彼らは国のルールを破っている。
なので、それは罰せられるべきだ。だが、あの時のテレビや週刊誌は、数字が取れることをいいことに彼ら二人を袋叩きにした。その後…
姉歯氏の最愛の妻は精神的な辛さから逃れるために2006年3月28日、自殺する。マンションから飛び下り自殺をしたのだ。
実は姉歯氏は、証人として出席した2012年12月14日の衆院国土交通委員会で、
「木村建設からの圧力に耐えかね、構造計算書の偽造に手を染めた」とする平成10年ごろの心境を、
「病気がちの妻が当時、入退院を繰り返していた。断ると収入がゼロになるということで葛藤した」
と証言している。姉歯氏の妻は精神的な問題を抱えており、闘病中だったのだ。
そんなことがあっても、東日本の震災を終えて、あの時の放送の謝罪、訂正一つしない。それがテレビの、マスコミの正体の一つだ。理由は簡単。
「あまりにも謝罪してばかりいたら、テレビの信用性がなくなるから」
だ。少なくとも、あの時の放送、半分は正しい。偽装はいけない。それは当然犯罪だ。だが、あそこまで袋叩きにしたのなら、東日本の震災の後は、ちゃんと検証もなされるべきだった。
当時のマスコミは彼らの物件を
「地震で倒れる物件だ」と罵っていたのだから。
でもそれはしない。臭いものには、自分たちにとって不都合な真実は、大きく騒がれない限り、目をつむる。そういう体質が多くのマスコミには蔓延している事実は間違いなくあるのではないか?少なくとも、僕はそう感じている。
ちなみに、余談をここで記しておく。
姉歯氏に関して連日報道された「超豪邸」と表現された自宅だが、いわゆる豪邸ではまったくなかった。
愛人にマンションを買い与えたという記録もその後の調べで一切なかったことが分かっている。もちろん愛人と贅沢な海外リゾート旅行をしたという記録も一切なかった。
隠し預金が何億円もあると報道されたが、そういう事実もなく、公判途中で、姉歯被告は保釈されるはずだったが、その保釈金を払えずに、保釈は却下されたという事実もある。
また、自殺した妻だが、この妻もブランド品を買いあさり、高級フランス料理店でグルメ三昧したとか、ホストクラブ遊びをしたという話も全く事実ではなかったことが後々分かっている。
むしろ、「ごく普通の、地味な主婦だった」という近所の声が圧倒的に多い。しかし、そんなことは報道されることはない。だって…
そんな話、面白くないし。テレビの信用、失うしぃ〜。
姉歯氏には二人の男の子の子供がいる。そんな小さな家庭の話なんぞ、関係ない。巨大なテレビ利権の前には、そんな程度の命なんぞ、カスみたいなものだからだ。
僕はこの男の子たちの将来を、心の底から応援したい。同じように暴走するマスコミの大嘘報道に家族を傷つけられたものの一人として。
長谷川豊 公式ブログ 『本気論 本音論』
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