中日新聞を読んで 市長に対する問責決議 後藤昌弘(弁護士)
2014/8/24 Sun.
20日付朝刊に、岐阜県美濃加茂市議会が、事前収賄などの罪で起訴された藤井浩人市長に対する問責決議案を可決した旨が報じられていた。提案理由は「市政に混乱と停滞を来たし、対外的な信頼も損なうのを見過ごしにできない」からだという。市長の汚職事件そのものについてはコメントする立場にないが、この問責決議には違和感を覚える。それは、今も続く市長の身柄拘束という事実そのものに問題があるからである。
法律上、捜査機関は逮捕状による72時間と後の勾留状に基づく最大20日間しか同一容疑での取り調べは許されない。その後は、逃亡や罪証隠滅のおそれがない限りは保釈されるのが原則である。今回の事案を見る限り、市長が逃亡する可能性は低いと思われるし、罪証隠滅のおそれについても検察側は既に証拠を固めているはずである。弁護側も今さら証拠隠滅をするとも思えない。被告人の権利とされている保釈を裁判所が23日まで認めなかったことがおかしいのである。
残念なことに、この法律上の建前は、今の運用では原則と例外が逆転している。被告人が罪を認めない限り、保釈を認めないという運用が定着しているのである。これがいかに不当な結果をもたらすかは、数か月間勾留され、結局無罪となった厚生労働省の村木厚子氏の事件をみれば明らかである。
市長として選ばれた者がその職務をおこなえないということは正常ではない。市政が停滞して困るのは市民である。しかしながら、市長であっても個人として罪に問われている以上、裁判を受ける権利はあるし否認して争う権利があることは当然である。仮に市政の停滞を避けるために市長が罪を認めざるを得ない状況があるとすれば、その状況下での裁判はもはや裁判の名に値しない。問題は無罪の推定を受けているはずの裁判中にも市長が身柄の拘束を受けているという点にあるのであり、市長の責任を問うのは筋が違うと考える。
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美濃加茂市長の保釈決定 名古屋地裁、弁護側の準抗告で
日本経済新聞 2014/8/24 2:05
岐阜県美濃加茂市の雨水浄水設備を巡り、受託収賄罪などで起訴された美濃加茂市長、藤井浩人被告(30)について、名古屋地裁が23日、保釈を認める決定をしたことが分かった。保釈保証金は1千万円。藤井市長の弁護団が明らかにした。
弁護団によると、同地裁は23日までに、弁護側の4回目の保釈請求を却下。この決定を不服とする弁護側の準抗告で保釈が認められた。保釈保証金を納付すれば、藤井市長は週明けにも保釈される見通し。検察側が特別抗告した場合、裁判所の判断次第で保釈が取り消される可能性もある。
藤井市長は設備導入に便宜を図るよう依頼を受け、計30万円の賄賂を受け取ったとして、7月15日に起訴された。市長は一貫して無罪を主張しており、弁護団も起訴後、「罪証隠滅の恐れはなく、市長の不在で市政に重大な影響が出ている」として、繰り返し保釈請求を行っていた。
市長不在を巡っては、美濃加茂市議会が今月19日、「市長不在の長期化は市政の停滞と混乱をきたしており、市長に深い反省を求める」として、市長に対する問責決議案を可決している。
◎上記事の著作権は[日本経済新聞]に帰属します
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美濃加茂市長の保釈認める 名古屋地裁
メーテレ 更新時間:2014年08月24日 01:08
岐阜県美濃加茂市の市長が賄賂を受け取ったとして逮捕・起訴された事件で、名古屋地裁は23日、市長の保釈を認める決定をしました。
この事件は美濃加茂市の市長、藤井浩人被告(30)が浄水プラントの導入を巡って名古屋の経営コンサル業の男から30万円の賄賂を受け取ったとして起訴されたものです。これまで3回の保釈請求はいずれも認められず、4回目の保釈請求も一度は却下されましたが、その取り消しを求める準抗告について23日、名古屋地裁が認める決定をしました。弁護団によりますと保釈金は1000万円で保釈は25日になる見込みだということです。
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◇ 日本は人質司法 罪を認めなければ保釈されない 後藤昌弘(弁護士) 2010-02-23 | 後藤昌弘弁護士
◇ 人質司法 2012-10-29 | 社会/司法
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◇ 検察を支配する「悪魔」 田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)
普通の人は、連日、検事から責められて辛い思いをすると、事実とは違っていても認めてしまう。しかし、裁判で事実を明らかにすれば覆ると思っているので、裁判に望みを託す。
日本の場合は人質司法で、罪を認めなければ保釈されないので、なおさらこの罠にはまりやすい。何日も自由を拘束されて、厳しい取調べで肉体的にも精神的にも苦痛を受け続けると、一刻も早く家に帰りたいと思うようになる。
事実であろうが、なかろうが、罪を認めれば、帰れる可能性が出てくる。そして、その場から逃れたい一心で、検事の言うがままになる。だが、これは、非常に甘い考えです。
と言うのも、一度、調書がつくられて、それにサインしてしまえば、それが事実ではなくても、裁判でも通ってしまうからです。客観的なアリバイなど、よほど明白な証拠でもない限り、弁護士でも検事調書の内容をひっくり返すのはむずかしい。
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美濃加茂市長に対する問責決議と、人質司法 後藤昌弘(弁護士)
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