【水内茂幸の夜の政論】小野寺氏 自衛隊侮蔑ポスターに涙 被災地が迎える4度目のお盆
産経ニュース 2014.8.18 18:00
東日本大震災の被災地は、今夏発災から4度目のお盆を迎えた。だが宮城県気仙沼市出身の小野寺五典防衛相にとって、震災は遠い記憶でなく、現在進行中の出来事だ。焼け野原の郷里で家族を捜し、目の前で救えるはずの命を失った経験は、小野寺さんの政治家人生に決定的な影響を与えた。当時、黙々と遺体の収容に携わった自衛隊を指揮する立場となった今、大切にしているのは、命がけで国民を守ろうとする隊員の「誇り」だ。
小野寺さんと待ち合わせたのは、東京・赤坂の家庭料理店「赤坂ダイニング ままや」。衆院赤坂議員宿舎から徒歩5分と近く、小野寺さんは野菜たっぷりの手料理を求め、当選間もない頃から通い続けてきた。
「ここは震災で生き残った気仙沼の地酒を、いち早く売り出してくれたんですよ。顔なじみの常連さんも、気仙沼でボランティアをしてもらいました」
まず小野寺さんが注文したのは、いずれも特別純米酒で、蔵元「角星」の「船尾灯」と、蔵元「男山」の「気仙沼男山」の冷や酒。双方とも、なめらかな舌触りとコメのうま味が素晴らしい。これは用心しないと飲み過ぎてしまうな。
「気仙沼は津波で主産業の水産加工場が全てやられましたが、両蔵元の酒だけは無事でした。市内で唯一売れる商品だった酒の販売から、気仙沼の復興はスタートしたのです」
小野寺さんの実家は旅館を営んでいるが、3階建ての2階部分まで津波の被害に遭い、当初は母の消息も分からなかった。小野寺さんは震災翌日から2カ月間、暖房もない実家に泊まりきりで公私の復興に明け暮れたが、郷里の地獄絵図は今でも忘れられないという。
「発災直後、東京で見たニュースには気猛火に包まれる気仙沼が映っていました。ヘリコプター中継をみると『実家の周りが燃えている』と分かるんですよ。翌朝同僚と郷里に入ったら、何もかもが消えていて実家の場所もわからない。街中は異様な静けさに包まれており、母を捜しに避難所めぐりを始めました」
小野寺さんは市の庁舎で、幸いにも段ボールの上で寝ていた母の無事を確認。翌朝からインフラがすべて途絶えた冬の気仙沼で、井戸水くみや遺体の捜索などに携わり始めた。ただ、1000人超が犠牲となった気仙沼では、当初遺体の収容すらままならかったという。
「『カツラがたくさん落ちている』と思ったらご遺体の集まりだったり、電柱の上にも…。遺体安置所は山間の小学校が多かったが、住民が確認に向かうにも車がない。中古屋さんで『車庫証明がないと売れない』といわれたが、警察ごと消滅したような現状では、車庫証明の取りようもありません。『ばかな』と思うことだらけでした」
「福祉施設から高齢者が体育館に避難していたが、暖房器具は停電で動かない石油ファンヒーターだけ。氷点下の屋内を前に『あんた政治家だろう』と対処を求められたが、体育館のカーテンを外して体を包むことしかできなかった。翌朝には何人かが冷たくなり、申し訳なく涙が出ました」
被災地で特に苦労したのはガソリンや灯油などの確保だった。小野寺さんは「政治の人災」と断じる。
「国内には備蓄が潤沢にあるのに運べない。一般道はマヒしていたが、東北道はガラガラなのに緊急車両しか通さず、タンクローリーが現地に入れませんでした。私は震災から6日後、花巻空港からの臨時便で首相官邸に向かい、大島理森自民党副総裁(当時)の仲介で、仙谷由人官房副長官(同)に窮状を直談判しました。仙谷氏は『そんなことになっていたのか。すぐ調べて対応する』。当時の官邸は、菅直人首相(同)の怒りを鎮めるのにスタッフが必死のようで、現場の実情が伝わりにくい雰囲気でした」
政治や行政の不作為が死を招いた実例は枚挙にいとまがなかった。膨大ながれき処理に「ゴミ分別」を求めたりと、菅政権の事後対応も混乱を極めたという。
被災から3年を経て、ようやく気仙沼の復興も地に足がついてきた。今は地盤沈下で壊れた地下インフラなどの復旧が進む。
「当初は対策を急いだあまり、不便な場所に仮設住宅を作るなど焦りがあだにもなりました。今は、じっくり腰を落ち着け、街の将来図を考えながら再建に取り組もうと考えています」
食卓には、東京・小笠原村の父島で取れた「オナガダイ」の刺し身と煮付けが運ばれてきた。垂直離着陸輸送機MV22「オスプレイ」で小笠原を訪れたとき、小野寺さんを歓迎した住民による差し入れだ。高級魚らしく、脂が乗り切った食感がたまらない。
「島に飛行場がない小笠原の人々は、オスプレイの導入を切望しています。これまで本土への急患搬送は、患者をヘリコプターで一旦硫黄島に運び、飛行機に乗り換えて5時間かかっていたそうです。オスプレイなら島から直接離陸でき、病院のそばに着陸できて2〜3時間に短縮できる。悪天候にも強く、離島が多い日本での運用にうってつけです」
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)へのオスプレイ配備には、いまだに現地で不安の声が多い。ただ、小野寺さんは「東日本大震災の救援で活躍していたらもっと救えた命があり、日本人のイメージも変わっていたはず」と語る。
「開発段階で事故があったのは事実だが、日本に配備後の事故はない。ベトナム戦争で使ったCH46ヘリコプターを最新鋭機のオスプレイに変えようとしているのですが…反発が強いなら、まず自衛隊で運用実績を重ねたらどうかと思い、来年度予算から導入を始めたいと考えています。オスプレイへの批判は、一部の特定政党が必要以上に不安をあおっている面もあると思いますよ」
特定政党の宣伝といえば、最近どうしても見過ごせないのが、集団的自衛権の行使容認をめぐる社民党のポスターだ。子供がうずくまる姿を背に「あの日から、パパは帰ってこなかった」とキャッチコピーが踊り、行使容認=戦死と関連づけようとしている。
「あれを見たとき、悔しくて涙が出ました。過去に自衛隊自体を否定し、隊員の家族にも厳しいことを言ってきた人たちが、急に自衛隊を心配する。あまりに違和感がありますよ」
小野寺さんは、「ここは必ず記事にしてほしい」と前置きし、コトンと冷や酒の杯を置いた。
「かつては、一部の教職員が父母に自衛隊員を持つ児童や生徒に対し侮蔑的な言葉を投げたという話を、私は何度も聞きました。それで今度は手のひらを返すように自衛隊への同情ですか。人間として恥ずかしさは感じないのでしょうか。もちろん私は、隊員の安全を確保するために訓練も装備もきちんとさせる。任務は隊員が犠牲となって完遂ではありませんからね。ただ、隊員は日本人を命がけで守るという『誇り』を持って任務にあたっています。日本人を守るために必要な任務なら、『個別的自衛権』と名が付こうが『集団的自衛権』といわれようが、彼らは誇りを持って挑むのですよ。あのポスターはとても失礼です」
小野寺さんは平成24年12月の防衛相就任以降、130回以上部隊の視察に出かけ、隊員から幾度となくこの「誇り」を聞いてきた。
「他国を守るための集団的自衛権ではありません。あくまで日本人のため、自衛隊が任務しやすい環境を法的に整備するのが政治の責任です」
小野寺さんは、自民党が政権復帰してから初の防衛相として、とりわけ米国との信頼回復に格別の注意を払ってきた。ヘーゲル米国防長官とは2カ月に1度のペースで会談を重ね、今では米原子力空母「ジョージ・ワシントン」の司令室に招かれる仲となった。
「胃の圧迫感をこらえながら空母に着艦したかいがありました。司令室に入る私の姿は、日本を攻撃しようとする国にとっては、大きな『抑止力』になるはずです。オバマ米大統領は日米首脳会談で、北朝鮮のミサイルを監視する早期警戒用『X バンドレーダー』の早期配備を求めましたが、基地を受け入れる自治体の理解も進みました」
「ヘーゲル氏は、米海軍がイージス艦2隻を日本に追加配備する方針を決めました。日米関係がこのようにしっかり堅固なことが、抑止力の維持には欠かせません。その証拠に、沖縄県尖閣諸島をめぐる中国の動きでも、激しさが最近若干和らいだのではないでしょうか」
年末には、日米の防衛協力指針(ガイドライン)の再改定が待っている。初めて改定した17年前とくらべ、日本周辺の安全保障環境は格段に厳しさを増している。
「前回の改定時と違うのは『ひょっとしたら日本が(紛争の)当事者になるかもしれない』という環境の激変ですよ。前回は米軍の後方支援などが課題だったが、今回は日本が正面に立つシーンを想像せざるを得ない。その際米軍がどう動くのかがテーマの中心となります。この緊張感は17年前とくらべものになりません」
小野寺さんが突然、「実はホッピーを飲みたいが、今日は我慢しよう」とつぶやいた。「ままや」では焼酎を凍らせた純度の高いホッピーが名物。「シャリシャリ」と音を立てながら、うまそうにホッピーをすする酒巻俊介カメラマンを恨めしそうに眺めている。
「集団的自衛権を議論しているときは、周囲から『日本を平和にしてください』と戒めの言葉もいただきました。まさに抑止力を高め、日本を平和にするための取り組みのはずなのにです。集団的自衛権もガイドラインの再改定も、目的は有事を未然に防ぐためです」
9月に予定される内閣改造後も防衛相としての仕事は山積みですね。
「母がいうんです。『テレビに映るお前は、いつも目の下にクマをつくっている』と。この年になっても、母に迷惑をかけています…。人事はひとえに安倍晋三首相のご判断ですが、与えられた役割にはしっかり責任を果たしていきたいですね」
*「赤坂ダイニング ままや」。東京都港区赤坂2ー13ー23 トミヤビル。電話は03ー3584ー8822。営業時間はランチが午前11時半〜午後2時。ディナーが午後6時〜午前0時。土日祝日休。
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