「従軍慰安婦」記事を30年たって取り消し 日本人を貶めた朝日新聞の大罪 韓国にいいように利用された責任を、どうするつもりか
週刊現代 経済の死角 現代ビジネス 2014年09月01日(月)
長年にわたって慰安婦に関する誤った報道を行っていたことを、ついに朝日新聞が認めた。日本のみならず、世界中に間違った歴史認識を植え付け、日韓関係をこじらせた罪は果てしなく重い。
■ホラ話にお墨付きを与えた
8月4日午後3時半過ぎ。この日、東京の最高気温は34度を超え、外はうだるような暑さだったが、築地にある朝日新聞東京本社のとある会議室はそれ以上の熱気と緊張感に包まれていた。
朝日新聞では毎日、政治部、経済部、社会部、国際部、文化部、オピニオン部など主要な部署の担当者たちを30人ほど集め、デスク会議が行われる。インターネット回線を通じて、大阪や名古屋などにも中継される大がかりなものだ。
この日もいつも通りのデスク会議が行われようとしていた。だが、渡辺勉ゼネラルエディター(GE)兼東京本社編成局長の口から、翌日に掲載される予定の「慰安婦問題検証記事」に関する話が出ると、会議室はどよめきに包まれた。朝日新聞社会部の記者は語る。
「渡辺局長は検証記事の内容を示し、『意見があれば言ってくれ』と伝えました。当然、いくつもの質問や意見が出ましたが、局長は『もうこれで行くことに決めている』との一本槍だった。
結局、現場の記者を含めて大半の社員がこの記事のことを知ったのは、新聞に出た5日当日。社では朝からこの話題で持ちきりでしたよ」
同じく朝日政治部のベテラン記者も次のように語る。
「社説を書いている論説委員クラスですら、前日まで何も聞かされておらず、記事を見て仰天しました。右翼の街宣車は来るし、記者の元にも取材先から『どうなっているのか?』と問い合わせが殺到しましたが、ほとんどの社員はまったく事情を知らされていないから答えようがない。上司からは『聞かれても答えるな』と釘を刺されましたが、現場は『ふざけるな』と怒り心頭でした」
朝日新聞が長年報じてきた慰安婦問題に関する記事について訂正する—それはメディアの信頼の根幹に関わる大きな決断だった。会議に出席していたデスクたちが面食らい、何も知らずに朝刊を見た社員たちが騒然としたのもうなずける話だろう。
問題の発端になっているのは、'80年代から'90年代初頭にかけて掲載された従軍慰安婦に関する記事だ。詳細は後述するが、朝日の記事は事実誤認や嘘の証言の掲載など、さまざまな過ちを犯している。'90年代から、多くの研究者やメディアがその間違いについて指摘してきたが、朝日は記事を訂正することなく、頬かむりを決め込んできた。
「社内でも、あの頃書かれた一連の記事は間違いだらけだったというのは、周知の事実でした。しかし、リベラルを自任する朝日のポリシーの根幹にかかわる話だったので、誰も正面切って記事の信憑性を検証しようとはしませんでした。まさに臭いものには蓋という感じですよ」(前出の社会部記者)
今回の慰安婦問題検証記事で、朝日は16本の記事を事実でなかったと認めた。その内容は、文筆家である吉田清治氏('00年に死去)による証言に基づくもの。'82年に、吉田氏の「済州島で200人の若い朝鮮人女性を『狩り出した』」という講演の内容を鵜呑みにし、そのまま記事にしたのが最初の誤報である。以後何年にもわたって朝日は吉田証言を事実として報じたが、その後の調査で話は吉田氏の創作であることが判明し、当人もそれを認めている。
これまで朝日が吉田証言を事実として報じてきたことの罪は重い。なぜならまったくの事実無根だった「ホラ話」が「朝日新聞のお墨付き」を得ることで、歴史的事実として世界に広まって、韓国に不当な日本批判の材料を与えてしまったからだ。
■日韓の歴史を歪めた
例えば、'96年の国連人権委員会「女性への暴力特別報告」には、日本の従軍慰安婦に関する附属文書(通称クマラスワミ報告)がある。その文書では「軍の強制による慰安婦の徴集があった」という吉田証言が有力な証拠の一つに挙げられている。また、吉田氏の話は米国下院の対日謝罪要求決議案でも証拠として採用されているのだ。
吉田氏はすでに死去しているが、今になって「彼の話はウソでした」と言われても、朝日の記事によって貶められた日本の「悪評」が帳消しになるわけではない。一連の誤報で国際世論も韓国びいきに傾いた。そのような趨勢のなかで'93年には河野談話が発表されたが、この談話は現在においても、韓国や国際社会が日本の戦争犯罪を批判するときの根幹になっている。
また、'92年の韓国政府による慰安婦実態調査報告書においても吉田氏の著書が証拠採用され、韓国はいまだ修正を行っていない。
つまり、度重なる誤報にきちんと向き合わず、訂正を行わなかった朝日の怠慢は、韓国の反日感情を高めた挙げ句、謂れなき日本叩きのための「武器」まで与えてしまったのである。朝日の誤報以降、日韓の歴史が歪められたとも言える。
もう一点、今回の検証の柱になっているのは、社会部の植村隆元記者による従軍慰安婦証言の報道だ。植村氏は'91年8月、韓国メディアに先駆けて、初めて元慰安婦の証言を記事にした。
だが植村氏の義母は韓国人で、元慰安婦の裁判を支援する団体の幹部を務めていたため、証言記事は義母との関係を利用して書かれており、事実関係を歪曲した捏造ではないかという批判を浴びてきた。
朝日は今回の検証で、「植村氏の記事には、意図的な事実のねじ曲げなどはありません」と、捏造を否定している。だが、大手紙幹部は朝日の対応について次のように憤る。
「吉田証言と植村氏の記事について、朝日新聞は正反対の対応をしました。前者については吉田氏を切り捨てて、発言が虚偽だったとして訂正する一方で、後者は捏造がなかったと庇った。
吉田氏は社外の人間で、しかもすでに他界していますから、責任をすべてなすりつけることができる。ところが植村氏はつい最近まで朝日の社員でしたし、今も札幌市内の北星学園大学の非常勤講師として働いている。下手な対応をすれば、本人が何を言い出すかわかりません。もし、植村氏の捏造を認定したら、すべては朝日の責任になって逃げ場はなくなり、大ダメージを受けるでしょう」
検証記事は必死で植村氏の記事を擁護しているが、細部にはいろいろと奇妙な点も見受けられる。前出の朝日政治部記者が語る。
「元慰安婦の証言については、義母からの情報提供はなく、ソウル支局長からの連絡で知り、韓国に出張して記事にしたと話しています。植村氏は当時、大阪社会部の記者でした。
しかし、元慰安婦の証言という大スクープをソウル支局が自分たちで記事にせず、わざわざ大阪の記者を呼んで書かせるというのは常識では考えられません」
■ハシゴを外された言論人
捏造があったかどうかはさておき、植村氏の記事が残した負の遺産は大きい。産経新聞政治部編集委員の阿比留瑠比氏は語る。
「植村氏の記事は韓国でも大きな反響があり、慰安婦問題が日韓で政治問題化する大きなきっかけになりました。それに先行して吉田証言の報道もありましたが、知る人ぞ知るという存在にすぎなかった。一方、植村氏の記事は韓国メディアより先に元慰安婦の証言を伝えたという意味でインパクトが大きかったのです。
朝日の検証取材で、植村氏は『そもそも(証言者となった)金さんはだまされて慰安婦にされたと語っていた』と話しています。しかし、この表現では金さんが誰に騙されたのかわかりません。彼女が母親や女衒に騙されたのかもしれず、まったく『強制連行』の証明にはなっていないのです」
このように、朝日の検証記事は納得のいかない点が散見されるものだった。だが、そもそも30年以上も放置してきた「慰安婦問題」を、なぜ今になって検証する気になったのだろうか?前出の朝日政治部記者は語る。
「検証作業は今年3月1日に渡辺勉氏がGE兼東京本社編成局長に就任したときから、社内でも極秘裏にスタートしました。渡辺氏が木村伊量社長から『慰安婦問題のケジメをつけろ』と指示されたのです。
検証記事で1面に署名記事を書いた杉浦信之氏は渡辺氏の前任のGE(現取締役)です。経済部出身だから慰安婦問題には関わっていないのに、編集担当役員として記事を書いた。社内でも『言い訳だらけの作文』と酷評されていますが、社長をはじめ多くの関係者から『こう書け、あれは書くな』と横やりが入ったそうです」
別の朝日新聞中堅社員は語る。
「木村社長は政治部出身で、首相官邸や外務省を担当してきた。保守的で『従軍慰安婦問題など、過去の問題にケジメをつけてバランスを取りたい』と周囲に漏らしていました。
この時期に検証記事を載せたのは、国会が閉会中なので、国会で追及される心配が少ないからでしょう」
それにしても、朝日が吉田証言を虚偽であったと認め、慰安婦の強制的な連行はなかったということになれば、日本の論壇や他のメディアに与える影響もはかり知れない。
いままでリベラルで進歩的な知識人たちの多くは、朝日の報道を事実だと信用して、自分たちの言論の根拠にしてきた。だが、昨今の「嫌韓・嫌中」ブームのような排外主義が幅を利かせる趨勢にあって、今回のように朝日に「ハシゴ」を外されてしまえば、リベラル陣営が被るダメージは甚大なものになる。
今回のケースはメディアとして、社長の進退問題に発展してもおかしくない大事件である。
■取り消しても消えない傷
朝日新聞としては、これで「過去の清算」を済ませたつもりなのかもしれない。先の渡辺局長も、会議の席で「後輩にツケを回すような紙面づくりはしたくない」と語ったという。だが、このような曖昧な幕引きでは、世間が納得するわけがない。
政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は、「朝日を筆頭に日本の企業ジャーナリズムには謝る文化がない」と批判する。
「朝日は読者も多く、その記事によって政治が動き、人の命を左右することもある。日韓関係に多大な迷惑をかけたと謝るべきです。例えば原発問題を語るときは『情報の隠蔽はいけない』と書く一方で、自社の誤報については謝罪なしというのは、天に唾する行為ではないでしょうか」
人事コンサルタントの城繁幸氏は「普通の企業であれば、このような茶番が許されるわけがない」として昨年の食品偽装問題の例を挙げる。
「あの時は、エビの種類の表記が違っただけでホテルの社長がマスコミの袋叩きにあいました。
一方、大マスコミの朝日は、世界中の何億人という人々に間違った歴史解釈を植え付けたというのに、いまだに謝罪を拒んでいる。冷静に考えてエビの偽装よりよほど重大な過ちです。まともな組織だったら、会見を開いて謝罪し、第三者機関を入れて調査報告書を作成、トップは引責辞任するというのが筋でしょう」
もちろん、吉田証言が否定され、慰安婦の強制連行がなかったとされても、慰安婦問題そのものがなかったということにはならない。今回の件に乗じて、「ほら見たことか、慰安婦問題など存在しなかったのだ」と鬼の首を取ったかのように朝日叩きをくり返す政治家らもいるが、その批判の多くは短絡的なものだ。
だがその一方、朝日は今回の検証報道で、「私たちは過去の慰安婦報道に正面から向き合ってますよ。こうした正直な態度が日韓関係の融和の一助になるんですよ」と考えている節がある。だがそれも、大甘の見方だと言わざるをえない。
メール・マガジン「コリア・レポート」編集長の辺真一氏は語る。
「今回の朝日の検証記事をめぐる韓国国内の議論は、大きく分けて二つあります。一つは、『タカ派の政治家や産経新聞などの極右勢力が、朝日叩きに走っており、成功を収めた。日本の右傾化は危険極まりないレベルに達している』と危機感を煽るもの。そしてもう一つは、『過去の慰安婦の記事について朝日が何を書こうと、それは日本の世論という小さなコップの中の問題に過ぎない』という立場。
いずれにしても、慰安婦問題に関する韓国人の態度が軟化したなんていうことはありえない。慰安婦を『性奴隷』と表現して、旧日本軍の非道を世界で訴える動きは今後も止むことはないでしょう。最近、韓国は歴史問題において中国と手を組んで対日共闘をしようとしていますから、中国側からも慰安婦に関する資料を持ち出してくる可能性があります」
30年も誤報を放置しているうちに、嘘の証言がすっかり世界の常識として定着してしまい、日韓関係の火種になる—常々東アジアの友好と平和を訴えている「リベラル」な朝日新聞が、このような過ちを犯してしまったのは皮肉として言いようがない。自らが残した深い傷跡を自覚してほしいものだ。 「週刊現代」2014年8月26日号より
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