【月刊正論】朝日新聞炎上 他社への抗議乱発が示す窮状
産経ニュース 2014.9.10 03:02
当初から重大な過ちは明らかだった。聞く耳もたず、先送りを重ねた末の記事取り消し。まず自らの責任を省るべきだ(元産経新聞論説委員 石川水穂 月刊正論10月号)
朝日新聞が8月5、6日付の2日間にわたって、自らの慰安婦報道を検証した記事が論議を呼んでいる。今回は、朝日の検証記事をもとに、同紙の慰安婦報道を過去にさかのぼって検証してみたい。
朝日が本格的な慰安婦問題の追及キャンペーンを始めたのは、22年前の平成4年1月からだ。宮沢喜一首相(当時)の訪韓を5日後に控えた1月11日付朝刊1面トップで「慰安所 軍関与示す資料」と報じた。
防衛研究所図書館で、旧日本軍が慰安所の設置などに関与していたことを示す「軍慰安所従業婦等募集に関する件」と題する「副官より北支方面軍および中支派遣軍参謀長あて通牒案」(昭和13年3月4日付)などの資料を吉見義明・中央大教授が見つけ、軍の関与を認めてこなかった日本政府の見解が大きく揺らいだという内容だった。
*当初から重大な過ちは明らかだった
当時、産経新聞の文部省詰め記者だった私は、この記事を文部省記者クラブで読んだ。性病感染などを防ぐため、軍が慰安所の設置や管理に関与するのは当然であり、この程度の資料がなぜ、1面トップになるのか不思議に思ったことを覚えている。
朝日はさらに、翌12日付社説「歴史から目をそむけまい」でこう書いた。
「『挺身隊』の名で勧誘または強制連行され、中国からアジア、太平洋の各地で兵士などの相手をさせられたといわれる朝鮮人慰安婦について、政府はこれまで『民間業者が連れ歩いたようだ』などと、軍や政府の関与を否定する姿勢をとってきた」「植民地支配下の朝鮮から多数の人々をかり出し、男性には労務や兵役を、女性には兵士の慰安をという役割を強要したのは、たかだか半世紀前のわが国であった。この事実の重みを私たちが負い続けなければならない」
この社説は、挺身隊と慰安婦を混同するという重大な過ちを犯していた。
挺身隊は昭和19年8月の女子挺身勤労令に基づき、軍需工場などに動員された女子勤労挺身隊のことだ。この法律は本土だけでなく、朝鮮半島にも適用され、14歳以上25歳未満の未婚女性を中心に編成された。徴兵で戦地に赴いた男子に代わる貴重な労働力になった。主に女衒ら民間業者が軍隊用に募集した慰安婦とは全く異なる。
朝日は検証記事で、慰安婦と挺身隊を混同した理由について「原因は研究の乏しさにあった。当時、慰安婦を研究する専門家はほとんどなく、歴史の掘り起こしが十分でなかった」と書いているが、挺身隊のことは、少し調べれば分かることだ。
研究が進んでいなかったことに責任転嫁する前に、自らの勉強不足を恥じるべきではないか。
1月17日、訪韓中の宮沢首相は韓国の国会で、慰安婦問題について公式に謝罪した。朝日の筋書き通りに事が運んでいるように思われた。
朝日は検証記事で、「宮沢首相の訪韓時期を狙ったわけではありません」と書いているが、それは大した問題ではない。報道機関が政治スケジュールに沿って報道することは、よくあることだ。問題は報道の中身である。十分な調べもせず、朝日に乗せられて簡単に謝罪した宮沢内閣の罪も重い。慰安婦問題のボタンのかけ違いは、ここから始まった。
朝日などの慰安婦と挺身隊を混同した記事により、それが日本や韓国の教科書で独り歩きしたことを、改めて記しておきたい。
*吉田証言への疑義に聞く耳持たず
朝日はまた、宮沢首相訪韓後の1月23日付夕刊の論説委員室コラム「窓」で、朝鮮・済州島で200人余の女性を慰安婦として強制連行したという山口県労務報国会下関支部動員部長だったという吉田清治氏の証言を、事実として取り上げた。
「吉田さんと部下、十人か十五人が朝鮮半島に出張する。(朝鮮)総督府の五十人、あるいは百人の警官といっしょになって村を包囲し、女性を道路に追い出す。木剣を振るって若い女性を殴り、けり、トラックに詰め込む」「一つの村から三人、十人と連行して警察の留置所に入れておき、予定の百人、二百人になれば、下関に運ぶ。女性たちは陸軍の営庭で軍属の手に渡り、前線へ送られていった。吉田さんらが連行した女性は、少なくみても九百五十人はいた」
このおどろおどろしい記事が本当なら、まさに「強制連行」である。
吉田氏はこの“加害体験”を自著「私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行」(三一書房)に詳しく書いていた。
だが、それは全くの作り話だった。
僕はその年の4月下旬、当時、拓殖大教授だった現代史家の秦郁彦氏が吉田証言に疑問を投げかける調査結果を、産経のオピニオン誌「正論」6月号(5月1日発売)に寄稿するという話を正論編集部で聞き込み、秦氏に取材した。
秦氏が直接、韓国・済州島に渡り、地元紙の記者や老人たちに会って確かめたところ、そろって吉田証言を否定したという内容で、「吉田氏の・慰安婦狩り・が全否定されたことにはならないが、本の中でかなりの比重を占める済州島での・慰安婦狩り・については、信憑性が極めて疑わしい」と秦氏は指摘した。
千葉県在住の吉田氏に面会取材を申し込んだが、吉田氏は断った。その代わり、電話で「私は事実を書いた。儒教の伝統が強い韓国では、仮に強制連行であっても、一族に従軍慰安婦がいたということは末代までの名折れであり、本当のことを言うはずがない」などと反論した。
僕は秦氏の調査結果に確信を持ち、4月30日付朝刊社会面で「加害者側の・告白・被害者側が否定」との見出しの記事を書いた。もちろん、吉田氏の反論も詳しく載せた。
だが、その後も、朝日を中心とするメディアは、吉田証言を「勇気ある告白」として報じ続けた。
朝日は今回の検証記事で、この産経記事の直後、東京社会部の記者が吉田氏と会い、「裏付けのための関係者の紹介やデータ提供を要請したが拒まれた」と書いているが、どの程度、吉田証言に疑いを持ったかは疑問だ。論説委員の誤報に触れていないのも問題である。
朝日は産経報道から約1カ月後の5月24日付朝刊でも、吉田氏の韓国への「謝罪の旅」を「今こそ 自ら謝りたい」「連行の証言者、7月訪韓」と報じている。吉田証言に本当に疑いを持っていたら、このような記事にはならない。
続きは月刊正論10月号でお読みください
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