[独占スクープ]団扇どころの話じゃない! 小渕優子経産相のデタラメすぎる「政治資金」
週刊新潮 2014年10月23日号
これでは、選挙区で団扇を配った松島みどり法相など霞んでしまいかねない。“初の女性宰相"にも擬せられ、鳴り物入りで改造内閣に加わった小渕優子経産相(40)。が、その政治資金の実態は、ひな壇から一気に地底へと堕ちかねないほどのデタラメを孕んでいたのだ。
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「週刊新潮」の調べで小渕優子議員のデタラメな政治資金の使途が明らかになった。
それも一件ではない。
有権者の買収か?ともとられかねない格安での明治座貸切観劇会。年1300万円の政治資金を使って地元後援者を接待か?
政治資金50万円を使い後援者御一行を東京ドームでの「巨人戦」に招待。
秘書に買ってあげたオーダーメイドのスーツは“制服代”として計上。
姉夫婦の経営する南青山のブティックに3年で330万円の売り上げ貢献。パーティーで配る1万円のネクタイを姉夫婦の店で何度も購入。
地元農家の「下仁田ネギ」4000本を60万円で購入。交際費に計上。選挙区外への贈答用にしても政治資金から支出するのは疑問。地元へ利益をもたらす買収行為なのでは?
まさにデタラメの見本市というべき有様。当然ながら政治資金のなかには、政党交付金が含まれている。政党交付金の源泉は国民の税金だ。経産大臣の職責よりまず果たすべきは、その経済感覚の矯正だろう。
事務所への直撃取材、関係者の証言、識者の見解を含む個別の詳報は「週刊新潮」10月23日号でお読みいただけます。
[スクープ詳報]買収疑惑 観劇会・巨人戦に2600万円以上を浪費――小渕優子経産相デタラメ政治資金問題(1)
これでは、選挙区で団扇を配った松島みどり法相など霞んでしまいかねない。“初の女性宰相”にも擬せられ、鳴り物入りで改造内閣に加わった小渕優子経産相(40)。が、その政治資金の実態は、雛壇から一気に地底へと堕ちかねないほどのデタラメを孕んでいたのだ。
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さる10月8日の朝、東京・日本橋浜町の「明治座」前。50人は乗れそうな大型観光バスが続々到着し、そのつど車内から中高年女性の一団が現れる。ナンバーはいずれも「群馬」「高崎」。手馴れた係員の誘導で、彼女らは劇場へと吸い込まれていった。
エントランスに掛かっていたボードには「本日の御予約団体様」として、
〈昼の部 小渕優子後援会女性部大会〉
そう記されていた。
この日、横付けされたバスは合計26台。ざっと1000人超の“観客”を運んできた計算だ。自民党群馬県連の関係者が言う。
「明治座と小渕家とは、父の恵三さんの時代からつながりが深く、優子さんが支部長を務める党の『群馬県第5選挙区支部』には、今でも毎年24万円の寄付を頂いています。また、地元の群馬県中之条町にある政治団体『小渕優子後援会』の女性部は毎年、明治座を借り切って観劇会を催しており、今年は10月8日と14日、地区ごとに分かれて天童よしみさんの舞台を観ることになりました」
もっとも、名目は「女性部大会」。例年、冒頭で代議士自ら挨拶するなど、あくまで“政治活動”の体裁をとっている。
ところが、不思議なことに、
「参加者から集めた費用と、劇場に支払った額が、著しく違っているのです」(中之条町関係者)
たとえば「小渕優子後援会」が群馬県選挙管理委員会に届け出た2010年分の政治資金収支報告書では、収入の項目に「観劇会」として372万8000円が記載されている。一方で支出を見ると、組織活動費の「大会費」扱いで、844万円余りが「入場料食事代」として明治座に支払われたことになっている。その結果、実に470万円もの差額が生じているのだ。
「第5選挙区支部のほか、政党支部として『自民党群馬県ふるさと振興支部』という組織があります。高崎市の司法書士の事務所が所在地となっており、かつては実質的に恵三さんの関連団体でした。今は、これを優子さんが引き継いだ格好になっています」(同)
そして、このふるさと振興支部からも、明治座に対し、同じ10年10月1日の日付で約844万円が支払われていた。報告書に添付された領収書のコピーを取り寄せたところ、2枚の番号は連番。つまり合計1688万円の支出を2等分し、異なる団体の支出として別個に届けたというわけだ。
これにより、謎の“差額”は1316万円に広がってしまったことになる。
同じく11年についても、小渕優子後援会は「観劇会」名目で369万3000円の収入を得ているものの、明治座に対しては「入場料食事代」として10月5日に848万8000円を支払っており、ふるさと振興支部からも同日、847万1030円の支出が――。
差し引き1326万円が、やはり適正に処理された形跡のないまま、宙に浮いてしまっているのだ。
明治座の関係者に聞くと、
「貸切公演の場合は、定価の3分の2ほどに値下げさせて頂いておりますが、あまり観客が少ないと役者も演じにくいため、大体1000人を目安としてお願いしております」
通常の公演では1、2階の合計約1200席がS席扱いとなり、定価1万2000円であれば貸切時は8000円に値引きされる格好だ。が、先述した2年分のケースは、“参加費”として集めた金額が、いずれもたったの370万円程度であり、1000人と見積もっても一人3700円。さらに、
「往復に使う観光バスの代金として、例えば11年には明治座への支出と同じ日付で地元のバス会社に244万9300円の支払いがなされているのです」(前出・中之条町関係者)
従って、差額はさらに拡大。仮に収支が記載の通りであれば、選挙区の有権者らに破格の安さで芝居を観せたことになり、利益供与にあたり、さらに集票目的とみなされれば公選法221条の「買収」となるケースである。
それでも、実際に参加した女性部関係者によると、
「明治座の大会には、いつも1万2000円の会費を払って参加しています。11年は小林幸子さん、12年は梅沢富美男さんと中村玉緒さん、昨年は石川さゆりさんのお芝居と歌を観ました。料金には、切符代からお弁当代、バス代が全て含まれますし、後日、余ったお金が戻ってきたようなことは一切ありません」
となれば、徴収した会費はトータルで1000万円を超えるはず。政治資金に詳しい神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授が言う。
「1万~2万円なら会計ミスで通るかもしれませんが、これだけ巨額では見逃すわけにはいきません。報告書の不記載ないし虚偽記載にあたり、それを行った者や、場合によっては団体の代表までも罰則を受ける可能性があります。さらには、この誤魔化した収入を政治資金に充てたのならば“裏金”ということになりますし、誰かがプライベートで使っていれば、完全な横領です」
いずれにしろ、お咎めなしでは済まされそうにない。
付言すれば、12年の梅沢富美男と中村玉緒公演に関しては、そもそも報告書に収支の記載自体がない。もしや、出演者次第で政治活動と見なされない場合があるというのか。謎は深まるばかりだ。
観劇会に負けず劣らず不可解なのが、「東京ドーム巨人戦ツアー」である。
ふたたび報告書によれば、小渕優子後援会は10年に「野球観戦」として16万3500円の収入を記載しており、その一方で東京ドームには3回にわたり計51万4300円が支払われている。ここでも、差額の35万円は行方不明。ちなみに、「大会費」の明治座とは異なり「行事費」扱いで、添付された領収書の名目は「入場券代」。同年7月4日のゲームで、3700円の席を94人分購入したことになっている。
11年はさらにエスカレートする。「野球観戦」の収入2万5000円に対し、ドームには3回計59万3200円の支出。57万円が消えてしまった。参加者によれば、
「後援会青年部のメンバーを中心に観に行きました。切符代は実費で払っていますし、年によって小渕先生のスケジュールが空いていれば、東京でお会いすることもありました」
その構図は明治座とそっくり。杜撰さに拍車が掛かったに過ぎないのだ。
[スクープ詳報]親族への利益供与 姉のブティックで330万――小渕優子経産相デタラメ政治資金問題(2)
■秘書が何度も来店して…
報告書には、まだまだ奇妙な点がある。例えば、支出先に度々登場する「コンセプション」なる名前。東京・南青山のビルの一角を占めるこの会社は、
「大臣の実姉でファッションデザイナーである小渕暁子さんの手がけた衣類や小物雑貨を取り扱うブティックです。社長である夫と2人で切り盛りしているのです」(服飾業界関係者)
10年から12年の3年間で、このブティックには各団体から合計330万円余りの支払いがなされている。その内訳は、大臣の議員会館事務所に置かれている資金管理団体「未来産業研究会」が246万円、小渕優子後援会が68万円、そして、父親から引き継いだ政治団体「恵友会」が16万円。この中には実姉が12年に自費出版した、亡父の思い出を綴った本の買取り代l13万円余りも含まれている。小渕大臣の義兄にあたる社長に聞くと、
「開店して6年目になります。優子さんが衣服やバッグなどを店で購入したことはなかったと思いますが、秘書の方が来られたことは何度もあります。お使い物でしょうか、ネクタイやハンカチを購入され、毎回、私がギフトラッピングをして後で議員会館へお送りしていました。自費出版本については、ちょうど十三回忌にあたる年で、妻も父親の思い出を本に残したかったようでした。それを優子さんが、自身のパーティーで出席者にお配りしたいということで、まとめて購入して貰ったのです」
ちなみにハンカチは500円、ネクタイは1万円から。政治資金に詳しい神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授が言う。
「贈り物をしたいのならポケットマネーから出すべきです。“政治にカネがかかる”という議論から政党交付金の制度が生まれ、税金が費やされるようになったわけですが、こんなことに政治資金を使っていては、国民は到底納得できません。そもそも、なぜお姉さんの店でなければいけないのか。売上げに貢献したいのではないか、と様々な疑問も湧きます。団体の資金に政党交付金が含まれるケースはもちろん、自ら集めた寄付金だけで賄っている場合でも、何に使っても自由、とはなりません」
“衣類”ついでにもう一つ。前橋市の洋服店に、10年には小渕優子後援会が7万8000円、そして11年にはふるさと振興支部が6万8000円を支払っている。前者は「組織活動費」の「組織対策費」に、後者は「宣伝事業費」の「宣伝広報費」に分類されており、支出目的はともに「制服代」となっていた。が、この店の主人によれば、 「私は小渕さんの選挙区ではありませんが、もう何十年も前から自民党員で、小渕事務所の方とも顔見知りでした。お買い上げは、2回ともスーツのオーダーメイドだったのではないでしょうか。特に11年は、事務所の幹部の方から“新しく入った秘書に一着作ってほしい”と言われ、ごく普通のダークスーツを3週間ほどで仕立てたと思います。その新人さんが、がっちりした体格で、“確かに既製服は合わないな”と思ったのを覚えています」
どうしてこれが「制服代」「宣伝広報費」に化けるのか。もはや詭弁どころではないレベルである。
「まさしく“脱法行為"と言えるでしょう」
とは、政治アナリストの伊藤惇夫氏。
「企業の社長なんかがよく使う手口ですが、購入したスーツを“作業着代”としてあたかも経費のように処理する。これと全く同じパターンでしょう。選挙運動の時のお揃いのジャンパーならともかく、スーツを“制服”などと称していること自体おかしな話です」
[スクープ詳報]地元への利益供与 下仁田ネギ4000本を毎年60万円で購入――小渕優子経産相デタラメ政治資金問題(3)
■「私物化の印象」
「衣」あれば「食」あり――。小渕大臣の使途は、実にバラエティに富んでいる。中之条町関係者によれば、
「地元で野菜を頻繁に買っています。中でも、名産品の下仁田ネギは、毎年末に農家から直接、大量購入しているのです」
未来産業研究会は、10年から12年にかけ、9回にわたり合計およそ19万円、地元の「あがつま農業協同組合」で農産物を購入している。また、「こんにゃく議連」の事務局長を務めているだけあって、11年には堂々「こんにゃく代」の名目で、下仁田町の企業から1万5750円分をお買い上げ。
さらに同町内のネギ農家には、10年に59万4380円、11年には58万5635円を支払っている。これらはいずれも「組織活動費」の「交際費」に計上されているのだ。地元のJAホームページでも紹介されている、この農家の主人に聞くと、
「お父さん(元首相)の代からのお付き合いで、毎年暮れの収穫時期に、小渕事務所から注文が入り、ここから直接発送をしています。大体、毎年60万円くらいですが、これには箱代、発送代も含まれています。うちのネギは、贈答用は1本100円の立派なものを20本、緑色の箱に詰めて『3000円のパック』にして北海道から九州まで送っています」
というから、本数にして毎年ざっと4000本を購入している計算だ。お歳暮の季節、かりそめにも群馬5区の有権者に送ろうものなら即刻アウトだが、そんなイロハは大臣なら重々ご存知のことだろう。
とはいえ、果たしてこうした買い物が“政治活動”で通用するのだろうか。
政治資金に詳しい神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授は、
「贈答用であれば、なぜ政治資金で支出するのかという疑問が生じます。お歳暮なのかもしれませんが、本来はプライベートから捻出するものでしょう。小渕大臣の使い方は、どうも政治資金を私物化しているような印象を受けるのです」
さらに、税理士の浦野広明・立正大学法学部客員教授は、
「政治資金規正法第2条第2項には“政治団体は、その責任を自覚し、その政治資金の収受に当たっては、いやしくも国民の疑惑を招くことのないように”とあります。ネギやこんにゃくが政治活動とどう関係するのか。果たして国民の批判に耐えられるでしょうか」
そう疑問を呈しつつ、次のように指摘するのだ。
「大臣の政治団体が選挙区内の生産者から物品を購入すれば、彼らに利益をもたらすことになる。つまり、選挙で当選するために利益を供与したと捉えることもでき、公職選挙法第221条の“買収及び利害誘導罪"に抵触すると言えなくもありません」
野菜の対価とて、財産上の利益には違いない。
[スクープ詳報]家賃未納 事務所費計上しながら支払いなし――小渕優子経産相デタラメ政治資金問題(4)
■解散団体にも疑惑が
まさに“デタラメ見本市”とでもいうべき有様。ここで、衣食住の「住」にも触れておこう。といっても、家屋ではなく事務所にまつわる話である。
父親から引き継いだ政治団体の「恵友会」は、12年5月に解散しているのだが、その主たる所在地は東京都江東区にある調味料メーカー内であった。が、報告書を見る限り、10年は事務所費として22万円余りを計上しているものの、この会社に家賃を支払ったという形跡はない。11年に至っては2653円。といって、家賃分をメーカーが恵友会に寄付したとの記載もない。代表ならびに会計責任者は同社の前社長が務めており、その息子にあたる現社長に聞くと、
「私自身はずっと政治活動にはノータッチで、父に聞かないと何もわかりません」
と、覚束ない。
「企業は政治資金団体や政党本部、支部以外には献金できないので、事務所の実態があって家賃の支払いがない場合、寄付があってもなくても、どちらにせよ政治資金規正法違反にあたります」(神戸学院大学法科大学院上脇博之教授)
こうした体たらくを、各団体や小渕事務所の関係者に質したところ、
〈調べる時間がほしい〉
〈収支の差額はわからない〉
〈東京で応対する〉
〈調べても分からなかった〉
などと“変遷”。埒が明かずに小渕大臣に直接尋ねると、撫然とした面持ちで、
「事務所がお答えすると話しています……」
まるで我関せず。経産大臣の職責よりまず果たすべきは、その経済感覚の矯正だろう。
「特集 『小渕優子経産相』のデタラメすぎる『政治資金』」より 週刊新潮 2014年10月23日号 掲載 ※この記事の内容は掲載当時のものです。
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