あえて言う。小物の「小渕・松島捜査」より、特捜部にはやるべき「どぶさらい」が、いくらでもある
現代ビジネス 2014年10月23日(木)伊藤博敏「ニュースの深層」
小渕氏を辞任に追い込んだ後援会観劇費用の差額問題、親族企業からの物品購入、ベビー用品や下仁田ネギなど訳の分からないものへの支出は、決して小さい問題ではない。
小沢一郎氏を民主党代表から引きずりおろし、秘書を逮捕して首相の芽を摘んだのは政治資金規正法違反だった。それ以外にも何人もの政治家が、報告書への不実記載を問われて職を解かれ、あるいは獄に落ちた人までいるのに、小渕事務所の「政治とカネ」への無頓着さは驚嘆に値する。
松島氏にしても、告発状によれば、配布した「うちわ」の数は、12~14年の3年間で約2万2000本にのぼり、約175万円相当になるという。「うちわ」が公選法に違反する有価物であるかどうかはともかく、「違法性はない」と辞任会見でも強弁する松島氏の政治家としての資質の問題点は、指摘せざるを得ない。
「持ち込み案件」の陰で腐敗は進む
それでも、あえて言うが「観劇」であり「野球のチケット」であり「小渕ワイン」であり「うちわ」である。少なくとも両氏の政治力の範疇に属することではない。
長く地検特捜部は、「最強の捜査機関」と呼ばれ、国民は特捜部が行う政治権力を利用した行政への圧力と、その対価としての業者から受け取る賄賂など贈収賄事件の摘発に期待を寄せ、ロッキード事件やリクルート事件などを特捜部が暴き、マスコミが政官財の癒着の構図を報じた時、喝采を贈った。
権力は腐敗するものである。国民は、誰もがどこかで実感する。官僚を放置すれば、国民に対して居丈高になり、天下りで税金をかすめ取ろうとする。有力政治家には権力と情報が集まり、そこに擦り寄る業者は“甘い汁”を吸うことが出来る。
この現実は、古今東西、政治体制の如何を問わず、だからどの国にも権力の監視機能はあり、日本でそれを担わされてきたのが地検特捜部だった。
その特捜部が、4年前の証拠改ざんの大阪地検事件で墓穴を掘り、機能不全に陥り、「捜査をしない捜査機関」となった。かつて花形の事件を発掘して摘発する直告班は、今や、小渕、松島両氏の案件のように、「持ち込み案件」の処理係となった。
ある検察幹部が、こう自嘲したという。「俺たちは産廃(産業廃棄物処理)業者か!」
特捜部は「弱体化」で利権の復活に貢献
しかし、そんな捜査機関となったのは、自分たちのせいである。大阪地検事件を踏まえた「特捜改革」のなかで、検察首脳が無理をさせないのはわかるが、公選法案件、政治資金規正法案件であっても、国民を納得させる捜査はできたのではないか。
特捜部は、猪瀬前東京都知事を公選法違反で略式起訴した。だが、いくら徳洲会の徳田虎雄前理事長がタニマチ的にカネをばら撒く人でも、単なる政治資金として、5000万円を供与したとは思えない。そこに、職務権限のある猪瀬氏に金銭を贈り、徳洲会病院を23区内に建てたい、という思惑はなかったか。それを疑い、特捜部はぎりぎりと調べ上げなかったのか。
「受理して捜査」の流れとなり、現在、特捜部が捜査を進めるみんなの党・渡辺喜美前代表の公選法及び政治資金規正法違反容疑は、「違法性はない」と、繰り返す渡辺氏のカベを、なかなか突破できないという。しかし、「8億円をDHCの吉田嘉明会長から個人的に借り入れた」という渡辺氏の説明に納得できる国民はいない。
原発廃炉、除染、震災復興、国土強靭化、東京五輪と、公共工事絡みの取材をしていると、政治家が“のびのび”と、利権にありつき、「天の声」を発し、役所に口利きをし、横車を押す、といった現場にぶつかり、驚かされることが多い。
そうした利権の復活に、特捜部は“弱体化”で貢献している。産廃業者になりたくなければ、独自案件を発掘、国民の共感を得る捜査をするしかない。そうした案件は、特捜部が「どぶさらい」を怠っている今、無数に転がっている。
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