世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
インド・モディ首相は靖国参拝すべきだった?
WEDGE Infinity 2014年11月04日(Tue)岡崎研究所
本年8月30日から9月3日まで、インドのモディ首相が日本を訪問しました。その直後9月7日付のインドの主要英字紙Times of Indiaは、政治コラムニストのSwapan Dasgupta氏の論説を掲げています。
(http://blogs.timesofindia.indiatimes.com/right-and-wrong/abe-modi-bromance-goes-beyond-trade-ties/)
そこで、彼は、モディ首相の訪日は大成功で、日印関係は、貿易関係を越えて親密化していると述べ、その理由として、安倍総理とモディ首相の政治的信条の共通性を挙げています。例えば、
インドが国際的であるためには、伝統的価値観や文化を大切にする必要があり、社会的安定を得るためには愛国心を持たなければならない、と考えるモディ首相が、安倍首相の立場に共感を寄せるのは尤もなことである。
と述べています。
この論説は、日印関係の戦略的意義を述べたというよりも、インド人の親日的心情を表したものと言うことができます。
昨年12月26日の安倍総理の靖国神社参拝以来、外国メディアでも批判が多くありました。しかし、ダスグプタ氏は、安倍総理の靖国参拝を批判するどころか、モディ首相に、靖国神社に参拝すべきだった、と次のように述べています。
自国の首脳に靖国参拝を提言したものは、海外メディアでは大変珍しいことです。その意味でも、インドの特殊性とともに、インドの民主主義、言論の自由を感じとることが出来ます。
ダスグプタ氏は、モディ首相の靖国神社参拝に、少なくとも2つの意義を見出だします。1つは、インドの独立に尽くした日本の殉死者へ敬意を示すことです。もう1つは、日本人がパール判事を崇拝していることを知ることです。確かに、靖国神社境内の、遊就館の前の通りには、パール判事の功績を讃えた顕彰碑が立てられています。
インドは、昭和天皇の崩御に際し、外国で唯一、喪に服した国です。その理由を、上記論説は教えてくれます。昭和天皇(すなわち日本国)のために戦い亡くなった方の中には、インドの独立に尽くした人達もいる、だから、昭和天皇(昭和時代)があっての、インドの歴史、自由独立がある、との考えがあるからなのでしょう。
「インドの自由独立のためにも命をささげた日本人殉教者」という表現は、太平洋戦争の結果インドが独立する機会を得たという意味でしょうが、それをインドの独立のため日本人が殉教してくれたという表現で、日本(人)に対する深い敬愛の念を表しています。これはパール判事が、極東国際軍事裁判で日本人被告全員の無罪を主張したことと通じるものがあります。パール判事が無罪を主張したのは、「平和に対する罪」及び「人道に対する罪」は事後法であり、罪刑法定主義の立場から被告人を有罪であるとする根拠自体が成立しないという判断によるもの、と言われていますが、パール判事が、日本の戦争を一方的な侵略戦争とは断定できないと言い、ハル・ノートのようなものを突き付けられれば、モナコ公国やルクセンブルグ大公国でさえ戦争に訴えただろう、と判決書に書いたことは、日本の立場に同情的であったことを如実に示しています。
また、インドの原爆への思いには特別なものがあります。インドは、「仕方なく核兵器国」になったと言われます。論説でも、広島、長崎に触れています。
昨年12月2日、天皇陛下がインドご訪問の際、晩餐会のお言葉で述べられたように、毎年8月、インドの議会では、原爆の犠牲者への追悼が行われています。
論説が示すように、日印間には、経済関係を超えた、歴史や伝統、精神性に基づいた深い絆があるようです。もちろん、戦略的、経済的観点からも、今後、インドとの関係の一層の進展を図ることが期待されます。
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