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ドラマ『全盲の僕が弁護士になった理由』 対談 [大胡田誠弁護士×松坂桃李さん]

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松坂桃李、実在の全盲弁護士を演じきった 特別対談
 日本経済新聞 2014/11/28 6:30

  大胡田誠さんは全盲でありながら司法試験に合格した、日本で3人目の弁護士だ。なんと5回目の挑戦でその夢を実現した。ハンディに負けず「あきらめない心」をどのようにして維持しているのか。その半生を綴った著書『全盲の僕が弁護士になった理由』(日経BP社)は2012年に発売されたそう新しくはない本だが、このところ全国の書店員さんから幅広い応援を集めている。
 実は、12月1日にこの書籍を原案として同名の2時間ドラマが放送される(21時からTBS系列で全国放送予定)ことが、ブームの追い風になっているようだ。そのドラマで、主役を演じる俳優の松坂桃李さんと大胡田弁護士が、撮影の秘話や、お互いの仕事への向き合い方などについて語り合った。

――お二人は大胡田さんの著書『全盲の僕が弁護士になった理由』を元にしたドラマが縁で知り合われたのですよね?
大胡田誠弁護士: はい。僕の勤める弁護士事務所に来てくれたのが最初だったと思います。その時から、今日会ってこうやって話しているのと変わらず、柔らかで人を包み込むような優しさのある人だなと感じました。
松坂桃李: 僕こそ笑顔で迎えてくださって、すごく温かい方だなと思いましたよ。
■自宅にお邪魔して密着取材も
――松坂さんは役作りのために、大胡田さんに密着取材されたそうですね?
松坂: 今回演じた大河内健介は、大胡田さんがモデルですから当人に密着するのが何よりかなと思ったんです。個人的にも過去にそういう作品がないか洋邦画問わず探したんです。しかし、日本の作品では特に全盲の人を演じる時は、サングラスをかけていることが多くて。
大胡田: そうなんだ。さすがに法廷でサングラスはかけられないよね。
松坂: いいヒントになったのは、アル・パチーノが演じた映画「セント・オブ・ウーマン」。サングラスをかけなくても、まるで目が見えないかのように演じているのを見て勇気が湧いてきました。でも、実際に演じるに当たり、密着させてもらったことが本当に役に立ちましたね。
大胡田: 例えばどんなことが?
松坂: ほぼ全てです。たとえば上着を着たり鞄から何かを取り出そうとしたりする動きもそうですし、ものを食べるにしても、それが箸なのかスプーンなのかでも違ってきます。そういった細かいところは特に。
大胡田: そんなところまで、じっくり観察していたんですね。すごいな…。
松坂: ドラマ、フィクションだからこそ、細かいところは逆に丁寧に、うそがなるべくないように演じた方が物語に説得力が生まれるのかなと思ったんです。
大胡田: そういう妥協しないプロフェッショナルな姿勢は、密着していただいた当初から感じてました。最初からずっとビデオカメラを持って、気になるしぐさや行動を必ず記録していたでしょう? きっと後で繰り返し確認するんだろうなって。
松坂: 僕の方こそ、密着することでプロの仕事を見せていただきましたよ。依頼人に接する時の真摯な姿勢…。実は、僕はあのとき生まれて初めて本物の弁護士さんと会って話をしたんですが、弁護する相手にこんなにも心を配って接するんだと感心しました。ご自宅での大胡田さんの夫としてや父親としての顔を既に見ていたので、そのギャップの大きさに驚きましたよ。
大胡田: わが家で松坂さんが妻と一緒にカレーを作って食べたときに、本当にさりげなく「ここにお皿を置きますよ」とか「らっきょうを乗せましょうか」とすごく細やかに気配りしてくれたんです。その好青年ぶりに妻も一気に大ファンになりましたね。子供たちにとってみると松坂さんはヒーロー。アンパンマン、ドラえもんの次に覚えたすごい人じゃないかな。
■目の見えない人を演じる難しさ
――演じて、特に難しかったのはどんなことでしたか?
松坂: 全てのハードルが高かったですね。目が見えないということは、これまで僕がやってきたような相手の目を見て表情を読み取り、それに反応するという演技ができないのです。ドラマは顔のアップが多いので、特に難しいと感じましたね。
 それに、「見えない」ことを表現するのも難しいだろうなと。自分では見えないと思って演じていても、それが果たして視聴者にそう見えるだろうかという不安、難しさを常に感じていました。でも、演じていくうちに段々普段とは違った面白さを感じるようにもなったんです。
大胡田: どういう面白さだったんですか?
松坂: ドラマを撮影するときは本番の前にリハーサルをしますよね。
大胡田: そうなんですよね。僕が撮影のスタジオにお邪魔した時も、こうやって手間をかけて作られているんだということを初めて知りました。
松坂: リハーサルを何度か重ねると、同じセリフでも相手の声のトーンや間合いが微妙に違ってくるんです。だから僕はその声の変化をガイドにしようと思って、途中からは相手の言葉にすごく注意して耳を傾けるようになりました。それは今までにない演技のアプローチだったし、新しい発見でしたね。
――今回の役を受けるに当たり、とても悩まれたそうですね?
松坂: はい。正直に言うと、今まで受けた仕事で一番恐かったし、不安もありました。
大胡田: 何が不安だったんですか?
松坂: 全盲であること、弁護士という仕事、家庭があることなど、(ドラマで演じた)健介の多くを占める部分が僕にはないものだったんです。それに、そもそも僕のようなまだまだ未熟な人間が演じていい役なのかも分からなくて。役者にとっては、実在する方を演じるのはとてもハードルが高いことでもあります。その方が存命で、しかも一線で活躍しているとなると、さらにハードルは高くなる。生半可な気持ちではやれないと思ったんですよね。
大胡田: それでも演じようと決心したんですね。
■挑戦し続ける姿に背中を押された
松坂: 背中を押してくれたのは、大胡田さんの書かれた本です。あの本を読んで、どんな環境でも挑戦し続ける、その姿勢、思いがすごく伝わってきました。そして、こんなことで迷っている自分が恥ずかしいなと思うようになって、この役を受けることにしたんです。
 受けてからも不安はまだありましたが、大胡田さんの日常や仕事ぶりに密着させてもらい、その意志の強さやくじけない姿勢に、僕の中での「自分が演じられるだろうか」という不安はどんどん小さくなっていきましたね。
大胡田: ありがとうございます。今回僕の本を元にしたドラマの制作が決まり、しかも主演を若くてイケメン人気俳優の松坂桃李さんが演じるとなって、僕の周りの人、特に目の悪い仲間がすごく励まされ、誇りに感じているんですよ。もちろん、目が見える人だって松坂さんが演じるのを楽しみに待っている人はたくさんいます。
 そうやって松坂さんは俳優という仕事を通して、僕やたくさんの人を元気にできる。それって素晴らしいなと思うし、僕の障がいも人を元気にする力になるんじゃないかと思うようになったんですよ。
松坂: (しきりにうなずきながら)うーん、すごい、先生、さすがだなぁ。
大胡田: これは松坂さん自身、そしてドラマ化のために懸命に動いてくださった多くの関係者の皆さんから教えられたことなんです。全盲の弁護士として活躍し、社会で輝くことで少しでも世の中を明るくできたらいいな、もしかしたらそうすることが僕の使命なのかなって思い至るようになってきましたね。
松坂: 僕が先生に感じるのも、その「使命感」なんです。その強い使命感が(依頼人などの)相手にも伝わるからこそ、安心して委ねられるんだと思うんですよ。僕の演じた役も、主人公の使命感に周りが影響され、引き寄せられて事態がいい方向へと動いていく。僕も、その「使命感」を持ち続けようと心に留めながら演じていました。
(構成 橘川有子)(敬称略)
 ◎上記事の著作権は[日本経済新聞]に帰属します
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