ビートたけしも感謝する?!「暴排条例」で暴力団・企業舎弟・密接交際者の海外逃避が始まっている最後に残った東京、沖縄も10月1日に施行
現代ビジネス2011年09月29日(木)伊藤博敏「ニュースの深層」
暴対法によって指定暴力団となっている組織の幹部が率直に明かす。
「形のうえで本部は残しますが、経済上の拠点、実質的な本部はマカオに移しました。香港、上海、シンガポールなどにも拠点を置いて、経済活動をするつもり。英語ができるのも、中国語ができるのもいるので、何の支障もありません。日本では、何ひとつできないんだから仕方がない」
警察庁が全力をあげる暴力団排除の動きが、暴力団の"懐"を直撃、身動き取れないまま、日本脱出を始めている。
彼らにとって致命的なのは「反社会的勢力(反社)」と認定を受けたうえでの銀行口座の閉鎖だった。警察当局などと協議を続けてきた金融機関は、「暴力団と交際していると判断される場合、契約を解除できる」という「暴力団排除条項」を導入、09年9月以降、警察の「反社認定」の作業と合わせ、次々に銀行口座を閉じる作業を始めた。
*密接交際者を決める警視庁犯罪対策第三課の「サジ加減」
その"仕上げ"が暴力団排除条例(暴排条例)だ。10月1日、最後に残った東京都と沖縄県が施行、暴力団幹部、企業舎弟、共生者と呼ばれる暴力団側の関係者だけでなく、「密接交際者」であれば「住民側」も、「勧告」され、それに従わなければ氏名を「公表」される。次に「命令」を受け、さらに罰金刑などを課せられ、最後は刑事告発のうえで刑事罰を問われる可能性も出てきた。
この「密接交際者」の定義は曖昧だ。暴力団事務所に出入りこそしないが、不動産、土建、金融などを一体となって行う「企業舎弟」から、昔からの友人知人のつもりでつきあい、飲食ゴルフを共にしただけで「密接交際者」となる場合もある。最終的には、認定作業を行う警視庁組織犯罪対策3課の"サジ加減"だ。うかつな人間より、認定を怖れる確信犯の方が、排除を免れかねない。
この暴排条例の効果は大きい。事務所を貸す、駐車場を貸す、みかじめ料を納める、暴力団系企業から物品を購入するという「住民側」も、氏名が公表されれば、自動的に銀行口座は閉じられる。なによりまともな企業はコンプライアンスを理由に、取引を停止してしまうだろう。それが、合法的にトラブルなく行われるように、「反社とわかれば契約は打ち切ります」という「暴排条項」を結んでいる場合も少なくない。
氏名の公表は、ビジネス的には「死」と同じだ。なんとしてでも避けなければならない。 『週刊文春』でビートたけしが、「暴排条例が出来た方が、それを理由に断れるからありがたいよ」と、述べていたがその通りである。
暴排条例の先にあるのはマフィア化だ。当局が認定する構成員と準構成員の数が減る一方で、認定できない「周辺者」の数が増えるのは間違いない。
日本にいる以上、「隠し講座」はいつか通用しなくなる。地下に潜っている「親密交際者」との関係も、本部が日本にある限り、どこかで点と点が結ばれて線となり、認定され排除される。それならいっそのこと海外に、と暴力団は発想する。今のビジネスシーンで、銀行口座がなければ、どんな取り引きも成立せず、「排除条項」と「排除条例」による口座の閉鎖は、彼らにとって海外への選択がやむを得ない段階に来たことを示している。*仕手筋も海外脱出
暴力団だけではない。
不動産証券化、株式、債権、商品先物といった金融商品を扱うファンド関係者や仕手筋のなかには、「反社認定」が厳しくなった頃から海外脱出組が増えた。
そのために「50の手習い」で、一から英会話をマスターした人がいる。
「もう日本が嫌になった。年に何億も納税しているのに、何のメリットも与えてくれない。それどころか、何か悪いことやっているんじゃないかと、鵜の目鷹の目でアラを探す。投資業だからいろんな人と出会うし、危ない世界の人もいる。カネに色はつかないからオレは気にしないけど、これから『反社』だと勝手に認定され、財産没収ということになりかねない。難点は英語だったが、一生懸命学校に通って、家庭教師も雇い、なんとか日常生活に困らなくなった。近く、一家でシンガポールに行きます」(先物相場師)
窮屈になる一方の環境を嫌って、すべての資産を投げ売り、年内に韓国に移住する著名な仕手筋のX氏がいる。知人が代弁する。
「増資に絡む株担保融資や新株引受で、Xは100億円以上の資金を残しました。警察当局は山口組の企業舎弟と認定しているのですが、本人は『急ぎのカネを暴力団に貸しているだけ』という認識です。でも暴排条例の施行で、もう株売買はどんな手を使ってもできなくなるでしょう。本人は日本生まれの在日三世ですが、豪邸、別荘、絵画、書画骨董などの類をすべて売却。恐らく50億円以上になるしょうが、それを持って韓国に永住するつもりです」
暴排条例は、暴力団だけでなくその周辺者に「密接交際者」か「一般市民」かの踏絵を踏ませて、清流に住むことを求める。表立っての反対は難しいが、国家にそこまで強制されることを嫌い、暴力団も絡むグレーゾーンでの生き方が好きな人もいる。
そんな人は、続々と日本を脱出、ついには暴力団が本部を移転、「反社の空洞化」が始まった。暴排条例の適用が厳しくなればなるほど、その傾向は強まり、やがて山口組の総本部はそのままに、運用本部、資金管理会社はすべて海外、という時代が来るのかも知れない。
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