中日新聞 2015年2月12日 朝刊
同性パートナー証明書を発行 渋谷区が全国初の条例案
東京都渋谷区は、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書を発行する条例案を三月区議会に提出することを決めた。区によると、自治体が同性同士をパートナーとして証明する制度は全国で例がない。性的少数者(LGBT)の権利を保障する動きは世界的に広がっており、家族制度をめぐる論議が高まりそうだ。
可決されれば四月一日施行、証明書は二〇一五年度内の開始を目指す。
同性カップルがアパート入居や病院での面会を、家族ではないとして断られるケースが問題になっていることを踏まえ、区は区民や事業者に、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うよう協力を求める方針だ。
条例案は、男女平等や多様性の尊重をうたった上で「パートナーシップ証明」を定めた条項を明記。区内に住む二十歳以上の同性カップルが対象で、必要が生じれば双方が互いの後見人となる契約を交わしていることなどを条件とする。カップルを解消した場合は取り消す仕組みもつくる。
条例の趣旨に反する行為があった場合は事業者名を公表する規定も盛り込むという。
憲法は婚姻関係を「両性の合意」のみに基づいて成立すると規定。区議会では条例案が従来の家族制度を揺るがしかねないとする議員の反対も予想されるが、区は、法律上の効力はなく「全くの別制度と考えている」としている。
渋谷区は昨年、有識者らによる検討委員会を立ち上げ、LGBTの区民からも聞き取りをして条例の内容を検討してきた。桑原敏武区長は「互いの違いを受け入れ、尊重する多様性社会を目指すという観点から、LGBTの問題にも取り組みたい」と述べた。
海外の同性パートナーシップ制度に詳しい京都産業大大学院の渡辺泰彦教授(民法)は「公的機関が同性パートナーの存在を認め、直面する問題に対処しようとする点に大きな意味がある。ドイツやスイスではまず地方自治体がパートナーシップ制度をつくり国家レベルに広がった。国内でも同様の動きが出てくるのではないか」としている。
*渋谷区条例案ポイント
▼男女および性的少数者の人権の尊重。
▼同性パートナーシップ証明書の発行。
▼条例の趣旨に反する事業者名を公表。
▼男女平等・多様性社会推進会議の設置。
▼条例は4月1日施行、パートナーシップ証明は別途定める。
LGBT(性的少数者)
同性愛のレズビアンやゲイ、両性愛のバイセクシュアル、生まれつきの性別に違和感を持つトランスジェンダーなどの頭文字を取って「LGBT」と総称される。電通総研が2012年、20~59歳の男女約7万人を対象にした調査では、LGBTと答えた人が約5・2%に上った。文部科学省が13年度に初めて実施した調査で、肉体的な性別に違和感を訴える児童生徒が、全国の小中高校に少なくとも606人在籍していたことが分かり、教育現場でも対応が求められている。
性的少数者への意識変化 渋谷区条例案
<解説>
東京都渋谷区が同性パートナーシップを認める制度に向けて動きだした背景には、性的少数者(LGBT)に対する国内外の意識の変化がある。
日本では、憲法で婚姻は「両性の合意」のみに基づいて成立すると定められていることなどから、同性婚は法律上認められていない。
しかし、若年層を中心に世論は徐々に変化している。日本世論調査会が昨年実施した結婚に関する意識調査では、全年代では同性婚への反対意見が52%で賛成の42%を上回ったが、20~30代をみると賛成が70%を占めた。これまで表面化していなかったLGBTへの差別や偏見の問題にも注目が集まり始め、職場や教育現場での配慮の必要性も指摘されている。
世界でも同性婚を認める動きは急速に広がっている。二〇一三年には英国とフランスが同性婚を法制化。米連邦最高裁も、同性婚の排除は違憲との判断を示した。オバマ大統領が同性婚支持を表明したことも、記憶に新しい。
同性婚を法的に認めている国では法制化に先立ち、同性カップルに結婚に準ずる法的保障を与えるパートナーシップ法を制定したケースが多い。渋谷区の取り組みを先例として、国レベルでもLGBTの権利をどう保障するか踏み込んだ議論をする時期にきている。
(共同・安藤涼子)
■当事者ら制度化に期待
「当事者の生きづらさを解決してくれるだけでなく、社会全体の意識を変えるきっかけになってくれるとうれしい」。東京都渋谷区に住む元タカラジェンヌ東小雪さん(30)と増原裕子さん(37)のレズビアンカップルは、同性パートナーシップ証明の実現に大きな期待を寄せる。
二〇一三年に東京ディズニーリゾートで結婚式を挙げた二人。昨年は、旅行先のハワイで「マリッジライセンス(結婚証明書)」も取得した。「日本には法的な保障が何もない中、私たちの関係を証明するためにできることは何でもやりたい、という気持ちだった」と増原さんは言う。
ライセンスを申請した際、窓口の担当者は同性であることに一切触れず、異性婚と同じように淡々と手続きを進めた。
東さんは「『普通』に扱われるってこういうことなんだ、と実感しました」と話す。
今後は「子どもをもちたい」という二人。「大きな動きで本当にうれしい。制度ができたらすぐに(証明書を)申請したい」と、条例の施行を心待ちにしている。
名古屋市を拠点に活動する性的少数者(LGBT)のダンスグループメンバーで、女性同性愛者の高倉唯さん(26)は「率直にうれしい。これをきっかけに、名古屋や全国の自治体も動きだしてほしい」と期待する。
一方で、まだ「自分がLGBTだと声を出しにくい風潮がある」と指摘。「いままでずっと隠してきた人も多い。これからは当事者以外の人にも身近に感じてもらい、受け入れてもらえる社会になってほしい」と話した。
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